第106話-おかあさま、はじめまして

文字数 2,094文字

 モッチはもう一度ゲルードの方へはちみつ玉を差し出しました。見ると、普段着の兵士さんたちもそれぞれ一個づつ、他のクマン魔蜂さんたちからはちみつ玉を受け取っています。
「なんと!はちみつ玉をいただけるのですか!?それもうちの兵士たちにまで!」
ゲルードは驚いていましたが、みんなが受け取っているのを見て、モッチからうやうやしくはちみつ玉を受けとりました。

「お祭りに来てくれた人には、もれなくはちみつ玉をプレゼントしよう、ってことになったんだよ!」
 黒ドラちゃんが嬉しそうに話すのを聞きながら、ゲルードは大事そうにはちみつ玉を懐にしまい込みました。

 そこへドンちゃんが葉っぱの上に木の実をたくさん載せて運んできました。
「これも食べてね!甘くておいしい実ばかり集めたんだよ」
 ゲルードと普段着の兵士さんたちは、湖のほとりに座り込んで、甘い木の実を味わいました。
 まもなく、湖の向こう側が騒がしくなってきました。ドンちゃんがお耳をピンッとさせます。
「食いしん坊さんがきたみたい!」
 黒ドラちゃんの背中に登りながら、弾んだ声で言います。ドンちゃんを乗せて黒ドラちゃんが湖の向こうまで飛んで行くと、ちょうど木々の間を抜けて食いしん坊さんが姿を現しました。
「ふ~、さすが古の森ですな。ここまで来るのが大変でしたぞ、古竜殿」
 食いしん坊さんが片眼鏡をキラッとさせながらつぶやくと、すぐに黒ドラちゃんの背中からドンちゃんが飛びおりました。
「食いしん坊さん、いらっしゃい!それにカモミラ王女もドーテさんもようこそ!」
 そうなんです、食いしん坊さんにはカモミラ王女とドーテさんの道案内をお願いしておいたんです。
 カモミラ王女は初めてみる古の森の湖に声をあげました。
「まあ、なんて美しいの!まるで大きなエメラルドのようね。ねえ、ドーテ素敵ねえ」
「ええ、本当に。こんなに美しい場所があるなんて……」
ドーテさんも言葉にならないほど感動しています。もともとノーランドは雪の多い国なので、こんな風に緑が濃く花々が咲き乱れている景色は夢の中にいるような気持ちになるのでしょう。
カモミラ王女たちはゆっくりと湖の周りを歩きながら、大きな大きな大きな木のそばへと歩いてきました。ゲルードや兵士さん達が立ちあがって礼を取ろうとしましたが、カモミラ王女は軽く手で制して座らせました。王女がニッコリほほ笑むと、何人かの兵士さんがぽーっとなっています。その横で、王女の笑顔に耐性のあるゲルードが「では遠慮なく」とあっさり湖に向き直っています。

 湖にはさわやかな風が吹きわたり、時々お魚さんがはねています。黒ドラちゃんはブランと一緒に湖のほとりにドデンと座りました。隣でドンちゃんと食いしん坊さんもトテンと仲良く座っています。
 突然、食いしん坊さんが立ち上がりました。
「どうしたの?」
 ドンちゃんがクローバーをモグモグしながらたずねます。
「あの、あそこに居られるのはドンちゃんのお母様ではないですかな?」
 食いしん坊さんの声が緊張しています。見れば、少し離れたところでドンちゃんのお母さんが、せっせとおかわりの木の実をゲルードたちに配っていました。
「うん!そうだよ」
 ドンちゃんがうなずくと、食いしん坊さんは途端に身づくろいを始めました。
「ちょっと御挨拶に行ってくるから、待っていてくれるかい、マイプチレディ」
 そう言うと、食いしん坊さんはぎくしゃくとした動きでドンちゃんのお母さんに近づいて行きました。いったいどうしたんだろう?と黒ドラちゃん達もドンちゃんと一緒に、食いしん坊さんを目で追います。食いしん坊さんはドンちゃんのお母さんの前に立つと、丁寧にお辞儀をしました。
「お母様、初めまして。わたくし、ドンちゃんと仲良くさせていただいております、グィン・シーヴォ三世と申します」
 ドンちゃんのお母さんは突然目の前に現れた食いしん坊さんに驚きましたが、すぐに自分もお辞儀とご挨拶を返しました。
「グィン・シーヴォ様、ご丁寧にありがとうございます。ノラプチウサギのドンの母です。娘がいつもお世話になっております」
 なんだか、周りのくだけた雰囲気から思いっきり浮いている感じです。
でも、食いしん坊さんのご挨拶には、まだ続きがあるようでした。食いしん坊さんは、一度大きく息を吸ってから、ドンちゃんのお母さんの前で低く頭を下げるとはっきりとした声で言いました。
「お母様、ドンちゃんとの結婚をどうかお許しください!」
 黒ドラちゃんはビックリしてブランの尻尾をギューっと握りしめました。
ブランは痛みで「うっ」となりましたが、黒ドラちゃんのすることなので耐えています。ドンちゃんは食べかけのクローバーを盛大に吹き出しました。
あわててお口の周りを前足で拭いています。ゲルードも普段着の兵士さん達も動きが止まっています。カモミラ王女とドーテさんも「まあ!」「きゃあっ!」という小さな声をあげて手を取り合って固まっています。モッチもゲルードの頭の上で一緒に止まったままでした。


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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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