第124話-再び王宮の森へ

文字数 2,075文字

 モーデさんが戻ってきて、黒ドラちゃんはお城のバルコニーへ案内されました。バルコニーは綺麗なお花がたくさん飾られています。キラキラしたリボンも何本も飾られています。そこへ、黒ドラちゃんが現れると、下の広場に集まった群衆から歓声があがりました。モーデさんが花びらを撒いてくれます。白やピンクの花びらの中、黒ドラちゃんがぼわん!と竜に戻りました。
 「おおーっ!」大歓声です。
 バサッと羽を広げると、さらに悲鳴に近いようなひときわ大きい歓声があがりました。

 黒ドラちゃんは、モーデさんから花びらの入った箱を受け取ると、それを持って飛び立ちました。右の方へ飛ぶと右の方の人々が、左の方へ回ると左の人々が、それぞれ手を振り声をあげて黒ドラちゃんを見上げています。箱の中の花びらを少しづつ撒きながら、黒ドラちゃんはゆっくり広場を旋回した後、王都の街の上へと飛んで行きました。来た時は夜だったのであまり良く見えませんでしたが、ノーランドの王都にもたくさんのお店がありました。下から「古竜様ー!」と黒ドラちゃんを呼ぶ声があちらこちらから聞こえてきます。黒ドラちゃんはそのたびに花びらを撒きました。そして、一通り王都をぐるっと回って箱の花びらが空っぽになると、黒ドラちゃんは再び広場に戻ってきました。そこで、バルコニーで「ふんぬっ!」と掛け声をかけて人間の姿に戻った黒ドラちゃんを見て、人々はまた歓声を上げるのでした。


 その後はお土産選びです。黒ドラちゃんはモーデさんと馬車に乗り、王宮から街へ出ました。ノーランドにはバルデーシュには無い品物が多く売っていました。多くは、ノーランド特有の堅い木を加工して作ったおもちゃや日用品です。
 最初に目を引いたのが、木で出来た器や木で出来たテーブルに、黒い竜のマークが焼印されているものでした。手作りなので、少しづつ違いはありますが、あちらこちらで売られています。モーデさんから「今、ノーランドで人気急上昇の“古竜様シリーズ”です」と説明されて、黒ドラちゃんはちょっと照れちゃいました。
 他にも、毛糸の帽子や手袋にオレンジ色の竜の姿が刺しゅうされているものもありました。
 “陽竜様のポカポカシリーズ”と聞いて、ラウザーへの良いお土産になるからと1組買いました。
 花屋の店先には白いマグノラの花が描かれた赤茶の花瓶が売られていて、しかも店員さんは同じデザインのエプロンをしています。これもステキだったので、お願いしてエプロンを譲ってもらいました。代わりに、お店にあった古竜様シリーズにサインをお願いされたので、丁寧に手形を押してきました。
 一番人気があったのは“輝竜様シリーズ”です。どこに行っても白いマントを着ている人が居るのです。子どもも大人も女の人や男の人に関係なく、白いマントにエメラルドみたいなガラスの飾りボタンがついています。これも手作りなので長さや形は様々ですが、通りを歩いている人の四人に一人は白いマントじゃないか?って感じです。ブランが棲む北の山はノーランドに近いので、身近な竜No.1という不動の地位を築いているそうです。

 「すごいねぇ、本当にバルデーシュブームなんだね」
 黒ドラちゃんが感心していると、モーデさんが嬉しそうに答えました。
 「カモミラ様は国民から人気が高く、スズロ王子との恋物語は吟遊詩人の人気演目ですから」
 「なるほど!カモミラ王女の人気が、そのままブームの盛り上がりにつながってるんだ」

 カモミラお王女はなかなか自分に自信が持てずにいましたが、周りで見守る人には、その魅力はちゃんと理解されていたようです。黒ドラちゃんは自分のことのようにうれしくなりました。
 お土産選びは楽しくて、つい時間を忘れそうになりましたが、モーデさんはしっかり者です。
 「古竜様、それではいちど城に戻り、王宮の森へ参りましょう」

 そうです。グィンのおばあ様とお話ししなければなりません。黒ドラちゃんは気持ちをきゅっと引き締めて、ドンちゃんと花嫁の冠のことを考えました。

 午後のお茶の時間、黒ドラちゃんは王宮の森のノラウサギの木のお家の前に来ていました。そこには、テーブルとイスが用意され、お茶の支度もしてあります。初めてみる薄茶色のノラウサギさんが待っていました。

 「初めまして、古竜様。わたくしはグィン・シーヴォ三世の母で、サヴィと申します」
 丁寧にご挨拶をしてくれます。
 「こんにちは。若草色のエプロンを持ってるサヴィさん?」
 「あら、おばあ様ったらそんなお話もしたんですね。そうです。私がここに来たばかりの頃の話ですけどね」
 そう言って、ニコニコしながら黒ドラちゃんにお茶を勧めてくれます。見ると、テーブルも椅子も“古竜様シリーズ”でした。茶器には大きな蜜蜂(多分モッチでしょうか?)の絵が描かれています。なんと、クマン魔蜂さんシリーズまであるんですね。黒ドラちゃんが感心していると、木の上の家から白いモフモフさんが現れました。おばあ様です。

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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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