第121話-モッチとホペニ

文字数 2,704文字

 雪の中で、黒ドラちゃんはうずくまっていました。
 「ぶいんぶいん!!」
 「ブブーン!」
 モッチもホペニも心配して声をかけてくれますが、黒ドラちゃんは動けません。体はブランの魔石のおかげで温かいのですが、胸の中がひんやりしていてすごく寒いのです。その時、近くで雪の塊がどさっと落ちました。そちらを見て見ると、雪の中にほら穴の入口が見えていました。リースの中で応援してくれているモッチとホペニのためにも、黒ドラちゃんは体を引きずるようにその中へ入ります。
 ほら穴の中に入れた時には、黒ドラちゃんも、背中の籠も、マグノラさんのリースも雪まみれでした。巻いていたマフラーはいつの間にか取れて、どこかに落としたようです。
 「ごめんね、モッチ達寒くない?」
 黒ドラちゃんが雪を払ってリースの花をのぞき込むと、モッチとホペニがくっつきあって丸くなっていました。ホペニは寒さには比較的強いようですが、モッチは温暖な古の森の蜜蜂です。寒くて動けなくなったモッチを、ホペニが一生懸命に温めているようでした。黒ドラちゃんはベルトを外しました。リースを首からはずすと、モッチとホペニを花の中から出して、ベルトの魔石の上に置きます。そして、ブランが魔石をくれた時のことを思い出しました。

 『黒ちゃん、気をつけてね!寒くなったらベルトの魔石のこと思い出すんだよ!』

 あの時は、こんな旅になるとは思ってもみませんでした。ドンちゃんに花嫁の冠を作ることがすごく楽しみで、張り切って出発したのに……。

 魔石の力でモッチたちが温まると良いなあと考えていると、ほんのりと魔石が輝き、モッチがもぞもぞと動き出しました。
 「ブインブーーーーーン!!」
 動き出したモッチを見て、ホペニが嬉しそうに飛び上がりました。
 「ぶいん?」
 モッチが魔石の上で不思議そうにしています。自分が動けなくなっていたことに気付いていないのでしょう。
 「あのね、あたし雪の中で動けなくなっちゃったから、ここに入ったの」
 「ぶいいん?」
 モッチがキョロキョロしています。
 「山のほら穴だよ。さっき見つけたの。あとね、ホペニがモッチのことずっと温めてくれてたんだよ」
 黒ドラちゃんが話すと、モッチはホペニに羽音でお礼を言いました。でも、温かな魔石の上からはしばらく動きたく無いようです。ホペニが元気に飛び回っているのを見て感心しています。
 「ぶいん」
 「ブイーーーン」
 「ぶいんぶいーん!」


 仲良く羽音で会話している二匹を見て、黒ドラちゃんはまたドンちゃんのことを思い出しました。そういえば、と分厚い上着をめくります。ドンちゃんからもらったポシェットが出てきました。これを作るために、ドンちゃんの前足は傷だらけでした。中から、大切に取っておいた極甘の実を取り出します。これをドンちゃんと一緒に見つけた時のことを思い出していました。

 二人同時に極甘の実を見つけて、大喜びしたけれど1個しか無くて、それで黒ドラちゃんはドンちゃんに譲ったのです。魔力を込めて保存させて、いつか食べてね!って。

 でも、ドンちゃんは食べずにとっておいて、黒ドラちゃんの旅に持たせてくれました。


 「ねえ、モッチ、もし、もしもね、すごく仲の良いお友だちがいたとするでしょ」
 「ぶいん」
 「でね、そのお友だちと遠く離れちゃうことになったらどうする?」
 「ぶぶん」
 「離れちゃって、もういつもみたいにずっとずっと一緒に居られなくなっちゃったらどうする?」
 「ぶん」
 「ずっとずっと一緒に居たのに、もう前みたいに一緒に居られないんだよ?そんなの嫌だよね?」
 「……ぶぶ」

 「――嫌だよ」

 黒ドラちゃんは膝を抱えて丸くなり顔を伏せてしまいました。明るい若葉色の瞳も見えません。胸の中の寒さが一段と強くなったような気がしていました。ほら穴の外では、まずます雪が激しくなってきました。ゴーゴーと風も出てきたようです。

 モッチはしばらく「ぶぶぶぶぶ……」と考え込んでいました。そして、ホペニを見て、黒ドラちゃんを見て、もう一度ホペニを見て、ぶい~んと黒ドラちゃんの膝の上に飛んできました。魔石から離れたので、ちょっと震えています。
 「ぶ、ぶぶいんぶいーん」
 黒ドラちゃんが顔をあげました。
 「ぶ、ぶいん?ぶぶぶぶーーーーーん!」
 黒ドラちゃんの瞳が大きく開かれました。
 「ぶいん、ぶいーん?」

 モッチは黒ドラちゃんにこう言ったのです。
 “離れていたってお友だちはお友だちだよ”
 “お互いが、相手のことを思いやる気持ちを持っている限り、どんなに離れてもお友だちなんだよきっと……。でしょ?”
 そしてモッチは震えながらホペニのところへ飛んで行きました。ホペニが心配そうにしています。
 「ぶいん!」
 “普段、離れていたって友だちだよ、あたしたち!”そうモッチが言うと、ホペニが嬉しそうにモッチにくっつきました。二匹で仲良くマグノラさんのリースに飛んでいきます。黒ドラちゃんは若葉色の瞳で、リースから顔を出す二匹を見つめます。

 “お互いが相手を思いやる気持ちがあれば”

 ドンちゃんがくれたポシェットと極甘の実を見つめます。それから、空の、大きな籠を。

 外は大雪、吹雪です。
 だから、黒ドラちゃんは『仕方なく』このほら穴に来たんです。


 ――本当に?


 『雪山を一生懸命探したんだけど、吹雪がすごくて見つけられなかったの』
 黒ドラちゃんがそう言ったなら、きっとドンちゃんは仕方ないよね、って言ってくれるでしょう。そして「黒ドラちゃんが無事ならそれで良かった」って。それでドンちゃんが結婚するのをやめて、ずっとずっと古の森に居てくれたら、ずっとずっとお友だち?黒ドラちゃんを思ってくれてるドンちゃんと、そばにいられればお友だち?




 黒ドラちゃんは極甘の実をお口に入れました。甘~い香りと汁がお口いっぱいに広がって、黒ドラちゃんの目の前に、あの時のドンちゃんの笑顔が浮かびます。

 『ありがとう、黒ドラちゃん。大切にするね』


 ドンちゃんが作ってくれたポシェットをギュッと握りしめると、黒ドラちゃんは魔石のベルトを腰に巻きました。モッチとホペニがくっついているリースを首にかけます。
 「ぶいん?」
 モッチがどしたの?と黒ドラちゃんに聞いてきました。
 「あのね、ノラクローバーを探しに行くの!」
 大きな籠を腰のベルトにカチリッとかけながら、黒ドラちゃんは元気に言いました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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