第46話-しつれんラウザー
文字数 1,605文字
ここは昔は砂丘でした。でも、ラウザーが棲みつくようになって雨が降らなくなり、すっかり砂漠になったのでした。砂漠の気候は厳しくて、竜のラウザーはともかくとして、他に住むものはいなくなりました。人間たちは祭りごとの時だけ、使いを砂漠によこしてラウザーを呼ぶのです。声をかけられれば嬉しくて、いつもラウザーは出かけて行きました。そして人間たちと一緒にお祭りを楽しんだものです。
そのうち、一つの村でとても可愛らしい娘さんと仲良くなりました。ラウザーは何度も娘さんと会ううちに、自分のお嫁さんになってくれないかな、と考えるようになりました。
ある時、お祭りじゃないけど、娘さんに会いたくなって村に行ったのです。娘さんは村の同い年くらいの他の娘たちと集まっておしゃべりをしていました。話の中で「陽竜様が――」という言葉が聞こえたので、ドキッとしながらラウザーはついつい話を盗み聞きしてしまったのです。すると、あの娘さんが言いました。
「えー、ダメよ。だってそばに住まれたら砂漠になっちゃうのよ?そんなの困るじゃない!」
ラウザーはショックでそのまま一目散に村を飛び出し、砂漠に戻ってきました。いつも自分に会うと楽しそうに笑顔で迎えてくれた娘さんの本音を聞いて、ショックでしばらく砂の中に潜って過ごしました。夜になると、砂の中から出てきて、孤独に星を眺めます。娘さんの本音を聞くまでは、この満天の星空をいつか娘さんと一緒に見られたら、なんてワクワクドキドキしたものです。一匹で眺める星空はチカチカと輝きながら「淋しいね、淋しいね」と言っているように見えました。
夜以外は砂にこもる日々が数日過ぎて、ようやくラウザーは昼間でも砂から出るようになりました。ぼんやりと海を眺めます。
人間のところには行きたくない。かといって一匹じゃ淋しいし、ブランのところに遊びに行こうかとも考えました。でも、少し前に古の森が大きくなったって言ってすごく喜んでいたので、今の自分が行くと幸せな気分に水を差すようで悪いな、と思ってやめました。寄せては返す波を見ながら「誰か、誰かそばにいてくれないかな……」とつぶやきました。何度かつぶやいているうちに、叫びたくなりました。
「誰かーっ!誰かそばにいてくれよーーーーーっ!」
ラウザーが心の底からそう叫ぶのと、海面が大きくうねり光る瞬間が重なりました。あれ?と思って海を見ていると、波間に黒いものが見えました。よく見ればそれは人間でした。黒い髪の人間が、波間に揺られています。
ラウザーはあわてて海の中に飛び込んで、その人間を浜辺へと引き上げました。引き上げてすぐに、ラウザーは人間の姿に変身しました。褐色の肌に鮮やかなオレンジ色の髪、瞳は海のような鮮やかで濃い青をしていました。
海から引き揚げた人間は、この辺りでは見ない顔立ちでした。短めの黒髪に、枯草みたいな黄ばんだ薄い色の肌をしています。年はどうやら人間になったラウザーと同じく青年と少年の中間くらいに見えました。ラウザーが覗き込んでいると、黒髪の人間が何かぶつぶつ言いながら目を開けました。
「あ、気が付いたか?お前大丈夫かよ?なんで海の中にいたんだ?漁師か?」
立て続けに聞くラウザーの顔をじっと見つめていたかと思うと、突然ガバっと起き上がりました。
「はっ?なに?海?えっ?なんで?」
どうやら、聞きたいことがあるのは、この人間の方のようです。