第138話-ニクマーンがいっぱい

文字数 2,741文字

 食いしん坊さんの読んでくれた旅の本のおかげで、ナゴーンという国の様子は大体わかりました。本が書かれた時は服喪中だったようですが、今は喪も明けて王都も再びにぎやかさを取り戻しているということなのでしょう。

「じゃあ、ゲルードとブランが準備をしてくれたら、みんなで一緒に出かけようね!」
 黒ドラちゃんが言うと、ドンちゃんが嬉しそうにうなずきました。本当は、新婚旅行ってみんなで行くものじゃないんですけど、まあ、良いんでしょう。

 ワクワクしながら数日ほど待つと、ブランがゲルードと鎧の兵士さん達を連れて古の森までやってきました。ブランの匂いと鎧のガチャガチャした音に気付いて、森の外れまで黒ドラちゃんが迎えに出てみると、兵士さん達用の魔馬車の他に、すごく豪華な魔馬車が一台停まっています。いったい誰が乗ってきたんだろうと思っていると、中からモーデさんとカモミラ王女が現れました。

「モーデさん!どうしたの!」
 黒ドラちゃんはびっくりしました。だって、カモミラ王女の侍女は、双子のドーテさんの方なんです。
「まあ、すごいわ黒ドラちゃん。ドーテとモーデの見分けがつくなんて」
 カモミラ王女が驚いて拍手してくれます。
「だって、ドーテさんはお花みたいな匂いがするの。モーデさんは森と雪の匂い」
 鎧の兵士さん達が「ほお~!」と感心しています。実は、古の森に来る前にモーデさんが兵士さんたちにご挨拶したのですが、みんなドーテさんがふざけているんだとばかり思っていたんですって。

 びっくりする黒ドラちゃんの前に、モーデさんが小さな箱を持ってやってきました。
「あの、古竜様、ナゴーンへ金と銀と銅のニクマーン像を探しに行かれるとか?」
「うん!見つかるかどうかはわからないけど、とにかくナゴーンには出かけるよ!」
 黒ドラちゃんが元気よく答えると、モーデさんが嬉しそうに微笑んでから、ゆっくりと箱を開けました。中には、紫と緑のそれぞれ可愛らしい模様の描かれた丸っこいものが2個入っていました。
「モーデさん、それなあに?」
 モーデさんが箱の中から丸っこいものを取り出しました。良く見るとそれは二つともニクマーンの形をしていました。紫の方には可愛らしい花の模様が描かれていて、緑の方には優雅なつる草が描かれています。

「これは、ノーランドで作られている、ニクマーンこけしです」
 モーデさんが緑のニクマーンの方を愛おしそうに撫でました。
「ノーランドでは、木工が盛んなので、おもちゃはほとんど木で作られます」
「ふんふん」
「これは、私とドーテが小さい頃にお揃いで作ってもらったニクマーンこけしで、紫の花の方がドーテの物、緑の草の方が私のです」
「へ~!」
「古竜様、もしよろしかったらこの二匹を、ナゴーンへの旅に連れて行ってはもらえませんでしょうか?」
「えっ!」
 黒ドラちゃんはニクマーンこけしとモーデさんを交互に見つめました。
「あの……連れて行くって、荷物として運んでってこと?」
 黒ドラちゃんがおずおずと聞くと、カモミラ王女が話しに入ってきました。
「ほら、やっぱり驚かせてしまったじゃない。モーデったら」
 仕方ないわねと言う感じで言いながら、カモミラ王女が続けました。

「あのね、黒ドラちゃん、モーデったらこのニクマーンこけしがしゃべるって思いこんでるの」
「ええー!」
 黒ドラちゃんは今度こそ本当にビックリしてしまいました。モーデさんを見ると、やれやれというように首を振っています。
「みなさん、わかって下さらないのですが、この二匹は本当にしゃべるのです。ただし、私とドーテの前でだけですが」
「はあ」
 なんだか逆らってはいけない気がして、黒ドラちゃんは大人しくうなずきました。
「今回の話をドーデから聞いて、二匹に教えてやったところ、どうしてもどうしてもナゴーンで金・銀・銅のニクマーンに会いたいと言うので、私がノーランドから急いで連れて参りました」
 またモーデさんが愛おしげにニクマーンこけしをなでました。
「そ、そうなんだ」
「二匹ともご迷惑にならないように、旅の間は大人しくしていると約束しております。どうか連れて行ってやってはもらえませんか?」
「う、……うん」
「まあ!本当ですか!?良かったわね、あなたたち」
 ドーデさんが本当に嬉しそうに2つのニクマーンこけしを撫でました。その瞬間、黒ドラちゃんにはニクマーンこけしがふわんと柔らかく膨らんだように見えました。

「ありがとうございます、古竜様。二匹ともとても喜んでいます」
「……」

 それを見ていたカモミラ王女が、小さな箱を持ってきました。
「あのね、私は信じていないのよ?ニクマーンこけしがしゃべるなんて」
「そ、そう――」
「ええ、だって子どもじゃあるまいし」
 そう言いながらカモミラ王女は、箱の中から可愛らしい花の模様の描かれた薄桃色の丸っこいものを取り出します。
「でも、ドーテとモーデのこけしが金・銀・銅のニクマーンに会うかもしれないのに、この子だけ会えないのはかわいそうでしょ?」
「この子って……」
「この子はね、私が小さい頃から可愛がっているニクマーンこけしなの。色も模様もとても可愛らしいでしょ?」
「うん、可愛いね」
「そうなの。性格もとても良いのよ」
「性格……」
「あのね、黒ドラちゃん――」
「うんうん、この子も連れて行けば良いんでしょ?」
「まあ!良いの!?」
 とても断れません。
 カモミラ王女が嬉しそうに薄桃色のこけしを撫でました。さっきの二つと同じように、薄桃色のこけしもふわんと柔らかく膨らんだように見えました。

「まったく、ノーランドのニクマーン信者には困ったものですな」
 冷やかな声に、モーデさんとカモミラ王女の目が鋭く光りました。その視線をものともせずに、ゲルードが小さな包みを抱えながら黒ドラちゃんの前にやってきます。
「古竜様、ナゴーンへの旅行へのお守りとして、こちらをお持ち下さい」

 もう、なんとなく予感はしていましたが、包みの中から出てきたのは、羽の模様が描かれた青いニクマーンこけしでした。
「あ、あのゲルードこれって――」
「ああ、そちらは私が子どもの頃からなぜか手元にあったものでして、古竜様のナゴーン行きのために守りの魔術をかけておきました」
「へえ……」
「まあ、今回はニクマーンがらみということで、こういう趣向も悪くないかと思いまして」
 ゲルードがさりげなく羽青ニクマーンをなでながら言っています。どう見ても可愛がってる感があふれています。

 どうやらバルデーシュにも、ニクマーン信者はいたようです。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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