第294話-くぐり抜けるってハラハラなんだ!-3

文字数 3,065文字

 黒ドラちゃん達を乗せた魔馬車は順調に砂漠を走っています。まもなく、南の砦が見えてきました。

 さっきからキョロキョロと外を眺めていたマシルは、初めて見る砦の様子に大興奮です。
「みてみてー!黒ドラちゃん、モッチ、あれ、みてー!」
「うんうん、南の砦が見えてきたね。もうすぐ着くからね、」
 腕の中で大暴れしているマシルを一生懸命なだめながら、黒ドラちゃんがうなずきます。

 どうやら砦の前に師団長さんやラウザーたちが出迎えてくれているようでした。

 魔馬車が止まると、リュングが列から前に出てきて外から扉を開けてくれます。

「古竜様、いらっ、わぶっ!?」
 扉を開けた途端に、マシルが黒ドラちゃんの腕から飛び出してリュングの顔に飛びつきました。

「あ、マシル、ダメだよ!きちんと南の砦のみんなにご挨拶するってドンちゃんと約束したでしょ!?」
 あわてて黒ドラちゃんリュングの顔からマシルを引き剥がします。
「おはよーござーますっ!」
 黒ドラちゃんに抱きかかえられて両足をプランとさせながら、マシルが元気よくご挨拶しました。

「よっ、おはよう、マシルよく来たな!元気が一番だよ!」
 リュングの後ろから、全然気にしていない風でラウザーが姿を現しました。

 体当たりしても体に上っても頭の上でジャンプしても笑って許してくれるラウザーのことが、マシルは大好きです。

「ラーザー、だっこ!だっこ!」
「はははっ、抱っこな、うんうん」
 ラウザーはすぐにマシルを抱き上げて頭の上にのせました。

「古竜様、みなさま、南の砦にようこそ。今日はラキ様に素敵な贈り物をお持ち頂いたとか?」
 マシルがラウザーの頭の上でジャンプに夢中になっている間に、南の砦のコレドさんが黒ドラちゃん達に挨拶をしてくれました。

「そうなの、モッチがケロールの国から分けてもらったハスの花の種が採れたんだよ」
「ぶいん!ぶぶぶいん!」
「ね、オアシスにもハスが咲いたらきれいだろうなってモッチと話してて」

「なるほど、たいへんありがたいお話しです。きっとラキ様もお喜びになられるでしょう」
 コレドさんがオアシスの方へ黒ドラちゃんを案内してくれようと歩き始めます。すると、ラウザーの頭の上ではねていたマシルが「ピカピカッ!」と言って降りてきました。どうやら、ドンちゃんに言われたことを思い出したようです。さっきまでのはしゃぎぶりが嘘のように、胸を張ってお耳をピンとさせて黒ドラちゃん達の前を歩いています。

「マシル、ドンちゃんとのお約束覚えてたんだね、偉い偉い」
「ぶぶいん♪」
 黒ドラちゃんとモッチが感心しながら歩いていると、澄んだ水の香りがして砦のオアシスが見えてきました。

 すると、まっすぐに歩いていたはずのマシルが、突然進路を変えてオアシスのそばの木に登り始めました。
「マシル!?」
 驚いた黒ドラちゃんが木の上を見ると、子猫のタマが毛を逆立ててマシルから後ずさっています。
「ドラドラ~?」
「ニャーン!」
「マシル、その子は猫だよ、竜じゃ無いよ!降りてきて!」
 黒ドラちゃんが手を伸ばしてマシルを捕まえようとしましたが、タマの動きに合わせてあちこちの枝に飛び移るので捕まえられません。

「ニャ、ニャーン!」
 とうとうタマが木から飛び降りました。
「にゃんにゃん!」
 マシルも後を追います。タマはリュングの足下に逃げようとしましたが、マシルが追いかけてくるのですぐにコレドさんの足下へ移動しました。そこにもマシルが追いかけてくると、二匹はオアシスの周りをぐるぐると回り始めました。
「ニャー!」
「にゃんにゃーん!」

「待って、ダメだよマシル、今日はお利口さんにお出かけするんでしょ!?約束したでしょ!?」
 黒ドラちゃんは必死に追いかけますが、小さい二匹はクルクルと早くてなかなか捕まえることが出来ません。
 そうこうするうちに、タマが黒ドラちゃんの足下に逃げ込んできました。そのまま追いかけてきたマシルと、二匹で黒ドラちゃんの足の周りをぐるぐると凄い勢いで回っています。黒ドラちゃんは二匹を止めようにも止められなくて、ぐるぐると眺めているうちに目が回ってきてしまいました。
「ま、待って、止まって、マシル、止まっ」
 そこまで言ったところで、黒ドラちゃんはふらふらとオアシスから離れると、そばにあった砂の門のようなものの内側へ二匹に足をとられる形で倒れこんでしまいました。

「黒ちゃん!」
「古竜様!」
「ぶいん!」

 周りで見ていたみんなが驚いて声をあげます。

 黒ドラちゃんとタマ、マシルの姿は、そのまま砂の門の向こう側へ吸い込まれるように消えていきました。









 黒ドラちゃんは、甘い香りの中で目を覚ましました。
「あれ、あたしどうしたんだっけ?」
 辺りは柔らかなピンク色に染まっています。よく見れば、そこは一面の花畑でした。
 その中で、黒ドラちゃんは竜の姿でマグノラさんみたいに丸くなって眠ってしまっていたみたいです。

「ふわわわわ~っ。ここどこだろう?あたし何してたんだっけ?」

 大きく伸びをしてみましたが、すっきりしません。何だか頭がぼんやりしています。甘い匂いに包まれて、色んなことがぼやけていくようでした。
 と、近くのお花たちがカサカサと揺れたと思ったら、何かが勢いよく飛び出してきました。

「はむはむウェ~イっ!」

「わわわっ、何?はむ?え?な、な、なに!?」
 黒ドラちゃんはビックリして二、三歩後ずさりました。

「はむはむウェイっ!でございますよ、古竜様!」
「はむはむうぇ?」
「は~い、はむはむウェ~イ♪、偉大なるニャー・コ・ジャーラ師の僕である、わたくし『ハムチャ』でございま~すっ!」

 飛び出してきたのはピンク色の可愛らしいネズミさんでした。見た目はほんわか可愛らしいのですが、押しが強そうで黒ドラちゃんにぐいぐい迫ってきます。

「あ、あの、ハムチャさん、ここはどこですか?あたし、どうしてここにいるんだろう?」
 まだぼんやりしながら黒ドラちゃんがたずねると、ハムチャさんは待ってましたとばかりに語り出しました。
「はいはいはいっ、古竜様におかれましてはご不安でいらっしゃいますね?わかります!わかりますよ!でも、ご安心を。このハムチャが古竜様をしっかりサポート!何の心配も無くニャー・コ・ジャーラ師様の元へとお連れいたしますから!はむはむウェ~イ!」

 お花畑の中で、楽しそうにクルクルと動き回りながら、歌うように説明してくれます。でも、ニャー・コ・ジャーラ師さまなんて、黒ドラちゃんは知りません。知らない人について行っちゃいけないって、誰かが誰かに言っていたような……

「あの、ニャー・コ・ジャーラ師さまって?」

 黒ドラちゃんがおずおずと聞き返すと、ハムチャさんは驚いたように目を見開きました。そして、おひげをピンとさせると、呆れたように首を振ります。

「なんと、なんと、古竜様はあの偉大なる大魔術師『ニャー・コ・ジャーラ師』をご存じないと!?」
「う、うん」
「それはなんとも悲しい限り!このハムチャがそんなもの識らずな古竜様のために、ご説明差し上げます!」
「あ、ありがとう?」
「いえいえ、今世の古竜様はまだ幼くていらっしゃいますから、偉大なる師のことを知らないのも無理はありません、大丈夫、大丈夫、このハムチャにかかれば、もの識らずな古竜様もニャー・コ・ジャーラ師様の偉大さをつぶさに実感できるはず!」
「は、……はい」
 何だか、親切な感じだけど馬鹿にされているような気もしながら、黒ドラちゃんはハムチャさんのお話しをきくことになりました。







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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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