クマン魔蜂さんのひとりブンブン(前)

文字数 2,677文字

古の森の中だけに棲むと言う、クマン魔蜂さん。
でも、たまには森の外に遊びに行ったりはしているんです。
特に、黒ドラちゃん達と南の砦に出かけた、あの大きなクマン魔蜂さんは、お出かけが大好きでした。
これは、そんなクマン魔蜂さんのある日のひとりごと、いえ、一匹ブンブンです。


**********


 古の森の中だけに棲むと言う、クマン魔蜂さん。その中でも特に大きいあのクマン魔蜂さんには、お名前があります。なんでも、仲間のクマン魔蜂さんたちから「ぶぶん、ぶぶん!(力持ち!力持ち!)」と言われているのを聞いた黒ドラちゃんが、モッチって言う名前をつけたんですって。

 モッチはマグノラさんの森にはちょくちょく遊びに行っています。あそこの蜜蜂さん達とはお友だちです。美味しい蜜のありかについて、ハニートークをして盛り上がったりしています。

 モッチはその日も一匹で古の森からマグノラさんのいる白いお花の森へ遊びに行きました。おみやげにフジュの花で作った特製はつみつ玉を持っています。どうしてそんなものを持っているかというと、先日の王都の夏祭りで「マグノラさんだけ来なかった、一緒にお買い物も贈り物もできなかった」って、黒ドラちゃんから聞いたからです。だったら、あたしが贈り物!とモッチは張り切って出かけました。

 ぶい~ん!と勢いよく飛んでいくと、白いお花の森の中のお花畑が見えてきました。なんだかにぎやかです。そういえば、今日はここまで入ってくるまでに、一匹の蜜蜂さんにも会いませんでした。珍しいなぁ……と思っていると、お花畑の真ん中でマグノラさんが人間の女の人たちとお話していました。マグノラさんたちの周りを、たくさんの蜜蜂さんが飛び交っています。みんなここに集まっていたんですね。

「華竜様、それでこちらはノーランドで採れた綿から作ってもらった枕です。どうぞ」
 茶色のふわふわした髪がかわいらしい女の人が、マグノラさんに大きな枕を渡しています。

「ありがとう、カモミラ王女。こんな大きな枕、ここまで運ぶのは大変だっただろう?」
 そう言いながら、マグノラさんはうれしそうに枕を受け取っています。
「いえ、森の入口まではゲルードが兵士をつけてくれたましたし、そこからドーテと二人で運びましたから」
 カモミラ王女と呼ばれた人は、横にいる少し年下の女の子に笑いかけました。

 モッチはぶい~んと羽音を立てて、マグノラさんのところまで飛んで行きました。

「おや、黒チビちゃんのところのモッチじゃないか。よくきたね」
 マグノラさんがすぐに気付いてくれて、お花を一本さしだしてくれます。あいさつ代わりのそのお花に頭を突っ込むと、モッチは花の蜜をごくんと飲みました。花から顔を出して、マグノラさんにお礼を言います。

「ぶん、ぶんぶん。ぶーん」
 そうして、マグノラさんの鼻先へ特製はちみつ玉を出しました。
「おや、これをあたしに?なんてきれいなはちみつ玉だろう。それに甘い良い匂いだね」
 マグノラさんが受け取って光に透かして見ています。

 モッチは得意気に「ぶいん!ぶいん!」と羽音を立てました。

 と、カモミラ王女がモッチのことを覗き込んできました。

「ひょっとして、古の森のクマン魔蜂さんかしら?」

「ぶんぶん!」
 モッチはその通り!とばかりに羽音で応えました。
「こんな大きなはちみつ玉を運ぶなんて、力持ちなのね」
 カモミラ王女はモッチににっこりと微笑みかけました。

 モッチはちょっと嬉しくなって、ぶんぶん勢いよくその辺を飛び回りたくなりました。それで、周りの蜜蜂さんと一緒に飛び回ろうと思ったのに、みんなが自分たちを見つめていることに気付きました。

「ぶいん?」
 いえ、よく見ると、みんなカモミラ王女の髪を見ています。カモミラ王女の髪には、きれいな水色の生花で作られた髪飾りがついていました。よく見ると、花の中に何かが頭を突っ込んでいるようです。蜜蜂でしょうか?カモミラ王女の髪飾りの花から、何かが出てきました。

 やはり蜜蜂のようです。でも、なんというか、これは……。

 モッチはその蜜蜂から目が離せなくなりました。蜜蜂とは思えない、薄い青味がかった銀色の身体。
 羽は美しい水色でキラキラと輝いています。ほっそりした優美な体つきで。首周りは白銀のふさふさで覆われています。花から顔を出して周りで自分を見つめるたくさんの蜜蜂にちらっと目をやりましたが、気にもかけずにまた花に頭を突っ込みました。

 なんてきれいな蜜蜂だろう。モッチはその蜜蜂さんとも友達になりたいと思いました。どうやらその気持ちは他の蜜蜂さんたちも同じようで、それでさっきからこの花畑に集まってきているようです。

「ぶいん?ぶいん?」
 モッチはカモミラ王女にたずねましたが、王女にはモッチの言葉が良くわからないようでした。

「その子は何者?って聞いてるのさ」
 マグノラさんが代わりに王女に聞いてくれます。

「えっと、この花についている蜜蜂の事かしら?」
 王女がモッチに聞いてきます。モッチが返事代わりにブンブンと羽音を立てると、カモミラ王女が説明してくれました。

「この蜜蜂はね、ノーランドスノーブルー蜜蜂というのよ。このお花がノーランドスノーブルーなんだけれど、そのお花の蜜ばかり集めるから、そう呼ばれているの」
 そう言って、髪飾りになっていたお花を外して見せてくれました。その周りにモッチを始めたくさんの蜜蜂が集まります。すると、花から銀色蜜蜂が顔を出しました。

 ブン!ブブブブブンッ!と威嚇するように羽を鳴らします。お友だちになりたくて集まっていた蜜蜂たちはびっくりして一斉にあたりに散らばりました。

「おやおや……」マグノラさんが呆れています。

「え?今のどういうこと?うちの蜜蜂はなんて言ったのかしら?」
 カモミラ王女が不安そうに言いました。

「友好的な雰囲気ではなかったのは確かのようですよ」
 ドーテさんも不安そうに言います。

「今のはね、『なに?なにみてんの?お前ら、じろじろ見るんじゃねえよっ!』っていう感じだったね」
 マグノラさんが伝えると、カモミラ王女は「まあ!」と言って、髪飾りの上でふんぞり返る銀色の蜜蜂を困ったように見つめました。

 すると、横から一匹の大きな蜜蜂が現れて、ふんぞり返った銀色の蜜蜂を花の上から突き飛ばしました。

 大きな蜜蜂、つまりモッチです。




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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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