第45話-『りありゅうめ!』

文字数 2,165文字

 ドンちゃんと一緒に森の外れに出てみると、もうブランとラウザーは人の姿になって待っていました。魔法の馬車もそばに停まっています。馬車の横にはゲルードが馬に乗って待っていました。

「黒ちゃん、ドンちゃん、おはよう。準備は良いかな?」
 ブランに尋ねられて、黒ドラちゃんとドンちゃんは「良いよ!」と一緒に応えました。黒ドラちゃんはお決まりの「ふんぬっ!」っていう掛け声をかけると、女の子に変身しました。
もう12~3歳くらいの女の子です。黒くて艶やかな髪に健康そうなピンク色のほっぺ、明るい若葉色の瞳は長いまつげに縁取られています。手足もすんなりと伸びて、だいぶお姉さんぽくなりました。白いマントの下には、今日はストンとした何の飾りも無い茶色いワンピースを着ています。編上げのブーツも茶色、そしてくるっと回って見せると「ドンちゃんとお揃いにしたの!」と言いました。でも、その胸にはキラキラ光るエメラルドのペンダントがありました。

「あ、黒ドラちゃん、それってブランのくれた鱗と同じだね」
 ドンちゃんがさっそく気づきました。ラウザーがブランのことを肘でつついています。ブランはラウザーにやり返してから、照れたように黒ドラちゃんに言いました。
「黒ちゃんが人間になった時には、ペンダントになるようにしてあるんだ。どうかな?」
 黒ドラちゃんはキラキラ光るペンダントを何度も陽にかざして眺めてから「とってもキレイ」とつぶやきました。それを見てブランはほんのり頬を染めています。横でラウザーが「りありゅうめ!」とつぶやきました。

「りありゅうって、なあに?」

 ドンちゃんが不思議そうな顔でたずねると「いや、その、なんでもない!」急にラウザーはそわそわとしだしました。

「よろしければ、そろそろ出発いたしましょうか」
 ゲルードが声をかけてきました。気がつくと、ゲルードのそばに馬車がもう1台停まっていました。黒ドラちゃん達が乗る馬車よりも大きくて、でも飾りはほとんどついていません。中には兵士さんたちが何人も乗っています。これも魔法の馬車だということでした。やはり竜がまとまって三匹も南の端まで行くのには、兵士さんたちが付いていく必要があるみたいです。

 みんなで馬車に乗り込むと、ゲルードが外から声をかけてきました。
「では、出発いたします」
「えっ、待って待って、ゲルードは馬車に乗らなくても良いの?」
 黒ドラちゃんが驚いて声をかけると「私一人であれば、馬に乗ったまま砦まで魔法で移動できます」
 すぐにゲルードが答えます。
「へー!すごいね!さすが国一番の魔法使い!」
 黒ドラちゃんとドンちゃんが感心していると「さ、行こ、行こ」外で得意そうにしているゲルードを置き去りにして、さっさとブランが馬車を出発させました。

 馬車は走り出してすぐに、ガタンっとちょっとだけ揺れました。そして、窓の外に目をやると、そこにはすでに森のそばとは全く違う景色が広がっていました。後ろに灰色の石で出来た門が見えます。砂の中に門だけが建っていて、馬車はそこから出て来たようでした。あれにブランの魔石が使われているということでしょう。

 砂、砂、砂、とにかく見渡す限りの砂です。

「わー!何ここ!何ここ!何ここ!?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんは興奮して馬車の中で大きな声で言いました。ラウザーが得意そうに「ここは南の砂漠さ。俺の棲家だよ」と言いました。
「えっ!?、どこ?どこがラウザーのおうちなの?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんはお家らしきものを探してキョロキョロしましたが、見つけられません。
「このへん全部、俺のうちみたいなもんさ」
 ラウザーは得意そうです。
「えー!こんなにひろいおうちなの!?」
 黒ドラちゃんもドンちゃんもびっくりしました。
「でも、ラウザー、ここって木もお花もないし、可愛い系のみんなや蜂さんみたいな虫もいないね」
「う、うん……」
「ラウザーだけしかいないの?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんに見つめられて、ラウザーは尻尾をにぎにぎし始めました。っていうか、あれ、今人間の姿じゃなかったっけ?

「ラ、ラウザー、尻尾出てる!」
 黒ドラちゃんに言われて、ラウザーはあわてて尻尾を消しました。

「ラウザーは陽の気を集める竜なんだ。だからラウザーの住む場所には雨が降らない」
 ブランが教えてくれます。
「そうなんだよ」
 なんだかラウザーが落ち込んだように言いました。
「俺ってばお天気にするくらいしか能力が無いからさ。お祭り竜なんてあだ名付けられちゃって」
「お祭り竜?なんで?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんがコテンと首をかしげました。黒ドラちゃんの頭の上でクマン魔蜂さんも斜めになってます。
「人間がさ、何かお祭りごとをしたい時、俺を呼ぶんだ。そうすれば絶対にお天気だから」
「なるほど!」
 黒ドラちゃんのお膝の上でドンちゃんが喜んで飛び跳ねます。
「良いね!お祭り竜、良いよねえ?」
 ドンちゃんがタンタン飛びながら言いました。
「うん、そうだよね。ラウザーはお祭り竜って呼ばれるの、嫌なの?」
 黒ドラちゃんがたずねると、ラウザーは窓の外を見ながらぽつりぽつりと話し出しました。




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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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