第84話 オアシスとふーっ

文字数 1,522文字

 コレドさんの執務室に行くと、なんとゲルードがいた。えっと、俺が砦のそばに住めるように力になってくれたんだよな、こいつ。なんか、こいつには何もかもしゃべっちゃいそうで自分がコワイ。

 でも、ゲルードは俺を問い詰めたりしなかった。心配そうに「大丈夫ですかな?陽竜殿。ずいぶんと雷に打たれたとのことですが……」と聞いてくれた。

「だ、大丈夫!俺って雷は楽しむものだと思ってるからさ!ビリビリして気持ち良いよ」
 俺が答えると、ゲルードはホッとした様子で長い金の髪をかきあげてニッコリとした。
「それは良かった。では、あのオアシスの女神さまは本当にお怒りでは無いのですな?」
「うん!」
「良かった。ええと、何という名の女神さまでしたかな、確か――」
「ラ、」

 やばい!つい答えそうになった。

 なんだよ、ゲルードの目がギランッってしたぞ、今。
「ラ?」
 おいおいおい、聞きだす気満々じゃないか!コレドさんも執務机の上でこっちを凝視してがっちりこぶし握ってるし。

「えっと~ラミ様じゃなくて~ラジ様じゃなくて~、なんだっけなあ?」
 尻尾をニギニギしながら、横目でゲルードを見る。
「陽竜殿、今日はお疲れでしょう?無理に思い出さなくても良いですよ」
 あれ、そうなの?
「じゃあ、俺、今日はこれで――「でも!忘れたままでは気持ち悪いですよね?ここは思い出してスッキリされるべきですな」
 ゲルードはマントの中から白い大きな魔石のついた杖を取り出した。なになになに?何する気!?
「思いだした!ラキ様だ!」
 尻尾をパッと放して叫ぶ。ふう、危ない、ゲルードの目が危なかったよ。
「ラキ様……どのような形の文字をお書きになるかは教えていただけましたか?」
 ゲルードがなおも聞いてくる。
「文字?俺わかんない」
 これは本当だから、魔石の杖も怖くないぞ。
「そうですか……ラキ様……」
 ゲルードは何か考え込んでいる。やめろー考えるなー!

 コレドさんが初めて口を開いた。
「それで、ラキ様はこのままあのオアシスに居続けてくださるのでしょうか?」
 真剣な表情だ。
「もちろん!あそこが気に入ってるみたいだったし」
 俺が答えると、今度こそ本当にゲルードもホッとした表情になった。
「さようですか、ならば無理に名で縛るような真似をせずに――」
 やっぱり縛るつもりだったのか!?
「ダメだよ!ラキ様は誰にも縛らせない!」
 俺がそう言った時、なんだか周りの景色が歪んで見えた。
「陽竜殿!」
「陽竜様、落ち着いて!」
 ゲルードとコレドさんが何だか慌てている。
「?」
 不思議に思ってゲルードとコレドさんのことを見たら、二人が一斉に「ふーっ」と息を吐いた。
「あぶなかった。ゲルード殿、砦を守るものを代表してお願いする、ラキ様の件はしばらく静観してもらいたい」
 コレドさんが厳しい表情で話してる。
「……わかった。そうしよう」
 ゲルードが何か言いたそうに俺の方を見たけど、結局はそのまま帰っていった。

 なんだろう?でも、ゲルードが諦めてくれて良かった。あいつ魔術のことになると目の色変わっちゃうからな。ラキ様には会わせたくないな。金の髪でサラサラで綺麗な顔立ちで、性格さえ知らなければ王子様にも引けを取らない見た目だし。な、何気にしてるんだ!?俺。そういう心配してた訳じゃないのに。まるで焼きもち焼いてるみたいだ。

 おかしいな?今日はもう砂漠に帰って寝よう。なんかここのところバタバタしていて、ゆっくり夜空を見上げることも無かったな。

 ――オアシスの中からは、星はどんな風に見えるんだろう。ラキ様……。


 ぐう~。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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