第117話-おばあ様のお話

文字数 1,991文字

 黒ドラちゃんはあわてて言いました。

 「違います!ドンちゃんは竜じゃなくて、ノラプチウサギです!とっても可愛いんです!」
 「ああ、そうなんだね。そりゃ良かったよ。竜じゃこの家に入れないだろうから、家を建て直さなきゃいけないかと思ったよ」
 おばあ様はホッとしたように、笑いました。

 おばあ様が落ち着いたようなので、黒ドラちゃんはさっきから気になっていたことを聞いて見ることにしました。
 「あの、おばあ様、お嫁さんになると一緒にこの家に住む……と思ってるんですか?」
 「もちろんだよ!ノラウサギの花嫁は家に迎えられてその家のしきたりやなんかを一つ一つ学んで行くんだ」
 「は、はい」
 「そしてあたしたちは家の中で可愛い花嫁をしっかり守るんだ。ノラウサギの結婚て言うのはそういうものだよ、黒ちゃん」
 「……」

 黒ドラちゃんは困ってしまいました。本当は、そんなのダメ!って大きな声で言いたかったんです。だって、ドンちゃんはずっとずっと古の森で黒ドラちゃんと一緒だったんです。結婚して、お嫁さんになってもそれは変わらないと思っていました。ずっとずーーーっと一緒が良いんです。

 「母上、どこに住むかはグィン達が決めること。もう我らも以前のようには――」
 「何言ってるんだい!?皆でかたまって無けりゃあぶないじゃないか!オコリィみたいなことになったら……」
 そこまで言って、急におばあ様は涙を流し始めました。
 「あたしは反対したんだよ。平地へ行くのは止めた方が良いって。でも、ノラクローバーを探すんだって言って、あの子は……」
 そう言って、おばあ様は丸くなってしくしくと泣きはじめました。今はもういない、誰かのことを思い出してしまったようです。

 「……母上、お疲れでしょう?少し休みましょうか」
 そう言って二代目食いしん坊さんが、おばあ様を支えながら家の中に戻っていきます。黒ドラちゃんは、何も言えずに二匹が家の中に入っていくのを見送りました。
 おじいちゃん博士が黒ドラちゃんを気遣いながら話しかけてきました。
 「古竜様、申し訳ありません。ご存知かと思いますが、ノラウサギたちは大変な危機に見舞われたことがありまして」
 それは黒ドラちゃんもドンちゃんがノラプチウサギだ、って知った時に聞きました。たくさんのノラウサギ達が、命を奪われた時期があったことを。

 「その為、ノラウサギは次の世代の生みの親である若い娘ウサギたちを、過剰なほど守ろうとする傾向がありまして」
 「そのためにお嫁さんはお家に入れちゃうの?」
 「そうですね」
 「で、でも、今はもうそんなにあぶなくないんでしょ?」
 「ええ。だからだんだんと家の外、森の外、はては国の外にも出ていくノラウサギも増えました」
 「うんうん!」
 「もちろん、危険な時期に国外へ逃げ出して定住したものもおりますし」
 「ていじゅう?」
 「古の森のノラプチウサギのように、逃げ出した先でそのままずっと暮らすことです」
 「そのままずっと……」

 その言葉をかみしめます。黒ドラちゃんは、ドンちゃんにずっとずっと古の森にいてほしいんです。

 「あの、ドンちゃんはずっと古の森に住むよね?ここには入らないよね?」
 黒ドラちゃんが不安そうに聞くと、博士は困ったような顔でこう言いました。
 「それは、私にはなんとも……。申し訳ございません」
 「ううん、良いの、……良いの」

 黒ドラちゃんのため息が、森の中で白く広がって消えていきました。


 結局おばあ様に会ったけど、花嫁の冠のことは何も聞けませんでした。それよりも、思いもしなかったことを聞いてしまって、黒ドラちゃんはすっかり元気がなくなってしまいました。
 「古竜様……」
 モーデさんが心配そうにしていることにも気づきません。ノラウサギの家から王宮蜜蜂のところへ戻っても、黒ドラちゃんは元気がありませんでした。

 水色のお花畑に着くと、もうモッチが待ちくたびれたというように、ぶんぶん羽音を立てて飛んできました。
 「ぶい~~~~ん!」
 ちゃんと聞いたよ、教えてもらったよ!ノーランドクローバーのこと!モッチがそう言って黒ドラちゃんに話しかけてくれているのに、出てくるのはため息ばかりです。

 「ぶいん?」
 「あのね、食いしん坊さんのおばあ様に会ったの」
 「ぶんぶん!」
 「でも、花嫁の冠の話は全然できなくて……」
 「ぶい~ん、ぶんぶん!」
 大丈夫、大丈夫、あたしが聞いてきたから!とモッチが元気よく答えます。
 「そっかぁ……じゃあ見つけに行けるんだね?ノラクローバー……」
 「ぶい~んぶんぶん!」
 モッチが得意そうにクルクルと回ります。

 その横で、黒ドラちゃんは、また白いため息をつきました。




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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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