第27話ーマグノラさん

文字数 1,655文字

「あ、あの、あたし古の森の黒です。古竜です。すみません勝手に入り込んで……」
 黒ドラちゃんが謝ると、また赤茶の竜は「いいよ、いいよ」とガラガラ声で言って、今度は黒ドラちゃんの頭をなでなでしてくれました。

 この赤茶の大きな竜がマグノラさんでした。マグノラさんは、白い花の森で毎日のんびりお昼寝して過ごしているんですって。黒ドラちゃんもドンちゃんも、最初はガラガラの大きな声に驚きました。でも、話しているうちにマグノラさんはそんなに怖い竜じゃないなあと思い始めていました。

 マグノラさんに、夕べからのことを話してみました。
「そうすると、黒チビちゃんの背中のうろこが取れそうだっていうんで、ここに来たのかい?」
 黒チビちゃん、そんな風に呼ばれたのは初めてですが、確かにマグノラさんと比べれば黒ドラちゃんはおチビさんです。
「そう、そうなの。夜中にものすごくかゆくなって眠れなくて、朝になってドンちゃんに見てもらったら、うろこが取れそうになってたの」
「ふーん。見せてごらん?」
 黒ドラちゃんはドキドキしながらマグノラさんに背中を向けました。マグノラさんの大きな手でグイッと引っ張られたら、グラグラのうろこなんて簡単にブチッと取れちゃいそうな気がしたからです。でも、マグノラさんは背中のうろこをよく見ただけで、引っ張ったりはしませんでした。
「森を出たのは今日が初めてかい?」
「ううん。ブランと一緒に北の山に行ったし、この間は王子様に会いにお城にも行ったよ!」
 黒ドラちゃんが答えると、マグノラさんはうんうんとうなずきました。
「なるほど、ははは、ブラン坊やがね。それならうろこが取れそうになったのはおかしなことじゃないよ」
「そうなの?」
「そのうろこはね、初鱗っていうんだ」

「はつうろこ?」

 黒ドラちゃんとドンちゃんはコテンと首をかしげました。
「その部分は竜の身体の弱点なんだ。だから生まれてからしばらくの間は一番硬いうろこが守ってる」
「へえー」
「自分じゃ見えないし、手も届かない。羽でも守れないだろう?」
 そう言われればそうです、夜中にかゆくても手が届かなかったし。
「竜が自分の縄張りを出られるくらいまで成長すると、もう大丈夫ってことなんで、自然と剥がれて落ちるんだよ」
「へえ~!」
 ドンちゃんは黒ドラちゃんの背中でグラグラのうろこの匂いをくんくん嗅いでいます。ついでに前足で触ったりして硬さを確かめているようです。
「ほんとだ!確かにすっごく硬いね!」
 背中でドンちゃんが言いました。
「自然と剥がれるって、何日くらいかかるの?」
 黒ドラちゃんが尋ねると、マグノラさんはちょっと考えてから「竜によるけど3~4日もあれば取れちゃうさ」と教えてくれました。黒ドラちゃんはホッとしました。もし、何日も何日もグラグラだったらどうしよう?全身のうろこがグラグラになったらどうしよう?そう考えてとても不安になっていたからです。
「じゃあ、ちょっと経てば、このうろこは取れるんだ?」
 背中のドンちゃんが言います。
「ああ、そうだよ。それにしても黒チビちゃんはまだ生まれて数年だろ?ずいぶん早い初鱗だね」
「そうなの?」
 黒ドラちゃんが聞き返します。
「普通は初鱗を迎えるまでに十年以上はかかるよ、たいていの竜はね」
「そうなんだあ。どうしてあたしのうろこは取れるのが早くなっちゃったのかな?」
 黒ドラちゃんがそう言うと、マグノラさんが可笑しそうに「ブラン坊やが待てなかったんだろう?」って言いました。
「ブランが?どうしてブランが待てないの?」
「その初鱗はね、……まあ、良いや。あたしがあんまり喋っちまうと、坊やがかわいそうだからね」
「?」
 黒ドラちゃんもドンちゃんもわからなくて首をかしげています。それにしても、黒ドラちゃんから見るとブランは一人前の竜に見えたのに、マグノラさんは「坊や」なんて呼んでいます。いったいマグノラさんて何年生きているんでしょう。



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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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