第90話-王都のお店へ

文字数 1,827文字

 馬車の中から灰色のモフモフが飛び出してきます。
「食いしん坊さん!」
 ドンちゃんが駆け寄ります。
「待たせてしまったかな?マイ・プチ・レディ」
 食いしん坊さんがドンちゃんの前足に挨拶のキスをしました。ドンちゃんは嬉しくてもじもじしています。どうやらドンちゃんはノラウサギダンスを練習するうちに、だんだんと魔力を使ったり感じたり出来るようになってきたらしいのです。特に、食いしん坊さんの魔力はすぐにわかるみたいです。

 良いなぁ……と思って眺めていると、馬車の中からブランが降りてきました。
「ブラン!」
 黒ドラちゃんがブランに駆け寄ります。竜のまま突進しましたが、ブランはしっかり受け止めてくれました。
「黒ちゃん、お待たせ」
 ブランもすごく嬉しそうです。ブランは黒ドラちゃんの気のすむまで抱きつかれてから、ようやく放してもらって「さて、人間になろうか」と声をかけました。

「ふんぬっ!」
 いつもの通りに黒ドラちゃんが、掛け声をかけて女の子の姿になります。今の姿は8、9歳くらい?森の外にお出かけしたおかげで急成長した黒ドラちゃんですが、その後だんだんと落ち着いてくると、少しづつ本来の年齢に戻りつつあったのです。

 ブランは黒ドラちゃんに手を貸して馬車に乗せてあげました。続いて食いしん坊さんとドンちゃんも、ブランの助けを借りながら乗りこみます。と、そこでようやくブランはラウザー達に気がつきました。

「あれ、ラウザー?王都で落ち合うのかと思ったけど、ここから行くのか?」
 ブランがたずねると、ラウザーがちらっとラキ様の方を見ながら答えました。
「ゲルードから、魔法の馬車で王都まで直接行けるって言われたんだけどさ、どうしてもドンちゃんに会いたいって言われて……」

 そして、そばで緊張しながら立っているリュングをぐいっと前に引っぱり出しました。
「こいつ、南の砦の魔術師見習いのリュング。俺とラキ様だけじゃ心配だ、ってゲルードがつけたんだ」

 リュングは直角にお辞儀をしながらブランに自己紹介をしました。
「初めてお目にかかります、魔術師見習いのリュングと申します。輝竜様とご一緒できるなんて光栄です!」
 目がキラキラしていて、嬉しそうです。

「俺に対する“様”と、ブランに対する“様”はなんか違う気がする」
 ラウザーはぶつぶつ言っていましたが、とりあえずラキ様に手を貸して馬車へと乗り込みました。

 魔法の馬車は不思議な乗り物です。そんなに大きくは見えないのに、5人と二匹を乗せても窮屈な感じはちっともしません。そして、走り出すとすぐにガタンッ!と揺れました。あわてて黒ドラちゃんとドンちゃんが窓の外を見ると、もう王都のすぐそばです。馬車はそのまま王都の門をくぐりました。

「わぁー!何回見てもすごいよねぇ!王都って」
 黒ドラちゃんが感心したように言いました。ドンちゃんも、隣でうんうんとうなずきながら目をキラキラさせて、通り沿いの店を見ています。と、気付くとラキ様も窓にへばりついて外を眺めていました。ほお!とか、むむっ!とか、なんと!?とかつぶやいて、子どものように夢中になっているようです。それを見ながらラウザーが「可愛いなあ……」なんてデレデレしながら尻尾をカミカミしています。気付いたリュングが「陽竜様、しっぽ、しっぽ!」と注意しています。その様子を見ながら、黒ドラちゃんはドンちゃんと顔を見合わせながらくすくす笑いました。そして、ブランと食いしん坊さんは幸せそうにそれを眺めていました。

 やがて馬車は、大通りに並ぶ一軒のお店の前に止まりました。
「さあ、まずはこのお店からにしよう」
 そう言って、ブランが先に馬車を降りてみんなに手を貸してくれます。

 そこは、こんな大通りに店を構えているのが不思議なほど、小さな小さなお店でした。

 入口の黒い扉には、金色で文字のような模様のようなものが描かれています。黒ドラちゃんは読めませんでしたが、扉からは何か不思議な力を感じました。最後に馬車から降りてきたリュングが、興奮気味に声を上げました。
「ここは!テルーコの店じゃないですか!?ここで買い物するんですか!」
 驚きながら、目をキラキラさせているところを見ると、このお店って、小さいけどすごいお店なのかも……。
 黒ドラちゃんは胸をドキドキさせながら、ブランに促されて黒い扉をくぐりました。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み