第114話-ノーランドは大歓迎☆

文字数 2,250文字

 本当に、カモミラ王女が言っていた通り、ノーランドは雪に覆われた寒い国でした。
 王都も白い雪の中に、赤や青や緑の屋根が散らばり、かろうじて街路が線のように走っている他は、雪に覆われています。もう、夜になり始めているせいかも知れませんが、同じ王都でもバルデーシュの王都とはずいぶん雰囲気が違って見えました。黒ドラちゃんが低い位置で飛びながら王都を見学していると、下で人々が騒いでいる声が聞こえてきました。
 「古竜さまー!」
 「古竜さまー!」
 「ようこそー!」
 なんと、ノーランドの人々も黒ドラちゃんのことを歓迎してくれています。実は、カモミラ王女がお嫁に行くことが決まり、今、ノーランドは空前のバルデーシュ・ブームでした。そこへ黒ドラちゃんが飛んで来たものですから、王都は大騒ぎです。

 「ありがとー!ありがとー!」
 黒ドラちゃんは人々に挨拶しながら山の王宮を目指しました。麓から少し山に登ったところに、黒いがっしりとした建物が立っていました。城壁にはかがり火が煌々と輝いています。あれがノーランドの王宮です。地図でも四角く黒い目印になっていたのですが、そのままな感じで黒ドラちゃんはわかりやすいなあ、と感心しました。

 さて、どうやって王宮に入れてもらおうか?そう考えていると、王宮のバルコニーに大勢の人が居て、黒ドラちゃんに手を振っているのが見えました。みんなモコモコの温かそうなマントを羽織っています。王冠を着けているのが王様で、その横の妖精みたいな綺麗な人が王妃様でしょう。カモミラ王女のお父さんとお母さんですね。

 「古竜様、屋上へ!どうぞ屋上へ!」
 口々に黒ドラちゃんを誘導してくれています。見れば屋上にもかがり火が焚かれ、松明を振って合図をしてくれている人が何人か見えました。黒ドラちゃんは言われた通り、お城の屋上へ降り立ちました。屋上にも雪が積もっています。黒ドラちゃんの足が冷たさでビリビリしました。すぐに下へと続く階段が賑やかになり、王様を初めモコモコのマントを羽織った人達が次々に現れました。

 「古竜様!ノーランドへようこそ!」
 王様が満面の笑みで黒ドラちゃんの両手を握りしめます。初対面で竜の両手を恐れもせずに握りしめられるのだから、やはり王様ってすごい人なんだなあって黒ドラちゃんは感心しました。
 「お会いしたかったわ、古竜様」
 優しい声が聞こえて、黒ドラちゃんがそちらを見ると、王妃様がニッコリほほ笑んでいました。
 「あの、足が冷たくないかしら?雪は大丈夫?」
 王妃様が聞いてくれたので、黒ドラちゃんは足を持ち上げて「とっても冷たいです」と答えました。すると大騒ぎになりました。何人もの人が自分のマントを脱いで黒ドラちゃんの足を包もうとします。

 「え、いや、あの……」
 黒ドラちゃんは皆のあまりの熱烈歓迎ぶりにたじたじしてしまいました。

 「お待ちなさい、古竜様が戸惑ってらっしゃるわ。モーデ、モーデ来て頂戴!」
 王妃様が声をあげると、黒ドラちゃんの足元に群がっていた人たちが下がり、代わりに若い侍女さんが現れました。
 「あっ!ドーテさん!」
 黒ドラちゃんはびっくりして声をあげました。現れた侍女さんが、カモミラ王女付きのドーテさんそっくりだったからです。

 「古竜様、こちらの侍女は、カモミラに付けてバルデーシュに行かせたドーテの双子の妹のモーデです」
 モーデさんと呼ばれた侍女さんが、黒ドラちゃんにお辞儀をしました。
 「古竜様、ドーテから手紙をもらっております。バルデーシュでは、大変お世話になったそうで」
 「ううん!あたしがドーテさんにお世話になったんだよ!」
 黒ドラちゃんが、あわてて答えました。そうです、ドーテさんにはマナーのお勉強でとってもお世話になったんです。王妃様は、黒ドラちゃんの面倒をみるのはモーデさんのみ、と周りの人に言い聞かせてくれました。残念そうなため息がいくつも聞かれましたが、黒ドラちゃんはホッとしました。たくさんの人に付きっきりで世話をされてる姿なんて、想像できませんでしたから。

 「あの、古竜様は人の姿になることが出来るとか?」
 モーデさんが聞いてきます。
 「うん!」
 「では、人になっていただいてもよろしいでしょうか?お城の中に入るには、体を小さくしていただいた方が良いと思うのです」
 なるほど、と黒ドラちゃんは感心しました。
 ドーテさんもしっかり者でしたが、モーデさんもしっかり者みたいです。
 「ふんぬっ!」
 いつものように掛け声をかけると、黒ドラちゃんは人間の女の子になりました。遠出の影響か、7~8歳になっています。艶やかな黒髪に、明るい若葉色の瞳。黒ドラちゃんの周りだけ、春が来たような華やぎが感じられました。周りで見ていた人々は、さっきとは別な意味でため息をつきました。
 お気に入りのドンちゃんスタイルの編上げブーツのおかげで、黒ドラちゃんの足の冷たさが和らぎました。ホッとした黒ドラちゃんが、固まってしまっているモーデさんに声をかけました。
 「あ、あのモーデさん?」
 「あっ、申し訳ございません!つい見とれてしまって……」
 モーデさんがあわてています。人間の姿になった黒ドラちゃんを連れて、みんなはお城の中へと戻りました。屋上と違って、お城の中はポカポカと温かくて、黒ドラちゃんはうれしくなりました。今夜は王宮にお泊りさせてくれるそうです。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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