第275話-ドーテさんは語る

文字数 2,466文字


「で、それでゲルードはなんて言ったの!?怒ったよね?すごく怒ったよね?」
「ぶぶいん!?」
 黒ドラちゃんがドーテさんの腕をつかんでゆすぶりながらたずねると、モッチも頭の上でくるくると飛び回っています。

 ドーテさんはちょっとよろめきながら、黒ドラちゃんの手を何とか外しました。
「いえ、そんなことは。ただ一言『動きやすいからね』と微笑まれました」
「ええーーー!?」
 黒ドラちゃんが不服そうに声をあげました。
「なんかあたしやドンちゃんの時とお返事がずいぶん違わないかなぁ、それ」
「ぶぶぶ」
「え?何ですか。古竜さま」
「ううん、何でもない!いいの。ゲルードだし」
「はあ。あの、話を続けてもよろしいですか?」
「あ、うんうん!お願いします、初恋のお話お願いします!」
「ぶぶいん!」

 黒ドラちゃんとモッチが大人しく切り株の上に座ると、ドーテさんが再びお話を始めてくれました。

「ゲルード様は見た目通りにとても優しい方でした」
「ぶぶ!?」
「しっ、モッチ静かに。あたしもそう思うけど」
「えっと、モッチさんはなんて?」
「ううん、何でもない、初恋のお話楽しみだなって」
「そうですか、じゃあ、続けますね?」
「うん、お願いします!」

 黒ドラちゃんたちに何度も話の腰を折られちゃったけど、ドーテさんはあまり気にしていないみたいです。きっと、お話を聞いて欲しい気持ちの方が強いんでしょう。

「私が不思議に思った長い髪は魔力をため込むために必要なのだと、ゲルード様は丁寧に説明してくださいました。そして、その日からノーランドに帰る日まで、私はカモミラ様とスズロ王子とゲルード様と一緒に何度もそのお庭で遊びました」
「へぇ~、そうなんだ。あの髪の毛ってそんな理由があったんだ」
「ぶぶい~ん」
「しゃべり方も、ちょっと、その、おじいちゃんみたいですけど、それも周りに年齢の高い方が多かったためですし、何より侍女見習いでまだあまり礼儀作法も満足ではなかった私を叱ったりせずに、とても優しく色々なことを教えてくださって」
 その頃のことを思い出しながら、ドーテさんは微笑んでいます。
「ゲルードが……」
「ぶぶいん……」
 黒ドラちゃんとモッチが顔を見合わせます。

「ドーテは、私と一緒にゲルードの屋敷に遊びに行くうちに、すっかり懐いていたのよね」
「カ、カモミラ様、懐くって。まあ、確かに、後をついてまわってましたね」
 ドーテさんがうなずくと、カモミラ王女が苦笑して続けました。
「でも、私のせいで会えなくなってしまったから……」
「カモミラ様、そんなことありません!あれはカモミラ様のせいではなく、あの屋敷の使用人が!」
「でも、ドーテには辛い思いをさせてしまったわ」
「辛い、悔しい思いなら、カモミラ様の方がよほど。それに、会えなかった時期があったからこそ、私はゲルード様への思いを確かなものにいたしました」
「ドーテ……ありがとう。その言葉に救われるわ」
「カモミラ様」
 ドーテさんとカモミラ王太子妃が目を潤ませて見つめあう間に、モッチが飛び込んできました。
「ぶいん?」
「ねえねえ、会えなかったからこそ確かなものになるの?どうして?」
 黒ドラちゃんも遠慮なく続きます。

 せっつく二匹に、ドーテさんがお話を再開してくれました。

「あの一件で、私とカモミラ様はしばらくの間バルデーシュから足が遠のいておりました。その間に、モーデも丈夫になり、体の大きさも違いが無くなり、いつの間にか私とモーデは見分けがつかないようになっておりました」
「ふむふむ」
「ぶんぶん」

「それで、ようやく再びカモミラ様がバルデーシュをご訪問できるようになった時、前もってゲルード様がノーランドに来たのです」
「多分、自分の屋敷での出来事で、私が傷ついたことをゲルードも気にしていたんだと思うの」
「ゲルード様が来られた時に、私はモーデと共にカモミラ様のそばに控えておりました」
「ぶん、ぶぶいん?」
「あのね、モッチが『ゲルードは見分けがついたの?二人の』って」
 黒ドラちゃんから質問を聞いたドーテさんの目がきらっと輝きました。

「私も、不安でした。いえ、ほとんどあきらめていました、きっともう見分けはつかないだろう、と」
 ドーテさんの話を聞きながら、黒ドラちゃんもモッチもドキドキしていました。
「み、見分けられたの?どうだったの?」

 黒ドラちゃんの問いかけに、ドーテさんがにっこり微笑みます。

「モ―デと一緒に出迎えて、ゲルード様がカモミラ様や王にご挨拶するのを聞いていました。そして、私たちの前を通り過ぎる時に、声をかけられたのです」
「な、なんて!?」
「ゲルード様はまっすぐ私を見つめられて『ふむ、久しぶりだな、ドーテ』とおっしゃいました」
「きゃぁぁぁぁ~~~!」
「ぶっぶい~~~~~ん!」
 黒ドラちゃんもモッチも大興奮です。
「すごいね!ゲルード。間違えなかったんだ!すごい!すごいよ!」
「ぶっぶいんぶい~~~ん!」

 ドーテさんは嬉しそうにうなずくと、話を続けました。
「でも、その時、わたし嬉しすぎて胸がいっぱいになってしまって何も答えられなかったんです」
「無理ないよ!初恋だもん!初恋!」
「ぶぶいん!」

「そうしたら、ゲルード様が『もう、子どもじゃないのだから気安く話しかけるべきでは無かったな』となんだか気まずそうに立ち去られて」
「え、そうなの?」
「ぶいん?」

 ドーテさんの表情が切なそうにくもります。
「それから何度かお会いしておりますが、なかなか子どもの頃のようには話せなくて」
「それが普通じゃないのかしら」
 カモミラ王太子妃の言葉に、黒ドラちゃんたちはうなずきそうになりましたが、ドーテさんは納得していないみたいです。
「そうかもしれません……でも」
「でも?」
 黒ドラちゃんが首をコテンとかしげると、モッチも黒ドラちゃんの頭の上で斜めになりました。

「モーデが婚約したのです」
「え?う、うん?」
 突然、モーデさんのお話になったので、黒ドラちゃんはちょっとお返事に困りました。
 初恋のお話を聞くのって、なかなかすんなりとはいかないみたいです。

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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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