第292話-くぐり抜けるってハラハラなんだ!-1

文字数 2,949文字

 おかげさまで黒ドラちゃん達が『第10回ネット小説大賞』の一次選考を通過する事ができました。

 古の森のみんなも大喜びしているというので、様子を見に行ってみると何やら賑やかな声が聞こえてきて……?

 記念小話で短めです、どうぞお付き合いください。


 *****


 古の森は最近とても賑やかです。

「ンママ~、ドラドラ~ッこっちーこっちー!」
「ま、待って!マシル、待ちなさ~い!」
「キャハハハハ~ッ♪」
「マシルちゃん、待って、これじゃあドンちゃんが大変だよー!」
「ぶぶい~~~ん!」

 茂みをくぐり、木の根を飛び越えて、森の中を小さな白い体がピョンピョンと移動していきます。ドンちゃんちの双子の片方、ノラプチウサギのマシルでした。その後ろをドンちゃんとモッチ、黒ドラちゃん達が一生懸命に追いかけています。でも、マシルはとてもすばしっこい上に小さいので、すぐに木の陰や草の中に隠れてしまうのです。
「待って、マシルーッ、待ちなさい、ハッハッハァッ……」
 もうドンちゃんは息が切れています。毎日のことですが、マシルの動きについて行くのは大変でした。

 食いしん坊さんに似て、ノラウサギの気質を多く受け継いだグートは、もう大きさだけならドンちゃんよりも少し大きいくらいになりました。性格は大人しくて、みんなでお出かけするときでもなければ、ほとんど湖のほとりから離れません。たいていは湖の中のハスの花をボーッと眺めていたり、クローバーの上でお昼寝したり、とてものんびり屋さんです。

 一方、ノラプチウサギの気質を多く受け継いだマシルの方は、大きさでこそグートには及びませんが、元気の良さでは古の森一番のいたずらっ子に成長していました。毎日のように、ふらっと一匹で色んなところに行ってしまうので、ドンちゃんはいつのまにか追いかけっこすることになってしまうのです。だからといって、マシルを追いかけるためにグートをずっと放っておく訳にもいきません。マシルが飛び出すと、ドンちゃんのお母さんがグートのそばに残り、他のみんなでマシルを追いかけるのが日常になっていました。双子の面倒を見るのは、とても大変なのです。

「ハァッ、ハァッ」
「ンママ~、いっちばーん!」
「つ、つかまえた!」
 ようやくドンちゃんがマシルをつかまえた時には、みんなで黒ドラちゃんの棲む洞の前まで戻ってきていました。

「はぁ~!なんだ、マシルったら結局ここに戻ったんだ」
「ぶぶい~ん」
「ふぅ、ぐるっと一周だよね」
 黒ドラちゃんとモッチも追いつきました。みんなで息を切らしながら洞の前の切り株のところに座り込みます。

「モッチ、黒ドラちゃん、もいっかい?、もいっかい?」
 みんなが追いかけてくれて楽しかったらしく、マシルはご機嫌です。キラキラした目で黒ドラちゃん達のことを見ながら、また走り出そうとしています。

「ハァッ、ハァッ、マシル、あのね、追いかけっこは二日に一回、ってママとお約束したでしょ?」
 ドンちゃんがちょっと怖い顔をして、マシルのことをぐっと両前足でつかまえて言い聞かせました。
「……ん、もいっかい、だめ?」
「だめです!」
 ドンちゃんがお耳をピンッとさせて言い放つと、マシルは上目づかいで悲しげに黒ドラちゃんとモッチに向かって首をかしげて見せました。ふわふわで小さくて真っ白なマシルが小首をかしげると、おもわず「良いよ!もいっかい!」と言いそうになってしまいます。けれど、そうして付き合った結果、どんなに疲れることになるか、もう黒ドラちゃんもモッチも、この数週間で学んでいました。
「あ、また明日、じゃなかった、あさって、あさってにしよう、マシル」
 思わず明日と言ってしまって、ドンちゃんから目で『あさってよ、黒ドラちゃん!』と訂正されて、あわてて黒ドラちゃんが言い直すと、モッチも羽音で賛成してくれました。
「ぶぶいん。ぶいん、ぶぶい~ん?」
「あ、そうか、ハスの花の種のことがあったんだっけ!」
「ぶいん!、ぶぶいん」
「そっか、ドンちゃんに聞いてみよう」
「なあに?黒ドラちゃん」
 ようやく息が落ち着いてきたドンちゃんがたずねると、黒ドラちゃんは湖の方を指さしました。

「あのね、モッチがもらったハスの花の種が取れたでしょ?」
「うん」
「それを南の砦のラキ様の住んでるオアシスにわけてあげようかな?って話してたんだ」
「わぁ!素敵だね、きっとラキ様も喜ぶよ」
 ドンちゃんが笑顔でうなずくと、黒ドラちゃんがすかさずつけくわえます。
「それでね、種を分けるついでに、南の砦に遊びに行こうかな?って……マシルを……連れて」

 黒ドラちゃんはモッチと顔を見合わせながら、ドンちゃんの様子をうかがいました。
 マシルは小さいし、すばしっこいし、おでかけするのがすごく大変だって、いつもドンちゃんは言っていました。だから、お母さんであるドンちゃんがダメって言ったら、ダメだろうな、って思ったんです。

「う~ん……」
 ドンちゃんが考え込んでいます。
「ダメかなぁ?」
「ぶぶいん?」

 すると、そこへドンちゃんのお母さんの声がしました。
「黒ドラちゃんたちにマシルを連れて行ってもらいなさいよ。ドンちゃん」
 ドンちゃんが驚いて顔を上げると、グートを連れてお母さんがすぐそばに来ていました。

「でも、でもマシルはまだまだ小さいし!」
「マシルはノラプチウサギよ、グートみたいには大きくならないわ」
「そうだけど……」
「このところ毎日森で追いかけっこでしょ?」
「う、うん」
「そろそろマシルにも新しくて広い世界を見せてあげる時期なんじゃないかしら」
「え」
「たまには、ちょっとだけ離れてみてご覧なさい」
「離れる?」
「近づきすぎると、見えなくなっちゃうこともあるのよ、ドンちゃん」
「……」

 ドンちゃんはマシルのことを見つめました。このところ毎日のようにマシルに振り回されて、怒ってしまうことが増えました。グートのそばにいてあげる時間もずいぶん減っていた気がします。

「……でも、黒ドラちゃんたちが大変なんじゃ」

 ドンちゃんが遠慮がちに言うと、モッチがぶいんぶいん羽音を鳴らしました。
「そうだよ、大丈夫だよ、ドンちゃん!あたしとモッチなら飛んで追いかけられるし、いざとなったらマシルを抱っこして飛んじゃうもん。きっとすぐにお利口さんになると思う」
「黒ドラちゃん、バサバサー?」
 マシルが目を輝かせて黒ドラちゃんを見上げています。追いかけっこでらちがあかず、初めてマシルをつかまえて飛んだ時、マシルは泣くどころか大喜びでした。それからは、黒ドラちゃんは『ご褒美』以外ではマシルを連れて飛ばないようにしていたのです。

「そうか、それじゃあ、お願いしちゃおうかな」
「うん!」
「ぶん!」

 ドンちゃんのお母さんが、ドンちゃんの事を優しく抱き寄せました。
「たまにはゆっくりしましょう。グートの花冠つくりもずいぶん上手になったのよ」
 お母さんがそう言うと、後ろからグートがぴょこんと現れました。頭に可愛らしいクローバーの花冠を乗せています。

「本当だ、可愛い」
 ドンちゃんに褒められて、グートは嬉しそうにお耳を揺らしました。

 マシルもグートもドンちゃんもみんな嬉しそうです。

 黒ドラちゃんは、南の砦へのお出かけがとても楽しみになってきました。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み