第192話-まあ、いいや

文字数 2,670文字

 翌朝、黒ドラちゃんが洞から出ると、すぐにモッチがダンゴローさんを抱えて飛んできました。

「ぶいーーん!」
「おはよう、モッチ、ダンゴローさん」
「おはようございます、黒ドラ様」
「やだあ!黒ドラ様なんてえ、なんか照れちゃうよー!黒ドラちゃんで良いよー!」
 黒ドラちゃんが顔を隠して尻尾を振り回して照れていると、モッチが「ぶぶいん!」と羽音を鳴らしました。
「うん?なあに?何を見てほしいって?」
 黒ドラちゃんが顔を上げると、モッチに抱えられたダンゴローさんがまばゆく光っています。なんだか昨日よりもピッカピカです。
「え、なんかダンゴローさんがすごくピカピカしてる!どうしたの?」
「ぶぶいん、ぶい~~ん」
「え、モッチが磨いたの?」
「ぶいん!」
 モッチはそっとダンゴローさんを降ろすと、どこからか白い布を取り出して、ダンゴローさんの背中を磨き始めました。

「なにやらハマってしまったとのことで、私の背中のツヤ出しに夢中になっているんです」
 ダンゴローさんが背中を磨かれながら困ったような嬉しいような声で教えてくれました。
「ぶいん、ぶぶいん!」
「いや、そんな。私が特別丸いわけではありませんよ、ダンゴロムシはみんなこんな感じですので」
「ぶいん!?」
「ええ、ダンゴロムシは生まれてすぐに、丸くなることと穴を掘ることを覚えるんです」
「へえ~!」
 黒ドラちゃんは感心してダンゴローさんとモッチの会話を聞いています。

 モッチによってピッカピカに磨かれたダンゴローさんは、本当に何かの宝石のようでした。
「すごいね~」
「ぶぶいん!」
 モッチがダンゴローさんからちょっと離れて、見る角度を変えて光の反射を確かめています。すっかりダンゴロムシ磨きのプロみたいです。
「ぶいん♪」
 満足のいく磨きが出来たようで、モッチは白い布をまたどこかにしまいました。


「今日はゲルードやラウザーも来てくれると思うから、森の入口で待っていようよ」
 黒ドラちゃん達は、いつもゲルードが馬車で来てくれる森の入口まで迎えに出ることにしました。こちらがお願いして来てもらうんですもの、そのくらいはしなくちゃね。

 しばらくすると、ブランが北の方から飛んでくるのが見えました。

「ブラーーン!ブラーーーン!!」
 黒ドラちゃんが大きな声で呼ぶと、ブランはぐんぐんとスピードを上げて飛んで来ます。

「おはようっ黒ちゃん。森の中で待っていてくれても良かったんだよ?」
 降りて来たブランが心配そうにしています。
「だって、お願いして来てもらうんだもん。それに、森の中だとわかりづらいんでしょ?」
 出逢った頃、ブランはそう言ってましたもんね。

「いや、その、最近は湖の方まで入れるんだ」
「そうなの?良かったぁ!」
 黒ドラちゃんが尻尾をブンブン振って喜ぶと、ブランも嬉しそうに頬を染めました。
「ゲルードやラウザーも間もなく来てくれると思うよ。今日は出来るだけ早くに古の森へ来てくれ、って頼んでおいたから」
 やっぱりブランは頼りになります。黒ドラちゃんは嬉しくてブランに抱きついて尻尾をブンブン振っちゃいました。
「ゲルードは魔馬車で現れるだろうからここで待っていようか」
 ブランにそう言われてうなずいた時です、後ろから黒ドラちゃんを呼ぶ声が聞こえてきました。

「ドンちゃんの声だ!」

 黒ドラちゃんが驚いて振り向くと、森の中からドンちゃんが息を切らせて現れました。
「おはよう!、黒ドラちゃん、ブラン、モッチ、ダンゴローさん!!」
 なんでしょう、ずいぶん急いでいるみたいです。
「おはよう、ドンちゃん、どうしたの?そんなに急いで」
「あのね、さっきラウザーが黒ドラちゃんを呼んでいる声が聞こえたの!」
「え、本当!?ラウザーったらもう来てくれたんだ!」
「そうか、あいつも言った通りに早く来てくれたんだな」
 ブランが昨日飛ばした雪玉のお手紙は、しっかりラウザーに届いたようです。
「ぼくはここでゲルードを待つよ。黒ちゃんたちはラウザーのところへ行ってやってくれないか?」
「うん、わかった。ブラン、ゲルードのことお願いします!じゃあ、あたしたちはラウザーのお迎えに行こう!」
 黒ドラちゃんは、ドンちゃんたちを背中に乗せて森の南の端を目指しました。



「おおーーい、黒ちゃーーーん!」

 あ、ラウザーです!
 背中にラキ様とリュングを乗せています。
「こっち、ラウザー、こっちだよー!」
 黒ドラちゃんが大きな声で呼ぶと、ラウザーが気付いてくれました。
「おっ!そっちかあ!おはよー、黒ちゃん」
 ラウザーが嬉しそうに飛びながら尻尾をブンブン振っています。
「ちょ、ちょっと陽竜様、あんまりはしゃがないで下さいよ、私の席が揺れまくってます!」
 リュングの苦情は聞こえないふりで、ラウザーが黒ドラちゃん達の方へ近づいてきました。

「なんかさー、ブランが雪玉飛ばしてきたんだよ、黒ちゃんのところへ来いってさ」
「そうなの!竜のみんなに力を貸してほしくて、声をかけてもらったの!」
「ちから?貸す貸す、いくらでも貸すぜ~!」
 ラウザーが二つ返事で答えてくれました。どうやら背中にラキ様を乗せているので、すっかりご機嫌のようです。
「まったく、落ち着きのない奴じゃ」
 ラウザーの背中でラキ様が呆れたようにつぶやきました。そういうラキ様も、黒ドラちゃんの背中のドンちゃんに気付くと、途端にそわそわして手持ちのカミナリ玉を確認しています。

「ラキ様、リュング、久しぶり!朝早くから来てくれてありがとう!」
「おはようございます、古竜様、ひとまずどこかへ降りませんか?」
 リュングに言われて、黒ドラちゃんとラウザーは湖のそばまで飛ぶと、大きな木の洞の前に降りました。

「どうしよう、あたし、一度ブランのところへ戻った方が良いかな?」

 黒ドラちゃんがどうしようかと迷っていると、そばで聞いていたラウザーが「大丈夫、必要無いよ」とあっさり答えました。
「あいつったら最近『古の森が僕を受け入れてくれたんだ、それって黒ちゃんの気持ちだよね?』な~んて言ってたぜ?」
 あのりありゅうめ!とかなんとかブツブツつぶやいてます。そして急に「俺だって!」とキッとした表情になって、またすぐにデレっとした表情になりました。そのまま尻尾をカミカミしながらあっちこっちをウロウロしています。

「……ラウザー?なんだろ?まあ、良いや」

 何だか良くわからないラウザーのことは置いておいて、黒ドラちゃんはとりあえずお茶の準備を始めることにしました。本当は、クマン魔蜂さんマークの茶器セットを一度ラキ様に見てほしかったんです。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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