第133話ーあやしいラマディア

文字数 3,223文字

「ねえ、黒ドラちゃん、なんだかあの子ちょっと変だよね?」
 ドンちゃんが小さな声で黒ドラちゃんに話しかけます。
「そうかな~?」
「そうだよ。だって妙に黒ドラちゃんのこと森から連れ出そうとするし、今もブランたちが来るって知ったら逃げ出そうとしているし」
「逃げ出す?」
 そう言われて黒ドラちゃんはラマディアのことをもう一度見直しました。確かにソワソワしていて、とても落ち着きがありません。

「でも、どうしてあたしのこと連れ出すの?」
「うーん……それはわかんない」
 ドンちゃんにもそこまではわからないようです。

 黒ドラちゃんとドンちゃんがひそひそ話しながら考え込んでいると「黒ちゃーん」という声が聞こえました。見ればお城の方角からブランが飛んできています。しかも背中にゲルードを乗せています。

「ブラン!ゲルード!」
 黒ドラちゃんが飛んで行くと、ブランとゲルードは同時にホッとしたような顔をしました。

「良かった。今日はお城に来ていたんだけど、突然黒ちゃんに呼びだされたと思ったら、ゲルードのところにも魔伝が飛んでくるし、何事かと思ったよ」
「古竜様がご無事で何よりです」
「あの、心配をかけてごめんね。聞いてもらいたいお話があったの」
 とりあえず湖のほとりへ、ブランとゲルードを連れていきます。


 湖のほとりのみんなが居る所まで戻ると、黒ドラちゃんはこれまでのことを話しました。


「――すると、そこの笛吹きの娘が伝手を使ってニクマーン像を見せてくれる、というわけですか?」
 ゲルードが厳しい目つきでラマディアのことを見つめました。
 ブランとゲルードが来てから、ラマディアはおどおどと顔を伏せたままでほとんどしゃべりません。
「あ、あの、やっぱりナゴーンに行くのは――」
 黒ドラちゃんがおずおずと聞くと、ブランが即答しました。
「ダメだよ、黒ちゃん」
 その横では、相変わらずゲルードが難しい表情のまま、ラマディアを見つめています。

 やがて、黒ドラちゃんに視線を戻すと、ゲルードが話し始めました。
「私も母がノーランドの出身ですので、リッチマンと三匹のニクマーンのお話は知っております。
 ナゴーンの貴族が、ニクマーン像を造らせて家宝にしているという話も聞いたことがあります」
「そうそう、俺もその話ナゴーンの漁師から聞いたんだ」
 ラウザーが話に乗ってきました。

 南に棲んでいるラウザーは、時々ナゴーンとの間の海で遭難しかけたりしている漁師を助けているのです。助けた漁師からナゴーンの話を聞いて、竜の中では一番のナゴーン通になっていました。
「なんでもその貴族はさあ、リッチマンと三匹のニクマーンの話が大好きで、すごいお金をかけてそのニクマーン像を特別に造らせたんだって」
「そうなんだあ!」
 黒ドラちゃんとドンちゃん、リュングがふんふんと感心してうなずきました。

「ですが、そのような貴重な品を見せてもらえるような伝手を持っていると?この、怪しげな旅の笛吹きの娘が?」
 ゲルードはものすごく疑っているようです。再びラマディアを見つめました。いえ、にらんでいるって感じです。

「ラマディアは笛吹きじゃなくて、ぎんゆうしじんだよ!お話がとっても上手なの!」
 黒ドラちゃんはなんだかラマディアが可哀そうになってきました。確かにちょっとおかしな点はあるけれど、ラマディアがお話し上手なのは本当だし、全部が全部嘘だらけとも思えません。

「だけど、わざわざバルデーシュから竜を連れ出すなんて、普通は考えないよ」
 ブランもラマディアのことをにらみました。
「旅をしているなら、なおのこと、それぞれの国の事情はそれなりに知っているはずだよ」
「ブラン……」
 黒ドラちゃんがちらっとラマディアのことを見ると、ラマディアは荷物を抱えてガタガタ震えだしていました。
 どうしたら良いのかわからなくなって、黒ドラちゃんはドンちゃんを見つめました。ドンちゃんも困ったように黒ドラちゃんを見つめ返します。変な子だとは思うけど、今の様子を見るとちょっと可哀そう……ドンちゃんの目もそう言っていました。
 突然、ラマディアが荷物を投げ出して、ブランとゲルードの足元にひれ伏しました。
「申し訳ございません!わたくしは……いえっ俺は嘘をついていました!」
 そう言ってラマディアが自分の頭をグイッと引っぱると、長い金髪が外れてこげ茶の短い髪の毛が出てきました。

「えっ!」
「うそ!」
「わあ!」

 黒ドラちゃんとドンちゃん、リュングが驚いて声をあげました。ブランとゲルードは厳しい表情のままにらんでいます。ラウザーはびっくりして尻尾を両手でぎゅーっと握りしめています。可愛らしい姿だったラマディアは、本当は男の子でした。

「いったいどういう理由で黒ちゃんを連れ出そうとしたんだ!?お前はナゴーンのまわし者なのか?」
 ブランがラマディアの前に仁王立ちになりました。
「いいえ!いいえ違います!俺は、ナゴーンの人間ですが、国のまわし者とかじゃありません!」
 ラマディアはガクガクと震えながらも一生懸命答えます。
「じゃあ、いったい何が目的なんだ!黒ちゃんのことを連れ出してどうしようっていうんだ!?」
 ブランの周りでダイヤモンドダストが舞い始めました。ものすごく怒っているようです。ラマディアは少しだけ顔を上げてすがるような目つきで黒ドラちゃんのことを見ました。それから、ラウザーのことも。

「とりあえず王都へ連行して、洗いざらいしゃべらせましょう」
 ゲルードが冷たく言い放ちます。するとラマディアがゲルードの足にしがみつきました。
「全部正直に話します!だから、ちょっとだけ時間をください。ここで皆様に話す時間を!」
 ゲルードはしばらく無言でラマディアのことを見つめていました。そして、ブランに目配せしてうなずき返されると「嘘をついたらその場で魔力で縛りあげるぞ」と言いました。ラマディアは「はい!はい、ありがとうございます」と言うと、力が抜けたようにその場にしゃがみ込みました。

 そして、しばらく目を閉じてから気持ちを落ち着かせているようでした。再び目を開けると、皆に一度深々と礼をしました。そして、まるで物語を語る時のように、ここに来るまでの話をゆっくりと始めました。


 ラマディアは本当の名前をラマディーと言いました。ラマディーの両親は、旅の芸人でした。仲の良い両親でしたが、ラマディーが幼い頃に、二人とも流行り病にかかり旅先で亡くなりました。残されたのは幼いラマディーと10歳になるかならないかのお姉さんアーマルだけ。幸いなことに、両親の死後まもなく、二人は両親が若い頃に入っていた旅の一座に仲間入りさせてもらうことができました。両親を見て育ったので、アーマルは踊りが踊れましたし、ラマディーは笛が上手でお話もすることが出来ました。
 健気で一生懸命な幼い二人の姿は、お客さんからの反応がとても良く、座長を始め旅の一座でも可愛がられました。
 そのうち、一座はナゴーンの貴族に気に入られ、その領地の劇場に腰を落ち着けることになりました。領主のホーク伯爵は、芸術に造詣が深く様々な分野の芸術を愛し保護している人物でした。アーマルの踊りもラマディーの笛と語りも、劇場で出会った様々な芸人と切磋琢磨するうちに磨かれて行きました。そんな風に、ラマディー達がホーク伯爵領に移ってきて数年が経ちました。
 アーマルは美しい踊り子として、劇場の花形になっていました。ラマディーも、間もなく一人でも舞台に立てるところまで成長しました。
 ところが、前途が輝いて見え始めた二人の人生に、思わぬ出来事が起こりました。

 アーマルが、金と銀と銅のニクマーン像を盗んだ罪で捕まってしまったのです。




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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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