第226話-いよいよ出発

文字数 1,879文字

 黒ドラちゃんとドンちゃん、食いしん坊さんは、魔馬車で古の森に戻りました。あ、モッチも一緒に帰ってきました。スズロ王子の“王子様成分”は、充分に浴びたんだそうです。満足そうに黄色のはちみつ玉を抱えています。
 フラック王国へのお出かけは、準備が整ったらゲルードが魔馬車を寄越してくれることになっています。それまで、とりあえず古の森のお土産を準備することにしました。
 みんな、カエル妖精のケロールに会うのは初めてです。食いしん坊さんも、話に聞いたことがあるだけで、会うのは今回が初めてだと言っていました。甘々の木の実を食べてくれるかはわかりませんが、もしもの時にはモッチのはちみつ玉だってあります、大丈夫でしょう。カエルじゃないと言い張る、カエルの王子(・・)様との対面にちょっぴり緊張しながら、黒ドラちゃんはみんなと一緒に準備を進めて行きました。


 そして、三日後の朝のことです。
「黒ちゃーん、黒ちゃーん!」
 黒ドラちゃんはブランの声で目を覚ましました。
「ブラン!」

 黒ドラちゃんが洞から出て行くと、ブランがちょうど降りてくるところでした。
「ゲルードの方で色々とやっていた準備が整ったんだ。それで、黒ちゃん達が大丈夫なら、今日出発出来るって」
「行ける!あたし大丈夫だよ!きっとドンちゃんや食いしん坊さんも大丈夫だと思う」
 黒ドラちゃんが答えると、ブランがうなずいてくれました。
「以前、ナゴーンに出かけた時のように、ドンちゃん達は籠に入ってもらって黒ちゃんに運んでもらおうと思う」
「うん」
「僕とゲルードは、フラック王国の近くで待機しているよ」
「う、うん」
「今回はラウザーは連れて行けない。あいつはラキ様の足に、っていうか羽になってもらう予定だからね」
「うん!」
「ただ、リュングには黒ちゃんたちと一緒に行ってもらうことにしたんだ。何かあれば魔伝を飛ばしてもらうつもりだ」
「……うん」
 何か、って何でしょう?魔伝をあわてて飛ばすようなことが何も起きなければ良いなあ、と黒ドラちゃんは思いました。


 ドンちゃんと食いしん坊さんを連れて、黒ドラちゃんは魔馬車に乗りこみました。あっと、もちろんモッチも一緒です。モッチの為に古の森のお花で花の冠を作りました。以前に食いしん坊さんのおばあ様から教えていただいた作り方です。それを、今回はドンちゃんじゃなくて黒ドラちゃんが被ります。そこにモッチが潜りこんで、すべての準備が整いました。

「そういえば、今回のお出かけのこと、マグノラさんに何も話してないね」
 黒ドラちゃんは、思いだして急に不安になってきました。こうやってどこかにお出かけする時は、いつもマグノラさんにお話してから出かけていたのです。

「大丈夫だよ、僕からマグノラには話しておいた」
「そうなの!?」
「ああ。モッチの為の花も受け取ってあるよ」
 そう言って、ブランはどこからか小さなお花を一輪取り出しました。それを黒ドラちゃんの頭の冠にそっと加えます。すると冠はホワンと輝きました。
「ぶぶいん♪」
 モッチのご機嫌な羽音が聞こえてきます。どうやらマグノラさんの魔力で、冠は特別仕様になったみたいです。これでモッチの魔力切れは心配ないでしょう。

 いよいよフラック王国へ出発です。ブランも乗り込むと、魔馬車はフラック王国のある、東の方向へ走り始めました。すぐにガタンっと馬車が揺れます。黒ドラちゃんが窓から外を見ると、そこは広い草原でした。もう、古の森も見えません。向こうの方、ここからはまだ見えませんが、もっと東の離れたところを大きな川が流れているそうです。その川の向こうは、もうバルデーシュとは違う国になるとブランから教えてもらいました。その手前、フラック王国はバルデーシュの東の端に連なる場所にあります。

 わずかな木々が茂る林のそばで、魔馬車が止まりました。降りてみるとゲルードと鎧の兵士さん達、それからリュングが待っていてくれました。

「古竜様、グィン・シーヴォご夫妻をこちらへ」
 そう言ってゲルードが示したのは、いつかの新婚さん用の花籠でした。まだ取ってあったようです。飾られたお花は新しいものと交換されていて、中には柔らかな布が敷かれています。食いしん坊さんが、ドンちゃんをエスコートしながら乗り込みました。

 黒ドラちゃんが竜に戻ると、ブランが首にベルトを巻いてくれました。そこにカチッと花籠が付けられます。
「よおし!っと、でもリュングはどうするの?それにミラお爺さんはどうしたの?」

 新婚さん用の籠には、とてもリュングやミラジさんまで乗せられるような余裕は無さそうです。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み