第28話-竜のじょうしき?

文字数 2,200文字

 ドンちゃんが「マグノラさんてブランよりもどのくらい大人なの?」と聞くと、マグノラさんは大笑いしてから「ずっとずーっとだよ」と教えてくれました。
 マグノラさんは、本人曰く“竜として一番魅力的な”580年くらい、ブランは“若造”の120~130年くらい、3年目の黒ドラちゃんはおチビちゃんだそうです。
「おチビちゃんって可愛いってこと?」と黒ドラちゃんがたずねると、マグノラさんはまたガラ ガラの大きな声で笑って「そうだねえ、黒チビちゃん」と答えてくれました。ブランはマグノラさんのことツンツンしているなんていっていたけど、全然そんなことありません。どうしてブランはマグノラさんのこと苦手なんでしょう。

「マグノラさんは、ブランと仲良しじゃないの?」
 あ、ドンちゃんも同じことを考えていたみたいです。疑問をそのまま素直に聞いちゃいました。
「ははは、ブラン坊やが何かぼやいていたかい?」
「えっ、いや、あの……」
 ドンちゃんが困って口をムグムグさせています。あなたのこと苦手って言ってたらしいですよ、とはさすがに言えないものね。

「あの坊やはさ、北の山から出たての頃にこの森に来たのさ」
「へえー、ブランが“おチビちゃん”の頃?」
「そうそう、チビ助だったねえ」
 マグノラさんは思い出しながらすごく楽しそうです。

 ブランは自分の巣穴を塞いでいた大岩をようやくどかして、北の山から出てきたばかりでした。何年もかかって大岩を動かして広い世界に飛び出した時、自分はもはや一人前だ!と思っていたようです。マグノラさん風に言うと“チビ助”のブランは「そっちが先に名乗れ」とマグノラさんに言ったんですって。マグノラさんはその時に、竜の常識っていうのをブランにちゃんと教えてあげたそうです。ブランは文字通り尻尾を丸めてマグノラさんの前から飛んで巣穴に逃げ帰ったそうです。

「竜の常識って?」
 黒ドラちゃんがドキドキしながらたずねました。
もしかして、自分もマグノラさんの前から飛んで逃げださなくちゃいけないかな、と思いながら。
「自分よりも強い者、長き者には敬意を払うってことさ」
「けーい?」
 黒ドラちゃんもドンちゃんも初めて聞く言葉です。
「自分よりも魔力が強いもの、長くこの世にいるものには自分の方からごあいさつしなさい、ってことだね」
 それなら大丈夫、さっきマグノラさんと出会った時ちゃんとごあいさつ出来たはず、と黒ドラちゃんはホッとしました。そして、ブランも物知りだと思ったけどマグノラさんはもっと物知りだなあ、と感心しました。
「ブランにごあいさつの仕方を教えてあげたの?」
 ドンちゃんが聞くと「ああ、よーく教えてやったよ」とマグノラさんは答えてくれました。
「まあ、でもそのせいか、あたしのことを避けるようになっちまってね」
 マグノラさんがちょっと淋しそうに言います。なあんだ、マグノラさんは親切なのに、ブランの方では苦手だなんて、そんなのダメですよね?思わず黒ドラちゃんは言ってしまいました。
「今度ブランと一緒に来るよ!」
 ドンちゃんも背中でうんうん肯いています。
「ありがとう。たまにこうして他の竜と話すもの悪くないね」
 マグノラさんは嬉しそうに笑ってくれました。

 それからマグノラさんは白いお花の森の中を案内してくれました。一緒に回っていて気付きましたが、マグノラさんはとても良い匂いがします。白いお花と同じ匂いです。ほんのり甘くて、ついついくんくんしたくなっちゃう感じ。ドンちゃんも黒ドラちゃんの背中でしきりにくんくんしているので、思わず笑っちゃいました。
「どうしたんだい?」
 マグノラさんが不思議そうに聞いてきました。
「あのね、マグノラさんってとっても良い匂いがするの。ドンちゃんがくんくんしてるから可笑しくなっちゃって」
 黒ドラちゃんが答えると「ああ、あたしは華竜だからね」とマグノラさんが言いました。そういえばブランがそんなこと言ってたような……。
「華竜は植物の中でも花を咲かせる種類のものを大きく育てることが出来るんだよ、魔力でね」
 花の咲く植物はたいていが実を付けます。マグノラさんは、花を咲かせて実りを見守り育てる竜なんですって。そのせいか、人間からは「安産の守り竜」なんて言う風に呼ばれているそうです。
「まあ、植物だろうと人間だろうと豊かに実れば良いな、とは思うさ」
 だから、あながち人間が勝手に呼んでいるだけってことでもないみたいです。この国では女の子が産まれるとマグノラさんの森にお参りして、その子がやがて大きくなってお腹に命が宿るとまたお参りに来る、そんな習慣があるそうです。

「マグノラさんてすごいんだねえ」
 黒ドラちゃんとドンちゃんはすっかり感心してしまいました。
「あたしは別に特別じゃないよ。竜は、たいていが己が棲む場所に、国に、恩恵をもたらすものさ」
「そうなの?」
「ああ、だいたいみんな気の良い連中だよ。争いを好まず、自分よりも弱きもの短き者にも優しいさ」
「へえー。あ、でも確かにブランはあたしにもドンちゃんにも、とっても優しいよ!」
 黒ドラちゃんが嬉しそうに言うと「ま、それはまた別かもね。あの坊やも一人前になったってことなんだろうさ」マグノラさんはいたずらっぽく笑いながら、楽しげに答えました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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