第105話-古の森まつり

文字数 2,071文字

 古の森では、朝から可愛い系のみんなが総出で忙しく動き回っていました。ドンちゃんと、兄弟のノラウサギさん、魔リスさんたちは木の葉を敷き詰めて、湖の前に広場を作っています。魔ねずみさんたちも、キラキラ光る木の実を咥えて忙しそうに行き交っています。モッチをはじめ、クマン魔蜂さんたちも蜜を集めてはちみつ玉作りに余念がありません。

 今日はいったい何があるんでしょう?

 そこへ黒ドラちゃんが飛んできました。
「みんな~!ゲルードたちがもうすぐ着くみたいよ~!」
 ドスンッと湖のそばに降り立つと、魔ねずみさんたちから木の実を受け取りました。そして、大きな大きな大きな木に、木の実を飾り付けて行きます。まるで湖の前はお祭り広場のようでした。

 そう、実はみんなで「古の森祭り」の準備をしているんです。

 この間、黒ドラちゃんとドンちゃんが王都の夏祭りに行った時のことを森のみんなに話しました。そうしたら、みんなも「お祭りしたい!お祭りしたい!」って言い出したんです。それで、せっかくお祭りをするならお客さんにも来てほしい!っていうことで、ゲルードや鎧の兵士さんたちを招待することになりました。ゲルードたちが植えてくれたお花もずいぶんと増えて綺麗に咲いています。なので、今回は「古の森花祭り」
 マグノラさんやブランにも、もちろん来てもらいます。ラウザーにも「良かったら来てね」と言ってあります。ラウザーはお祭り竜って呼ばれることを気にしていたので、ちょっと気を遣いました。
 でも「もちろん!行く行く!俺、ラキ様乗っけて行くよ!!」と喜んで来てくれることになりホッとしました。

 みんなで一生懸命飾り付けをして、湖の周りはキラキラと輝いていました。

 そこにブランの声が聞こえてきます。
「おーい、黒ちゃーん!来たよー!」
 ブランのキラキラした体が木々の間から見えてきました。黒ドラちゃんは急いでその方向へ飛んでいきました。ブランの後ろの方から、森の道をゲルードたちが進んできています。

「ようこそ、古の森へ!お待ちしてましたあ!」
 黒ドラちゃんは嬉しくて、ゲルードたちの前にドスンと降り立ちました。すぐさまゲルードが片膝をついてお辞儀をします。
「本日はお招きいただきましてありがとうございます。古龍様にはご機嫌麗しく、森の皆々様も……」
「良いの良いの!早く行こうよ!みんな待っているよ?」
 ゲルードのご挨拶が長くなりそうだったので、黒ドラちゃんがサクッと切り上げました。

 黒ドラちゃんが先頭を飛んで、ブランがその後を、ゲルードたちは下の森の道を歩いてきます。
 やがて一行は湖の前の開けた場所に出ました。

「おお、これは美しい!」
 ゲルードが感嘆の声を上げました。鎧の兵士さんたち、いえ、今日は鎧は着ていません、普段着です。普段着の兵士さんたちも、口々に「きれいだ!」とか「すばらしいなあ」なんて言ってくれています。古の森を褒めてもらって、黒ドラちゃんは嬉しくてラウザーのように空中で何度もクルクル回っちゃいました。

 そこへモッチたちクマン魔蜂さんが、はちみつ玉を抱えてゲルードたちの前に現れました。
「うっ」
 一瞬ゲルードはひるみましたが、すぐに片膝をついてご挨拶しました。
「これはクマン魔蜂様たち、ご機嫌麗しゅう。今日も素敵な二色使いですな」
 ちょっとビクついていますが、一応礼を尽くそうと思っているようです。
「ぶい~ん!」
 モッチがゲルードの目の前にはちみつ玉を持っていきました。
「こ、これは!」
 すぐにゲルードが反応します。でも、もう前のように力ずくで手に入れようとは思わないようでした。
「見事なはちみつ玉ですな。さすが特大クマン魔蜂殿の腕前は素晴らしい」
「モッチだよ、ゲルード。その大きなクマン魔蜂さんはモッチっていうの」
 黒ドラちゃんが紹介すると、モッチははちみつ玉を抱えたまま、ゲルードの目の前でくるっと回って見せました。
「モッチ殿、その……初めて城でお会いした時は大変失礼をいたしました。このゲルード、二度とあのような暴挙はいたしません、どうかお許しください」
 ゲルードが深々と礼をすると、モッチは良いよ良いよ、というように「ぶいんぶいん」と右左に飛んで見せました。
「ありがたい。そのように言っていただけると、胸のつかえが取れますな」
「えっ!、ゲルードってばモッチが何て言ってるかわかるようになったの!?」
 黒ドラちゃんが驚いてたずねると、ゲルードもおや?と首をかしげました。
「そう言われてみれば、そうですな。なぜでしょう、なんだかモッチ殿の気持ちが伝わってくるような……」
「すごいね!さすが国一番の魔術師!」
 黒ドラちゃんが褒めると、ゲルードがさらりと金の髪をなびかせて微笑みました。
「いや、これくらいのこと、大したことでは――「ぶいん!」
 あ、モッチに突っ込まれています。
「たいしたことです、はい」
 ゲルードはおとなしくうなずいていました。


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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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