第110話ー王宮みつばち

文字数 1,861文字

「ねえ、黒ドラちゃん、ノーランドの王宮にまず寄ってみてちょうだい」
 カモミラ王女が胸の前で両手を握り、お願いポーズで話しかけてきました。
「王宮に?」
「そう、あのね、この間モッチはホペニっていうノーランドスノーブルー蜜蜂と友だちになったと思うの」
 カモミラ王女が続けます。
「私には蜜蜂の言葉がわからないからちょっと不安だけど、多分モッチは知ってるはずよ」
「ぶいんぶいん!」
 まるで返事をするようにモッチが羽音で答えました。
「モッチ、ホペニってミツバチと友達だって!」
 黒ドラちゃんがカモミラ王女に答えます。

「そう、良かったわ。それでね、ホペニに頼めばノラクローバーの花がどこに咲いているか教えてくれると思うの」
 カモミラ王女の横でドーテさんが感心してうなずいています。
「そうですね。ノーランドの花のことなら、ノーランドのミツバチが詳しいでしょう」
「ぶいんぶいん!」
 モッチがわかったよー!と言うように羽音で答えます。
「じゃあ、まずはノーランドの王宮に行くんだね?わかった!」
 黒ドラちゃんが元気に答えました。

「それでしたら、ぜひ、王宮の森で私のおばあ様にも会ってみてください」
食いしん坊さんが話に入ってきました。
「おばあ様はかなりのお歳ですが、花嫁の冠のことを話せば、何か覚えていることを教えてくれるかもしれません」
「うん!食いしん坊さんのおばあ様にも会うね!」
 黒ドラちゃんがうなずきます。

「黒ちゃん、僕は反対だけど……行くんだね?」
 ブランが悲しそうに言います。
「う、うん!大丈夫、あたし絶対に無事に帰ってくるから!」
 黒ドラちゃんは改めてブランに言いました。ブランは残念そうな顔をした後、気持ちを切り替えるように天を仰ぐと「じゃあ、黒ちゃんのお守りグッズを何か考えなきゃ!」と言いました。
「お守りグッズ?」
「ああ。その背中の魔石のうろこだけじゃなくて、他にも何か用意するよ」
 ブランは北の山の色々な魔石を頭に思い浮かべながら言いました。
「ありがとう、ブラン、大好き!」
 黒ドラちゃんに飛びつかれて、ブランのご機嫌はすっかり上向きになりました。二匹の尻尾がブンブン楽しそうに揺れています。

「古竜様、バルデーシュの北の外れまでは、私どもがお供いたします」
 ゲルードがそう言うと、普段着の兵士さんたちもみんなでうなずいてくれました。
「輝竜殿が棲む北の山の近くまでは魔馬車で行けます。そこから飛べば少しは日にちも縮むでしょう」
 それを聞いて黒ドラちゃんとモッチは喜びました。

「ノーランドの王宮までの地図を用意させるわ。すごく簡単なものだけど、空から行くにはその方がわかりやすいでしょう?」
 カモミラ王女も親切に申し出てくれました。皆から応援してもらえて、黒ドラちゃんとモッチは嬉しくてどんどん元気が湧いてくるようでした。

「銅鑼子、これも持って行くが良い」
 ラキ様が手の平を広げると、カミナリ玉がいくつも載っています。
「ラキ様、ありがとう。これってひょっとして雷が起こせたりして……」
 黒ドラちゃんがカミナリ玉を覗き込みながら、胸をわくわくさせてつぶやきました。
「いや、綺麗なだけじゃ。道中慰めになろう?」
 ラキ様があっさり答えます。黒ドラちゃんは、カミナリ玉を以前ゲルードからもらった白い布に包みました。

 出発は三日後に決まりました。それまでに、それぞれ黒ドラちゃん達に持たせるものを用意してくれるのです。ノラクローバーのお花を入れる籠は、ゲルードが用意してくれることになりました。王都の腕の良い職人さんに頼んでくれるそうです。黒ドラちゃんとモッチの旅の準備の為、お祭りは早々にお開きになりました。それぞれが忙しく森を後にします。ドンちゃんは、お母さんがゆっくりとお話をしたいと言うので、一緒に巣に帰っていきました。


 やがて、森は静かな夜に包まれました。黒ドラちゃんは、ノーランドへの旅を想像してワクワクして眠れない!
と思いながら、いつの間にかぐっすりと眠りこんでいました。夢の中では、青いお花のクローバーを籠にどっさりと摘みました。青いお花の冠をかぶったドンちゃんが、食いしん坊さんとノラウサギダンスを踊っています。モッチとホペニもぶんぶん踊っています。黒ドラちゃん、ブラン、ラウザーはお空でクルクルと回転しています。マグノラさんがお花の香りを漂わせ、ラキ様がカミナリ玉を降らせています。楽しい夢は一晩中続きました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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