第22話ーとくべつなの

文字数 1,844文字

「スズロ王子!」
 ゲルードが王子のもとに駆け寄ります。
「ゲルードすまなかった。お前にもずいぶん心配をかけたな」
 王子様がゲルードに声をかけると、ゲルードは感激のあまり声も出せずにぶんぶん首を振りました。
「良かったね、ゲルード。伝説の古竜は役に立った?」
 黒ドラちゃんがゲルードの顔を覗き込むと「もちろん!もちろんでございます!」と涙声で返事がかえってきました。
 王子は立ち上がると王様の前に進み出ました。そのまま、ただ黙って頭を垂れる王子に、王様か厳しい表情で声をかけます。
「その輝きがもたらされることの栄誉を、責任を、忘れるな」
 王子はその場で深く深くうなずきました。と、黒ドラちゃんが王子の顔を覗き込んできます。小さな声で「はちみつ舐める?」と聞かれて、王子は思わず笑ってしまいました。立ちあがり、黒ドラちゃんを抱きあげます。王子の足元でドンちゃんがぴょんぴょんしているのが、黒ドラちゃんから見えました。
「ドンちゃんも抱っこして」とお願いすると、王子はすぐにドンちゃんも抱き上げてニッコリほほ笑んでくれました。心の陰りが消えたスズロ王子の笑顔は、とびっきりのキラキラしいステキなものでした。
「キラキラだねー」
「うん、本当にキラキラだね!」
 黒ドラちゃんとドンちゃんは、王子様に抱っこされてポワンとした顔で見とれています。ゲルードは嬉し涙を拭いています。王様やお后様、弟王子や王女様も皆うれしそうです。ブランも、……あれ、ブランはなんだか不機嫌そうですね。ブランもクマン魔蜂のはちみつ舐めたかったんでしょうかね?

 謁見が無事に終了すると、黒ドラちゃんとドンちゃんは再びブランに連れられてお城から森に戻ることになりました。来た時に乗った魔法の馬車がお城の外で待っています。お后様とスズロ王子は、馬車のところまで黒ドラちゃんを見送りに出てきてくれました。
「またぜひ遊びに来て頂戴ね、黒ドラちゃん、ドンちゃん」とお后様。
「今度は私が古の森へ赴こう。お土産に欲しいものがあれば、ゲルードに伝えておいてくれ」
 王子様が黒ドラちゃんとドンちゃんの頭を交互に撫でながら約束してくれます。その後ろでゲルードがコクコク頷いています。

「絶対来てね!約束だよ!」

 黒ドラちゃんはスズロ王子と指きりをしました。ふくろうのおじいちゃんから教えてもらったんです。人間は大事な約束をするときに指きりするって。
 馬車に乗り込んで窓から外をのぞくと、お后様と王子が手を振ってくれていました。王子の肩にはタンポポ妖精のポポンが乗っています。ポポンもふわふわと揺れてお別れしてくれました。
 馬車が動き出し、お城がだんだんと遠くなります。来る時に通った街は、夕暮れの中で昼間とはまた少し違うあわただしい賑わいを見せ始めていました。黒ドラちゃんもドンちゃんも今日一日の疲れが出てきたのか、窓の外の景色を眠そうな目でぼんやりと見ています。馬車はまもなく街を抜けるようです。
 ずっと黙っていたブランが口を開きました。
「黒ちゃん、……スズロ王子が一番好き……なの?」
 ちょっと声が震えています。
「うん!スズロ王子はキラキラだったね!人間の中で1番好きだよ!」
 眠そうだった黒ドラちゃんがぱっと顔を輝かせました。
「人間の中、で?」
「うん!」
「じゃあ、たとえば人間以外の、虫とか……動物とか……りゅ、竜とか……そういうのも含めたら?」
「うーん、そしたら1番じゃないかも?」
 それを聞いてブランの瞳にきらりと光が射し込みました。
「じゃ、じゃあ、ひょっとしたら竜が、たとえば僕が一番になることもあるかな?」
 声がちょっと嬉しそうになってきました。
「ううん、ブランは1番にはならないね」
「えっ!?」
 ブランが、ショックを隠しきれない様子で聞き返します。
「ブランは<特別>だから順番は付けられないの!」
「えっ!?」
 ブランが、今度は喜びを隠しきれない様子で聞き返します。
「ブランとドンちゃんは特別なの!特別大好きなの!」
「あ、ドンちゃんも?……そうだよね」
 心なしかブランの肩が、ちょっと落ちたように見えました。黒ドラちゃんの膝の上では、ドンちゃんが丸くなってウトウトし始めています。
「そ、そっか僕とドンちゃんは特別か……うん、ありがとう」
 なんとか立ち直ってブランが黒ドラちゃんにお礼を言った時、馬車はまた魔法の力で古の森のすぐそばに着きました。


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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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