第54話ー友竜だ

文字数 2,097文字

 もう、海を楽しむ気分ではなくなっていました。ブラン、黒ドラちゃん、ラウザーは、竜の姿で浜辺に並んで夕日に染まる海を眺めていました。ドンちゃんの腕の中の藤の枝が萎れ始めています。クマン魔蜂さんが悲しそうに「ぶいーん、ふぶいーん」と羽音を立てました。

「もう、戻らないといけないよね?」
 ドンちゃんがぽつりとつぶやきます。
「あのさ、今日はブランはこのままラウザーといてあげて」
 黒ドラちゃんが明るく言いました。
「え、でも」
 ラウザーが驚いて言いました。
「あたしとドンちゃんはゲルードに連れて帰ってもらうよ。ブランはラウザーと一緒にいてあげてよ」
 その言葉に、ブランは黙ってうなずきました。

「ごめんよ、俺のせいで海へのお出かけが台無しになっちゃったよな」
 ラウザーが申し訳なさそうに言うと、黒ドラちゃんは首を振りながら言いました。
「そんなことないよ。あたし、クマン魔蜂さんのこと怖がらない人間がいて、嬉しかったもの!それに違う世界のクマン魔蜂さんの話も聞けたし!」
 黒ドラちゃんがキラキラした目でそういうと「ありがとう」とラウザーが答えました。それから「ブラン、俺、お前のことだましたりして、本当にゴメンよ」と、ラウザーは頭を下げました。そこをペシッとブランが尻尾で叩きます。
「まったくだ!」
「ごめん、ごめんよ。友だちでいる資格ないよな……」
 ラウザーがますます頭をさげて、竜の二つ折りが出来そうになりました。
「今度はちゃんと僕に相談しろ!」
 ブランは海の方を見つめたまま言いました。
「えっ!?」
 ラウザーが顔を上げてブランのことを見ました。
「まだ、俺とつきあってくれるのか?」
 ブランは答えません。海を見たままです。でも、ブランの尻尾の先がラウザーの頭をチョンとつつきました。
「手のかかる友竜だ、まったく」
 そういって海に向かって笑いました。
「あ、ありがとー!ブラン!」
 そう言ってラウザーがブランに抱き着いた時、沖の方で大きな大きなお魚が跳ねて、ザッパーンと海にもぐりました。
「なに!あれ!すごく大きかったよ!あんな大きなお魚見たことない!」
 黒ドラちゃんとドンちゃんが興奮して言いました。
「あ、あれはラジクっていうんだ。この辺で一番大きい魚だよ。たまにしか見られないんだ。みんなで一緒に見られて良かったよ!」
 ラウザーが嬉しそうに教えてくれます。それから、みんなで浜辺で貝殻を拾いました。ラウザーの言うとおり、ピンク色やオレンジ、内側が虹色の貝殻が見つかって、黒ドラちゃんとドンちゃんは大喜びでした。トゲトゲした巻貝を拾って、ラウザーが黒ドラちゃんのところにやってきました。
「黒ちゃん、これ、耳にあててみて」
 黒ドラちゃんがお耳に貝殻をあてると、ザザザーッと音がしました。
「すごい!波の音が聞こえてきた!」
 黒ドラちゃんは、その貝殻をドンちゃんのお耳にあてました。
「本当だ!黒ドラちゃん、波の音がするね!」
 黒ドラちゃんとドンちゃんが代わるがわる貝殻をお耳にあてていると、ブランがやってきました。
「あのさ、その貝がらはドンちゃんにあげて。この大きいやつを黒ちゃんに」
そういって、同じようにトゲトゲのついた貝がらの、ずっと大きなものを黒ドラちゃんに渡してくれました。黒ドラちゃんとドンちゃんは、二人ともそれぞれの耳に貝がらをあてて「波の音がするねー」とうっとりしました。



 それから、少し離れたところで待っているゲルードのところへ、黒ドラちゃんとドンちゃんだけで行きました。
「ブランは、今日はラウザーのところへ残るって」
 黒ドラちゃんがそういうと、ゲルードはしばらくの間ブランたちの方を見ていました。それから黒ドラちゃんたちの方へ向き直ると「――では、我々は戻りましょう」と言ってドンちゃんを馬に乗せてくれました。

 黒ドラちゃんは空を飛んで、ゲルードは馬で、砦にはすぐに着きました。そばには魔法の馬車が待たせてあります。砦の偉いおじさんが、その横で待っていてくれました。黒ドラちゃんは「ふんぬっ!」と掛け声をかけると、人間に変身しました。すぐに馬車に乗り込んで、砂漠の門を目指します。行きに一緒だった馬車の兵士さんたちは、今日は砦に残るということでした。

 帰りの馬車の中は、黒ドラちゃんとドンちゃんとクマン魔蜂さんだけです。
「ドンちゃん、クマン魔蜂さん今日はありがとう」
 黒ドラちゃんがしみじみと言いました。本当に、ドンちゃんとクマン魔蜂さんがいなければ、今日は大変なことになっていたでしょう。黒ドラちゃんはウルッとしながらドンちゃんを見ましたが、ドンちゃんは黒ドラちゃんのお膝の上でウトウトしていました。クマン魔蜂さんの方を見れば、またまたフジュの花に頭を突っ込んで蜜を味わっているようです。黒ドラちゃんは、なんだかおかしくなって一人で「プフフっ」と笑ってしまいました。

 その時、砂漠の門を馬車がくぐり「ガタンっ!」と揺れたと思ったら、もう馬車は古の森のすぐそばに着いていました。




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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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