第63話ーのらうさぎ

文字数 2,676文字

 お城の舞踏会も初めてですが、それぞれの竜もおめかしして出かけてくると聞いて、黒ドラちゃんとドンちゃんは大興奮です。
「じゃあ、あたしたちも、おめかししてお城に出かけて良いの?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんの瞳が、期待でキラキラ輝いています。
「もちろん。黒ちゃんとドンちゃんには、とびきり可愛いドレスとリボンを考えているよ」
 ブランが優しく微笑みながら答えてくれました。
「国一番の裁縫師を手配させていただきます!」
 ゲルードもひざまずいて約束してくれます。
「えーっ!このドレスよりも可愛いドレス?良いの!?これでも十分可愛いと思うけど」
 黒ドラちゃんはびっくりして、またまたドンちゃんと顔を見合わせました。
「今回の舞踏会は特別なものですから」
 ゲルードが誇らしげに言いました。
「特別?なんで特別なの?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんがコテンと首をかしげました。
「今回の舞踏会で、王子はご結婚相手をお決めになるのです」
 ゲルードがさらに得意そうに答えます。

「えーっ!結婚!スズロ王子が結婚するの!? 」
 黒ドラちゃんとドンちゃんはびっくりして飛び上がりました。
「いや、本当ならもっと早くに話が出るべきだったのだけれど、私がふがいないばかりに遅くなってしまって」
 と、スズロ王子が苦笑いしました。そうでした。スズロ王子はちょっと前まで人前から姿を隠していたのでした。
「皆にも心配をかけてしまったからね。盛大な舞踏会を開いて、国の内外から色々な人を招く予定なんだ」
「そう!王子は御健在で、この国の行く末が安泰だということを広く示さねばならないのです!」
 ゲルードが声高らかに叫びました。王子はちょっと恥ずかしそうでしたが、ゲルードの言葉にうなずいていました。


 舞踏会は1か月後に行われるとスズロ王子は話してくれました。ドラちゃんとドンちゃんは、それまでにダンスを覚えなければならなくなりました。でも、森ではダンスを踊れるような場所も、教えてくれる人もいません。どうしよう?どうしよう?と黒ドラちゃんとドンちゃんが悩んでいると、スズロ王子がゲルードのお家で練習すれば良いと言ってくれました。
「ゲルードのお家?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんが再び首をコテンとかしげました。
「ゲルードの父はこの国の宰相、会ったことあるよね?そして王都に大きな屋敷を持っている」
スズロ王子が説明してくれます。
「その屋敷には、ダンスの練習に使えるような部屋がいくつかあるんだ。それにダンスの講師も手配できるだろう」
 なんだかまるで自分のお家のことのように話すけど、ゲルードは良いって言ってくれるのかな?と黒ドラちゃんとドンちゃんは不安に思いました。でも「はい。ではそのように手配させていただきます」ゲルードは王子の言葉にニコニコとうなずいています。さすが!スズロ王子効果は絶大です。黒ドラちゃんとドンちゃんは、舞踏会までにゲルードのお家でダンスの特訓をすることに決まりました。

「じゃあ、毎日魔法の馬車に乗れるの?」
 黒ドラちゃんとドンちゃんがワクワクしながらたずねます。
「そうですね、森の外れまで馬車を迎えに寄こします。毎日では古竜様達もお疲れになるかもしれませんから、様子を見ながら進めましょう」
 もっと「ビシビシ特訓だー!」って来るかと思ったのに、王子が居るせいかゲルードはとても優しく言ってくれました。
 そばで見ていたブランも言ってくれます。
「ぼくもダンスの練習に付き合うよ。黒ちゃんだけだと人間の中では慣れないこともあるだろうしね」
「やったぁ!ブランも来てくれるの?!ありがとう!楽しみだなあ」
 黒ドラちゃんとドンちゃんは嬉しくてその場でぴょんぴょんしちゃいました。

 結局、王子はその後すぐにお城へ戻ってしまいました。本当に、王子様って忙しいんですね。でも、舞踏会で踊ってくれる約束をしてくれたので、黒ドラちゃんもドンちゃんも嬉しくて、王子が帰った後もずっとニコニコしっぱなしでした。ダンスの特訓は、講師の先生が決まり次第ゲルードが連絡をくれて始めることになりました。それまでは、ブランが毎日森に来てくれて、マナーのお勉強です。前回お城に行った時は、本当に限られた人にしか会いませんでした。
でも、今度の舞踏会は国の内外からお客様が来るので、もう少し色々とお勉強することになったのです。

 三日ほどブランのマナー教室が続いてから、ようやくゲルードが森に来てくれました。ダンスの講師が見つかって、明日からはゲルードのお屋敷にお出かけです。黒ドラちゃんとドンちゃんは、お屋敷でのダンスの練習がどんなものなのか、ドキドキしながら過ごしました。

 翌日、黒ドラちゃんはさっそくドンちゃんを迎えに行きました。巣穴の近くで「ドンちゃーん!」と呼ぶと、ぴょこんっとドンちゃんが顔を出しました。

「黒ドラちゃん、おはよう!いよいよ特訓だね!」
「うん、特訓だ!ドキドキするね」
「優しい先生だといいね」
「うん。人間かな?竜かな?」
「人間じゃないかな?ゲルードみたいに魔術師だったりして」
「楽しみだね」
 と、そこへドンちゃんのお母さんが顔を出しました。
「黒ドラちゃん、おはよう」
「あ、ドンちゃんのお母さん、おはよう!」

 挨拶をするとドンちゃんのお母さんは、すぐに巣穴の中に戻って行きました。と、巣穴の中から白い布に包んだものを一生懸命引っぱりながら出てきます。
「あのね、魔術師のお屋敷でお世話になるそうだから、森の木の実を集めておいたの」
 お母さんがよっこいしょ!と、包みを黒ドラちゃんの前に持ってきました。広げてみると、甘い木の実やきれいな木の実がいっぱい入っています。
「わあ、すごいね!」
 黒ドラちゃんはびっくりしてしまいました。
「ノラうさぎだとわかって、捕まえられたりしないように。黒ドラちゃんうちの子のこと、よろしくね」
「うん!大丈夫。誰にもドンちゃんのこと野良ウサギだなんて言わせないよ!一番の仲良しさんだもん!」
 黒ドラちゃんはそう言うと、ドンちゃんと白い小包を背負って、森の外れに向かって飛び立ちました。お母さんは後ろ足で立ち上がると「いってらっしゃい!気を付けてねー!」と見送ってくれました。何ででしょう?今までで一番心配そうです。
 でも、黒ドラちゃんもドンちゃんもダンスの特訓のことで頭がいっぱいで、お母さんの様子がいつもと違うことに気付きませんでした。




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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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