第53話ー出ていくよ

文字数 1,336文字

 ロータは無事に戻れた、と黒ドラちゃんは言いました。ラウザーはその言葉を聞いて飛びあがって喜びました。思わずそのまま竜に戻ってしまい、空中で何回もクルクル回転していました。お祝いムードの中、一人だけ何も知らないゲルードが黒ドラちゃんに声をかけました。
「あの、古竜様、先ほどのアレは?……それと、あの若者はどこに消えたのですか?」
 黒ドラちゃんが答える前に「もちろん、ナゴーンさ!」とブランが答えました。
「いや、しかし、クマン魔蜂のことを知っていたり、フジュの花のことを知っていたり、どうもおかしいではないですか」
 ゲルードも簡単には納得しません。
「そうかな?別におかしくないけど」
 ブランはとぼけ通すつもりのようです。
「しかし魔力の揺らぎのこともありますし、このまま何も無かったことにはできません」
 ゲルードも退きません。ブランとゲルードは睨みあいました。
「ブラン、もう良いよ。無事にロータは戻れたんだし、俺、ゲルードに本当のこと話すよ」
 ゲルードが、おや?という表情でラウザーを見ます。
「でも、ラウザー……」
 ブランが止めようとしましたが、ラウザーは首を振って言いました。
「俺のせいでみんなを巻きこんじゃったんだ。ゲルードには俺から話すよ」
 ラウザーは再び人間の姿に変身しました。
「ゲルード、魔力の揺らぎは俺が起こしたんだ。さっきの人間は、その時に違う世界から引き寄せられてきたんだよ」
 ゲルードがびっくりして目を見開きました。
「陽竜殿が揺らぎを?しかし、これまで陽竜殿が揺らぎを起こすほどの魔力をお持ちとは存じませんでしたが……」
「うん、俺もまさか揺らぎが起こるとは思ってなかった」
 そう言って、ラウザーは淋しくて叫んだら揺らぎが起こったこと、そして海の中からロータが現れたこと、全部話しました。あ、可愛い娘さん達の話を盗み聞きして、砂漠に逃げ帰った話は省略しましたけどね。高熱を出してロータが寝込み、ラウザーが看病して元気になって、色々な話をして、お互いの世界が全然違うことがわかったことも話しました。そして、帰りたいと願うロータの為に、マグノラさんに相談して黒ドラちゃんの魔力なら帰せると教えられて、ブランたちをだましてここに連れてきたということも。

「そのようなこと……。いくら竜の皆様の魔力が優れているとはいえ、揺らぎは解明されていないことの多い事象ですぞ!?」
 ゲルードがラウザーに詰め寄りました。やはりゲルードに知らせたら、反対されたでしょう。「だから相談できなかったんだよ」とラウザーは言いました。
「絶対に帰してやるって約束したんだ、俺」
 ラウザーはニギニギしていた尻尾を手放すと、ゲルードに言いました。
「この国から出て行けって言うなら、出て行くよ。それほどのことをしたっていうのはわかってる」
「そんな!」
 ブランと黒ドラちゃんは驚いてラウザーを見ました。ゲルードはしばらく考え込んでいましたが「これは私だけでは決められません。王にご報告いたします」と言いました。そして「陽竜殿も早まらないでください。国を出て行って解決、などという方法を王がお選びになるとは思えません」そう言葉を続けました。




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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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