第198話-カーラスVS カーラス

文字数 2,691文字

 金のスコップが見つからず、ダンゴローさんの背中が丸まり始めた時、遠くから変な鳴き声が響いてきました。
「あ、黒ドラちゃん、あれってさっきの大きいカーラスだよ!戻ってきたんだ!」
 ドンちゃんの声に目を凝らして見ると、なんだかヨタヨタした飛び方であの大きな1羽が飛んでくるところでした。

「ククウッ、クウーーーーーッ!!」
 ま、待ってくれー!って感じの鳴き方です。なんと!金のスコップを咥えています!だから変な鳴き声だったんですね。

「ダンゴローさん!あったよ!金のスコップが見つかったよ!」
 黒ドラちゃんは嬉しくてピョンピョン飛び跳ねました。その拍子にモッチも黒ドラちゃんの頭の上でぶいんぶいんと飛び跳ねています。まるでボールのようにダンゴローさんをポーンポーンと何度も上に飛ばしてキャッチしています。ダンゴローさんは丸まったまま「やった!ありがとうございます!ありがとうございます!」と繰り返し叫んでいました。
 と、大きなカーラスの後ろから、1羽のカーラスが現れました。ものすごい勢いで追いつくと、くちばしで大きなカーラスをつつき始めました。
「カアアーーーー!!」
「クウウーーッ!」
「カア!カア!」
「クーーーーッ!」
 なんだか空中で喧嘩を繰り広げているようです。

「あ、あれれ、なんか様子が変だよ?」
 黒ドラちゃん達が見守る中、大きなカーラスは、攻撃されながらもなんとかみんなのことろまで飛んできました。そして、力尽きるように黒ドラちゃんの前に落ちます。
「わわわ、だ、大丈夫?カーラスさん」
 黒ドラちゃんがカーラスを助け起こすと、悲しげに「カア」と鳴きました。つつきまわされて羽はボロボロ、あちこちから毛羽立っています。見れば、咥えていたはずの金のスコップがありません。
「あれ!金のスコップは!?」
 黒ドラちゃん達がキョロキョロしていると、1羽のカーラスがすぐそばに舞い降りてきました。

「クワワーーーーー!!」

 勝利宣言するかのように大きく羽を広げて鳴いて見せます。黒い羽根がひときわ艶やかで美しいカーラスでした。鳴き声からわかるように、そのくちばしには金のスコップが咥えられています。
「あ、さっきケンカしてたカーラスだ」
 黒ドラちゃんたちが見守る中、金のスコップを咥えたカーラスが前に出てきます。大きなカーラスから奪い取った金のスコップで、ラキ様から特大カミナリ玉を受け取ろうと言うことでしょうか。

「どうしよう、ラキ様、この綺麗なカーラスに特大カミナリ玉渡すの?」
 黒ドラちゃんが不安そうにラキ様にたずねると、ラキ様も「ふむむ」とうなって考え込んでいます。元はと言えば、大きなカーラスもダンゴローさんから金のスコップを盗ったのです。でも、目の前で奪い合いが行われると、やっぱり可哀そうに思えてきました。
 綺麗なカーラスは、前に進み出てラキ様に金のスコップを差し出……しませんね、あれれ?金のスコップで、大きなカーラスの頭をコンッと一回叩き、ふんって感じで飛び立とうとしています。

「ちょ、ちょっと待って!カーラスさん」
 黒ドラちゃんがあわてて呼びとめました。綺麗なカーラスは黒ドラちゃんのことを見て、途端にブワッと体を膨らませました。
「クウ!?」
 なんで竜が!?みたいな鳴き方です。大きなカーラスとのバトルに夢中で、周りの状況が全く見えていなかったようです。あわててまわりを見渡して、竜や人間の魔術師、なんだか煌びやかな女神さまっぽい存在が揃っていることに初めて気づいたようでした。何度もブワッと体を膨らませて一通り周りを見渡すと、綺麗なカーラスはなぜか大きなカーラスに身を寄せました。咥えていた金のスコップを大きなカーラスとの間に差し込んで、羽毛で隠して見えないようにしています。
「カ、カアアーーーー!」
 なんだか、ビクつきながらもこちらを威嚇している感じです。

「ひょっとして、大きなカーラスとこの綺麗なカーラスは番いなんじゃないですかね?」
 ラウザーのそばで見ていたリュングがつぶやきます。
「番い?喧嘩してたのに?」
 黒ドラちゃんが不思議に思って近づくと、綺麗なカーラスはブワッと羽を膨らませがらも、キッと首を延ばして見つめ返してきました。ラウザーがツンデレカーラスか?と小声でつぶやいてます。

 ラキ様が二羽のカーラスの前にしゃがみ込みました。
「カーラスよ、そのスコップはダンゴロムシ妖精の落としモノじゃ。返してはもらえぬか?」
 気が立っているカーラスを刺激しないように、ゆっくり静かに話しかけます。綺麗なカーラスはキッとした視線をラキ様に向けました。
「カ、カカカアーーー!」
 だめですーーーーっ!みたいな感じの鳴き声です。黒ドラちゃん達は困ってしまいました。さっきまで頭の上ではしゃいでいたモッチとダンゴローさんも、すっかり静かになってしまっています。
 ラキ様が懐から特大カミナリ玉を取り出しました。まわりに集まっていたカーラス達が騒ぎだしました。大きなカーラスも「カアアーー!」と鳴いています。
「金のスコップを返してもらえれば、このカミナリ玉を渡そうぞ」
 ラキ様の手の平に乗ったカミナリ玉を、綺麗なカーラスも食い入るように見つめています。ちらっと隠してある金のスコップを見つめました。大きなカーラスが、すかさず金のスコップを咥えてラキ様に差し出そうとします。途端に綺麗なカーラスにつつかれて、金のスコップを奪われました。再び金のスコップは二匹の間に差し込まれて隠されてしまいました。

「どうしてそんなに金のスコップに執着するんだろうね?」
 ドンちゃんが不思議そうにたずねました。
「そうだよね、特大カミナリ玉よりも、小さな金のスコップが良いのってなんでなんだろう?」
 黒ドラちゃんも不思議に思いました。

「ぶいいい~~~ん」
 モッチがダンゴローさんを抱えたまま、綺麗なカーラスの目の前まで飛んで行きます。
「カア!?」
 綺麗なカーラスは、モッチを警戒して金のスコップをくちばしで奥へと押し込みます。

「ぶいん?ぶぶいん?」
「カア、カアア!カア」
「ぶいん、ぶぶい~~ん!」
「……カア。カ、カアア」
「ぶいん」

 なにやらモッチがカーラスと話をしています。一通り話し終わると、モッチは黒ドラちゃんの頭の上に戻ってきました。
「モッチ、あの綺麗なカーラスは何て言ってたの?」
 黒ドラちゃんがたずねると、モッチが教えてくれました。
「ぶいん、ぶぶいん、ぶぶ~~~ん、ぶん」
「え、金のスコップは巣で待ってるヒナのお気に入りだって!?」
「ぶいん」
「だから返せないって言うの?」

 うーん、これは本当に困りました。
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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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