第18話ーお城のなかへ

文字数 1,905文字

 黒ドラちゃんとドンちゃんがお城に着くと、偉い宰相様という人が迎えに出てくれていました。なんと宰相様はゲルードのお父さんなんですって!ゲルードったら、あんな変わり者だけどお坊ちゃまだったんですね。そう言えば、王子様とも幼馴染だって言ってたっけ、なるほどなるほど。
 ふんふんと黒ドラちゃんとドンちゃんが感心している横で、ブランが宰相様と話しています。
「王は謁見の間でお待ちです。ご案内いたします」
宰相様がそう言って歩き出すと、ブランも歩き出しました。キョロキョロしていた黒ドラちゃんも慌ててドンちゃんを抱っこして歩き出しました。背中には森のお土産の小包を背負っています。竜の時ならともかく、今の黒ドラちゃんの見た目からするとけっこうな大荷物です。でもどうしても自分で運んで王子様に渡したかったので、お城の召使さんの手助けはお断りしました。

「見てみて、黒ドラちゃん、まるで本物みたいだね」
ドンちゃんが小さい声で話しかけてきます。ドンちゃんが見ているのは、壁に飾られた大きな肖像画でした。代々の王様とその家族でしょうか。まるで本物みたいに良く描けています。

「すごいね、今にも動き出しそうだね」
「今の王様一家の絵もあるのかな?」
黒ドラちゃんとドンちゃんがヒソヒソ話していると、ブランが振り向いて教えてくれました。
「あの一番先に飾られているのが、今の王のご家族だよ。近くに行ったらよく見てごらん」

黒ドラちゃんとドンちゃんは、その絵の前で立ち止まりました。
 黒に近いこげ茶のクルクルした髪の男の人が王冠をかぶって、たくさんの宝石がついた服を着て立っています。その横には妖精みたいに華奢で美しい、金の髪をした女の人がこれまたたくさんの宝石のついたドレスを着て椅子に座っています。腕には赤ちゃんを抱いています。ピンク色の可愛らしい産着、ほっぺもピンクでこれはターシャ様ですね。女の人の横には二人の男の子が立っています。こげ茶のくるくるっ毛がセリジ様、同じくこげ茶でサラサラっ毛がソロン様でしょうか。でも、どの子もとても美しい顔立ちをしていることだけは間違いありません。王冠をかぶった男の人の横には、クルクルした金の髪の少年が剣のようにも杖のようにも見える棒を持って立っています。カッコつけているようですが、クルクルの金の髪が鳥の巣のようになっていて、ちょっぴり子どもっぽさがにじみ出ています。
 この、金のクルクルっ毛の少年がスズロ王子でしょう。透き通った水色の瞳、輝く金の髪、飛びぬけて整った容姿は本当に光り輝くようです。

「キラキラだね、黒ドラちゃん」
「本当だ、ホントにキラキラしてるんだね」
黒ドラちゃんとドンちゃんはその肖像画の前から全然動かなくなってしまいました。

「黒ちゃん、ドンちゃん、本物の王子様がこの扉の先で待っているよ」
ブランに声をかけられ、黒ドラちゃんたちはハッと我に返りました。
「ドンちゃん、いよいよ王子様だよ」
黒ドラちゃんが緊張した声で言いました。ぎくしゃくした足取りで進んでいくと、大きな両開きの扉が内側から開かれます。
「輝竜 ブラン様と、古竜 黒様のお成りー!」
扉の近くにいた騎士の人が大きな声で紹介してくれました。

黒様なんて言われると、自分のことじゃないみたいで、黒ドラちゃんは不安でドキドキしてきました。
「ドンちゃんドンちゃん」
小さい声でドンちゃんに話しかけます。
「なあに、黒ドラちゃん」
ドンちゃんも小さい声で答えてくれます。ドンちゃんに「黒ドラちゃん」と呼ばれたら、ちょっとドキドキが治まりました。やっぱりドンちゃんに一緒に来てもらって良かった、黒ドラちゃんは心の底からそう思いました。

 一歩入ってみると、謁見の間は良く磨かれた石の床で天井にはブランの魔石を使ったシャンデリアが輝いていました。黒ドラちゃんは腕にしっかりドンちゃんを抱いて、一歩一歩王様の前へ進みました。絵の中で見たとおりの王様は、キラキラした姿で豪華な椅子に腰かけています。
「ドンちゃん、あの椅子ね、王座って言うんだって。フクロウのおじいちゃんが言ってたよ」
黒ドラちゃんがささやきましたが、返事がありません。あれっ?って思って腕の中のドンちゃんを見ると、緊張してカチンコチンになっていました。それを見ていたら黒ドラちゃんも急にドキドキが激しくなってきました。
 王様がにっこりしてブランに何か話かけています。ブランが答えながら黒ドラちゃんの方へ微笑みかけました。でも、黒ドラちゃんはドンちゃんと一緒にカチンコチンになっていたので、誰の声も耳に入りません。

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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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