第78話-王子様とダンス

文字数 1,667文字

 緩やかに流れていた楽団の演奏が、一度止まりました。そして、広間の真ん中に、灰色のモフモフと茶色のフワフワが腕を組んで進み出てきました。

 いよいよ、猛練習の成果を見せる時、ノラウサギダンスの始まりです!ドンちゃんと食いしん坊さんは、向かい合って交互にピョン、ピョン、と跳ねだしました。それだけ見ていると可愛い感じです。
 右足をトントン、左足をトントン、手を腰に当てて、踊りが続きます。ドンちゃんと食いしん坊さんが向かい合ってお耳をピーンとさせました。すると二匹の耳の間に何かキラキラしたものが見えてきました。キラキラはどんどん増えてきます。やがて二匹のお耳の回りをキラキラが一つの輪のようになってグルグルと周り始めました。ドンちゃんが後ろ足をタンッ!と鳴らしました。キラキラがパッと広がります。今度は食いしん坊さんが後ろ足をタン!と鳴らします。キラキラが一層広がります。
 そうして二匹が交互に足を鳴らすと、キラキラの輪はどんどん広がって行きました。広間中がキラキラで満ちて行きます。


 ノラウサギダンスを眺めながら、スズロ王子は隣のカモミラ王女にそっと話しかけました。
「とても綺麗だ。待ったかいがあった」
 カモミラ王女もうなずきました「ええ、短い期間でしたが、ドンちゃんも食いしん坊さんも一生懸命練習していましたから」
 スズロ王子は一瞬キョトンとしてから、ふっと微笑みました。
「ダンスもそうだが、それだけじゃないよ」
 王子の言葉に、カモミラ王女が首をかしげました。
「君はかくれんぼが得意だから、見つけるのにずいぶん時間がかかってしまった、ってことさ」
 それを聞いてカモミラ王女は真っ赤になりました。ちょっとだけ間をおいてから、カモミラ王女はスズロ王子にささやきました。
「もう、逃げも隠れもしません。私も大切なものを見つけましたから、この国で」
 二人は静かに見つめあって、それからはにかむ様に微笑みあいました。



 ノラウサギダンスは佳境を迎えています。
 ドンちゃんと食いしん坊さんが、額をコツンッとぶつけると、キラキラした光と花びらが一斉に辺りに広がりました。
「わあ~!ドンちゃんたちすごいね!」
 黒ドラちゃんは大喜びです。この美しいダンスに、王様やお后様をはじめ、広間中の人たちが心からの拍手を送りました。

 踊りの最後に、食いしん坊さんがドンちゃんの前にひざまずくと、前足をそっとつかみました。
 そして、チュッと口づけながら「君と出会えたことは最高の喜びだ。マイ・プチ・レディ」と告げました。ドンちゃんはドレスをちょっとつまみ、淑女の礼を返します。そして「あた、じゃなくて、わたくしもとてもうれしいです、食いしん坊さんさま!」と言いました。
 まだ鳴り止まない拍手の中でしたが、ドンちゃんと食いしん坊さんの耳には、お互いの言葉がしっかり届いていました。拍手の中を、ドンちゃんは食いしん坊さんにエスコートされながら、退場していきます。

 夢のような舞踏会は、こうして幕を閉じました。え、黒ドラちゃんもドンちゃんも、王子と踊らなかったじゃないかって?いえいえ、踊りましたよ。
 ただし、それぞれの王子様と、ですけどね。



 *****




 マグノラさんは、今日も白いお花の森のお花畑の真ん中で、のんびりお昼寝しています。

 一匹の蝶がひらひらと飛んできました。白い大きな羽に水色や黄色や紫の細かい模様が少しだけ入っている、綺麗なノーランド白アゲハでした。

 白アゲハはひらひらと舞いながら、マグノラさんの鼻先へすいっと、とまりました。
 そして、まるで御礼をするように、羽をゆっくりとひらひらさせて、またす~っと飛んでいきました。マグノラさんはうっすら目を開けて、白アゲハを見送りながら、かすかに微笑んだように見えました。尻尾をユラユラと振って良い気分で眠りにつきます。

 マグノラさんの周りのお花が淡く輝いて、うっとりするような香りが辺りに広がっていきました。



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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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