第301話 今度こそ、☆ナゴーンは大歓迎☆

文字数 2,270文字

 いつの間にか、暮れなずむ空のむこうに、ナゴーンのお城がシルエットとなって現われていました。


 ふと見れば、黒ドラちゃんもラウザーも飛びながら大車輪のように尻尾を振っています。
 竜は人間よりもずっと遠くまで見渡せるので、きっと少し前からお城に気付いていたのでしょう。

 前回の時には、初めのうち黒ドラちゃんたちが飛んできたことを、王都の人たちは気付きませんでした。
 けれど、今回は違います。王都には色とりどりの飾り付けがされ、広場には「歓迎☆陽竜様&古竜様☆」という砂文字が空から読めるように描かれていました。
 夕暮れ時と言うこともあり、あちこちでかがり火が灯され始めています。ゆらゆらと揺れる炎と影、それがまたお祭りに幻想的な雰囲気を加えていました。

「見てみて、ドンちゃんキレイだね!」
「うん。すごい歓迎だね」
 黒ドラちゃんとドンちゃんが灯りや砂文字に見とれていると、ラウザーの運ぶ籠の中からマシルが顔を覗かせました。

「リュング、どっかーん!ついた?」
「ええ、もうお城です」
 そう言ってリュングがマシルを抱き上げた時です。


 ドッカーン!!


 胸に響くような大きな音とともに、お城の上に大輪の真っ赤なお花が咲きました。

「どっかーん!」
「ええ、どっかーんですね」
 目をキラキラさせるマシルを抱えて、リュングも花火に見とれます。
 花火に喜んだのか、ラウザーの尻尾が大車輪のように回って、籠が大きく揺れるほどでした。

「黒ちゃん、ほらっ、お城の屋上!屋上に降りようぜ!」

 そう声をかけられて、黒ドラちゃんが花火からお城の屋上へ目をやると、前回の時のようにたくさんの人たちが屋上で手を振ってくれているのが見えました。

 その中で、深い青から水色のグラデーションが美しいドレスを着ているのは、アマダ女王でしょう。横には、オレンジ色のドレスを着た少女がいます。きっとメル王女に違いありません。すぐそばで何かパチパチと光がはねているのが見えます。ひょっとしてニクマーンたちでしょうか。そういえば、光のそばに小さな男の子が見えました。ポル王子がニクマーンを連れて迎えに出てくれているようです。

「こんばんは~!ナゴーンの皆さん、こんばんは~!」

 黒ドラちゃんは嬉しくて大きな声でご挨拶をしながらお城の屋上へと降りていきました。



 屋上で待ってくれていたのは、ナゴーンの貴族の人たちを従えたアマダ女王とメル王女、ニクマーンを連れたポル王子でした。
 黒ドラちゃんたちが屋上に着いてからも、花火は次々と打ち上げられ、夜空に大輪の花を咲かせています。

 花火で色鮮やかな光が降り注ぐ中、アマダ女王が黒ドラちゃんとラウザーに笑顔で挨拶をしてくれました。

「親愛なるバルデーシュの陽竜様、古竜様、ご一行の皆様。本日は遠路はるばるナゴーンまでようこそおいでくださいました」

「良いって良いって、こんなのはるばるってほどでも無いよ、なあ、黒ちゃん」

「うん!ホーク伯爵のところでもゆっくり休んだし、途中の村のお祭りもとっても賑やかで見ているだけで楽しかった!」

「ありがとうございます。ここで再び皆様をお迎えできること、心より嬉しく、ナゴーンの民ともども感激しております」

 アマダ女王が深くお辞儀をする横で、我慢が出来ない様子でポル王子がマシルとグートに駆け寄りました。手の中の金銀銅のニクマーンは、いつかのようにほんわかモニュモニュと柔らかそうに輝いています。

 双子のノラウサギの話は、蜘蛛妖精の吟遊詩人アラクネさんによってナゴーンで広まり、マシルとグートは大人気となっていました。ポル王子は、今回の訪問メンバーの中で、双子に会えることを一番の楽しみにしていたのです。

「まあ、ポル、まずはきちんとごあいさつでしょう?」
 そうたしなめるアマダ女王の言葉が終わるか終わらないうちに、ポル王子の前でマシルが嬉しそうに飛び跳ねました。

「ニクマーン!」

「好き?」

 ポル王子の問いかけに、マシルがコクッとずきました。

 一人と一匹の、キラキラした瞳が見つめ合います。
 それで何もかも通じたようでした。

 その後ろで、メル王女は緊張気味にクローバーで作られた花束を持って立っていました。
 ノラウサギの双子に会えるのを楽しみにしていたのはポル王子だけではありません。背筋をピンと伸ばすメル王女の前に、グートがゆっくり進んできました。クローバーの花束を前に、お鼻フンフンとさせています。
 そして、なんとそのままむしゃむしゃと食べ始めました。周りの人たちはビックリして動きが止まっています。ドンちゃんと食いしん坊さんが焦って止めようとしましたが、メル王女の表情を見て動きを止めました。
 可愛いノラウサギに手ずからクローバーを食べさせることができて、メル王女は花がほころぶようにぱあーっと明るい笑顔を見せていたのです。

 アマダ女王が思わず苦笑すると、お耳を下げながらも顔をほころばせているドンちゃんと目が会いました。母親同士でうなずきあいます。
 出迎えた時のちょっぴり堅苦しい雰囲気はすっかり消えて、和やかな歓迎ムードが漂いました。

「皆様、どうぞこちらへ。宴の準備もととのっております。さあ、どうぞ」

 いつかの、真実の魔石を試してくれた偉いおじさんが、みんなのことをお城の中へと案内してくれました。
 黒ドラちゃんとラウザーが、人間の姿に変身します。
 前の時は、顔をこわばらせながら一行をがっちり取り囲むようにしていたナゴーンのお城の人たちも、今回はみな笑顔です。

 竜飛記念日を祝う華やかな晩餐が、始まろうとしていました。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み