第223話-女神様とおバカ竜

文字数 2,218文字

 ミラジさんがすっかりダンゴロー英雄譚の世界に浸ってしまっていたので、わかってもらうのには少し時間がかかりました。でも、ブランやゲルードがしっかり順序立てて話してくれたおかげで『カーラス集まれ大作戦』の真実は、ミラジさんにもようやくわかってもらえました。

「なるほど、では、あの時は女神様は雨を降らせただけということですな?フカフカ谷を金色に変えたのは、古竜様だと」
「うん。ダンゴロムシのみんなとお話したり、谷を実際に見たりしてね。それで想像したんだ、金色のフカフカ谷を」
 黒ドラちゃんの言葉を聞いて、ミラジさんがうなずいています。
「ならば、それならば古竜様、改めてお願いいたします!わしと一緒にフラック王国に来ていただけないでしょうか?ルカ王を『呪いから解き放って』いただけませんでしょうか!?」

「うーん……」
 あれ、黒ドラちゃんのお返事に元気がありません。こういう時、いつもならすぐに「いいよ!」って答えるのに、どうしちゃったんでしょう?

「黒ちゃん、無理しないで良いんだよ?」
 ブランがいつも通り心配そうに話しかけます。
「黒ドラちゃん?」
 ドンちゃんが不思議そうに黒ドラちゃんを見つめます。モッチも不思議そうに「ぶいん?」と羽を鳴らしました。
「あのね、あたしに呪いが解けるかな?って。だって、そんなに悲しい気持ちになっちゃたら、どうやったら『呪い』が解けるのか、あたしわかんない」
 黒ドラちゃんは『思い描くこと』で様々なことを叶えます。だから、想像できないことを叶えるのは、とても難しく思えました。

「黒ドラちゃん」
 ドンちゃんが優しい茶色の目で見つめます。
「だったら、行って見ようよ、フラック王国へ」
「ドンちゃん?」
「行って、見てみようよ、草原を、小川を、ケロールさんたちの棲む池を。フカフカ谷を訪れた時みたいに」
「そっか。行ってみれば良いのか……」

 黒ドラちゃんは目を閉じて想像してみました。

 緑豊かな草原を、潤いに満ちた優しい風が吹き渡ります。
 穏やかに流れる小川、大小の池には蓮の花が咲いています。
 やがて、ケロール達の歌声が響いてきました。

「うん、そうだね、行ってみる!そして、ルカ王やケロールのみんなとお話してみる!」
 再び開いた時、黒ドラちゃんの瞳は明るい若葉色に輝いていました。

 食いしん坊さんがそっとドンちゃんと前足をつなぐと、ミラジさんに向き直ります。
「私も行こう。かつておばあ様が、ノラウサギ達が苦しんだように、今もルカ王が苦しんでおられるなら、微力ながらお力になりたい」
 ドンちゃんがうなずきます。カモミラ王女も言葉を添えてくれます。
「そうね、グィン。あなたが行ってくれるならノーランドの正式な使者として送り出しましょう。その方がルカ王にも会いやすいかも知れないし」
「輝竜殿、お許し願えるなら、黒ドラちゃん達の為に魔馬車を用意させましょう。フラック王国のすぐ近くまで送れるように」
 スズロ王子がブランに話しかけ、ゲルードも後ろでうなずいています。
「……は~っ」
 ブランがダイヤモンドダスト混じりのため息をつきました。黒ドラちゃんに向き直ると、じっと瞳を見つめて話しかけます。
「あのね、黒ちゃん。今回のお出かけでは黒ちゃんも悲しい思いをするかもしれない。心配なんだ」
「う、うん」
「でも、ひょっとして黒ちゃんなら、ルカ王の『呪い』を解けるかも知れないっていう気持ちもある」
「うん」
「黒ちゃん、僕はいつでも黒ちゃんのこと信じてるよ。きっと黒ちゃんなら、物事を良い方へ変えられるって」
「うん!ブラン、ありがとう!」
 やはりブランは黒ドラちゃんの一番の味方です。ブランが応援してくれていると思うと、どんどん力が湧いてくるのです。

「では、我も行くか。恵みの雨を降らせにな!」
 ラキ様がオアシスの上でそう宣言した途端、ラウザーが飛び上がって「ダメダメダメダメダメー!」と叫びました。
「なんじゃ、うるさいぞ羅宇座」
 ラキ様が不機嫌そうにラウザーを睨みます。
「ダメだよ!ラキ様はオアシスを留守にできないよ!だからフラック王国には行かない!」
「む。何をふざけたことを。これまでにも我はお前と共に何度も出かけているではないか。ダンゴロムシの時など、ほぼ一日中留守にしたぞ?」
「だ、ダメって言ったらダメなんだ!」
「……これ、おバカ竜よ、お前そこなトカゲの爺の話を聞いて、助けてやろうとは思わなんだか?」
 ラキ様がちょっと本気で怒っているような低い声でたずねてきました。
「そ、そりゃあ、ケロール達のことは可哀そうだと思うよ……でも、でも」
 ラウザーがミラジさんの方を見て、申し訳なさそうな表情になります。
「でもダメだよ!ラキ様は行っちゃだめだ!」
 それでもやはりラウザーは反対のようです。
「この馬鹿竜め、」
 そう言ってラキ様が片手をあげラウザーにカミナリを落とそうとした時です。
「お待ちください!」
 リュングがラウザーの尻尾をつかみながら、ラキ様に向かって叫びました。一緒にカミナリに打たれるかもしれないと言うのに飛び出してきたその様子に、思わずラキ様も動きを止めました。
「陽竜様は心配なのでは?」
「何をじゃ?」
「陽竜様は、ラキ様が呪いに近づくことが心配なのです、きっと」
 そう言いながらゆっくりとラウザーの尻尾をつかんで下に降ろしていきます。ラウザーも大人しく引っ張られると、下に降りてリュングから取り戻した尻尾をにぎにぎし始めました。



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登場人物紹介

●黒ドラちゃん

古の森の大きな大きな大きな木の根元にある洞に棲んでいる、古竜の子ども。

可愛いものが大好きで、一番の親友はウサギのドンちゃん。

全身をつややかな黒いうろこで覆われている。

瞳は鮮やかで優しい若葉色。

今度の生では生まれて三年目、

●ドンちゃん

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

黒ドラちゃんの一番の親友。

初めて黒ドラちゃんと出会ったときは、まだ仔ウサギだった。

古の森の可愛い系のお友だち。

茶色のふわふわの毛、優しい茶色の瞳。

現在のアイコンの姿には納得できていないとか……

●モッチ

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森にだけ棲むというクマン魔蜂さん。その中でも特に大きくて力持ちで、冒険心も豊富。特技は特大はちみつ玉作り。


●ブラン

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

北の山に棲む輝竜。白銀に輝く美しい竜。瞳は古の森の湖と同じエメラルド色。年齢は120~130歳くらい、人間の姿は16~18歳くらい。

黒ドラちゃんの事を番認定しているものの、愛の道のりは遠く険しい。

魔術師が魔法を使う際に必要になる、魔石を作り出す力があり、国で重要視されているため、普段は国外へは出られない。魔石については、バルデーシュ国の代々の王と、なにやら契約をしているようす。その辺の事情はまだ明らかにはされていない……作者が人間を描くのが苦手なため、容姿については想像力の翼を広げてください。

●ゲルード

「雪をお口に入れるんだ!」から登場。

ゲルード=一応国一番の魔術師。

サラッサラの長く美しい金髪に透き通った青い目。見た目だけならスズロ王子と互角。けれどスズロ王子と魔術の事で頭の中がいっぱいの残念な存在。いつかイラスト化しようと思ってはいるが、ブランが描けないのと同じ理由でアイコンは……想像力の翼を鍛えてください。

●スズロ王子、20歳。バルデーシュの第一王子。

ゲルードとは幼馴染。金のクルクルっ毛、透き通った水色の瞳。妖精からも愛される、色んな意味で光り輝く王子様。

●マグノラさん

「おとなになるって、かゆいんだ!」から本格的に登場。

古の森近くにある、白いお花の森に棲む華竜。花を咲かせる植物や、そこからの実りを見守る存在。人間や動物も同じく、子どもを身ごもるものの守り竜と言われている。年齢は580歳くらいで、赤茶色の大きな体。ガラガラ声だが、基本的に穏やかで優しく面倒見が良い。

ブランが生意気盛りの頃、お灸をすえたことあり。


●ラウザー

「貝をお耳にあてるんだ!」から本格的に登場。

バルデーシュ国の南の方に広がる砂漠に棲んでいた陽竜。ブランより少し遅れて誕生、115~125歳くらい。人間の姿では16~18歳くらい。とにかく明るくて良い奴。体も鮮やかな橙色。ただし、その性質から棲んでいる場所に雨が降らなくなり砂漠化しやすい。お天気竜、お祭り竜などと人間からは呼ばれている。村の女の子に失恋して孤独感から魔力のゆらぎを起こし、がけっぷちの受験生ロータを呼び寄せることになった。

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