File14:救出の糸口

文字数 3,959文字


「……ふん、まあいい。今日来たのは他でもない。現在FBIの捜索でもローラの行方は判っていない。同様にお前達もローラを探す手段がないのではないか? あればこんな所で暢気に集まってはいまい」

「……だったらどうだと言うの?」

 ミラーカが渋々といった感じに視線を戻す。クリスが不敵な表情で笑う。


「もし……ローラの、いや正確には彼女を攫った『シューティングスター』の居場所を追跡できる手段があると言ったらどうする?」


「な……!?」「……っ!?」

 聖堂にいたクリス以外の全員が驚愕に固まった。

「というよりも、より正確にはこの何日かの間に独自に追跡を行って、既に『シューティングスター』が仮の停泊地(・・・)としている場所に当たりを付けてあると言ったら……どうする?」

「……クリスッ!」

 一早く反応したのはクレアだった。あの警察所襲撃から今まで、FBIが事件の捜査で掛かり切りになっているのを良い事にクリスは単身で動いていたのだが、その理由が今明かされた。

「それは本当なの!? 本当だとして、何故それをすぐにFBIに報告しなかったの!?」

 クレアに詰め寄られたクリスはしかし冷静にかぶりを振った。

「奴の『アーマー』が何か特殊な電磁波を放っている事はNROでも把握していた。そこで奴が警察署に乗り込んできて直接相対した際に小型の解析装置を使って、奴が放つ電磁波を分析・記録しておいたのだ」

「……!」

 あの混乱の中でそんな事をしていたとは気付かなかった。いや、むしろあの混乱だからこそ誰も気付かなかったというべきか。

「FBIに報告しなかった理由は簡単だ。まず俺にはその義務(・・)がないという事と、FBIは人質(・・)の……つまりローラの身の安全を最優先に考えない可能性が高いからだ」 

「……っ」

 クレアは咄嗟に反論しようとして、それが出来ない事に気付いて唇を噛み締めた。確かにFBI自体はローラに何の義理もない。無論助けられる状況なら助けるだろうが、『シューティングスター』への対処とローラの救出を二択で迫られた場合、FBIは迷わず前者を選択するだろうと容易に想像が付いた。一捜査官に過ぎないクレアがいくら声高に訴えた所で無意味だ。


「ふぅん……なるほど。それで私達に、という訳? 確かに納得できる理由ではあるわね」

 ミラーカが少し面白くなさそうな表情で、しかし得心したように頷いていた。

「ああ、お前達ならローラの安全と救出を最優先に動くだろうと思ってな」

 クリスがそこは素直に首肯した。

「ふん、いい判断ね。それで? 場所の当たりは付けてあると言ったわね? ここまで来て勿体ぶる意味はないでしょう。早く教えなさい」

 ミラーカがやや居丈高な口調で命令する。クリスが不快気に眉を顰める。

「ま、まあまあ、ミラーカさん。そう喧嘩腰にならないで下さい。折角ローラさんの居場所を教えてくれるというんですから……」

 ヴェロニカが慌てたように取り成すと、ミラーカはまたバツの悪そうな顔になってそっぽを向いてしまった。ヴェロニカは苦笑して代わりにクリスに向き直る。

「失礼しました、クリストファーさん。私達は何としてもローラさんを助けたいんです。きっと彼女はその『シューティングスター』の懐に囚われているはず。どうか奴の居場所を教えてください」

 メキシコ人の美女に丁寧に懇願されて、クリスは満更でもない様子で頷く。

「ふん、最初からそうして素直にしていればいいのだ。……『シューティングスター』は恐らくケネス・ハーン州立保養地を根城(・・)にしている可能性が高い。いるとすればローラもそこだろうな」

「ケネス・ハーン州立保養地……」

 ナターシャが呟く。LAのやや南西寄りにある大き目の公園だ。ピクニックスポットとしても名高い。まさかそんな場所に世を騒がせる大量殺人鬼が潜んでいるというのか。

「あの透明化する遮蔽技術は、恐らく奴の乗り物(・・・)にも適用できるのだろう。動き回っているならともかく、透明なまま静止していれば直接ぶつかりでもせん限り誰も気付かんだろう」

 皆の疑問を先読みしたかのようにクリスが答える。


「で、でも場所は解ったんだ! なら早速今からでもローラさんを助けに行こうぜ!」

 ジェシカが勇んで立ち上がる。放っておくとこのまま州立保養地に特攻しそうな勢いであったが、

「……無策に飛び込んでもローラを危険に晒すだけだ。それにお前達自身も確実に無事では済まんぞ?」

「……!」
 冷徹なクリスの指摘にジェシカの動きが止まる。同じくすぐにでも動き出しそうだったミラーカとヴェロニカもクリスに注目する。彼は肩を竦めてクレアの方を振り返る。

「こいつらに解りやすく教えてやったらどうだ? 『シューティングスター』の脅威度(・・・)をな」

 すると3人の視線が今度はクレアに向く。因みに同じ体験をして死にかけたナターシャには改めて説明するまでもないだろう。


「……彼の言ってる事は正しいわ。あの警察署で見た限りだけど、奴の総合的な戦力は『ルーガルー』や『エーリアル』は勿論、あのメネス王すら上回っている可能性があるわ。それほどの化け物よ」


「……っ!!」
 全員が息を呑んだ。どうやら彼女らは警察が敗北した事は知っていても、『陰の気』を発散していない存在である為か、今一つその強さが実感できていなかったようだ。

 だがそれが『シューティングスター』のゲーム(・・・)を間近で観察したクレアの結論であった。リンファが多少食い下がれたのも奴があくまでゲーム感覚で油断していたからだろう。

 粒子ビームやESP能力、ロケットランチャーすら防ぐバリア、ブレードを用いた接近戦能力、そしてクレアやナターシャのトラウマとなっているあの恐怖のブラックホールなどの兵装も含めて全てを総合して勘案すると、恐らくメネスやヴラドにさえ真っ向から勝てるのではないか。そう思わしめる圧倒的な戦力であった。


「…………」

 ミラーカも、ジェシカもヴェロニカも黙り込んでしまう。『ルーガルー』ら怪物達の強さは実際に戦ってきた彼女達が誰よりも良く理解している。それ以上の怪物かも知れないと言われればどうしても慎重にならざるを得ない。

「で、でも、じゃあどうすればいいのよ? ローラがそこに囚われているかも知れないと解ってるのに手をこまねいてるしかないの?」

 ナターシャが皆の疑問を代弁する。だがクリスはかぶりを振った。

「……要はローラを救出できればいいんだ。『シューティングスター』と無理に戦う必要など無い。奴が不在(・・)の時を見計らって潜入すればいい」

「な……」

 女性陣が呆気にとられる。確かに理屈ではそうだ。だが……

「ほ、本気で言ってるの? その観測装置とやらである程度奴の動きを探知出来るとはいえ、本当に不在になるかも分からないし、いつ戻ってくるかも分からないんじゃリスクが大きすぎない?」

 クレアが問題点を指摘する。仮に運良く『シューティングスター』が何らかの理由で不在となって運良く潜入出来たとしても、帰ってきた『シューティングスター』といつ鉢合わせになるか解らないのだ。ローラも巻き込まれる事を考えると、少々危険な賭けと言わざるを得ない。

 だがクリスは動じない。


「……少なくとも我々は、奴が確実に外出するだろう所用(・・)がある事を知っているはずだ」


「え? 所用?」

 心当たりのないクレアは疑問符を浮かべる。

「そうだ。次の所用は……今から8日後になるはずだな?」

「8日って…………あっ! まさか、次の『狩り』の事!?」

 いち早くそれに気づいたナターシャが素っ頓狂な声を上げる。クリスが薄く笑う。

「そういう事だ。『狩り』であれば確実に奴は外出する。そして戻ってくる時間も凡そ予測できる。だったら何も問題あるまい? 勿論奴が留守の間、何らかの防衛機構(・・・・)を用意していないとも限らんが、その為の実行戦力(・・・・)だ」

 クリスはミラーカ達3人の方に顎をしゃくる。

「で、でもそれだと次のターゲットになる人や、その警護に就く事になる人達をむざむざ犠牲にするって事?」

 クレアが少し慌てる。今『シューティングスター』の捜査権はFBIに譲渡されているので、次のターゲットの警護にはFBIが就く事になるはずだ。だがクリスは無情にも肩をすくめる。

「ではどうする? この一週間の間で奴を倒す手段を講じられるのか? それが出来ないのであればどの道避けられん犠牲だ」

「く……!」
 クレアは反論できずに呻く。それが極めて困難な事は、他ならぬ彼女自身が一番良く解っている。


「そう、ね。非情なようだけど現状で犠牲が避けられないのであれば、私はローラの確実な救出を優先するわ」

 クリスに賛同の意を示したのは、意外にもミラーカであった。非情だが合理的な選択でもあった。

「そうだな……。あたしはローラさんの為なら人を殺す事も厭わないって決めたんだ。あたしもその案に乗るぜ」

「……今度は私がローラさんを救出するんです。私も……覚悟を決めます」

 ジェシカとヴェロニカも消極的ながら賛意を示す。実行戦力たる3人が賛成したのであればほぼ決定事項だ。クレアは諦めて嘆息すると共に、可能な限り次の『狩り』での犠牲を減らす為の努力をしようと心に決めた。


 こうして次の『狩り』を待って、ローラの救出作戦が敢行される運びとなった……

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