File22:敵の陣容
文字数 4,565文字
「解ったわ。……ニックは私達に『招待状』を送ると言っていた。それがどんな形なのかは解らないけど、奴等との全面対決は避けられないと思っていいわ」
「……そこにマリコや先輩達も囚われてるんだろ? 全面対決? 上等じゃねぇか。ご招待してくれるってんなら遠慮なく招かれてやろうぜ」
気を昂らせて挑戦的に息巻くジェシカ。対称的にセネムは同意しつつも冷静に思案している様子だ。
「うむ、そうだな。だが全面対決となれば敵側の戦力の把握が不可欠だ。ミラーカ、昨夜何が起きたのかは話してくれたが、君が体験した【悪徳郷】の戦力を、可能な範囲で良いので整理してはもらえないだろうか?」
その意見は尤もだ。ローラやジェシカ達もミラーカの話を拝聴する姿勢になる。ミラーカが頷いて話し始めた。
「確かにそうね。解ったわ。……【悪徳郷 】は全部で7体の怪物で構成されていた。あの状況で出し惜しみする意味はないから、恐らくそれが現時点での奴等の全戦力よ。構成員 だけど……まずはジェシカの従兄、エリオット・マイヤーズね」
「……!」
因縁の相手の名前にジェシカの眉がピクッと吊り上がる。
「灰色の人狼……。全体的にあの『ルーガルー』に比べれば劣るけど、それは比較対象が悪すぎるという話。恐らく私が一対一で戦ったとしてもかなり際どい戦いになるのは間違いない。それ程の強さだと感じたわ」
「…………」
ミラーカは無意味に相手を持ち上げる事はしない。彼女がこう言うからにはそれは事実なのだろう。ジェシカの表情が緊張に固くなる。
人狼は特殊な能力はない代わりに直接的な戦闘能力に優れた魔物で、正面からぶつかり合う分にはかなり厄介な相手となる。
「次にナターシャが見た2体の怪物ね。半魚半獣の方はフォルネウス。そして鳥人間の方はスパルナというらしいわ」
ミラーカの話を聞いて以降、何故か殆ど発言せずに思いつめた様子のナターシャがやはり僅かに反応する。
「フォルネウスはあの『ディープ・ワン』と同じ技術を用いて作られた怪物のようだけど、陸上での動きは比較にならないわ。それに加えてニックに戦闘訓練を受けていて、対人戦闘においては極めて厄介な魔物と化しているわ。毒針だけでなく、毒ガス散布の能力まで使えるかは定かではないけど」
ローラはあのアナハイム湾での『ディープ・ワン』の殺戮劇を思い返した。屋外だったにも関わらずシュミット警部補以下ロングビーチ市警の精鋭部隊をあっさりと全滅させたあの毒ガス攻撃は非常に厄介だ。
「ふむ。魔物が使う毒の類いであれば、私なら霊力である程度無効化する事が可能だ。ローラ、恐らく今の君ならば似たような事が出来るのではないか?」
「……!」
セネムが言っているのは、ローラの中に眠る『ローラ』から授けられた霊力の事だろう。そういう使い方が出来るとは考えていなかったが、セネムが言うなら出来るかもしれない。
ジェシカだけは毒を無効化出来ないが、それは相手側のエリオットも同じなので乱戦になってしまえば無差別に使ってくる事はないだろう。
「スパルナの方は、私が『エーリアル』事件で戦った『長男』とほぼ同等の強さと見ていいわ」
つまり極めて厄介な強敵という訳だ。しかも奴は空中を自在に飛び回り、『刃』などの遠距離攻撃も有している。対してこちらは空中戦が可能なのはミラーカのみであり、ヴェロニカが捕まり遠距離攻撃の手段を持つ後衛もローラしかいない状態なので、そういう意味でも厄介な存在と言えるだろう。
「更に奴には『千里眼』の能力もある。その情報を活用するのがニックである事を考えると、小細工は通用しないと思っていいでしょうね」
今回ミラーカに罠を仕掛けられたのも、スパルナの千里眼で事前に彼女の行く先が解っていた為だ。
ただ自分の好みの女を見つける事にしか能力を使っていなかった『エーリアル』と異なり、ニックはスパルナが得た情報を有効に活用する頭脳がある。ミラーカの言う通り下手な作戦や小細工は仕掛けるだけ無駄だろう。
「次に霊魔 のムスタファ・ケマルね。ヴェロニカの友達だけでなく、彼女自身を直接連れ去った男よ。どうやってヴェロニカをあっさり倒したのかは残念ながら見ていなかったのだけれど……」
あの『ディザイアシンドローム』事件で、かの魔法のランプをLAに持ち込んだ男だ。ニックに匿われていたらしい。
人間と蝿が融合したようなおぞましい姿の怪物。かなり素早く、溶解液を吐きつける能力もあるらしい。手強い怪物だが一度はミラーカとヴェロニカの連携攻撃で追い詰める事が出来たのだとか。
「……シャイターン共は一匹残らず駆逐する。それは私のやり残した使命でもあるからな」
セネムが静かに闘志を燃やす。自分達の教圏から持ち出されたアーティファクトで生み出された怪物なのだ。人一倍正義感の強い彼女には、それが人々に害を為している事は我慢ならないはずだ。
「そして……私と同じ吸血鬼であるジョンね。ジョンの総合的な強さは……もしかすると私よりも上かも知れないわ」
「え……で、でも、ミラーカさんが『親』なんだろ? それよりも強いって……」
ジェシカが戸惑ったように疑問を呈する。自分より遥かに強大だった『親』を持つ彼女からすれば疑問だろう。だが……
「残念ながら事実よ。吸血鬼は真祖たるヴラドを除けば、ほぼ『親兄弟』間で能力の差は無いの。それよりは吸血鬼化する前の元の個体能力の影響が大きい。ジョンは間違いなくシルヴィアやアンジェリーナよりも強敵よ」
「…………」
かつてまだ人間だった時のニックが言っていた内容を裏付けるミラーカの言葉であった。ミラーカがジョンに勝るのは500年の積み重ねによる技術と経験のみだ。
「ミ、ミラーカさんより強い吸血鬼か……」
ジェシカの声がやや引き攣る。彼女も『バイツァ・ダスト』事件の時に一度だけジョンと共闘した事があるので、その時の事を思い出しているのかも知れない。
「……そして単純な強さだけで言えば、恐らく【悪徳郷 】で最も厄介と思われる……クリスね」
「「……っ!」」
改めて出た名前にローラはどうしても反応してしまう。元カノ という立場では当然の反応だ。だが……
「……ナターシャ?」
「っ! ご、ごめんなさい、何でもないわ。は、話を続けて頂戴」
明らかに動揺して不審な気配を漂わせるナターシャ。そう言えば先程から深刻そうに黙りこくっている。
確か『シューティングスター』の事件でクリスに命を救われてから彼の事を憎からず思っていた時期があったようだが、それにしてもあれからもう半年ほどである。ただ何となく気になっていたというだけにしては反応が大きいような……
「ナターシャ。何か気になる事か知っている事があるなら今の内に……」
「べ、別に何もないわよ! ほ、本当に……」
ローラに水を向けられて増々動揺が大きくなる。見るからに怪しい。それを見ていたミラーカがスッと目を細める。
「……あの時はそれを気にしてる余裕はなかったんだけど、そう言えば今思い返すと……あの時クリスの口からあなたの名前を聞いた気がするのだけど?」
「……っ!!」
ナターシャの顔が完全に色を失くす。部屋中の視線が彼女に集中する。
「ナターシャ……あなた、まさか?」
「ち、違う! 違うのよ! 内通とかじゃないのよ! ほ、本当に知らなかったのよ!」
ローラが詰め寄ると、ナターシャは激しくかぶりを振ってその場にしゃがみ込む。
「どういう事? あなたはクリスと会っていたの?」
「ご、ごめんなさい、ローラ。あの『シューティングスター』の事件の後、彼が私の前に姿を現したの。『シューティングスター』に拷問 されて強制的 に改造されてしまったと言って」
「……!」
その告白にローラとミラーカが共に目を瞠った。
「この身体でNROには戻れないし、警察官であるローラにも生存を知らせられないからって……」
「……なるほど。それで今まで彼を匿って いた訳ね?」
ミラーカの確認にナターシャは観念したように頷いた。ミラーカは溜息を吐いた。
「クリスは自ら望んであの力を手にしたと言っていた。それも私からローラを奪い取る 為だと……。あなたは騙されていたのよ」
「「……!!」」
受けた衝撃の種類 は異なるものの、ローラとナターシャが共に身体を震わせた。ローラはクリスの妄執を知って。そしてナターシャは……
「そう、ね……。私が馬鹿だったのよ。本当にごめんなさい。あなた達にクリスの事を事前に知らせていれば……」
心に痛みを覚えている様子ながら、そう言ってローラ達に謝罪した。今まで半年近くもあって何も なかったとは思えない。皆が彼女の心境を慮ったが、ここで不用意に慰めなどしても逆効果だろう。
そう判断したらしいミラーカが意図的に話題を進めた。
「……過ぎた事を悔やんでも仕方ないわ。それより今は先の事 に目を向けるべきね」
「……!」
ミラーカの言葉にローラ達もハッとなる。そう。クリスが敵に回ったのは紛れもない事実。彼がこちらに敵対する以上、自分達はそれに対処する必要がある。ローラも頭を切り替えた。
「そうね。あなたはさっき、クリスは奴等の中で最も厄介だと言っていたけど、それは?」
「ええ。あなたは直接見ていないけど、ジェシカは憶えているわね? あの宇宙船で戦ったガーディアンの事を」
ミラーカに問われたジェシカが顔を顰めながら頷いた。
「ああ、あいつか……。『シューティングスター』程じゃなかったけど強かったよな。少なくとも1人じゃ絶対勝てなかったぜ」
「そう……私達が1人では勝てない強さだった敵の能力をそっくり移植されているらしいわ。そして実際彼はあの力を自在に使いこなしていた」
クリスを最も厄介な敵と認定する理由はそれだけで充分だろう。勿論クリス本体はガーディアンほど頑丈ではないだろうが、その分人間の頭脳を活用した有機的な戦いが可能となっているはずだ。
「そして最後の1人が……奴等をまとめ上げているリーダー のニックね」
「……!」
〈従者〉の【コア】を取り込んで、自らの意志で魔物となった男。〈従者〉の手強さはローラも説明されるまでもなく理解している。それにニックの頭脳が加わる事で恐ろしい悪魔が誕生したのだ。
「古代エジプトをルーツに持つ魔物か……。相手にとって不足はないな」
頼もしい発言はセネムだ。確かに彼女の霊刀なら【コア】に当たりさえすれば一撃で倒す事も不可能ではないはずだ。相手の魔力を探知する事に長けたセネムなら、戦い様によっては勝機があるかも知れない。
ただ相手はあの ニックだ。一筋縄では行かないと予め覚悟しておいた方がいいだろう。
「……そこにマリコや先輩達も囚われてるんだろ? 全面対決? 上等じゃねぇか。ご招待してくれるってんなら遠慮なく招かれてやろうぜ」
気を昂らせて挑戦的に息巻くジェシカ。対称的にセネムは同意しつつも冷静に思案している様子だ。
「うむ、そうだな。だが全面対決となれば敵側の戦力の把握が不可欠だ。ミラーカ、昨夜何が起きたのかは話してくれたが、君が体験した【悪徳郷】の戦力を、可能な範囲で良いので整理してはもらえないだろうか?」
その意見は尤もだ。ローラやジェシカ達もミラーカの話を拝聴する姿勢になる。ミラーカが頷いて話し始めた。
「確かにそうね。解ったわ。……【
「……!」
因縁の相手の名前にジェシカの眉がピクッと吊り上がる。
「灰色の人狼……。全体的にあの『ルーガルー』に比べれば劣るけど、それは比較対象が悪すぎるという話。恐らく私が一対一で戦ったとしてもかなり際どい戦いになるのは間違いない。それ程の強さだと感じたわ」
「…………」
ミラーカは無意味に相手を持ち上げる事はしない。彼女がこう言うからにはそれは事実なのだろう。ジェシカの表情が緊張に固くなる。
人狼は特殊な能力はない代わりに直接的な戦闘能力に優れた魔物で、正面からぶつかり合う分にはかなり厄介な相手となる。
「次にナターシャが見た2体の怪物ね。半魚半獣の方はフォルネウス。そして鳥人間の方はスパルナというらしいわ」
ミラーカの話を聞いて以降、何故か殆ど発言せずに思いつめた様子のナターシャがやはり僅かに反応する。
「フォルネウスはあの『ディープ・ワン』と同じ技術を用いて作られた怪物のようだけど、陸上での動きは比較にならないわ。それに加えてニックに戦闘訓練を受けていて、対人戦闘においては極めて厄介な魔物と化しているわ。毒針だけでなく、毒ガス散布の能力まで使えるかは定かではないけど」
ローラはあのアナハイム湾での『ディープ・ワン』の殺戮劇を思い返した。屋外だったにも関わらずシュミット警部補以下ロングビーチ市警の精鋭部隊をあっさりと全滅させたあの毒ガス攻撃は非常に厄介だ。
「ふむ。魔物が使う毒の類いであれば、私なら霊力である程度無効化する事が可能だ。ローラ、恐らく今の君ならば似たような事が出来るのではないか?」
「……!」
セネムが言っているのは、ローラの中に眠る『ローラ』から授けられた霊力の事だろう。そういう使い方が出来るとは考えていなかったが、セネムが言うなら出来るかもしれない。
ジェシカだけは毒を無効化出来ないが、それは相手側のエリオットも同じなので乱戦になってしまえば無差別に使ってくる事はないだろう。
「スパルナの方は、私が『エーリアル』事件で戦った『長男』とほぼ同等の強さと見ていいわ」
つまり極めて厄介な強敵という訳だ。しかも奴は空中を自在に飛び回り、『刃』などの遠距離攻撃も有している。対してこちらは空中戦が可能なのはミラーカのみであり、ヴェロニカが捕まり遠距離攻撃の手段を持つ後衛もローラしかいない状態なので、そういう意味でも厄介な存在と言えるだろう。
「更に奴には『千里眼』の能力もある。その情報を活用するのがニックである事を考えると、小細工は通用しないと思っていいでしょうね」
今回ミラーカに罠を仕掛けられたのも、スパルナの千里眼で事前に彼女の行く先が解っていた為だ。
ただ自分の好みの女を見つける事にしか能力を使っていなかった『エーリアル』と異なり、ニックはスパルナが得た情報を有効に活用する頭脳がある。ミラーカの言う通り下手な作戦や小細工は仕掛けるだけ無駄だろう。
「次に
あの『ディザイアシンドローム』事件で、かの魔法のランプをLAに持ち込んだ男だ。ニックに匿われていたらしい。
人間と蝿が融合したようなおぞましい姿の怪物。かなり素早く、溶解液を吐きつける能力もあるらしい。手強い怪物だが一度はミラーカとヴェロニカの連携攻撃で追い詰める事が出来たのだとか。
「……シャイターン共は一匹残らず駆逐する。それは私のやり残した使命でもあるからな」
セネムが静かに闘志を燃やす。自分達の教圏から持ち出されたアーティファクトで生み出された怪物なのだ。人一倍正義感の強い彼女には、それが人々に害を為している事は我慢ならないはずだ。
「そして……私と同じ吸血鬼であるジョンね。ジョンの総合的な強さは……もしかすると私よりも上かも知れないわ」
「え……で、でも、ミラーカさんが『親』なんだろ? それよりも強いって……」
ジェシカが戸惑ったように疑問を呈する。自分より遥かに強大だった『親』を持つ彼女からすれば疑問だろう。だが……
「残念ながら事実よ。吸血鬼は真祖たるヴラドを除けば、ほぼ『親兄弟』間で能力の差は無いの。それよりは吸血鬼化する前の元の個体能力の影響が大きい。ジョンは間違いなくシルヴィアやアンジェリーナよりも強敵よ」
「…………」
かつてまだ人間だった時のニックが言っていた内容を裏付けるミラーカの言葉であった。ミラーカがジョンに勝るのは500年の積み重ねによる技術と経験のみだ。
「ミ、ミラーカさんより強い吸血鬼か……」
ジェシカの声がやや引き攣る。彼女も『バイツァ・ダスト』事件の時に一度だけジョンと共闘した事があるので、その時の事を思い出しているのかも知れない。
「……そして単純な強さだけで言えば、恐らく【
「「……っ!」」
改めて出た名前にローラはどうしても反応してしまう。
「……ナターシャ?」
「っ! ご、ごめんなさい、何でもないわ。は、話を続けて頂戴」
明らかに動揺して不審な気配を漂わせるナターシャ。そう言えば先程から深刻そうに黙りこくっている。
確か『シューティングスター』の事件でクリスに命を救われてから彼の事を憎からず思っていた時期があったようだが、それにしてもあれからもう半年ほどである。ただ何となく気になっていたというだけにしては反応が大きいような……
「ナターシャ。何か気になる事か知っている事があるなら今の内に……」
「べ、別に何もないわよ! ほ、本当に……」
ローラに水を向けられて増々動揺が大きくなる。見るからに怪しい。それを見ていたミラーカがスッと目を細める。
「……あの時はそれを気にしてる余裕はなかったんだけど、そう言えば今思い返すと……あの時クリスの口からあなたの名前を聞いた気がするのだけど?」
「……っ!!」
ナターシャの顔が完全に色を失くす。部屋中の視線が彼女に集中する。
「ナターシャ……あなた、まさか?」
「ち、違う! 違うのよ! 内通とかじゃないのよ! ほ、本当に知らなかったのよ!」
ローラが詰め寄ると、ナターシャは激しくかぶりを振ってその場にしゃがみ込む。
「どういう事? あなたはクリスと会っていたの?」
「ご、ごめんなさい、ローラ。あの『シューティングスター』の事件の後、彼が私の前に姿を現したの。『シューティングスター』に
「……!」
その告白にローラとミラーカが共に目を瞠った。
「この身体でNROには戻れないし、警察官であるローラにも生存を知らせられないからって……」
「……なるほど。それで今まで彼を
ミラーカの確認にナターシャは観念したように頷いた。ミラーカは溜息を吐いた。
「クリスは自ら望んであの力を手にしたと言っていた。それも私からローラを
「「……!!」」
受けた衝撃の
「そう、ね……。私が馬鹿だったのよ。本当にごめんなさい。あなた達にクリスの事を事前に知らせていれば……」
心に痛みを覚えている様子ながら、そう言ってローラ達に謝罪した。今まで半年近くもあって
そう判断したらしいミラーカが意図的に話題を進めた。
「……過ぎた事を悔やんでも仕方ないわ。それより今は
「……!」
ミラーカの言葉にローラ達もハッとなる。そう。クリスが敵に回ったのは紛れもない事実。彼がこちらに敵対する以上、自分達はそれに対処する必要がある。ローラも頭を切り替えた。
「そうね。あなたはさっき、クリスは奴等の中で最も厄介だと言っていたけど、それは?」
「ええ。あなたは直接見ていないけど、ジェシカは憶えているわね? あの宇宙船で戦ったガーディアンの事を」
ミラーカに問われたジェシカが顔を顰めながら頷いた。
「ああ、あいつか……。『シューティングスター』程じゃなかったけど強かったよな。少なくとも1人じゃ絶対勝てなかったぜ」
「そう……私達が1人では勝てない強さだった敵の能力をそっくり移植されているらしいわ。そして実際彼はあの力を自在に使いこなしていた」
クリスを最も厄介な敵と認定する理由はそれだけで充分だろう。勿論クリス本体はガーディアンほど頑丈ではないだろうが、その分人間の頭脳を活用した有機的な戦いが可能となっているはずだ。
「そして最後の1人が……奴等をまとめ上げている
「……!」
〈従者〉の【コア】を取り込んで、自らの意志で魔物となった男。〈従者〉の手強さはローラも説明されるまでもなく理解している。それにニックの頭脳が加わる事で恐ろしい悪魔が誕生したのだ。
「古代エジプトをルーツに持つ魔物か……。相手にとって不足はないな」
頼もしい発言はセネムだ。確かに彼女の霊刀なら【コア】に当たりさえすれば一撃で倒す事も不可能ではないはずだ。相手の魔力を探知する事に長けたセネムなら、戦い様によっては勝機があるかも知れない。
ただ相手は