File11:中国4000年の技
文字数 3,508文字
ジェイルを隔てる扉の向こうから恐ろしい音が鳴り響いてくる。人の悲鳴や怒号、物の壊れる音、そしてマシンガンの銃声。
「せ、先輩……」
「大丈夫、大丈夫よ……」
ローラはリンファを励ましているようで、その実自分に言い聞かせていた。
「ああ、何故だ。私が何をしたと言うんだ! 妻と2人の子供を残して死ぬ訳には行かん! おい、君! どうなってるんだ!? 君達に任せていれば安全じゃなかったのか!?」
ターゲットとなっているダグラスが喚く。ローラはグッと拳を握り締める。
「今……仲間達が最善を尽くして犯人を止めようとしています。どうか勝手に動き回ったりしないようお願いします」
「……っ」
唇を噛み締めて血を吐くような思いで喋るローラの鬼気迫る表情を見て、ダグラスは何も言えずに黙り込む。
凄まじい戦闘音。つまりそれは夥しい数の警官達が……ローラの同僚達が犠牲になっているという事の証左でもあるのだ。
その時ジェイルの外で一際巨大な爆発音が響いた。衝撃でジェイルの出入り口の扉が振動する程だった。
(これは……ロケットランチャーの……!?)
確かあの扉を守る位置の警官に配備されていたはずだ。つまり『シューティングスター』はもうすぐそこまで来ているのだ。今のロケットランチャーの砲撃で死んでくれていれば良いが……
だがそんなローラの願望を打ち砕くかのように、聞いた事もないような凄まじい轟音と、複数の人の悲鳴のような音が聞こえた。そしてしばらくの後……全ての音が消えて静かになった。
「ど、どうなった……?」
ジェイルに詰めている刑事部の1人が呟くが、勿論答えられる者は誰も居ない。皆が一様にゴクッと喉を鳴らして出入り口の扉を見つめる。そして……
「……!」
強烈な光が瞬いたかと思うと出入り口の扉に大穴が穿たれた。外側から何かによって押されて抵抗なく開く扉。その向こうから現れたモノは……
「な……」
唖然とした声は誰が発した物だったか。事前にアルヴィンからある程度の外見的特徴を聞いていたローラ達だったが、それでもその驚きは他の刑事達に勝るとも劣らなかった。
(こ、こいつが……『シューティングスター』……!)
外宇宙からの来訪者。当たり前だがローラは生まれて初めて本物の地球外生命体を目にした。
『シューティングスター』はまるで無人の野を行くが如く、堂々とした足取りでジェイルフロアに乗り込んできた。刑事達は皆、気圧されたように後ろへ下がったり脇に避けたりしていた。
重武装の警備部やSWATでも歯が立たなかった相手だ。刑事部だけの手に負える相手ではない。ここで逃げたとしても何ら恥ではない。後日何も知らないマスコミや大衆からはバッシングされるかも知れないが、命には代えられない。ローラは彼等に、お願いだからそのまま脇に避けていてと心の底から願った。だが……
「な、な……仲間の仇だ! 撃て! 撃てぇっ!!」
「……!」
血気盛んな刑事の1人が、口から泡を飛ばしながら自ら率先して撃ち始めた!
するとそれに釣られて、極度の緊張状態にあった他の刑事達も堰を切ったように反射的に撃ち始めてしまった。こうなるともう収拾がつかない。
だが当然マシンガンやナパーム弾、果てはロケットランチャーでさえ倒せなかった相手だ。刑事達が持つ拳銃など文字通り豆鉄砲のような物だろう。
(あれは……!?)
『シューティングスター』の周囲に青白い膜のような物が張られ、撃ち込まれる大量の銃弾を全て弾いてしまう。『シューティングスター』が煩わし気に右手の銃らしき筒状の何かを掲げるとそこから光の粒子が立て続けに発射され、刑事達の身体に次々と巨大な穴を穿っていく。あれはジェニファーやコルンガ達を撃ち殺した凶器だ。
それだけではない。『シューティングスター』が左手を掲げると、その先にいた刑事達の身体がまとめて浮き上がった。そして奴が手を動かすとその方向に向かって刑事達が吹き飛び、凄まじい勢いで壁に激突した。殆どは首の骨が折れて即死だった。
「……っ!」
同僚達の無残な死に様にローラは思わず目を逸らした。どうやら『シューティングスター』はヴェロニカのような念動力まで備えているらしい。恐ろしい怪物だ。
「ひ、ひぃぃぃ……!?」
ダグラスが憐れな程顔を引き攣らせてへたり込む。ローラは懐に隠し持っていたデザートイーグルを抜き放つ。だがロケットランチャーすら効かなかった相手に対しては、流石にデザートイーグルでも通用するとは思えなかった。だがそこに……
「……先輩達に手は出させません」
「リンファッ!?」
リンファがローラ達を庇うように立ち塞がった。そしてローラが止める間もなく『シューティングスター』に一直線に肉薄する。
余りにも無謀だ。だが銃も大砲も効かない相手では距離を取っていても無意味だ。ならばむしろ接近戦を挑んだほうがまだしも可能性がある、のだろうか。だがあのバリアは勿論、銀色のアーマーに包まれた『シューティングスター』に素手でダメージを与える事など出来るのだろうか。
ローラの心の疑問が聞こえた訳でもないだろうが、リンファは銃を手放し代わりに懐から奇怪な形状の器具を取り出した。
武器、なのだろうか。三日月状の刃が内側に交差したような形状で、一方の刃に握りの部分が付いている。それをそれぞれ両手に一つずつ握っている。まるでやや大きめのナックルガードのような武器だ。
ローラは知らなかったが、これは拳法の技術を応用する格闘武器で『鴛鴦鉞 』と呼ばれている。
『シューティングスター』が銃口を向ける前に素早くその懐に潜り込んだリンファは、両手の鴛鴦鉞で挟み込むように攻撃を仕掛ける。
「……!」
だが当然どんな銃弾すら阻むあのバリアが発動して、リンファの攻撃を弾き返す。刃物が当たった部分が波紋のように波打つ。しかしリンファはいささかも怯む事なく、次々と連撃を仕掛ける。その度にバリアに接触して波紋が生じる。
だが密着されているとあの銃や超能力が使えないのか、『シューティングスター』が煩わしげにリンファの方に視線 を向ける。
そして右手の銃を変形してアーマーに収納 すると、代わりにアーマーから大きめのナイフのような武器を取り出した。どうやら自身も接近戦で片を付ける事を選択したらしい。
刀身が真っ黒い色合いで殆ど光を反射していない奇妙なナイフで、ナイフというより一種のブレードのような長さだった。
リンファが怯まずに、殴りつけるような挙動で鴛鴦鉞を突き出す。すると『シューティングスター』はその巨体からは考えられないような軽快な動作で飛び上がって、リンファの攻撃を躱した。
その動きは驚嘆に値するが、どうやら接近戦時はバリアとの併用が出来ないらしい。
『シューティングスター』は飛び上がった勢いからブレードを振り下ろしてくる。リンファは冷静に流れるような動作でその斬撃を回避。そして踊るように身体を回転させつつ、回転の勢いを利用して鴛鴦鉞を斬りつける。
『シューティングスター』は飛び退るように回避。リンファは間髪を入れず追撃する。『シューティングスター』は今度はブレードを真っ直ぐに突き出してきた。リンファはそれも半身を逸らすように回避すると、一切動きを止めずに相手に肉薄。両手の鴛鴦鉞を合わせて、お返しとばかりに体全体を使って突き入れる。
リンファの攻撃が……『シューティングスター』にヒットした! 恐らく奴が地球に来て初めて攻撃を受けた瞬間ではないだろうか。だがそのアーマーは伊達ではないようで、金属音と共に鴛鴦鉞が弾き返される……
「喊哈っ!!」
……直前でリンファが気合を発し、鴛鴦鉞を通して何らかの『力』が噴き出す。
「……っ!?」
『……!』
何か不可視の風が衝撃となって吹き抜けた気がした。と同時にあの『シューティングスター』の巨体が大きく傾いで弾き飛ばされた!
「な……」
見ていたローラは唖然とした。まるでヴェロニカの『衝撃』のような力だった。リンファはいつの間にこんな力を習得していたのだろう。
(そう言えば……何だか『修行中』とか言っていたような……)
だが『シューティングスター』を弾き飛ばすという快挙 を成し遂げたリンファは、些かも気を緩める事なく相手を睨み据えている。
「せ、先輩……」
「大丈夫、大丈夫よ……」
ローラはリンファを励ましているようで、その実自分に言い聞かせていた。
「ああ、何故だ。私が何をしたと言うんだ! 妻と2人の子供を残して死ぬ訳には行かん! おい、君! どうなってるんだ!? 君達に任せていれば安全じゃなかったのか!?」
ターゲットとなっているダグラスが喚く。ローラはグッと拳を握り締める。
「今……仲間達が最善を尽くして犯人を止めようとしています。どうか勝手に動き回ったりしないようお願いします」
「……っ」
唇を噛み締めて血を吐くような思いで喋るローラの鬼気迫る表情を見て、ダグラスは何も言えずに黙り込む。
凄まじい戦闘音。つまりそれは夥しい数の警官達が……ローラの同僚達が犠牲になっているという事の証左でもあるのだ。
その時ジェイルの外で一際巨大な爆発音が響いた。衝撃でジェイルの出入り口の扉が振動する程だった。
(これは……ロケットランチャーの……!?)
確かあの扉を守る位置の警官に配備されていたはずだ。つまり『シューティングスター』はもうすぐそこまで来ているのだ。今のロケットランチャーの砲撃で死んでくれていれば良いが……
だがそんなローラの願望を打ち砕くかのように、聞いた事もないような凄まじい轟音と、複数の人の悲鳴のような音が聞こえた。そしてしばらくの後……全ての音が消えて静かになった。
「ど、どうなった……?」
ジェイルに詰めている刑事部の1人が呟くが、勿論答えられる者は誰も居ない。皆が一様にゴクッと喉を鳴らして出入り口の扉を見つめる。そして……
「……!」
強烈な光が瞬いたかと思うと出入り口の扉に大穴が穿たれた。外側から何かによって押されて抵抗なく開く扉。その向こうから現れたモノは……
「な……」
唖然とした声は誰が発した物だったか。事前にアルヴィンからある程度の外見的特徴を聞いていたローラ達だったが、それでもその驚きは他の刑事達に勝るとも劣らなかった。
(こ、こいつが……『シューティングスター』……!)
外宇宙からの来訪者。当たり前だがローラは生まれて初めて本物の地球外生命体を目にした。
『シューティングスター』はまるで無人の野を行くが如く、堂々とした足取りでジェイルフロアに乗り込んできた。刑事達は皆、気圧されたように後ろへ下がったり脇に避けたりしていた。
重武装の警備部やSWATでも歯が立たなかった相手だ。刑事部だけの手に負える相手ではない。ここで逃げたとしても何ら恥ではない。後日何も知らないマスコミや大衆からはバッシングされるかも知れないが、命には代えられない。ローラは彼等に、お願いだからそのまま脇に避けていてと心の底から願った。だが……
「な、な……仲間の仇だ! 撃て! 撃てぇっ!!」
「……!」
血気盛んな刑事の1人が、口から泡を飛ばしながら自ら率先して撃ち始めた!
するとそれに釣られて、極度の緊張状態にあった他の刑事達も堰を切ったように反射的に撃ち始めてしまった。こうなるともう収拾がつかない。
だが当然マシンガンやナパーム弾、果てはロケットランチャーでさえ倒せなかった相手だ。刑事達が持つ拳銃など文字通り豆鉄砲のような物だろう。
(あれは……!?)
『シューティングスター』の周囲に青白い膜のような物が張られ、撃ち込まれる大量の銃弾を全て弾いてしまう。『シューティングスター』が煩わし気に右手の銃らしき筒状の何かを掲げるとそこから光の粒子が立て続けに発射され、刑事達の身体に次々と巨大な穴を穿っていく。あれはジェニファーやコルンガ達を撃ち殺した凶器だ。
それだけではない。『シューティングスター』が左手を掲げると、その先にいた刑事達の身体がまとめて浮き上がった。そして奴が手を動かすとその方向に向かって刑事達が吹き飛び、凄まじい勢いで壁に激突した。殆どは首の骨が折れて即死だった。
「……っ!」
同僚達の無残な死に様にローラは思わず目を逸らした。どうやら『シューティングスター』はヴェロニカのような念動力まで備えているらしい。恐ろしい怪物だ。
「ひ、ひぃぃぃ……!?」
ダグラスが憐れな程顔を引き攣らせてへたり込む。ローラは懐に隠し持っていたデザートイーグルを抜き放つ。だがロケットランチャーすら効かなかった相手に対しては、流石にデザートイーグルでも通用するとは思えなかった。だがそこに……
「……先輩達に手は出させません」
「リンファッ!?」
リンファがローラ達を庇うように立ち塞がった。そしてローラが止める間もなく『シューティングスター』に一直線に肉薄する。
余りにも無謀だ。だが銃も大砲も効かない相手では距離を取っていても無意味だ。ならばむしろ接近戦を挑んだほうがまだしも可能性がある、のだろうか。だがあのバリアは勿論、銀色のアーマーに包まれた『シューティングスター』に素手でダメージを与える事など出来るのだろうか。
ローラの心の疑問が聞こえた訳でもないだろうが、リンファは銃を手放し代わりに懐から奇怪な形状の器具を取り出した。
武器、なのだろうか。三日月状の刃が内側に交差したような形状で、一方の刃に握りの部分が付いている。それをそれぞれ両手に一つずつ握っている。まるでやや大きめのナックルガードのような武器だ。
ローラは知らなかったが、これは拳法の技術を応用する格闘武器で『
『シューティングスター』が銃口を向ける前に素早くその懐に潜り込んだリンファは、両手の鴛鴦鉞で挟み込むように攻撃を仕掛ける。
「……!」
だが当然どんな銃弾すら阻むあのバリアが発動して、リンファの攻撃を弾き返す。刃物が当たった部分が波紋のように波打つ。しかしリンファはいささかも怯む事なく、次々と連撃を仕掛ける。その度にバリアに接触して波紋が生じる。
だが密着されているとあの銃や超能力が使えないのか、『シューティングスター』が煩わしげにリンファの方に
そして右手の銃を変形してアーマーに
刀身が真っ黒い色合いで殆ど光を反射していない奇妙なナイフで、ナイフというより一種のブレードのような長さだった。
リンファが怯まずに、殴りつけるような挙動で鴛鴦鉞を突き出す。すると『シューティングスター』はその巨体からは考えられないような軽快な動作で飛び上がって、リンファの攻撃を躱した。
その動きは驚嘆に値するが、どうやら接近戦時はバリアとの併用が出来ないらしい。
『シューティングスター』は飛び上がった勢いからブレードを振り下ろしてくる。リンファは冷静に流れるような動作でその斬撃を回避。そして踊るように身体を回転させつつ、回転の勢いを利用して鴛鴦鉞を斬りつける。
『シューティングスター』は飛び退るように回避。リンファは間髪を入れず追撃する。『シューティングスター』は今度はブレードを真っ直ぐに突き出してきた。リンファはそれも半身を逸らすように回避すると、一切動きを止めずに相手に肉薄。両手の鴛鴦鉞を合わせて、お返しとばかりに体全体を使って突き入れる。
リンファの攻撃が……『シューティングスター』にヒットした! 恐らく奴が地球に来て初めて攻撃を受けた瞬間ではないだろうか。だがそのアーマーは伊達ではないようで、金属音と共に鴛鴦鉞が弾き返される……
「喊哈っ!!」
……直前でリンファが気合を発し、鴛鴦鉞を通して何らかの『力』が噴き出す。
「……っ!?」
『……!』
何か不可視の風が衝撃となって吹き抜けた気がした。と同時にあの『シューティングスター』の巨体が大きく傾いで弾き飛ばされた!
「な……」
見ていたローラは唖然とした。まるでヴェロニカの『衝撃』のような力だった。リンファはいつの間にこんな力を習得していたのだろう。
(そう言えば……何だか『修行中』とか言っていたような……)
だが『シューティングスター』を弾き飛ばすという