File20:合流、そして遭遇
文字数 4,457文字
「……!」
しばらく魔力の痕跡を辿りながら歩いていたミラーカだが、急に表情を険しくして立ち止まった。
「ミラーカ、どうしたの? また敵が?」
ローラが銃を構えながら問うが、ミラーカはかぶりを振る。
「いえ、そうじゃない……。魔力が急に途絶えた。いえ、これは……むしろ拡散した?」
戸惑ったように辺りを見渡すミラーカ。どうも魔力の痕跡を辿れなくなったようだが様子がおかしい。シグリッドも警戒を強めて周囲に視線を走らせる。
「ローラさん、周りを見て下さい。LAの只中にあるこの場所に、こんな霧 が掛かっているのは妙だと思いませんか?」
「え…………そ、そう言われればそうね……」
言われてローラもその事に気付く。森には鬱蒼と霧が掛かっており、重苦しい空気が漂っている。そもそも今時刻は夜中のはずなのに、霧の向こうは薄ぼんやりと発光している感じに見える。
夜中にも関わらず先の戦闘中でも視界を確保出来ていたのはこの発光のお陰なのだが、シグリッドに指摘されるまでその事実に思い至らなかった。
「……それにそもそもこの公園はそれほど大きな森じゃないわ。これだけ歩いていればとっくに貯水池に到達していそうなものだし、さっきの戦闘でのあなたの銃声も近隣の家にまで届いて、今頃はちょっとした騒ぎになっていたはずよ」
「……!」
ミラーカの指摘にローラは目を見開いた。言われてみれば明らかにおかしい。
「え……つまり、どういう事?」
「つまり……既に敵の手の内 にいる可能性が高いという事よ」
「……!!」
ローラはギョッとして辺りを見渡した。いつの間にか敵の罠の中に飛び込んでしまっていたという事か。
「それってマズいわよね? 一旦引き返すべきかしら?」
「いえ……どうでしょうね? この森の空間自体が歪んでいる感じね。だとすると引き返してもここから抜け出せるとは思えないわ。それならいっその事……このまま進むべきかも知れない」
ミラーカの提案にシグリッドも頷く。
「そうですね。こんな罠が張ってあるとすると、むしろここにセネムさん達やルーファス様が囚われている可能性が高くなりました。このまま進むのに賛成です」
2人の意見を受けてローラも決断した。確かにここで退いても何の解決にもならない。
「そう、ね。OK、このまま進みましょう。でも何が現れても不思議じゃないから、ここからは完全臨戦態勢で行きましょう」
意見がまとまった事で再び歩みを進める3人。といっても既にミラーカも魔力を辿れなくなっているので、ほぼ直感のみで進んでいく。そうして体感的に10分ほど歩いた辺りで……
「……! 前方から何か来るわ!」
「っ!」
ミラーカの警告に緊張を高めるローラ達。また悪魔達の襲撃だろうか。臨戦態勢で待ち構える彼女達の前に、木々の間から複数の人影 がまろび出てきた。
「え…………!?」
その人影を視認したローラは目を瞠った。いや、ローラだけではない。ミラーカもシグリッドも、同じように瞠目していた。
何故なら現れたのは非常に見覚えがある、というかまさに救出する為に捜していた者達であったから。
「セ、セネム!? モニカ!? ……って、ゾーイと、それにナターシャまで!?」
紫の露出鎧に身を包んだ聖戦士姿のセネムと、キュロットのような私服姿のモニカ。それに何故かゾーイとナターシャの姿まであった。
一瞬幻覚かと思ったが、それならゾーイとナターシャまでいるのはおかしい。しかも4人とも(特にセネム以外の3人は)息も絶え絶えな疲弊しきった様子であり、更にこちらの姿を見てローラ達以上に驚愕した目を向けてきたのだ。
どう見ても幻覚などではなく本物であった。
「お、おぉ……し、信じられん。本当に……ローラ、君なのか? それにミラーカとシグリッドまで……! き、奇跡だ……。アッラーフへの祈りが届いたのだっ!!」
4人の中では唯一比較的余力を残した状態らしいセネムが、やはりこちらを本物だと確信してから歓喜の叫びを上げる。
「セネム、一体どういう事!? 私達、あなた達を探してここまで来たのよ。何が起きているの?」
ローラがセネムに問い掛ける。まずはそれを聞かないと始まらない。その間にミラーカとシグリッドはモニカ達の介抱に回る。
セネムも相当に体力は消耗しているようで、近くの木の幹にグタッと身体を預けて息を荒げながら何度か頷く。
「う、うむ……疑問は尤もだ。話せば長くなるのだが……残念ながら悠長に説明している余裕は無い、と思う」
「え…………っ!?」
セネムの言葉を訝しく思う暇もあればこそ、ローラは自身の身体を突き抜ける凄まじいプレッシャーに硬直する。魔力を感知する術を持たない彼女をして感じる程の濃密な気配。当然ながらミラーカとシグリッドは最大級の警戒態勢を取って、へたり込んでいるモニカ達を庇うように前に出る。
(な、何……何か、恐ろしいモノ が、来る……!?)
ローラも慌ててデザートイーグルを構えて霊力を最大限まで高める。そして彼女らが見据える先、霧に覆われた木々の向こうから姿を現したものは……
「……ッ!?」
まず聞こえてきたのは蹄の音 であった。この木が生い茂る森の中で蹄の音というのも奇妙な話だが、それを不審に思う間もなく音の主が現れた。
それは黒い甲冑を着込んだ馬に跨った……首なし騎士であった!
やはり黒い色合いの甲冑を纏っているが、その中身 がない。代わりにがらんどうの鎧の中から黒っぽい煙のような物が立ち昇っている。良く見ると跨っている馬も首が無かった。
霧に覆われた森の中から現れる首なしの騎士。その現実離れした光景を見たローラは、一瞬自分が伝奇や伝承の中に迷い込んでしまったように錯覚した。
「ぐ……くそ、やはり来たか……」
「……!」
だがセネムの苦し気な呻き声がローラ達を正気に戻す。どうやら彼女達はこの首なし騎士に追われて森を彷徨っていたらしい。疲弊して未だにまともに喋る事も出来ないモニカやナターシャ達の様子を見る限り、かなり執拗に休む間もなく追われ続けていたのだろう。
「気を付けろ、ローラ。こいつがこの森の結界を操って我等を閉じ込めている張本人だ」
「ええ……そうみたいね」
首なし騎士から感じる濃密な魔力からして予想出来ていた事だ。ローラ達が油断なく見据える先で、首なし騎士がこちらを見返した ように感じた。首が丸ごと無いにも関わらず、ローラは確かにそいつの視線 を感じたのだ。
『ほぅ……ここまで来たのか。これも『特異点』の力の為せる業か』
「……!!」
そして首なし騎士が喋った 。まるで頭の中に直接語り掛けてくるような奇怪な音声であった。それだけでなく、その言葉の内容にもローラ達は目を瞠った。
「今、『特異点』と言いましたね? 私を襲った悪魔達もその単語を口にしました。『特異点』とは何の事ですか? あなた達がルーファス様を拐かしたのですか!? 何の目的で!?」
「シグリッド、落ち着きなさい! 迂闊に近付かないで!」
シグリッドが焦燥に駆られた様子で首なし騎士に詰め寄ろうとするのを、隣にいるミラーカが押し留める。
『……拐かした、か。オーガめ。やはり何も伝えておらんのか。どういうつもりだ?』
「……!? 何を言っているのですか! 私の質問に答えなさい! ルーファス様をどこへやったのです!?」
意味不明な独り言を呟く首なし騎士の様子に苛立ったシグリッドが声を荒げる。
『ルーファスルーファスと煩い奴だ。そんなに知りたければ私の結界を抜けて先に進んでみろ。そこにお前の知りたい答えがあるだろう。尤も私を斃さねばこの結界は解けんがな』
「……! いいでしょう。そういう事ならあなたを斃して進むまでです」
目を細めたシグリッドは魔力を全開にすると、金色に輝く瞳に二本の角が生えたトロールハーフの姿となった。
「……っ。ローラ、奴は我等をここから逃がす気が無い。ここから脱出する為にはシグリッドに協力して奴を斃すしかない」
「ええ、解ってるわ。ミラーカ、準備はいい?」
セネムの提案に頷くローラもまた霊力を全開にしてからミラーカに視線を向ける。彼女も皮膜翼の生えた吸血鬼の戦闘形態に変じながら頷いた。
「勿論よ、ローラ。セネムは下がっていて。モニカ達をお願い」
「う、うむ、済まない。私達も体力を回復させたらすぐに参戦する」
ミラーカの言葉に素直に従ってセネムは、モニカ達3人を庇いながら後方に下がる。そして彼女達に自らの霊力を分け与えつつ、自身も体力の回復を図ろうとする。
首なし騎士はその様子を認識しつつも、特に妨害する事無くローラ達に注意を向けている。いや、正確にはローラ1人に注意を向けているようだ。
『ローラ……いや、ギブソン警部補 。君は自分の職場のボス に銃を向けるのかね?』
「は……? な、何ですって……?」
ローラは何を言われたのか解らず混乱する。何故この怪物が自分の名前を……いや、名前は先程セネムが言っていたのを聞いたとしても、何故職業や役職まで知っているのか。それに加えて……
(ボス? ボスですって? 何を言ってるの? 本部長に何の関係が?)
ローラの職場のボスという事ならドレイク本部長になる。だが何故ここで彼の事が出てくるのか解らない。
『まだ解らないか? 私の名はデュラハーン。そして人間社会 ではジェームズ・ドレイクと名乗っている。君はこの名前を良く知っているはずだろう?』
「……っ!?」
ローラが唖然として目を見開く。そして咄嗟にこれは自分を動揺させる為の虚言だと考えた。しかし……
「ロ、ローラ……。そいつの、言ってる、事は……ほ、本当よ……」
「ナターシャッ!?」
セネムの霊力で多少喋れるくらいには体力が回復したのか、まだ辛そうな様子ではあるが、ナターシャがうつ伏せから上体だけ起こしてローラに警告してきた。
「そいつは、変身する前……確かに、ドレイク本部長、だった。あの時点で、私達を騙す、理由がない、から……」
「……!!」
ナターシャの言う事は尤もだ。となるとこの首なし騎士――デュラハーンは、本当にドレイク本部長なのか。
「ほ、本当に本部長なんですか? な、何故……いつから……?」
『知りたいかね? ならば力づくで聞き出してみたまえ。まあ君達には絶対に無理だろうがな』
混乱するローラに対してデュラハーンは嘲笑いながらその魔力を大きく発散させる。そして今まで腰に提げたままだった刃渡りの長い西洋剣を抜き放った。
「……! ローラ、考えるのは後にしなさい! こいつは倒すべき敵よ。モニカ達を守らないといけないのよ!?」
「……ッ!!」
ミラーカの檄にハッと正気 を取り戻す。そうだ。現実にセネム達は彼に追い立てられて嬲られていた。一般人のナターシャまでもだ。ローラ達が来なければあのまま嬲り殺しにされていただろう。
今ここでローラ達が倒れた場合も同様だ。
(ドレイク本部長……!)
言いたい事はある。聞きたい事も山ほどだ。だが今は戦って彼を斃す以外に道はないようだ。
しばらく魔力の痕跡を辿りながら歩いていたミラーカだが、急に表情を険しくして立ち止まった。
「ミラーカ、どうしたの? また敵が?」
ローラが銃を構えながら問うが、ミラーカはかぶりを振る。
「いえ、そうじゃない……。魔力が急に途絶えた。いえ、これは……むしろ拡散した?」
戸惑ったように辺りを見渡すミラーカ。どうも魔力の痕跡を辿れなくなったようだが様子がおかしい。シグリッドも警戒を強めて周囲に視線を走らせる。
「ローラさん、周りを見て下さい。LAの只中にあるこの場所に、こんな
「え…………そ、そう言われればそうね……」
言われてローラもその事に気付く。森には鬱蒼と霧が掛かっており、重苦しい空気が漂っている。そもそも今時刻は夜中のはずなのに、霧の向こうは薄ぼんやりと発光している感じに見える。
夜中にも関わらず先の戦闘中でも視界を確保出来ていたのはこの発光のお陰なのだが、シグリッドに指摘されるまでその事実に思い至らなかった。
「……それにそもそもこの公園はそれほど大きな森じゃないわ。これだけ歩いていればとっくに貯水池に到達していそうなものだし、さっきの戦闘でのあなたの銃声も近隣の家にまで届いて、今頃はちょっとした騒ぎになっていたはずよ」
「……!」
ミラーカの指摘にローラは目を見開いた。言われてみれば明らかにおかしい。
「え……つまり、どういう事?」
「つまり……既に
「……!!」
ローラはギョッとして辺りを見渡した。いつの間にか敵の罠の中に飛び込んでしまっていたという事か。
「それってマズいわよね? 一旦引き返すべきかしら?」
「いえ……どうでしょうね? この森の空間自体が歪んでいる感じね。だとすると引き返してもここから抜け出せるとは思えないわ。それならいっその事……このまま進むべきかも知れない」
ミラーカの提案にシグリッドも頷く。
「そうですね。こんな罠が張ってあるとすると、むしろここにセネムさん達やルーファス様が囚われている可能性が高くなりました。このまま進むのに賛成です」
2人の意見を受けてローラも決断した。確かにここで退いても何の解決にもならない。
「そう、ね。OK、このまま進みましょう。でも何が現れても不思議じゃないから、ここからは完全臨戦態勢で行きましょう」
意見がまとまった事で再び歩みを進める3人。といっても既にミラーカも魔力を辿れなくなっているので、ほぼ直感のみで進んでいく。そうして体感的に10分ほど歩いた辺りで……
「……! 前方から何か来るわ!」
「っ!」
ミラーカの警告に緊張を高めるローラ達。また悪魔達の襲撃だろうか。臨戦態勢で待ち構える彼女達の前に、木々の間から複数の
「え…………!?」
その人影を視認したローラは目を瞠った。いや、ローラだけではない。ミラーカもシグリッドも、同じように瞠目していた。
何故なら現れたのは非常に見覚えがある、というかまさに救出する為に捜していた者達であったから。
「セ、セネム!? モニカ!? ……って、ゾーイと、それにナターシャまで!?」
紫の露出鎧に身を包んだ聖戦士姿のセネムと、キュロットのような私服姿のモニカ。それに何故かゾーイとナターシャの姿まであった。
一瞬幻覚かと思ったが、それならゾーイとナターシャまでいるのはおかしい。しかも4人とも(特にセネム以外の3人は)息も絶え絶えな疲弊しきった様子であり、更にこちらの姿を見てローラ達以上に驚愕した目を向けてきたのだ。
どう見ても幻覚などではなく本物であった。
「お、おぉ……し、信じられん。本当に……ローラ、君なのか? それにミラーカとシグリッドまで……! き、奇跡だ……。アッラーフへの祈りが届いたのだっ!!」
4人の中では唯一比較的余力を残した状態らしいセネムが、やはりこちらを本物だと確信してから歓喜の叫びを上げる。
「セネム、一体どういう事!? 私達、あなた達を探してここまで来たのよ。何が起きているの?」
ローラがセネムに問い掛ける。まずはそれを聞かないと始まらない。その間にミラーカとシグリッドはモニカ達の介抱に回る。
セネムも相当に体力は消耗しているようで、近くの木の幹にグタッと身体を預けて息を荒げながら何度か頷く。
「う、うむ……疑問は尤もだ。話せば長くなるのだが……残念ながら悠長に説明している余裕は無い、と思う」
「え…………っ!?」
セネムの言葉を訝しく思う暇もあればこそ、ローラは自身の身体を突き抜ける凄まじいプレッシャーに硬直する。魔力を感知する術を持たない彼女をして感じる程の濃密な気配。当然ながらミラーカとシグリッドは最大級の警戒態勢を取って、へたり込んでいるモニカ達を庇うように前に出る。
(な、何……何か、恐ろしい
ローラも慌ててデザートイーグルを構えて霊力を最大限まで高める。そして彼女らが見据える先、霧に覆われた木々の向こうから姿を現したものは……
「……ッ!?」
まず聞こえてきたのは
それは黒い甲冑を着込んだ馬に跨った……首なし騎士であった!
やはり黒い色合いの甲冑を纏っているが、その
霧に覆われた森の中から現れる首なしの騎士。その現実離れした光景を見たローラは、一瞬自分が伝奇や伝承の中に迷い込んでしまったように錯覚した。
「ぐ……くそ、やはり来たか……」
「……!」
だがセネムの苦し気な呻き声がローラ達を正気に戻す。どうやら彼女達はこの首なし騎士に追われて森を彷徨っていたらしい。疲弊して未だにまともに喋る事も出来ないモニカやナターシャ達の様子を見る限り、かなり執拗に休む間もなく追われ続けていたのだろう。
「気を付けろ、ローラ。こいつがこの森の結界を操って我等を閉じ込めている張本人だ」
「ええ……そうみたいね」
首なし騎士から感じる濃密な魔力からして予想出来ていた事だ。ローラ達が油断なく見据える先で、首なし騎士がこちらを
『ほぅ……ここまで来たのか。これも『特異点』の力の為せる業か』
「……!!」
そして首なし騎士が
「今、『特異点』と言いましたね? 私を襲った悪魔達もその単語を口にしました。『特異点』とは何の事ですか? あなた達がルーファス様を拐かしたのですか!? 何の目的で!?」
「シグリッド、落ち着きなさい! 迂闊に近付かないで!」
シグリッドが焦燥に駆られた様子で首なし騎士に詰め寄ろうとするのを、隣にいるミラーカが押し留める。
『……拐かした、か。オーガめ。やはり何も伝えておらんのか。どういうつもりだ?』
「……!? 何を言っているのですか! 私の質問に答えなさい! ルーファス様をどこへやったのです!?」
意味不明な独り言を呟く首なし騎士の様子に苛立ったシグリッドが声を荒げる。
『ルーファスルーファスと煩い奴だ。そんなに知りたければ私の結界を抜けて先に進んでみろ。そこにお前の知りたい答えがあるだろう。尤も私を斃さねばこの結界は解けんがな』
「……! いいでしょう。そういう事ならあなたを斃して進むまでです」
目を細めたシグリッドは魔力を全開にすると、金色に輝く瞳に二本の角が生えたトロールハーフの姿となった。
「……っ。ローラ、奴は我等をここから逃がす気が無い。ここから脱出する為にはシグリッドに協力して奴を斃すしかない」
「ええ、解ってるわ。ミラーカ、準備はいい?」
セネムの提案に頷くローラもまた霊力を全開にしてからミラーカに視線を向ける。彼女も皮膜翼の生えた吸血鬼の戦闘形態に変じながら頷いた。
「勿論よ、ローラ。セネムは下がっていて。モニカ達をお願い」
「う、うむ、済まない。私達も体力を回復させたらすぐに参戦する」
ミラーカの言葉に素直に従ってセネムは、モニカ達3人を庇いながら後方に下がる。そして彼女達に自らの霊力を分け与えつつ、自身も体力の回復を図ろうとする。
首なし騎士はその様子を認識しつつも、特に妨害する事無くローラ達に注意を向けている。いや、正確にはローラ1人に注意を向けているようだ。
『ローラ……いや、
「は……? な、何ですって……?」
ローラは何を言われたのか解らず混乱する。何故この怪物が自分の名前を……いや、名前は先程セネムが言っていたのを聞いたとしても、何故職業や役職まで知っているのか。それに加えて……
(ボス? ボスですって? 何を言ってるの? 本部長に何の関係が?)
ローラの職場のボスという事ならドレイク本部長になる。だが何故ここで彼の事が出てくるのか解らない。
『まだ解らないか? 私の名はデュラハーン。そして
「……っ!?」
ローラが唖然として目を見開く。そして咄嗟にこれは自分を動揺させる為の虚言だと考えた。しかし……
「ロ、ローラ……。そいつの、言ってる、事は……ほ、本当よ……」
「ナターシャッ!?」
セネムの霊力で多少喋れるくらいには体力が回復したのか、まだ辛そうな様子ではあるが、ナターシャがうつ伏せから上体だけ起こしてローラに警告してきた。
「そいつは、変身する前……確かに、ドレイク本部長、だった。あの時点で、私達を騙す、理由がない、から……」
「……!!」
ナターシャの言う事は尤もだ。となるとこの首なし騎士――デュラハーンは、本当にドレイク本部長なのか。
「ほ、本当に本部長なんですか? な、何故……いつから……?」
『知りたいかね? ならば力づくで聞き出してみたまえ。まあ君達には絶対に無理だろうがな』
混乱するローラに対してデュラハーンは嘲笑いながらその魔力を大きく発散させる。そして今まで腰に提げたままだった刃渡りの長い西洋剣を抜き放った。
「……! ローラ、考えるのは後にしなさい! こいつは倒すべき敵よ。モニカ達を守らないといけないのよ!?」
「……ッ!!」
ミラーカの檄にハッと
今ここでローラ達が倒れた場合も同様だ。
(ドレイク本部長……!)
言いたい事はある。聞きたい事も山ほどだ。だが今は戦って彼を斃す以外に道はないようだ。