File19:金色の守護者
文字数 6,047文字
LAの郊外で『シューティングスター』と【悪徳郷】の人外戦が行われていた頃……
「……よし。奴は件の女優の襲撃に勤しんでいるようだ。今なら確実に奴は不在だ」
ケネス・ハーン州立保養地の外れに身を潜める何人かの影があった。クリスと、そしてミラーカ、ジェシカ、ヴェロニカの3人。それにナターシャの姿もある。クレアは当然、襲撃事件の方に対処している為ここにはいない。
「私達はいつでも行けるけど……本当にあなたも来るの? 言っておくけど、いざという時にあなたを積極的に守ってあげる気は無いわよ?」
ミラーカがクリスに向けて冷たい口調で警告する。だがクリスも薄く笑って挑発を返す。
「ふん……誰もそんな事は頼んでおらん。言われんでも荒事 はお前達に任すつもりだ。だがお前達だけでローラが監禁されているであろう、奴の乗り物 に侵入出来るのか?」
「……ちっ」
ミラーカは露骨に顔を顰めて舌打ちする。それは痛い所であった。それを何とか出来る可能性が僅かでもあるのはクリスだけだ。
「ま、まあまあ、お二人とも。ローラさんを救出する為です。今だけでいいのでちゃんと協力し合いましょう」
ヴェロニカが間に入って仲裁する。ジェシカは珍しい物を見るような目でミラーカを見ている。
「へぇぇ……ミラーカさんもそういう所は凄く人間臭いんだな、へへ」
「っ! おほん! ……もういいわ。時間が惜しいからさっさと行くわよ」
ジェシカに揶揄されたミラーカが居心地悪そうに咳払いすると、話題を変えるように皆を促した。実際に時間に余裕がある訳ではないのは事実だ。
「……皆、くれぐれも気を付けて。ローラを頼むわ」
ナターシャはここで待機だ。本人のたっての願いでここまで見送りにきていたのだ。彼女はクリスにも視線を向ける。
「その……あなたも気を付けて。無理は禁物よ」
「ほぅ、意外だな。さては俺に惚れたか?」
「……っ!?」
臆面もなくそう言ってのけるクリスに、ナターシャは瞬間的に顔を真っ赤にする。
「ば、馬鹿言わないで頂戴! 誰があんたみたいな高慢で横柄な男に……! 命の恩人には違いないから、何かあったら寝覚めが悪いってだけよ! 勘違いしないで!」
「ふ……まあそういう事にしておいてやる」
「……っ! は、早く行きなさいよ! 時間が無いんでしょ!?」
動揺しまくったナターシャに促されてクリスは口の端を吊り上げる。ミラーカ達は呆気に取られたようにそのやり取りを眺めていた。どうやら今のやり取りと普段のクリスの言動とのギャップに驚いているらしい。
「何をしている。行かないのか?」
「……まあいいわ。それじゃ行くわよ」
やや毒気を抜かれたようなミラーカの号令によって、ローラの救出作戦が始まった。
とりあえず『シューティングスター』の不在ははっきりしているので、隠密よりも速度重視で広い公園を駆けのぼっていく。ミラーカとジェシカだけならもっと速いスピードで移動できるが、ヴェロニカとクリスがいるので人間の駆け足程度の速さだ。
尤もその分ミラーカとジェシカはクリスから預けられた、中に何やら機材の入った大きなダッフルバッグをそれぞれ抱えさせられていたが。
クリスの指示に従って進む事しばし……
「……あそこだ。あの岩の陰に奴の宇宙船 があるはずだ」
公園の最も小高い場所にある大きな岩。その陰をクリスは指差す。
「…………」
ミラーカは闇を見通す吸血鬼の視力でその辺りを注視してみる。すると僅かだが、微妙に月明りや空気の流れが屈折している場所がある事に気付いた。普通の人間では、例え明るい昼間であってもまず気付かないだろう。
「あれね。確認したわ。それで、どうすればいいの?」
「簡単だ。俺はアレに近付いて、あの遮蔽機能及び出入り口の解除に取り掛かる。上手く行けば恐らく5分ほどで終わるはずだ。だがその間に何があるか解らん。お前達には作業中 の護衛を頼みたい」
ミラーカの確認にクリスは肩を竦めて答える。ジェシカが呆気に取られた。
「え……5分って……。そんな簡単に行くのか? 相手は未知の技術を持った宇宙人の船なんだろ?」
「前回の襲撃から二週間の間、俺がただ遊んでいたと思うか? 警察署で直接収集したデータは存分に活用させてもらった。NROの本部解析班は極めて優秀でな。二週間近く不眠不休で解析に努めた結果、最早奴等の技術は我等にとって完全な未知の技術 という訳ではなくなったのだ」
「……!!」
質問したジェシカだけでなくミラーカもヴェロニカも、クリスやNROの……いや、曳いてはアメリカという国家のポテンシャルの高さに目を瞠っていた。元々クリスがLAに送り込まれた理由も、まさにこうして『シューティングスター』のデータを収集する為だったのだろう。
NROがその技術の一端を解析して取り込む為に……。
「……だとするとあなたがLAに派遣された目的自体は既に達成したという事よね? 今こうしてローラの救出に随行しているのは職務範囲外 なんじゃないかしら? 何が目的なの?」
ミラーカは鋭い目線でクリスを見据える。だがクリスは動じない。
「俺を任務が無ければ一切動かないロボットだとでも思っているのか? ここにいる目的はお前達と同じだよ。他に何か理由がいるのか?」
「…………」
2人はしばし睨み合うが、やがてミラーカが視線を外した。
「そう……それならいいわ。どの道今はローラの救出が優先ね。ローラを助けたいというあなたの気持ちを信じるわ」
とりあえずミラーカが納得した事で、一行は宇宙船に向けて動き出した。遮蔽が働いていると思われるギリギリの範囲外まで近付くと、クリスがミラーカとジェシカが抱えているバッグを下ろすように指示。中からいくつかの機材を取り出すと手際よく組み立てていく。
太い三脚のような物の上に、何やらゴテゴテとした武骨な機械類を接続していく。そしてその機械を簡易式のバッテリーのような物に接続する。全ての設置が完了するとクリスはミラーカ達の方を向いた。
「……よし、始めるぞ。不測の事態 に備えて準備しておけ」
3人の女は一様に緊張した表情で頷いた。ミラーカは刀を抜いて臨戦態勢を整える。それを確認してクリスは設置した機械の電源を入れた。
「……うっ!」
ジェシカが大きく顔を顰めて耳を塞ぐ。直接の音ではないが、何か不快な感じの振動を探知したのだ。ジェシカほどではないが、ミラーカとヴェロニカも眉を寄せている。
「これは?」
「奴等の装置の出力を妨害 する一種の超音波だ。見ろ、早速効果が表れた」
「……!」
クリスが顎で示した先……空間がゆらめくように動いたかと思うと、唐突に目の前に何か巨大な物が出現した。
それは直径が5、6メートル程はある、金色に輝く巨大な『球体』であった。一定の間隔でまるで模様のように縦横に光の線が走っている。どのような原理でか、転がる事もなく下の一点のみを地面に着けたまま静止している。
「こ、これが……『シューティングスター』の宇宙船……!」
ヴェロニカが圧倒されたように目の前の巨大な物体を見上げる。当たり前だが彼女は本物の宇宙船などという物を初めて見たのだ。ジェシカも同様に口を開けて驚いている。
「この中にローラが囚われているのね? ローラ! ローラッ! 聞こえる、ローラ!?」
だがミラーカにはそんな感慨など無いようで、球体に向かって呼び掛けている。当然というか球体からは何の反応も無い。
「無駄だ。声や衝撃が通るような仕様なら、とっくに近くを通りかかった人間に不審を抱かれているはずだ」
クリスは冷徹に告げると、ダッフルバッグから別のもう少し小さめの装置を取り出した。片手で握れるくらいの大きさの、何らかの照射装置のような物だった。
「これから出入り口をこじ開ける 作業を開始する。最低でも数分は掛かる。何らかの防衛機構 が作動するかも知れん。準備しておけ」
「……!」
警告を受けたミラーカ達は気を引き締める。クリスは黄金の球体に向かって、装置のスイッチを押す。すると装置の前面のライト部分から青白い色の光が照射される。
ジジジジ……! と何かが焦げ付くような不快な音が響く。クリスの照射している光が宇宙船に何らかの影響を及ぼしているのだ。
そこまで理解した時だった。宇宙船の上部……つまり球体の一番高い位置から何か がせり上がって来た。それは……宇宙船本体をそのまま小型化したような、直径50センチほどの金色の球体であった。
「お、おい……何だ、あれ?」
その小さな球体に気付いたジェシカが指差す。3人が見上げる先で……その球体が変形 した。
「……!」
球体の側面から直接生える ようにして6本の長いアームのような物が出現した。それぞれのアームの先端には鋭いブレードや、銃口のような物が備わっている。明らかにあの小さな球体には収まりきらないような容積だ。
更に球体の下部から3本の『脚』が生えて、宇宙船の外壁にへばり付く。極めつけに球体の上部から『頭』が出現した。緑色に発光するレンズのような物が3つ付いた『顔』をこちらに向けて見下ろしてきた。
「い、一体何なんですか……?」
「解らない。けど明らかに友好的ではなさそうね。きっと彼の言っていた『防衛機構』とやらだわ」
ミラーカは油断なく刀を構える。防衛機構――ガーディアンは現在進行系で船に侵害刺激を与えているクリスの方に『顔』を向ける。そして6本のアームの内、銃口の付いているアームをクリスに向けた。
「……! ヴェロニカ!」
「は、はいっ!」
ミラーカに呼ばわれ、ヴェロニカは咄嗟に『衝撃』を放つ。不可視のインパルスがガーディアンに直撃した。吹っ飛ぶ事は無かったが、ガーディアンの体勢が崩れる。
「ふっ!」
その僅かな隙を逃さず、ミラーカが高く跳躍してガーディアンに斬りつける。だがガーディアンは意外な程素早い反応でブレードを掲げて、ミラーカの斬撃を受け止めた。そのまま反撃で別のアームから高速で回転するドリルのような武器を突き出してくる。
「……!」
ミラーカは咄嗟に躱すが、その瞬間別の複数のアームが追撃してきた。
「く……!」
手数の差で忽ち防戦一方となってしまう。ガーディアンはその隙に銃口のアームを再びクリスに向けるが、
「ガウゥゥゥゥゥッ!!」
変身を完了したジェシカが飛びかかって妨害する。ヴェロニカも力を溜めた『弾丸』で援護射撃を行う。
2人の攻撃を受けたガーディアンだが、驚くべき頑丈さでそれを弾いてしまった。だがその衝撃で流石に体勢を崩す。そこに逆に体勢を立て直したミラーカが反撃を開始する。
ガーディアンの6本のアームは伊達ではなく、ミラーカとジェシカを2人同時に相手にしても不足はないようだ。だがヴェロニカの援護射撃にまでは対処できないようで、再び『弾丸』を喰らった。
ガーディアンの『視線』がヴェロニカを向いた。そして宇宙船の外壁から飛び降りると、ヴェロニカ目掛けてアームを振りかざして襲いかかった。
「……っ!」
ヴェロニカは『障壁』を展開してガーディアンの攻撃を受け止める。だが『障壁』を前面に集中させたのにも関わらず凄まじい衝撃にヴェロニカは大きく後方へよろめいてしまう。
ガーディアンはヴェロニカに追撃しつつ、銃口のアームで三度クリスを狙う。
「させないっ!」
だがそこに戦闘形態となったミラーカが翼をはためかせて突進。刀で斬りつけて銃口を逸らす。銃口から発射された細い粒子ビームは、クリスから僅かに逸れて宇宙船の船体に当たって消滅した。
「ガルルルッ!!」
ジェシカも唸りを上げてヴェロニカを庇うように間に立ち塞がる。そのままミラーカと挟撃するような形で攻めかかる。ガーディアンも対抗して左右にアームを伸ばして縦横無尽に武器を振り回す。
ガーディアンは手数に物を言わせて、ミラーカ達の攻撃を受け止めると同時に別のアームがカウンターで攻撃を仕掛ける。その度にブレードやドリル等の武器がミラーカとジェシカの身体に傷を増やしていく。
勿論2人の攻撃も何度かヒットはしていたが、ガーディアンの頑丈さは相当な物で、目に見えてダメージが蓄積している様子がない。2人掛かりで攻めているにも関わらず、長期戦になるとこちらが不利になりそうだ。
「く……攻めきれない!?」
思わぬ苦戦にミラーカが焦る。その時ガーディアンが四度、銃口のアームでクリスに狙いを定めた。それに気づいたミラーカとジェシカが必死に妨害しようとするが、ガーディアンの残りのアームによって逆に妨害されてしまう。
ガーディアンはロボットらしい冷静さで、容赦なく粒子ビームを発射しようとして……
「はぁぁっ!!」
ヴェロニカの気合の声。同時にガーディアンの『頭』が凄まじい衝撃によって吹き飛んだ!
「な…………」
ミラーカとジェシカが唖然とした様子でガーディアンとヴェロニカを見比べる。『頭』を失ったガーディアンは挙動がおかしくなり、不規則にクルクルと回転しながらその場に倒れた。そして動かなくなった。
「ふぅ……初めてでしたけど、何とか成功したみたいです」
「ヴェロニカ……。今のはあなたが?」
ミラーカがそれでも油断なくガーディアンに刀を向けながらヴェロニカに問う。
「は、はい……。半年前にシャイターンに負けてしまって、まだまだ訓練が足りないんだと痛感したんです。それでこの半年ずっと能力の訓練を続けていました。今のは『大砲』……。威力はご覧頂いた通りですが、『弾丸』より更に溜めと集中が必要なのが難点ですね」
勿論半年前のように一対一でも戦える能力の訓練も行っているが、今の状況であれば『大砲』が使えると思って実行したのだ。
「確かに伸び代があると言ったのは私だけど……正直あなたの成長ペースは空恐ろしいわね」
しみじみと呟くミラーカに同意するようにジェシカも頷いていた。変身したミラーカやジェシカの攻撃すら通じなかった相手を一撃で倒したのだ。まともに当たれば『ルーガルー』クラスの敵にもそれなりのダメージを与えられるのではないか。
まあ『まともに当たれば』という条件を満たすのが中々厳しいようではあるが。
「……よし。奴は件の女優の襲撃に勤しんでいるようだ。今なら確実に奴は不在だ」
ケネス・ハーン州立保養地の外れに身を潜める何人かの影があった。クリスと、そしてミラーカ、ジェシカ、ヴェロニカの3人。それにナターシャの姿もある。クレアは当然、襲撃事件の方に対処している為ここにはいない。
「私達はいつでも行けるけど……本当にあなたも来るの? 言っておくけど、いざという時にあなたを積極的に守ってあげる気は無いわよ?」
ミラーカがクリスに向けて冷たい口調で警告する。だがクリスも薄く笑って挑発を返す。
「ふん……誰もそんな事は頼んでおらん。言われんでも
「……ちっ」
ミラーカは露骨に顔を顰めて舌打ちする。それは痛い所であった。それを何とか出来る可能性が僅かでもあるのはクリスだけだ。
「ま、まあまあ、お二人とも。ローラさんを救出する為です。今だけでいいのでちゃんと協力し合いましょう」
ヴェロニカが間に入って仲裁する。ジェシカは珍しい物を見るような目でミラーカを見ている。
「へぇぇ……ミラーカさんもそういう所は凄く人間臭いんだな、へへ」
「っ! おほん! ……もういいわ。時間が惜しいからさっさと行くわよ」
ジェシカに揶揄されたミラーカが居心地悪そうに咳払いすると、話題を変えるように皆を促した。実際に時間に余裕がある訳ではないのは事実だ。
「……皆、くれぐれも気を付けて。ローラを頼むわ」
ナターシャはここで待機だ。本人のたっての願いでここまで見送りにきていたのだ。彼女はクリスにも視線を向ける。
「その……あなたも気を付けて。無理は禁物よ」
「ほぅ、意外だな。さては俺に惚れたか?」
「……っ!?」
臆面もなくそう言ってのけるクリスに、ナターシャは瞬間的に顔を真っ赤にする。
「ば、馬鹿言わないで頂戴! 誰があんたみたいな高慢で横柄な男に……! 命の恩人には違いないから、何かあったら寝覚めが悪いってだけよ! 勘違いしないで!」
「ふ……まあそういう事にしておいてやる」
「……っ! は、早く行きなさいよ! 時間が無いんでしょ!?」
動揺しまくったナターシャに促されてクリスは口の端を吊り上げる。ミラーカ達は呆気に取られたようにそのやり取りを眺めていた。どうやら今のやり取りと普段のクリスの言動とのギャップに驚いているらしい。
「何をしている。行かないのか?」
「……まあいいわ。それじゃ行くわよ」
やや毒気を抜かれたようなミラーカの号令によって、ローラの救出作戦が始まった。
とりあえず『シューティングスター』の不在ははっきりしているので、隠密よりも速度重視で広い公園を駆けのぼっていく。ミラーカとジェシカだけならもっと速いスピードで移動できるが、ヴェロニカとクリスがいるので人間の駆け足程度の速さだ。
尤もその分ミラーカとジェシカはクリスから預けられた、中に何やら機材の入った大きなダッフルバッグをそれぞれ抱えさせられていたが。
クリスの指示に従って進む事しばし……
「……あそこだ。あの岩の陰に奴の
公園の最も小高い場所にある大きな岩。その陰をクリスは指差す。
「…………」
ミラーカは闇を見通す吸血鬼の視力でその辺りを注視してみる。すると僅かだが、微妙に月明りや空気の流れが屈折している場所がある事に気付いた。普通の人間では、例え明るい昼間であってもまず気付かないだろう。
「あれね。確認したわ。それで、どうすればいいの?」
「簡単だ。俺はアレに近付いて、あの遮蔽機能及び出入り口の解除に取り掛かる。上手く行けば恐らく5分ほどで終わるはずだ。だがその間に何があるか解らん。お前達には
ミラーカの確認にクリスは肩を竦めて答える。ジェシカが呆気に取られた。
「え……5分って……。そんな簡単に行くのか? 相手は未知の技術を持った宇宙人の船なんだろ?」
「前回の襲撃から二週間の間、俺がただ遊んでいたと思うか? 警察署で直接収集したデータは存分に活用させてもらった。NROの本部解析班は極めて優秀でな。二週間近く不眠不休で解析に努めた結果、最早奴等の技術は我等にとって完全な
「……!!」
質問したジェシカだけでなくミラーカもヴェロニカも、クリスやNROの……いや、曳いてはアメリカという国家のポテンシャルの高さに目を瞠っていた。元々クリスがLAに送り込まれた理由も、まさにこうして『シューティングスター』のデータを収集する為だったのだろう。
NROがその技術の一端を解析して取り込む為に……。
「……だとするとあなたがLAに派遣された目的自体は既に達成したという事よね? 今こうしてローラの救出に随行しているのは
ミラーカは鋭い目線でクリスを見据える。だがクリスは動じない。
「俺を任務が無ければ一切動かないロボットだとでも思っているのか? ここにいる目的はお前達と同じだよ。他に何か理由がいるのか?」
「…………」
2人はしばし睨み合うが、やがてミラーカが視線を外した。
「そう……それならいいわ。どの道今はローラの救出が優先ね。ローラを助けたいというあなたの気持ちを信じるわ」
とりあえずミラーカが納得した事で、一行は宇宙船に向けて動き出した。遮蔽が働いていると思われるギリギリの範囲外まで近付くと、クリスがミラーカとジェシカが抱えているバッグを下ろすように指示。中からいくつかの機材を取り出すと手際よく組み立てていく。
太い三脚のような物の上に、何やらゴテゴテとした武骨な機械類を接続していく。そしてその機械を簡易式のバッテリーのような物に接続する。全ての設置が完了するとクリスはミラーカ達の方を向いた。
「……よし、始めるぞ。
3人の女は一様に緊張した表情で頷いた。ミラーカは刀を抜いて臨戦態勢を整える。それを確認してクリスは設置した機械の電源を入れた。
「……うっ!」
ジェシカが大きく顔を顰めて耳を塞ぐ。直接の音ではないが、何か不快な感じの振動を探知したのだ。ジェシカほどではないが、ミラーカとヴェロニカも眉を寄せている。
「これは?」
「奴等の装置の出力を
「……!」
クリスが顎で示した先……空間がゆらめくように動いたかと思うと、唐突に目の前に何か巨大な物が出現した。
それは直径が5、6メートル程はある、金色に輝く巨大な『球体』であった。一定の間隔でまるで模様のように縦横に光の線が走っている。どのような原理でか、転がる事もなく下の一点のみを地面に着けたまま静止している。
「こ、これが……『シューティングスター』の宇宙船……!」
ヴェロニカが圧倒されたように目の前の巨大な物体を見上げる。当たり前だが彼女は本物の宇宙船などという物を初めて見たのだ。ジェシカも同様に口を開けて驚いている。
「この中にローラが囚われているのね? ローラ! ローラッ! 聞こえる、ローラ!?」
だがミラーカにはそんな感慨など無いようで、球体に向かって呼び掛けている。当然というか球体からは何の反応も無い。
「無駄だ。声や衝撃が通るような仕様なら、とっくに近くを通りかかった人間に不審を抱かれているはずだ」
クリスは冷徹に告げると、ダッフルバッグから別のもう少し小さめの装置を取り出した。片手で握れるくらいの大きさの、何らかの照射装置のような物だった。
「これから出入り口を
「……!」
警告を受けたミラーカ達は気を引き締める。クリスは黄金の球体に向かって、装置のスイッチを押す。すると装置の前面のライト部分から青白い色の光が照射される。
ジジジジ……! と何かが焦げ付くような不快な音が響く。クリスの照射している光が宇宙船に何らかの影響を及ぼしているのだ。
そこまで理解した時だった。宇宙船の上部……つまり球体の一番高い位置から
「お、おい……何だ、あれ?」
その小さな球体に気付いたジェシカが指差す。3人が見上げる先で……その球体が
「……!」
球体の側面から直接
更に球体の下部から3本の『脚』が生えて、宇宙船の外壁にへばり付く。極めつけに球体の上部から『頭』が出現した。緑色に発光するレンズのような物が3つ付いた『顔』をこちらに向けて見下ろしてきた。
「い、一体何なんですか……?」
「解らない。けど明らかに友好的ではなさそうね。きっと彼の言っていた『防衛機構』とやらだわ」
ミラーカは油断なく刀を構える。防衛機構――ガーディアンは現在進行系で船に侵害刺激を与えているクリスの方に『顔』を向ける。そして6本のアームの内、銃口の付いているアームをクリスに向けた。
「……! ヴェロニカ!」
「は、はいっ!」
ミラーカに呼ばわれ、ヴェロニカは咄嗟に『衝撃』を放つ。不可視のインパルスがガーディアンに直撃した。吹っ飛ぶ事は無かったが、ガーディアンの体勢が崩れる。
「ふっ!」
その僅かな隙を逃さず、ミラーカが高く跳躍してガーディアンに斬りつける。だがガーディアンは意外な程素早い反応でブレードを掲げて、ミラーカの斬撃を受け止めた。そのまま反撃で別のアームから高速で回転するドリルのような武器を突き出してくる。
「……!」
ミラーカは咄嗟に躱すが、その瞬間別の複数のアームが追撃してきた。
「く……!」
手数の差で忽ち防戦一方となってしまう。ガーディアンはその隙に銃口のアームを再びクリスに向けるが、
「ガウゥゥゥゥゥッ!!」
変身を完了したジェシカが飛びかかって妨害する。ヴェロニカも力を溜めた『弾丸』で援護射撃を行う。
2人の攻撃を受けたガーディアンだが、驚くべき頑丈さでそれを弾いてしまった。だがその衝撃で流石に体勢を崩す。そこに逆に体勢を立て直したミラーカが反撃を開始する。
ガーディアンの6本のアームは伊達ではなく、ミラーカとジェシカを2人同時に相手にしても不足はないようだ。だがヴェロニカの援護射撃にまでは対処できないようで、再び『弾丸』を喰らった。
ガーディアンの『視線』がヴェロニカを向いた。そして宇宙船の外壁から飛び降りると、ヴェロニカ目掛けてアームを振りかざして襲いかかった。
「……っ!」
ヴェロニカは『障壁』を展開してガーディアンの攻撃を受け止める。だが『障壁』を前面に集中させたのにも関わらず凄まじい衝撃にヴェロニカは大きく後方へよろめいてしまう。
ガーディアンはヴェロニカに追撃しつつ、銃口のアームで三度クリスを狙う。
「させないっ!」
だがそこに戦闘形態となったミラーカが翼をはためかせて突進。刀で斬りつけて銃口を逸らす。銃口から発射された細い粒子ビームは、クリスから僅かに逸れて宇宙船の船体に当たって消滅した。
「ガルルルッ!!」
ジェシカも唸りを上げてヴェロニカを庇うように間に立ち塞がる。そのままミラーカと挟撃するような形で攻めかかる。ガーディアンも対抗して左右にアームを伸ばして縦横無尽に武器を振り回す。
ガーディアンは手数に物を言わせて、ミラーカ達の攻撃を受け止めると同時に別のアームがカウンターで攻撃を仕掛ける。その度にブレードやドリル等の武器がミラーカとジェシカの身体に傷を増やしていく。
勿論2人の攻撃も何度かヒットはしていたが、ガーディアンの頑丈さは相当な物で、目に見えてダメージが蓄積している様子がない。2人掛かりで攻めているにも関わらず、長期戦になるとこちらが不利になりそうだ。
「く……攻めきれない!?」
思わぬ苦戦にミラーカが焦る。その時ガーディアンが四度、銃口のアームでクリスに狙いを定めた。それに気づいたミラーカとジェシカが必死に妨害しようとするが、ガーディアンの残りのアームによって逆に妨害されてしまう。
ガーディアンはロボットらしい冷静さで、容赦なく粒子ビームを発射しようとして……
「はぁぁっ!!」
ヴェロニカの気合の声。同時にガーディアンの『頭』が凄まじい衝撃によって吹き飛んだ!
「な…………」
ミラーカとジェシカが唖然とした様子でガーディアンとヴェロニカを見比べる。『頭』を失ったガーディアンは挙動がおかしくなり、不規則にクルクルと回転しながらその場に倒れた。そして動かなくなった。
「ふぅ……初めてでしたけど、何とか成功したみたいです」
「ヴェロニカ……。今のはあなたが?」
ミラーカがそれでも油断なくガーディアンに刀を向けながらヴェロニカに問う。
「は、はい……。半年前にシャイターンに負けてしまって、まだまだ訓練が足りないんだと痛感したんです。それでこの半年ずっと能力の訓練を続けていました。今のは『大砲』……。威力はご覧頂いた通りですが、『弾丸』より更に溜めと集中が必要なのが難点ですね」
勿論半年前のように一対一でも戦える能力の訓練も行っているが、今の状況であれば『大砲』が使えると思って実行したのだ。
「確かに伸び代があると言ったのは私だけど……正直あなたの成長ペースは空恐ろしいわね」
しみじみと呟くミラーカに同意するようにジェシカも頷いていた。変身したミラーカやジェシカの攻撃すら通じなかった相手を一撃で倒したのだ。まともに当たれば『ルーガルー』クラスの敵にもそれなりのダメージを与えられるのではないか。
まあ『まともに当たれば』という条件を満たすのが中々厳しいようではあるが。