File7:敵の狙いは……?
文字数 2,711文字
ローラはジョンから連絡を受けて、取るものも取りあえず市警察署まで出向いた。そして一目散に、署内に設置されている被疑者留置用のジェイルに向かう。
「ローラ、来たか……!」
ジェイルのあるフロアの入り口には、ジョンが待機してローラを待っていた。
「とりあえず一時的だが人払いは済ませてある。だが余り長くは時間を掛けられんぞ」
「充分よ。ありがとう、ジョン!」
気が急いているローラは、礼もそこそこに入り口のドアを開いて中に入った。ジョンもその後に続く。
そして一番奥の牢の前まで歩いていくと、中に向かって声を掛けた。
「ミラーカ……!」
牢の奥にあるベッドに足を組んで腰掛けていた黒髪の美女が、ローラの姿を見て立ち上がる。
「ローラ……ごめんなさい。下手を打ってしまったわ。いえ、『敵』が一枚上手だったと言うべきかしら」
「ミラーカ、一体何があったの? 敵って何の事? そいつがあなたをこんな目に遭わせたの?」
ローラは、ミラーカがモーテルでエスコートの客を惨殺したなどという話を、端から信じていない。それでジョンに無理を言って、こうして余人を交えず直接話を聞く機会をセッティングして貰ったのだ。
「ええ……ジョンから聞いたようだけど、以前から私を探している奴がいたの。その男の仕業よ」
「男? 犯人と直接会ったの?」
「ええ。フィリップと名乗ったわ。フィリップ・E・ラーナーだったかしら?」
ミラーカから犯人の名前と外見的な特徴を聞く。
「フィリップ、ね。すぐに警察の方でも調べてみるわ」
「忙しい時に本当にごめんなさい、ローラ。現場のモーテルの方は……」
「そっちは私の方で手配しておきますのでご安心下さい。お話を聞く限りでは、先入観を持たずにきちんと検証すれば、カーミラ様の無実はすぐに証明されるはずです」
「頼んだわ、ジョン」
吸血鬼の『親』としての立場からだろうか、ジョンに対してはやや居丈高な調子になるミラーカ。それに特に不満を感じる事もなくジョンが頷く。
「お任せ下さい。弁護士に関しては如何致しますか? もし伝手が無ければ、そちらも私の方で手配させて頂きますが……」
「いえ、伝手ならあるわ。こういうトラブルに巻き込まれた時の為に、普段から高い金を払っているのだから、存分に働いてもらいましょう」
ミラーカからその弁護士の名前と連絡先を聞いてメモに取ったジョンは、
「それでは現場検証の件も含めて早急に手配致します。ローラ、後10分ほどが限界だからな?」
そう言ってローラに釘を刺す。
「ええ、分かってるわ。ありがとう、ジョン。ミラーカの事、宜しくね?」
ジョンはミラーカに一礼して、足早にジェイルを後にしていった。それを見送ってからミラーカは身を乗り出して、格子に顔を寄せた。
「ローラ、気を付けて。私の見た所、あのフィリップはかなり強力な人外の存在だったわ」
「そ、そうなの?」
「ええ、まだハッキリとはしないけど……シルヴィア達よりも厄介なのは間違いないわ」
「……!」
それはつまり人間には太刀打ちできないレベルである、という事だ。
「更に奴は『マスター』とやらの存在に言及していたわ。誰か主人がいるのは確かなようね」
「『マスター』ですって……?」
それを聞いてローラは少し考えるような素振りになった。
「ローラ? 何か心当たりが?」
「心当たり、かどうかは分からないんだけど……確かそのフィリップがミラーカの事を探し始めたのは、この街で干からびた死体が発見されるようになってからなのよね?」
「え? ええ……大体同じ時期だったと記憶してるわ? それが何か?」
ローラは今この街で起きている殺人事件の捜査を任されている事を説明した。
「『バイツァ・ダスト』ね……。ニュースで名前だけは知っていたけど、確かに時期的な事を考えると、フィリップはその『バイツァ・ダスト』と何か関係があるかも知れないわね」
「ええ、しかもそれだけじゃないの」
ローラはヴァンサント邸であった出来事もミラーカに説明した。本来は一般には極秘情報も含まれているが、事が人外の怪物に関わる可能性が高いだけに、ミラーカに対しては例外だ。
「『王』ですって? それにあの……マイク・ホーソンの父親が……?」
「ええ、今指名手配中だけど、まだ行方は掴めていないわ」
「そう……。だとすると状況的に考えてそのエディが言っていた『王』と、フィリップが言っていた『マスター』は同一の存在である可能性が高いわね」
情報を吟味したミラーカはそう結論付けた。
「や、やっぱりミラーカもそう思う?」
「恐らくだけどね。そのエディが与えられた力も気になるわね。間違いなく何かを企んでいると思うわ」
「…………」
「ローラ、繰り返しになるけど、くれぐれも気を付けて。この……『バイツァ・ダスト』は今までの力任せに暴れるだけだった怪物達とは違う。人間を使ったり、法を逆手に取って罠を仕掛けてきたり……。より巧妙で狡猾だわ。州議員という社会的地位の高い人間を狙って殺した事もそうだけど、人間を殺すのはあくまで手段 であって、目的 ではないと思えるのよ」
「手段……」
「そう。だからあなたも充分に気を付けて。『マスター』とやらは、私を妃 に迎えるのだと言っているらしいわ。奴は私に執着している……。奴等があなたに目を付ける可能性も無いとは言い切れないわ。だから……」
ローラは格子越しにミラーカの手を握った。
「解ってる。勿論充分気を付けるわ。でも私も逃げる訳には行かない。怪物達なんかに私の人生を好きにはさせない。徹底的に抗ってやるって決めたのよ」
「ローラ……。私も早くここから出られれば良いんだけど……」
「大丈夫よ。ジョンが頑張ってくれるし、私も出来る限り協力する。きっとすぐに出られるわ。私こそごめんなさい。ミラーカが大人しく捕まったのって、私の事があったからよね?」
吸血鬼であるミラーカは、逃げようと思えば簡単に逃げてしまう事が出来た。いや、今だって脱走しようと思えば簡単なはずだ。
ミラーカがかぶりを振る。
「それは……」
「いいのよ。そんなに思ってくれて私幸せよ。だからこそあなたは絶対にここから出して見せるわ。もう少しだけ待っててね?」
「ローラ……ええ、お願いね?」
2人はそうして別れ際に再び格子越しに手を握り合い、熱いキスを交わすのであった……
「ローラ、来たか……!」
ジェイルのあるフロアの入り口には、ジョンが待機してローラを待っていた。
「とりあえず一時的だが人払いは済ませてある。だが余り長くは時間を掛けられんぞ」
「充分よ。ありがとう、ジョン!」
気が急いているローラは、礼もそこそこに入り口のドアを開いて中に入った。ジョンもその後に続く。
そして一番奥の牢の前まで歩いていくと、中に向かって声を掛けた。
「ミラーカ……!」
牢の奥にあるベッドに足を組んで腰掛けていた黒髪の美女が、ローラの姿を見て立ち上がる。
「ローラ……ごめんなさい。下手を打ってしまったわ。いえ、『敵』が一枚上手だったと言うべきかしら」
「ミラーカ、一体何があったの? 敵って何の事? そいつがあなたをこんな目に遭わせたの?」
ローラは、ミラーカがモーテルでエスコートの客を惨殺したなどという話を、端から信じていない。それでジョンに無理を言って、こうして余人を交えず直接話を聞く機会をセッティングして貰ったのだ。
「ええ……ジョンから聞いたようだけど、以前から私を探している奴がいたの。その男の仕業よ」
「男? 犯人と直接会ったの?」
「ええ。フィリップと名乗ったわ。フィリップ・E・ラーナーだったかしら?」
ミラーカから犯人の名前と外見的な特徴を聞く。
「フィリップ、ね。すぐに警察の方でも調べてみるわ」
「忙しい時に本当にごめんなさい、ローラ。現場のモーテルの方は……」
「そっちは私の方で手配しておきますのでご安心下さい。お話を聞く限りでは、先入観を持たずにきちんと検証すれば、カーミラ様の無実はすぐに証明されるはずです」
「頼んだわ、ジョン」
吸血鬼の『親』としての立場からだろうか、ジョンに対してはやや居丈高な調子になるミラーカ。それに特に不満を感じる事もなくジョンが頷く。
「お任せ下さい。弁護士に関しては如何致しますか? もし伝手が無ければ、そちらも私の方で手配させて頂きますが……」
「いえ、伝手ならあるわ。こういうトラブルに巻き込まれた時の為に、普段から高い金を払っているのだから、存分に働いてもらいましょう」
ミラーカからその弁護士の名前と連絡先を聞いてメモに取ったジョンは、
「それでは現場検証の件も含めて早急に手配致します。ローラ、後10分ほどが限界だからな?」
そう言ってローラに釘を刺す。
「ええ、分かってるわ。ありがとう、ジョン。ミラーカの事、宜しくね?」
ジョンはミラーカに一礼して、足早にジェイルを後にしていった。それを見送ってからミラーカは身を乗り出して、格子に顔を寄せた。
「ローラ、気を付けて。私の見た所、あのフィリップはかなり強力な人外の存在だったわ」
「そ、そうなの?」
「ええ、まだハッキリとはしないけど……シルヴィア達よりも厄介なのは間違いないわ」
「……!」
それはつまり人間には太刀打ちできないレベルである、という事だ。
「更に奴は『マスター』とやらの存在に言及していたわ。誰か主人がいるのは確かなようね」
「『マスター』ですって……?」
それを聞いてローラは少し考えるような素振りになった。
「ローラ? 何か心当たりが?」
「心当たり、かどうかは分からないんだけど……確かそのフィリップがミラーカの事を探し始めたのは、この街で干からびた死体が発見されるようになってからなのよね?」
「え? ええ……大体同じ時期だったと記憶してるわ? それが何か?」
ローラは今この街で起きている殺人事件の捜査を任されている事を説明した。
「『バイツァ・ダスト』ね……。ニュースで名前だけは知っていたけど、確かに時期的な事を考えると、フィリップはその『バイツァ・ダスト』と何か関係があるかも知れないわね」
「ええ、しかもそれだけじゃないの」
ローラはヴァンサント邸であった出来事もミラーカに説明した。本来は一般には極秘情報も含まれているが、事が人外の怪物に関わる可能性が高いだけに、ミラーカに対しては例外だ。
「『王』ですって? それにあの……マイク・ホーソンの父親が……?」
「ええ、今指名手配中だけど、まだ行方は掴めていないわ」
「そう……。だとすると状況的に考えてそのエディが言っていた『王』と、フィリップが言っていた『マスター』は同一の存在である可能性が高いわね」
情報を吟味したミラーカはそう結論付けた。
「や、やっぱりミラーカもそう思う?」
「恐らくだけどね。そのエディが与えられた力も気になるわね。間違いなく何かを企んでいると思うわ」
「…………」
「ローラ、繰り返しになるけど、くれぐれも気を付けて。この……『バイツァ・ダスト』は今までの力任せに暴れるだけだった怪物達とは違う。人間を使ったり、法を逆手に取って罠を仕掛けてきたり……。より巧妙で狡猾だわ。州議員という社会的地位の高い人間を狙って殺した事もそうだけど、人間を殺すのはあくまで
「手段……」
「そう。だからあなたも充分に気を付けて。『マスター』とやらは、私を
ローラは格子越しにミラーカの手を握った。
「解ってる。勿論充分気を付けるわ。でも私も逃げる訳には行かない。怪物達なんかに私の人生を好きにはさせない。徹底的に抗ってやるって決めたのよ」
「ローラ……。私も早くここから出られれば良いんだけど……」
「大丈夫よ。ジョンが頑張ってくれるし、私も出来る限り協力する。きっとすぐに出られるわ。私こそごめんなさい。ミラーカが大人しく捕まったのって、私の事があったからよね?」
吸血鬼であるミラーカは、逃げようと思えば簡単に逃げてしまう事が出来た。いや、今だって脱走しようと思えば簡単なはずだ。
ミラーカがかぶりを振る。
「それは……」
「いいのよ。そんなに思ってくれて私幸せよ。だからこそあなたは絶対にここから出して見せるわ。もう少しだけ待っててね?」
「ローラ……ええ、お願いね?」
2人はそうして別れ際に再び格子越しに手を握り合い、熱いキスを交わすのであった……