これまでのあらすじ・キャラクター紹介

文字数 11,325文字

 私の名前はナターシャ・イリエンコフ。ロシア系移民だけど、LAタイムズで記者をやっている。

 物事の裏に隠された『真実』を追求する……。その理念に従ってこれまで様々な事件・事故の取材をしてきた。しかし私は現在、そんな今までの仕事が霞むような恐ろしい事件に関わっている。いや、正確には『一連の事件』と言うべきか。


 このLAでは現在凶悪極まりない連続殺人鬼が立て続けに現れており、そして経緯が不明なまま人知れずに終息している……。

 不審を抱いた私は、これらの事件の裏に隠された真相を解明しようと調査に乗り出し……『真実』に辿り着いた。いや、まだいくつもの謎が残されているので『真実』を解明したとは言えないが、少なくとも今この街の裏……闇の中で何が起きているのかは知る事が出来た。

 一体誰に想像できるだろう。自分達のすぐ隣に吸血鬼や人狼といった怪物達が実在し、何も知らない人々を文字通り食い物にしているなど。

 そんな映画やドラマの中だけの話が、現実(・・)に起きているなどと……


 残念ながら今すぐこの情報を公表する事はできない。当事者(・・・)達から固く口止めされている事。そしてこのような一見滑稽無糖といえる話を確たる証拠も無しに公表すれば、私自身が正気を疑われ物笑いの種になるという事。更に当事者(・・・)曰く、私の身の安全を守る為……。

 様々な事由から現在は公表する事が出来ないのだが、それでも何らかの形で『真実』を記録しておきたいと思うのは、記者としてはそうおかしな話でもないだろう。

 だから私は自らが見聞きした事柄、そして当事者達から可能な限り詳細に聴取した過去の事件のあらましについて、ここにレポートという形で纏めておく事とする。


 このレポートを纏めるに当たって多大な協力をしてくれたローラ・ギブソン及びミラーカ・スピエルドルフの両名に心よりの感謝を。……後、FBIの捜査官ニコラス・ジュリアーニにもついでに(・・・・)感謝を!
(あの男ときたら、初対面の女性に向かって臆面もなく歯の浮くような口説き文句を垂れ流してきたのだ! 私をその辺の馬鹿な女と同じだと思っているのか。……まあ確かに外見は悪くなかったし、話していて肩の凝らない男ではあったけど……)



※尚、このレポートにおける一部の人物の紹介には、【陰力(ダーク・パワー)】という項目を設けている。

 これは協力者の1人であるミラーカの言う所の『陰の気』という物を解りやすく数値化して貰ったもので、ミラーカ自身の【陰力】を100として、これを基準に、より強い者ほど高い数値、逆に弱ければ低い数値となる。
 またイメージしやすいように、一般の成人男性は陰力に換算すると大体10程度であるそうだ。(人間には陰力は無いが)

 ただしこの数値はミラーカ個人の主観による物であり、また武器や技術、得意なフィールド等様々な要素によって強弱が変動する事もある為、あくまで目安や参考程度に見て貰うのがいいとだけ明記しておく。


※また人物に関する情報では、こちらの仲間や友好・中立的な存在については◇、殺人鬼達やそれに与する敵対的な存在については◆で表記している。



****



■Case1:『サッカー』

 当時LAでは、人間の血を一滴残らず吸い取って殺害する連続殺人鬼、通称『サッカー』が猛威を振るっていた。
 LAPDに所属する女刑事ローラ・ギブソンは、『サッカー』の有力な情報を掴み、その犯行現場へと踏み込む。彼女はそこで黒い髪と絶世の美貌を持つ謎の女・ミラーカと遭遇する。
 ミラーカは本来カーミラという名の500年の時を生きる吸血鬼で、『サッカー』とは裏切り者であるミラーカを狙った彼女の元主人ヴラド3世とその愛妾にしてミラーカの元同胞シルヴィアとアンジェリーナであったのだ。
 ミラーカの過去からヒントを得たローラは、ヴラド達を封印する為の準備を進めていくが、先手を打たれて誘拐されてしまう。
 ローラを救出に来たミラーカとヴラドの死闘が始まる。ローラは同僚のダリオや上司のマイヤーズらの協力もあって脱出し、無事にヴラドを封印する事に成功した――



◇ローラ・ギブソン
 LAPD(ロサンゼルス市警)所属の女刑事。当時26歳。階級は部長刑事。
 信心深く正義感の強い性格で、割と猪突猛進な性質でもある。金髪の若く美人な女性である為、周囲から侮られたり、上司と良い仲になって出世したのではないかなどと揶揄される事も多い。その為上司に迷惑を掛けたくない一心でかなり功名心が強い。
 『サッカー』事件の捜査中に謎の女ミラーカと邂逅し、その後の運命が大きく変わっていく事となる。極度の受難体質で、様々な人外の怪物から付け狙われる。
 現在はミラーカと恋仲となって、同じアパートに同棲中である。


◇ミラーカ・スピエルドルフ【陰力:100】 戦闘形態時【陰力:200】
 本名はカーミラ・シルヴェストリーで、500年前のワラキア貴族の出身である。当時のワラキア公王であるヴラド3世によって吸血鬼となった。絶世の美貌の持ち主で、流れるような艶のある長い黒髪と透き通るような白い肌が特徴的。
 当時とあるシスターとの出会いで改心し、ヴラド達を裏切って一度は封印する。
 『サッカー』事件でローラと出会い絆を深めていく。それ以後はローラのパートナーとして、彼女を様々な闇の怪物達から守る為に戦う。現在は収入と吸血効率の観点から女性専門の娼婦(エスコート)を職業としている。
 戦闘時には黒光りするレザー素材のボンテージファッションで、東洋の『刀』を愛用の武器として振るう。また吸血鬼には戦闘形態とでも言うべき変身が可能で、その時は髪が逆立って目が赤く光り、白い被膜翼の生えた怪物じみた姿に変わる。


◇トミー・フラナガン【陰力:100】 
 LAPDの刑事でローラの相棒。やや気弱で事なかれ主義な性格。ローラと共にグールの襲撃に巻き込まれ、そこで『マーキング』を受けた。
 その後シルヴィアによって吸血鬼へと生まれ変わり、ローラを罠に嵌めた。しかし救出に現れたミラーカによって斃される。


◇リチャード・マイヤーズ
 LAPDの警部補でローラの上司。妻と高校生の娘がいる。ローラからは理想的な警察官として尊敬されている。
 スタンドプレーに走る事も多いローラに手を焼いているが、彼女が危機に陥った時は自らの危険も顧みずに救出に志願した。落ち着いた外見や言動とは裏腹に、かなり高い身体能力を持っているが――?


◇ダリオ・ロドリゲス
 LAPDの部長刑事でローラの同僚。精悍なヒスパニック系の刑事だが、年下で女でありながら自分と同じ階級に出世したローラを疎ましく思って、何かと突っかかってくる。しかし本心は別にあり、ローラの危機にはマイヤーズと共に駆け付けた。
 トミーの死後、一時的にローラの相棒となるが――


◇ウォーレン神父
 LA郊外の教会で神父を務める男性。子供の時に両親が他界したローラの後見人となる。今でもローラの悩みの相談に乗ったりする事がある。『聖水』を作り出せる徳の高い人物。後にジェシカの後見人ともなり、更に心痛の種が増える事に……


◇ロバート・タウンゼント
 LAPDの検視官。検視の技術は確かだが、密かに薬品の横流しをしていた。ローラにバレて事件への協力を強要される。


◆ヴラド3世【陰力:300】 戦闘形態時【陰力:600】
 ミラーカ達を吸血鬼へと変えた主人であり、吸血鬼の真祖。ワラキアの公王にして『串刺し公』の異名を持つ。またの名をヴラド・ドラキュラ。イゴールによって現世へと復活を遂げた。
 自らを裏切ったミラーカ(カーミラ)を粛清した後は再び欧州へと戻り、自らが支配するワラキアを復活させようとしていた。しかしミラーカとローラの奮闘によって再度封印され、その悪夢の計画が実行される事は無かった。
 戦闘形態は愛妾達とは違って巨大な蝙蝠人間のような姿となる。が、その力が発揮される場面は(幸いにも)無かった。


◆シルヴィア・エミネスク【陰力:100】 戦闘形態時【陰力:200】
 ヴラドの愛妾の1人で、かつてのミラーカの同胞。淡い金髪の絶世の美女。トミーを吸血鬼へと変えた。
 ローラを攫う事でミラーカを罠に嵌めようとしたが、ミラーカに先手を打たれて急襲された。ミラーカとは互角の能力の持ち主だが、500年の積み重ねによる技量の差で敗北した。


◆アンジェリーナ・コドレアヌ【陰力:100】 戦闘形態時【陰力:200】
 シルヴィアやミラーカと同じくヴラドの愛妾の1人で、3人で【ゴーゴンの三姉妹】などと当時のワラキアの民に恐れられた。鮮やかな赤毛の美女。他の2人と比べて、元はやや気弱な性格だったらしい。
 霊園での決戦時に意外な人物によって斃される。


◆グール【陰力:昼20~夜40】
 吸血鬼に血を吸いつくされて死んだ人間達が変異した怪物の総称。自らの意志は自律的な物を除いてはほぼ無いに等しく、主人となった吸血鬼の命令に忠実に従う。
 日中は外見的には通常の人間とそれ程変わりないが、夜になると本性を表す。長い牙と白目のない真っ黒い目が特徴的。『マーキング』と呼ばれる特性を持つ。


◆イゴール
 鷲鼻が特徴的なヴラドの執事。一族で連綿とその役割を受け継いできた。ヴラド達を現世に甦らせた張本人。
 内務調査官のクリス・ドワイヤーと名乗ってローラの家を訪問し、彼女を拉致した。女性とは言え現職の刑事であるローラを制圧できる程の格闘能力を持っていた。
 霊園での決戦時にダリオによって射殺された。


◇『ローラ』
 中世の人。故人。オーストリアの田舎の修道院に暮らすシスターで、ミラーカの改心の切欠ともなった人物。最終的には自らの命と引き換えにヴラド達を封印した。




■Case2:『ルガールー』

 『サッカー』事件が終息して間もなくの事、原型を留めない程にズタズタに噛み裂かれた女性の死体が相次いで発見されるようになる。検視によると獣と人間、双方の特徴を持った謎の野獣の仕業であるらしい。
 ダリオと共に被害者宅に聞き込みに向かったローラは、そこで惨殺された遺族の死体、そして狼と人間が合わさったような『狼男』に遭遇する。
 狼男はダリオに重傷を負わせた後、何故かローラには手を出さずに走り去る。ローラは介入してきたFBIのクレアと協力しながら狼男の正体に迫っていく。
 しかし犯人の目星がついた所で犯人に先手を打たれ、ローラが捕まってしまう。狼男の正体はローラが尊敬する上司、マイヤーズであった。マイヤーズはローラを極上の獲物と見做していたのだ。
 ミラーカはクレアと共にローラの救出へと向かう。父親の正体を知る娘ジェシカも加勢し、死闘の末遂にミラーカはマイヤーズを打倒するのであった。


 
◇クレア・アッカーマン
 FBI(連邦捜査局)LA支局所属の女性捜査官。29歳。ひっつめた濃いブラウンの髪に細めの眼鏡がトレードマークの知的な外見の女性。超常犯罪を捜査する非公式部署に所属している。
 『ルガールー』事件に興味を持って介入してくる。上昇志向が強く当初はローラともギスギスしていたが、凶悪な事件を共に体験する中で互いに友情を感じるようになり、親友となった。
 FBIという立場から、市警のローラには手が出せない管轄外の仕事をサポートしてくれる事もある。


◇クラーク・ジョンソン
 FBIの捜査官。クレアの相棒。40代のお固い役人のような雰囲気の男性。
 『ルーガルー』捕獲作戦に失敗し、同僚の隊員達と共に『ルーガルー』に殺された。


◇ジョン・ストックトン
 LAPDの刑事。ローラの現相棒。31歳。『サッカー』事件の折にグールの牙を受けており、ミラーカに治療されるという経験を持つ。その後も様々な怪物達の被害に遭う事が多く、ローラとは別の意味で受難体質である。
 しかし現在は怪物の攻撃からローラを庇って意識不明の危篤状態となっており、無事の回復が願われる。


◆『ルーガルー』【陰力:500】
 LAを『狩場』とし、欲望の赴くままに人々を殺戮してきた凶悪なる野獣。その姿は、7フィートを超える恐ろしく巨大な狼が無理やり直立したような(いびつ)なフォルムで、両手には人間のような五指と太い鉤爪を持つ。
 戦闘形態になったミラーカが全く歯が立たない程の圧倒的な強さで、人間相手ならその咆哮だけで金縛りにしてしまえる程。狼らしく夜目や嗅覚にも非常に優れている。またその咬筋力は人間の頭蓋骨を一瞬で噛み砕く。
 その正体は、ローラの上司でもあるLAPDの警部補リチャード・マイヤーズ。若い女性ばかりを好んで喰らい、ローラの事も極上のメインディッシュと考えていた。
 ミラーカとジェシカの奮闘によって、死闘の末に討伐された。尚ミラーカによると最後に奴が何故か不自然に硬直し、それによって止めを刺す事が出来たらしい。あれが何だったのかは未だに解らないそうだが……
 また何者かに(そそのか)された事を認める発言によって、ローラ達に『黒幕』の存在を確信させる切欠ともなった。


◇ジェシカ・マイヤーズ【陰力:50】 変身時【陰力:150】
 リチャードの一人娘。高校生。ガールズバンドのボーカルをやっている。
 父親の正体に気付いていたが、恐怖から見て見ぬ振りをしていた。実は自身にも狼の血が流れており、同じように変身できる。ただし父親よりその血は薄れているようで、変身時の外見は比較的人間の面影を留めた姿となっている。
 当初は奇抜なパンクファッションに身を包んでいたが、父親の死と共に更生している。この事件以後もローラ達と関わるようになり、共に人外の殺人鬼達と戦う仲間となる。




■Case3:『ディープ・ワン』

 LAの隣町であるロング・ビーチ市。海水浴客で賑わうビーチで惨劇の幕は開いた。それを皮切りに海辺で失踪、後に無残な死体となって発見される人々が相次いだ。
 ローラはダリオの知人であるというライフガードのヴェロニカから相談を受ける。ローラはこの殺人事件には重症を負って入院していた病院から脱走したダリオが関わっていると確信。調査を進めていく。
 ミラーカやFBIのクレアの協力もあって、この事件の背後に元ナチスの科学者が絡んでいる可能性に行き着く。しかしビーチのパトロールをしている際に、居合わせたヴェロニカ共々『ディープ・ワン』の襲撃を受けていずこかへ連れ去られてしまう。
 一方ミラーカは、ローラの失踪を謎の『死神』から教えられ、ジェシカと共に敵の本拠地であるサンタカタリナ島へと乗り込む。
 果たして『ディープ・ワン』の正体は失踪していたダリオであった。狂気の科学者により半魚人へと改造されていたのだ。
 救出に駆け付けたミラーカ達、そして超能力者であったヴェロニカも参戦し、激闘の末に『ディープ・ワン』は遂に斃れた。ダリオは苦痛から永遠に解放されたのであった。



◇ヴェロニカ・ラミレス【陰力:70】
 アルバイトでライフガードをしている女子大生。20歳。典型的なラテン系美女。かつてドラッグに嵌っていた事があり、ダリオの助けで更生する。その時の縁でダリオを信頼している。
 実はメキシコの古い呪術師の家系で、一種の念動力のような『力』を受け継いでいる。この力は捜索や潜入には便利だが、戦闘にはやや融通が効かない。ただしヴェロニカ自身、永らく力を封印してきたせいで上手く使いこなせているとは言えず、ミラーカ曰く今後の訓練や経験次第では成長の余地もあるとの事。
 またジェシカとはかつて同じ高校の先輩後輩の間柄であり、互いの秘密も知っている仲であった。


◇ハンク・ネルソン
 LAPDの警部。かつてのマイヤーズの上司でもあり、彼の後任が決まっていない現在、一時的に捜査の指揮を執っている。本来は事なかれ主義の保守的な性格であり、優秀なマイヤーズに現場の指揮を丸投げしていた為苦労している。
 何かにつけてスタンドプレーが多いローラとは水と油であり、人間関係はお世辞にも上手く行っているとは言えない。


◇ジェームズ・ドレイク
 LAPDの本部長。組織の為なら非情な手段も厭わない冷徹で合理的な性格。『ルーガルー』事件における事後処理で上手く立ち回ったローラの事は信用している。
 また目的の為なら隣街の市警と連携を取ったり、軍隊の出動要請すら躊躇わない流動的で決断力もある人物だが……


◆エルンスト・ローゼンフェルト
 ドイツ人。元ナチスの科学者で海洋型生物兵器の開発に携わっていた。98歳。ナチスの狂信的なシンパで、終戦後も人知れず『連合軍』を倒す為の兵器の開発を続行していた。
 『ディープ・ワン』を生み出した張本人。実は若かりし頃にミラーカと恋仲だった事があり、時を経て再び彼の前に現れたミラーカの説得によって全ての妄執から解放された。


◆クラウス・ローゼンフェルト
 エルンストの孫。42歳。LAの病院で医者をやっているが、実は歪んだ科学観の持ち主で、密かに祖父の研究や実験に協力していた。自身が主治医となったダリオの情報を祖父に流し、ダリオに直接薬剤を投与した下手人。
 ローラの追求によって逃亡し、彼女を逆恨みする。ミラーカの説得によって投降した祖父を殺害し、その妄執を引き継ぐ。しかしジェシカやヴェロニカらの活躍によって再び逃亡する羽目になり、最後は因果応報の死を遂げた。


◆『ディープ・ワン』【陰力:400(ただし水中では600相当)】
 ロングビーチのみならずアメリカ西海岸を恐怖に陥れていた渚の殺人者。その姿は鮫と硬骨魚類と人間が合わさったような半人半魚の怪物である。体長は8フィート程にもなる。
 指先から即効性の毒針を射出する能力があり、喰らった人間は一瞬で呼吸困難になり死亡する。また任意で毒の量を調節する事が出来、獲物を生け捕る事も可能。更には強力な毒ガス散布のような能力も持っており、20名ほどいたロングビーチ市警の部隊を一瞬で全滅させた事からもその危険性が窺える。
 陸上では鈍重だが、水中ではまさしく「水を得た魚」であり、立体的な高速挙動と毒針によって獲物を追い詰める。
 その正体はエルンストらによって改造されたダリオ・ロドリゲス刑事であり、僅かに残された自由意志によってミラーカ達を研究所まで導き、自分もろとも悪夢の研究に終止符を打たせた。


◆動物実験体群【陰力:30~100】
 『ディープ・ワン』を作り出す過程で生み出された、動物実験による怪物達。追い詰められたクラウスが檻から開放し、ローラやヴェロニカ達を襲わせた。
 それぞれ元になった動物と魚類が掛け合わさったような悪趣味な姿をしており、『ディープ・ワン』と同じく毒針を射出する能力などを備えている。
 【陰力】はそれぞれ、鼠タイプが30、小型犬タイプ、猫タイプが40、猿タイプが80、大型犬タイプが100となっている。


◇『死神』【陰力:800前後?】
 ミラーカの前に現れ助言を与える謎の存在。骸骨に黒いローブ、そして長い柄の大鎌という典型的な死神の姿をしている為に、便宜上『死神』と呼称する。
その姿を見て言葉を交わしたのはミラーカのみである為、ローラにすら実在を疑われているが、ミラーカが一切情報が無いはずのサンタカタリナ島やエンジェルス国立公園に駆け付けられた事は事実であり、実在を前提としておいた方が良いだろう。
 一連の事件を裏から操る『黒幕』に関係があると目されているが、だとすると何故ローラ達を助けるような行動を取るのか、その正体も目的も一切が謎に包まれている。




■Case4:『エーリアル』

 LA北部の国立公園付近で女性の連続失踪事件が発生。時を同じくしてローラとミラーカは、鳥と人間が合わさったような恐ろしい怪物に遭遇する。
 マスコミはこの怪物を『エーリアル』と呼称。美しい女性を狙って誘拐し、邪魔な人間は全て殺害する凶悪な怪物の情報が広まり、LAの街は再び恐怖に包まれる。
 ローラは捜査の過程で、怪物が美しい女性を狙うのは繁殖の為ではないかと予想。それを裏付けるように街には小型の怪物達が出現するようになる。
 ローラは新たに仲間になった新聞記者のナターシャから、事件の裏にラムジェン社という企業の関与がある事を知り、『エーリアル』誕生に関わったとされる科学者アンドレア・パーカーを引き込む。
 アンドレアは怪物を殺す事の出来る薬の存在を知っており、ミラーカ達の奮闘及びアンドレアの尊い犠牲によって怪物に薬を撃ち込む事に成功。『エーリアル』事件は終息を迎えた。



◇ナターシャ・イリエンコフ
 LAタイムズに務める新聞記者。27歳。特徴的な赤毛のロシア系移民。
 LAを騒がせる一連の凶悪事件に不審を抱いて独自に調査していた。その過程で中心となっているローラの存在に行き着く。ローラに接触し事情を聞いてからは、主に情報面で彼女達をサポートする仲間となる。
(自分の事を紹介するというのは、何とも面映(おもはゆ)い物である……!)


◇ニコラス・ジュリアーニ
 FBI、LA支局所属の捜査官。クレアの相棒となる。32歳。
 元はデンバー支局の所属だったが、人外の事件に興味を持って自ら志願して転属してきた、クレア曰く「物好きの変人」。
 妙に爽やかな雰囲気と言動が特徴的で、特に女性相手には持って回った気障な態度を取る事が多い。人外の怪物についての造詣が深く、その知識でローラ達を助けた事もある。


◇アンドレア・パーカー
 元ラムジェン社所属の女性研究員。34歳。ラムジェン社の『ガルーダ・プロジェクト』に関わる。
 『エーリアル』暴走時の事故の生き残りだが、情報の拡散を恐れたラムジェン社によって精神病院に監禁される。その後ローラ達によって助け出され、『エーリアル』を殺す事の出来る薬の情報をもたらす。
 最後は自らの身を犠牲に『エーリアル』に薬を撃ち込み、怒り狂った怪物に引き裂かれて死亡した。しかし彼女の勇敢な犠牲によって恐ろしい怪物を殺す事が出来たのである。


◆『エーリアル』【陰力:500】
 LAの空を恐怖で塗りつぶした怪物。鳥と人間が合わさったような姿で、夜でもお構いなしに自由自在に空を飛び回って人々を襲った。8フィートを超える巨体で、翼長はその倍にも及ぼうかという恐ろしい化け物。
 両手両足には猛禽類のような巨大な鉤爪を備え、人間を軽々と鷲掴みに出来る。またその翼を広げ羽毛を鋭い『刃』に変えて高速でばら撒く遠距離攻撃が最大の武器で、その威力は人間の身体など軽く両断し軍用ヘリすら撃墜した程。
 更にダンカン曰く『千里眼』のような能力も備えており、それで街の様子を離れた場所から自在に観察し、自分好みの美女を見つけ出していたとの事。
 おぞましい事に女性と交合する事で卵を産ませ、能力の劣ったハーフの『子供』を作り出す事が出来、それを大量に繁殖させようとしていた。
 その圧倒的な強さで一時はミラーカを瀕死に追い込んだ程だが、アンドレアの犠牲によって猛毒となる薬を撃ち込まれ爆散して死んだ。


◆『子供』【陰力:80~100】
 『エーリアル』が人間の女性を攫って繁殖させた個体群。『エーリアル』を小型化させたような姿で羽毛の色も白っぽい。体長は6フィート無い程度。その能力もまた『エーリアル』の下位互換といった所で、人間でも逃げに徹すればある程度生き延びる事が可能。
 しかし恐ろしく成長が早く、数週間から1ヶ月程度でこの姿になる上、数が多いので集団で襲い掛かって来られるとかなり厄介。その『刃』は人間を殺傷するには充分な威力であり、上空から一方的に攻撃されると、遠距離攻撃手段を持たない者にとってはそれなりに脅威となる。


◆『長男』【陰力:250】
 最年長の『子供』。体格も他の『子供』より大きく7フィート近くあり、羽毛の色も変化している。恐らくは『子供』の最終形態で、『エーリアル』の目的はこれを量産する事だった思われる。
 その強さは戦闘形態となったミラーカを上回る程で、彼女と真っ向勝負の上で互角の戦いを演じ、最終的には身体能力の差で勝利しかけるが、ローラの援護によって辛うじてミラーカが逆転勝利した。
 こんな化け物が量産されていたら一体どれだけの被害が出ていたかと思うと、心底からゾッとする。


◆ダンカン・フェルランド
 カリフォルニア大学LA校の考古学部教授。46歳。インドの神獣伝説の調査をしており、その痕跡を発見しラムジェン社に復活プロジェクトを持ち掛けた、いわば『エーリアル』事件の元凶と言える人物。
 そこに崇高な目的はなく、ただ己の利益を追求する事しか頭に無かった。『エーリアル』暴走後も何ら内省する事なく、再びラムジェン社に取り入っていた。
 人質を取って(私達だ!)ローラに『エーリアル』を殺させサンプルを採集しようとするが、救援に来たミラーカによって阻止される。
 最後は怪物の『子供』に追われるように逃げていき、その後消息不明となっている事から、恐らく怪物に殺されたものと思われる。
(しかしその後の捜索でダンカンの死体は発見されず、代わりに彼を追っていったはずの『子供』の死骸が発見された。鋭利な刃物で首を切断されており、ダンカンがやったとは到底考えられない。一体ここで何が起きたのだろうか。妙な胸騒ぎがする……)



****



 ……とりあえず『サッカー』から続く一連の事件のあらましと、関係者についての情報を簡単にではあるが纏めてきた。こうして改めて見ると、LAに降り懸かっている事態の異常性が浮き彫りになる。

 何故急に存在すら定かでなかった人外の怪物が連続して、しかも同じこのLAに現れるようになったのか……。

 ローラ達は『黒幕』の存在を確信しており、私も何らかの超常的な意思が働いているという点については同意である。流石にこれを偶然だと思うことは不可能だ。


 だが解らない……。

 一見それぞれの事件には何の接点も無さそうに思える。イゴールにヴラド達の封印場所を教えたと思われる存在や、マイヤーズを唆した人物については確かに関与が疑われるが、『ディープ・ワン』や『エーリアル』の事件にそれらの人物の介入は確認出来ていない。

 にも関わらずそれらの人外の事件は、まるで順番待ちであるかのように立て続けに発生した。もしこれが偶然ではないとするならば、それは人知を超えた悪魔の如き意思の介在を認める事になってしまう。

 そうなれば最早私のようなただの人間や、或いはミラーカのような人外にさえ手に負える事態ではないという事になる。

 一体今この街で本当は何が起きているのか……。それを考える事さえ恐ろしいが、それでも目を背ける訳には行かないだろう。『真実』を追求する事こそが私の使命なのだから。


 『エーリアル』事件は終息したが、恐らくこの街に降り懸かる災難はこれで終わりではないだろう。私はそれを確信している。今この瞬間にも、より深く凶悪な闇が迫っている……。そんな予感を覚えるのだ。

 このレポートにも新たな項目が追加されていくのは間違いない。願わくば生きてこのレポートを『完成』させる事を神に祈りつつ、一旦締めとさせてもらう。




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