File37:奇跡
文字数 2,179文字
参戦してきたエリオットは、因縁のある同じ人狼のジェシカ……ではなく、最も手近な位置にいたシグリッドをターゲットにしたらしい。
「……っ!」
それに気付いた彼女が、迫ってくるエリオットを迎撃しようと向きを変えるが、それは現在戦っているジョンに背を向ける行為であり、
「はは! 隙だらけだぜ!?」
「……っぅ!」
ジョンのサーベルによって背中を斬り付けられてしまう。苦痛に呻くシグリッドだが、そこへクリスの鉤爪のアームが振り下ろされる。辛うじて身を反らしてそれを躱すが、その時にはエリオットが至近距離まで迫っていた。
鋭い爪を貫手にして放たれた突きを躱しきれずに右の肩を抉られる。鮮血が飛び散り、シグリッドの表情が歪む。
「シグリッドッ!」
ローラは慌てて援護射撃を行ってエリオットの追撃を阻止するが、ジョンやクリスの攻撃までは防げない。それまで互角に戦っていたシグリッドが負傷によって一気に劣勢に追い込まれる。
『エリオット、そこはもういい! あの女だ! アイツを殺してくれっ!』
「……!」
それを見て取ったニックが、ミラーカと戦いながらも声を張り上げて指示する。彼が示すのは勿論ゾーイだ。
「グルゥゥッ!!」
指示を受けたエリオットは唸り声を上げながら、ゾーイ目掛けて突進する。他の前衛達の間をすり抜けるが、皆眼前の敵やクリスのアームに妨害されて、エリオットの動きを解っていながら阻止できない。
ヴェロニカもスパルナが相変わらず『刃』を放ってくる為、『障壁』と共にその場に釘付けにされて能動的な行動が取れない。結果恐ろしい勢いでゾーイに肉薄するエリオット。
「と、止まりなさいっ!」
ローラは慌ててエリオットに向けて牽制の射撃を撃ち込むが、灰色の人狼は素早い身のこなしで銃撃を避けると、そのまま四肢を撓めてゾーイに向かって飛び掛かった。
ゾーイ自身もクリスと遠距離攻撃の応酬をしており、とてもエリオットへの対処が間に合わない。
「――――っ!!」
先のフォルネウスの時と同じ状況だが、今度は他のメンバーも全員手が塞がっており庇う事もできない。ゾーイの顔が青ざめ、絶望に歪む。一瞬の後には、その細い首筋を怪物の顎と牙がズタズタに噛み砕くだろう。当然即死だ。
ゾーイが死ぬ。ローラの目の前で。
(駄目…………駄目、そんなの!)
「ゾーイィィィィィッ!!!」
絶叫。その瞬間ローラの身体の中で『ローラ』の力と、それとは全く異なる別の何か が互いに反応し混ざり合った 。
(な、何……!? これは……何なのっ!?)
自らの内側に生じた感覚に戸惑うローラ。しかしその反応はお構いなしに一瞬で肥大化し、そして――――
――光 が弾けた。
「「「――――っ!?」」」
強烈な光が戦場となった敷地を迸り、一時的にその場にいた全員の視界を灼いた。凄まじい光量で、セネムの『神霊光』もこれに比べたら消えかかった懐中電灯のような物だ。
「ギャウゥゥッ!?」
そして今まさにゾーイに牙を突き立てんとしていたエリオットが、突如自分とゾーイの間に発生したその光の奔流を受けて弾き飛ばされた。
『な、何だ、これは!? 何が起きている……!』
「ローラ!? ローラッ!!」
ニックとミラーカの動揺した声が被さる。だがローラにもそれに応えている余裕はなかった。何が起きているのかは彼女にもさっぱり分からなかったからだ。ただ自分の内側 にある何らかの力 が『ローラ』の力と反応したという事だけは感覚で解った。
時間にすれば精々10秒ほどだろうか。体感的にはもっと長く感じた光の奔流が徐々に収まってくる。ローラ達も、そして【悪徳郷】の面々も……一様に庇ったり背けたりしていた視線を、その光の発生源となった位置に戻す。そして……
「な…………」
唖然とした声は誰が発した物だっただろうか。光が収まったその場所に、いつの間にか1人の人物 が佇んでいた。間違いなく先程まではいなかった人物だ。
その人物を見た反応は様々だ。大半の者が唖然としたような視線を向けるだけだったが、1人、いや2人 だけ、その人物の姿を見て激烈な反応を示す者達がいた。
1人はミラーカだ。普段はクールで切れ長なその目が、驚きによって限界まで見開かれていた。そしてもう1人はローラ自身だ。ミラーカに負けず劣らず、信じられないような思いでその場に出現した人物の姿を眺めていた。
その人物はまだ年若い少女 であった。淡い色合いの金の髪は、黒いフードに隠れて僅かに覗くのみ。そして同じ色合いの黒い簡素な修道服 にその身を包んでいた。
「ロ……『ローラ』……?」
ローラが呆然と呟く。そう、それはあの『ディザイアシンドローム』事件の際に、とある要因で一時的に500年前の過去に跳んだ時に出会ったミラーカのかつての恋人、自らの命と引き換えにヴラド達を封印した聖女、そしてローラに自らの力の一部を分け与えてくれた戦友 でもある、オーストリアの修道女『ローラ』そのものの姿であった!
「……っ!」
それに気付いた彼女が、迫ってくるエリオットを迎撃しようと向きを変えるが、それは現在戦っているジョンに背を向ける行為であり、
「はは! 隙だらけだぜ!?」
「……っぅ!」
ジョンのサーベルによって背中を斬り付けられてしまう。苦痛に呻くシグリッドだが、そこへクリスの鉤爪のアームが振り下ろされる。辛うじて身を反らしてそれを躱すが、その時にはエリオットが至近距離まで迫っていた。
鋭い爪を貫手にして放たれた突きを躱しきれずに右の肩を抉られる。鮮血が飛び散り、シグリッドの表情が歪む。
「シグリッドッ!」
ローラは慌てて援護射撃を行ってエリオットの追撃を阻止するが、ジョンやクリスの攻撃までは防げない。それまで互角に戦っていたシグリッドが負傷によって一気に劣勢に追い込まれる。
『エリオット、そこはもういい! あの女だ! アイツを殺してくれっ!』
「……!」
それを見て取ったニックが、ミラーカと戦いながらも声を張り上げて指示する。彼が示すのは勿論ゾーイだ。
「グルゥゥッ!!」
指示を受けたエリオットは唸り声を上げながら、ゾーイ目掛けて突進する。他の前衛達の間をすり抜けるが、皆眼前の敵やクリスのアームに妨害されて、エリオットの動きを解っていながら阻止できない。
ヴェロニカもスパルナが相変わらず『刃』を放ってくる為、『障壁』と共にその場に釘付けにされて能動的な行動が取れない。結果恐ろしい勢いでゾーイに肉薄するエリオット。
「と、止まりなさいっ!」
ローラは慌ててエリオットに向けて牽制の射撃を撃ち込むが、灰色の人狼は素早い身のこなしで銃撃を避けると、そのまま四肢を撓めてゾーイに向かって飛び掛かった。
ゾーイ自身もクリスと遠距離攻撃の応酬をしており、とてもエリオットへの対処が間に合わない。
「――――っ!!」
先のフォルネウスの時と同じ状況だが、今度は他のメンバーも全員手が塞がっており庇う事もできない。ゾーイの顔が青ざめ、絶望に歪む。一瞬の後には、その細い首筋を怪物の顎と牙がズタズタに噛み砕くだろう。当然即死だ。
ゾーイが死ぬ。ローラの目の前で。
(駄目…………駄目、そんなの!)
「ゾーイィィィィィッ!!!」
絶叫。その瞬間ローラの身体の中で『ローラ』の力と、それとは全く異なる
(な、何……!? これは……何なのっ!?)
自らの内側に生じた感覚に戸惑うローラ。しかしその反応はお構いなしに一瞬で肥大化し、そして――――
――
「「「――――っ!?」」」
強烈な光が戦場となった敷地を迸り、一時的にその場にいた全員の視界を灼いた。凄まじい光量で、セネムの『神霊光』もこれに比べたら消えかかった懐中電灯のような物だ。
「ギャウゥゥッ!?」
そして今まさにゾーイに牙を突き立てんとしていたエリオットが、突如自分とゾーイの間に発生したその光の奔流を受けて弾き飛ばされた。
『な、何だ、これは!? 何が起きている……!』
「ローラ!? ローラッ!!」
ニックとミラーカの動揺した声が被さる。だがローラにもそれに応えている余裕はなかった。何が起きているのかは彼女にもさっぱり分からなかったからだ。ただ自分の
時間にすれば精々10秒ほどだろうか。体感的にはもっと長く感じた光の奔流が徐々に収まってくる。ローラ達も、そして【悪徳郷】の面々も……一様に庇ったり背けたりしていた視線を、その光の発生源となった位置に戻す。そして……
「な…………」
唖然とした声は誰が発した物だっただろうか。光が収まったその場所に、いつの間にか
その人物を見た反応は様々だ。大半の者が唖然としたような視線を向けるだけだったが、1人、いや
1人はミラーカだ。普段はクールで切れ長なその目が、驚きによって限界まで見開かれていた。そしてもう1人はローラ自身だ。ミラーカに負けず劣らず、信じられないような思いでその場に出現した人物の姿を眺めていた。
その人物はまだ年若い
「ロ……『ローラ』……?」
ローラが呆然と呟く。そう、それはあの『ディザイアシンドローム』事件の際に、とある要因で一時的に500年前の過去に跳んだ時に出会ったミラーカのかつての恋人、自らの命と引き換えにヴラド達を封印した聖女、そしてローラに自らの力の一部を分け与えてくれた