File6:疑問と糸口
文字数 2,317文字
「狼男……それが『ルーガルー』の正体という訳ね。命名したマスコミはかなり的を得ていたという事ね」
話を聞いている内に自身も知らずに力が入っていたのか、クレアも肩の力を抜きながらマスコミを皮肉る。ジョンソンが重々しく口を開く。
「しかしこれで裏付けは取れたな。……『ルーガルー』は普段 は人間の姿を取っているものと思われる。それこそ伝承上の狼男と同じようにな」
「人間の姿を? 何故そう言い切れるんだ?」
マイヤーズの疑問にクレアが答える。
「理由はいくつかあるけど、一番はマコーミック邸の玄関が開いていたという話ね。出ていく時は窓を破って出て行ったのよね? 何故入ってくる時だけ律儀に玄関から入ってきたのかしら? それに家の玄関は通りに面しているから、そんな化け物がうろついていたら確実に目撃されているはずよ。アーロン達の死亡推定時刻は、彼女……ローラが踏み込んだ時からそう経っていない、つまり朝の時間帯という事になる訳だしね」
ジョンソンが頷きながら引き継ぐ。
「それにこの街では在宅中でも鍵を掛けておくのが普通だ。つまり玄関は中から……アーロンが開けたという事になる。こじ開けられた形跡は無いようだしな。オオカミの化け物が呼び鈴を鳴らしたとして、お前達ならドアを開けるか?」
ジョンソンに問われてローラはついその光景を想像してしまう。……まあ絶対に開ける事は無い。それどころか悲鳴を上げて電話に飛びつくだろう。
「つまり『ルーガルー』はその時点でのアーロンが、家の玄関を開けても問題ないと判断できる人物だったという事になる。顔見知りか、或いは……信頼できる職業 の人間なのかも知れんな」
「……!」
ローラは息を呑む。自分達は『ルーガルー』の特異性ばかりに目が行き、またそれを如何に世間に知られずにおくかにばかり腐心していて、そもそもそこから一歩進んで考えるという事をしていなかった。ある意味思考停止状態にあったと言っても良いだろう。
彼等は『ルーガルー』が怪物であると予め仮定した上で、事実や痕跡に基づいて冷静にその正体を割り出そうとしている。
ローラがそんな印象を抱いていると、クレアが少し考え込むような仕草を取る。
「……そこまでは解るんだけど、それでも腑に落ちない点があるのよ」
「腑に落ちない点?」
「……『ルーガルー』はそもそも何故アーロンとショーンを襲ったのかしら?」
「そ、それは……」
自分が遭遇した事ばかりに意識が行っていて今まで考える余裕が無かったが、確かに良く考えてみるとそれは大きな疑問点だった。
『ルーガルー』は基本的に若い女性しか襲わないはずだ。それは今までの集められた情報からも明らかだ。なのに何故今回に限ってそのターゲットから外れているアーロン達を襲ったのだろうか。しかもわざわざ自宅に侵入までしているのだから、明確な殺意を持っていたはずだ。少なくとも目撃された口封じ等の突発的な犯行ではない。
「何か殺さなければならない理由があったか、それとも或いは……」
クレアはそこで言葉を切ってローラの顔をジッと見つめてきた。ローラは何故か落ち着かない心持ちになった。
「あ、あの……?」
「……いえ、やめておきましょう。それこそまだ推論の域を出ない話だわ」
クレアはジョンソンの方に視線を向けると再び頷き合った。そして2人共椅子から立ち上がった。
「貴重な話をありがとう。とても参考になったわ。基本的に私達は独自に動かさせてもらうけど、また何かあったら協力を要請するかも知れないわ。その時は宜しくね?」
それだけ告げると2人共こちらの返事も待たずに、さっさとオフィスから出て行ってしまった。後には唖然とした様子のローラとマイヤーズだけが残されていた。
「……警部補じゃありませんけど、本当に嵐みたいな感じでしたね」
「FBIという連中はいつもあんな物だからな。所轄の警察を下に見て、連携し合おうなどという気は微塵も無い。いつも一方的に要件を告げて引っ掻き回してくるだけだ」
苦い顔のマイヤーズ。どうやら過去にもFBI絡みの経験があるようだ。
「私達はこれからどうすれば良いんでしょうか?」
「基本的にはこれまでと変わらん。幸いと言うか、連中は独自に動く気のようだからな。癪ではあるが、連中の推理や物の見方は的を得ているかも知れん。我々も『ルーガルー』の正体を突き止めるという方向で動くのが良いだろう」
「となると、まずはアーロンが襲われた理由……マコーミック家に恨みを持つような人物の洗い出しから行うべきですね。……何だか『普通の』の犯罪捜査とやる事が同じになってきましたね。不謹慎かも知れませんが」
ローラの意見にマイヤーズも苦笑する。
「そうだな。我々は『ルーガルー』の特異性ばかりに目を奪われ過ぎていたようだ。奴が基本的 には人間であると言うなら、人間に対する犯罪捜査で追い詰めていく事が出来るかも知れん。ダリオがまだ回復しておらん状況で大変だとは思うが、これから忙しくなるぞ」
「はい……! 私なら大丈夫です。絶対に『ルーガルー』の正体を暴いてみせます。これ以上奴の犠牲者を増やさせはしません!」
ローラの脳裏には無残に殺されていたまだ幼いショーンの姿が浮かんでいた。あのような悲劇を繰り返させる訳には行かない。ダリオが重傷を負わされた怒りも手伝って、ローラはかつてない程に気力が充実している事を自覚していた……
話を聞いている内に自身も知らずに力が入っていたのか、クレアも肩の力を抜きながらマスコミを皮肉る。ジョンソンが重々しく口を開く。
「しかしこれで裏付けは取れたな。……『ルーガルー』は
「人間の姿を? 何故そう言い切れるんだ?」
マイヤーズの疑問にクレアが答える。
「理由はいくつかあるけど、一番はマコーミック邸の玄関が開いていたという話ね。出ていく時は窓を破って出て行ったのよね? 何故入ってくる時だけ律儀に玄関から入ってきたのかしら? それに家の玄関は通りに面しているから、そんな化け物がうろついていたら確実に目撃されているはずよ。アーロン達の死亡推定時刻は、彼女……ローラが踏み込んだ時からそう経っていない、つまり朝の時間帯という事になる訳だしね」
ジョンソンが頷きながら引き継ぐ。
「それにこの街では在宅中でも鍵を掛けておくのが普通だ。つまり玄関は中から……アーロンが開けたという事になる。こじ開けられた形跡は無いようだしな。オオカミの化け物が呼び鈴を鳴らしたとして、お前達ならドアを開けるか?」
ジョンソンに問われてローラはついその光景を想像してしまう。……まあ絶対に開ける事は無い。それどころか悲鳴を上げて電話に飛びつくだろう。
「つまり『ルーガルー』はその時点でのアーロンが、家の玄関を開けても問題ないと判断できる人物だったという事になる。顔見知りか、或いは……
「……!」
ローラは息を呑む。自分達は『ルーガルー』の特異性ばかりに目が行き、またそれを如何に世間に知られずにおくかにばかり腐心していて、そもそもそこから一歩進んで考えるという事をしていなかった。ある意味思考停止状態にあったと言っても良いだろう。
彼等は『ルーガルー』が怪物であると予め仮定した上で、事実や痕跡に基づいて冷静にその正体を割り出そうとしている。
ローラがそんな印象を抱いていると、クレアが少し考え込むような仕草を取る。
「……そこまでは解るんだけど、それでも腑に落ちない点があるのよ」
「腑に落ちない点?」
「……『ルーガルー』はそもそも何故アーロンとショーンを襲ったのかしら?」
「そ、それは……」
自分が遭遇した事ばかりに意識が行っていて今まで考える余裕が無かったが、確かに良く考えてみるとそれは大きな疑問点だった。
『ルーガルー』は基本的に若い女性しか襲わないはずだ。それは今までの集められた情報からも明らかだ。なのに何故今回に限ってそのターゲットから外れているアーロン達を襲ったのだろうか。しかもわざわざ自宅に侵入までしているのだから、明確な殺意を持っていたはずだ。少なくとも目撃された口封じ等の突発的な犯行ではない。
「何か殺さなければならない理由があったか、それとも或いは……」
クレアはそこで言葉を切ってローラの顔をジッと見つめてきた。ローラは何故か落ち着かない心持ちになった。
「あ、あの……?」
「……いえ、やめておきましょう。それこそまだ推論の域を出ない話だわ」
クレアはジョンソンの方に視線を向けると再び頷き合った。そして2人共椅子から立ち上がった。
「貴重な話をありがとう。とても参考になったわ。基本的に私達は独自に動かさせてもらうけど、また何かあったら協力を要請するかも知れないわ。その時は宜しくね?」
それだけ告げると2人共こちらの返事も待たずに、さっさとオフィスから出て行ってしまった。後には唖然とした様子のローラとマイヤーズだけが残されていた。
「……警部補じゃありませんけど、本当に嵐みたいな感じでしたね」
「FBIという連中はいつもあんな物だからな。所轄の警察を下に見て、連携し合おうなどという気は微塵も無い。いつも一方的に要件を告げて引っ掻き回してくるだけだ」
苦い顔のマイヤーズ。どうやら過去にもFBI絡みの経験があるようだ。
「私達はこれからどうすれば良いんでしょうか?」
「基本的にはこれまでと変わらん。幸いと言うか、連中は独自に動く気のようだからな。癪ではあるが、連中の推理や物の見方は的を得ているかも知れん。我々も『ルーガルー』の正体を突き止めるという方向で動くのが良いだろう」
「となると、まずはアーロンが襲われた理由……マコーミック家に恨みを持つような人物の洗い出しから行うべきですね。……何だか『普通の』の犯罪捜査とやる事が同じになってきましたね。不謹慎かも知れませんが」
ローラの意見にマイヤーズも苦笑する。
「そうだな。我々は『ルーガルー』の特異性ばかりに目を奪われ過ぎていたようだ。奴が
「はい……! 私なら大丈夫です。絶対に『ルーガルー』の正体を暴いてみせます。これ以上奴の犠牲者を増やさせはしません!」
ローラの脳裏には無残に殺されていたまだ幼いショーンの姿が浮かんでいた。あのような悲劇を繰り返させる訳には行かない。ダリオが重傷を負わされた怒りも手伝って、ローラはかつてない程に気力が充実している事を自覚していた……