File28:デス・ライズ
文字数 4,254文字
何もする気力が起きなかった。やらなければならない事は沢山あった。それは解っていた。ジェシカやヴェロニカ、ナターシャ達が来てくれた事も認識している。セネムも含めて彼女らに心配を掛けてしまっている事も自覚していた。
これ以上心配を掛ける前に立ち上がらなければ。そう思うのに……
――離しなさいっ!
――あなた達には関係ない。私の事は忘れてくれていいわ。
「……っ!」
ローラの脳裏に鮮烈に焼き付いた光景。そしてその声。煩わし気な視線を向けるその顔……。思い出すだけで身体が震える。悲しみだけでなく……恐怖 によってだ。
彼女ともう一度会うと想像しただけで、そしてまたあの視線を向けられると考えただけで、身体中の力が萎えて立てない程の恐怖に見舞われる。
自分はこんなにも臆病で意気地がなかったのかと自分で驚くほどだ。ミラーカと共に数多くの死線を潜り抜けてきた。それで自分は強くなったと思っていた。
だがそうではなかった。その強さはミラーカという存在が自分と共に在るという前提の上に成り立つ強さであったのだ。その前提条件が崩れ去れば共に崩壊してしまう諸刃の剣であったのだ。
結果以前よりも格段に弱くなってしまったローラは、目の前の現実から目を背けて自分の殻に閉じこもってしまっていた。
「ローラ……水だけでも飲まないと」
一緒にいるナターシャが心配げな様子で、水の入ったコップを持ってくる。
「…………」
喉の渇きという生理的欲求には抗えずに、機械的にコップに口を付ける。だがそれだけだ。顔を上げて礼を言う事すら億劫であった。
ナターシャはジェシカ達3人が市庁舎へ向かってから、既に何度もローラに対して説得の言葉を繰り返した。だが頭では彼女の言葉を理解しているのだが、それに対して能動的な行動を起こそうとすると、その度にミラーカの仕打ちが脳裏に甦って彼女の気力を萎えさせた。
出来たのはやはり生理的欲求によってトイレに行く事だけだった。シャワーすら浴びる気力が無かった。
いつしかナターシャも説得を諦め、ローラが自然に立ち直るのを待つと言って、後は最低限の世話だけに従事していた。彼女には申し訳ないと思っている。感謝もしている。だがどうしても駄目なのだ。
そんな無為の時間がしばらく過ぎた時の事だった。
バタッ! と何かが倒れる音がした。茫洋とした視線を向けたローラは、そこで少し目を見開いた。何かに反応して驚く事自体久しぶりだ。
部屋の入り口にナターシャが倒れていた。胸は上下しているので死んではいないようだが、完全に意識を失って気絶している。
「ナ、ナターシャ……?」
一体何が、と思った次の瞬間、部屋中の照明が全て消えた。
「っ!? な……あ……?」
思わず動揺するローラ。そこに追い打ちを掛けるように、心臓を鷲掴みにされるような苦しさを感じた。自律神経が乱れて上手く呼吸が出来なくなる。
「はっ! はぁ! はぁ! はぁっ!」
胸を押さえて過呼吸のような呼吸を繰り返す。この感覚には覚えがあった。『ルーガルー』の咆哮を浴びた時や『エーリアル』の怒りをぶつけられた時などだ。いや、もしかするとあの時よりも強烈かも知れない。
(な、何が……一体……?)
まさかマリードとやらが直接襲ってきたのだろうか。急いでベッドから這い出ようとするローラだが、足も体幹も全く動かない事に気付いた。まるで金縛りにあったかのようだった。
(い、いや……た、助けて、ミラーカ……ッ!)
無意識にミラーカに助けを求めようとして、もうそれが適わないだと思い出し唇を噛み締める。
何とか動こうと身体をもがかせるローラ。その時、彼女の目の前で『異変』が起こった。
「……!」
窓から差し込む僅かな街の灯りが光源となった暗い部屋の中に、ボゥ……と浮かび上がる物があった。
「ひっ!?」
思わず口から悲鳴が漏れ出てしまう。彼女の目の前……少し高い位置に、白い髑髏 が浮かんでいたのだ。その髑髏は次第に輪郭を露わにし、ローラの部屋の中にその姿を顕現させた。
髑髏はよく見ると黒いフードとローブのような物を纏っていた。そのローブから僅かに露出した両手はやはり白い骨だけで構成されている。そしてその骨の両手に長柄の大鎌を携えていた。
――それはまさに『死神』としか形容しようのない存在であった。
「あ……あぁ……」
人間としての根源的な恐怖に震えるローラだが、彼女はこの存在に心当たりがあった。彼女を捨てて去って行ったミラーカが、かつてこの存在について言及していたのを思い出した。
恐ろし気な姿と力を持つ謎の『死神』……。しかしミラーカに敵対的な行動を取る事はなく逆に彼女を助けるような警告を与えるのだとか。その警告によってローラが助かった場面も多かったらしい。
ローラは直接その姿を見た事はなく常にミラーカの前にだけ姿を現していた存在が、遂にローラの前にも現れたのだ。
『『特異点』ヨ……。汝ノ想イ人 ハ今、闇ニ囚ワレテイル……』
「……!?」
『死神』が喋った 。髑髏の顎は一切動いていないが、まるでローラの頭の中に直接語り掛けるような非人間的な音声であった。
(と、特異点……? 何の事? お、想い人って、まさか……!?)
ヴェロニカが、ミラーカは市庁舎に特攻したまま行方不明になっていると言っていたのを思い出した。恐らく市長に敗れたのだとも。
「で……でも、今、セネムやヴェロニカ達が……」
『死神』がこちらに害を加える事は無いというミラーカの言葉を思い出してどうにか落ち着きを取り戻したローラは、辛うじて喋れるようになっていた。
『……アノ者達ダケデハ無理ダ。汝ノ想イ人ヲ救エルノハ汝ノミ……』
「……!」
セネムやジェシカ達に勝てない相手にローラが何を出来るというのか。だがこの『死神』がわざわざローラの前に姿を現したのは相応の理由があるはずだ。しかし……
「わ、私……私は、もう、ミラーカとは…………」
口にすると再び涙が込み上げてくる。自分達はもう終わってしまったのだ。ミラーカはローラを打ち捨てた。そんな相手に助けられる事を彼女が望んでいるはずがない。
『今重要ナノハ汝自身ノ気持チダ。汝ハ諦メルノカ? 諦メタイノカ?』
「……っ!」
(わ、私自身の、気持ち……?)
考えた事もなかった。いや、考えるまでもなかった 。
(諦める? ……嫌! 絶対に嫌よっ!)
それが偽らざるローラ自身の気持ちだった。
『汝ノ想イ人ハ、500年前ノ妄執ニ取リ憑カレテイル。他ノ者ニソノ呪縛ハ解ケヌ。解ケルトシタラソレハ唯一人、汝ノミ……』
「……!」
『汝ガコレマデアノ者ト共ニ乗リ越エテ来タ日々ハ、決シテ軽イ物デハナイ。アノ者ニ今一度ソレヲ思イ出サセルノダ。サスレバ汝ノ言葉ト想イハ必ズ届ク……』
「…………」
ローラは冷え切って荒れ果てていた自分の心に、徐々に熱い炎が滾ってくるのを感じていた。
(……まさか死神に発破を掛けられる日がくるなんてね)
ミラーカと出会う前までのローラなら……いや、今の今まで想像だに出来ない光景ではあった。そう思うと無性に滑稽でおかしさすら感じてしまった。
内心とはいえ、笑った事自体久しぶりであった。それだけで心に活力が湧いてくるような気がした。
その瞳を決意に漲らせたローラの様子を感じ取って『死神』が頷くような気配があった。
『……コレヲ持ッテイケ』
『死神』がローブの懐から何かを取り出しサイドテーブルの上に置いた。それは……小さな骨の欠片のような物であった。
「これは?」
『我ガ身体 ノ一部ダ。ソレヲ持ッテイレバ魔神ノ結界ノ影響ヲ遮断デキルダロウ』
「……!」
結界……。あのシモンズが張っていた空間の檻を思い出した。マリードとやらは間違いなくあれより強力で広範囲な結界を張れるのだろう。それこそ市庁舎全体を覆う程の。
折角ミラーカに会おうと決意したのに、そもそも敵の根城に入れないでは意味がない。また空間そのものを弄れるなら、中に入れたとしてもどんな妨害があるか知れたものではない。
そういう意味ではこれは極めて有用な、護符 のような物という訳だ。
『ソレダケデハナイ。汝ガ想イ人ハ闇ノ中ニ囚ワレテイル。ソノ欠片ヲ想イ人ノ身体ニ押シ付ケルノダ。ソノ後ハ汝次第ダ』
「……あ、ありがとう」
『行ケ。自分トアノ者ノ絆 ヲ信ジルノダ……。サスレバ必ズ道ハ開ケル』
「……あなたは一体何者なの? どうして私やミラーカを助けてくれるの?」
ついそんな疑問が口をついて出た。ある意味当然の疑問だろう。死神に好かれるような事をした憶えはない。
『今ハマダ明カセヌ。ダガ……ソノ時 ハ着実ニ近付イテイル。ソシテソレハソウ遠イ日ノ事デハナイダロウ……』
「…………」
『死神』の輪郭が徐々にぼやけ、闇に溶け込むようにして消えていく。数瞬の後には存在そのものが夢幻であったかのように完全に消え去ってしまった。
同時に部屋中の照明が点灯した。
「……!」
ローラはハッとしたように辺りを見渡した。まるで夢を見ていたかのような不可思議な体験であった。だが……
未だにサイドテーブルの上で異彩を放つ『ソレ』……小さな骨の欠片が、今の一幕が夢などではなかった事を証明していた。
ローラはベッドから起き上がった。少しふらついたがすぐに持ち直した。
(大丈夫。歩ける。走れる。……戦える!)
すぐに身支度を整える。専用のホルスターを装着し、デザートイーグルを身に着ける。そして『死神』が残していった骨の欠片をスーツの懐に入れる。まだ目を覚まさないナターシャを自分のベッドに運んで寝かせておく。
サイドテーブルに市庁舎に向かう事、そして必ずミラーカ達と共に帰ってくるので待っていて欲しいという旨のメモを書いて置いておく。
「ありがとう、ナターシャ。心配掛けちゃったわね。……行ってくるわ」
それだけを告げて、後は振り返らずにアパートを後にしていった……
これ以上心配を掛ける前に立ち上がらなければ。そう思うのに……
――離しなさいっ!
――あなた達には関係ない。私の事は忘れてくれていいわ。
「……っ!」
ローラの脳裏に鮮烈に焼き付いた光景。そしてその声。煩わし気な視線を向けるその顔……。思い出すだけで身体が震える。悲しみだけでなく……
彼女ともう一度会うと想像しただけで、そしてまたあの視線を向けられると考えただけで、身体中の力が萎えて立てない程の恐怖に見舞われる。
自分はこんなにも臆病で意気地がなかったのかと自分で驚くほどだ。ミラーカと共に数多くの死線を潜り抜けてきた。それで自分は強くなったと思っていた。
だがそうではなかった。その強さはミラーカという存在が自分と共に在るという前提の上に成り立つ強さであったのだ。その前提条件が崩れ去れば共に崩壊してしまう諸刃の剣であったのだ。
結果以前よりも格段に弱くなってしまったローラは、目の前の現実から目を背けて自分の殻に閉じこもってしまっていた。
「ローラ……水だけでも飲まないと」
一緒にいるナターシャが心配げな様子で、水の入ったコップを持ってくる。
「…………」
喉の渇きという生理的欲求には抗えずに、機械的にコップに口を付ける。だがそれだけだ。顔を上げて礼を言う事すら億劫であった。
ナターシャはジェシカ達3人が市庁舎へ向かってから、既に何度もローラに対して説得の言葉を繰り返した。だが頭では彼女の言葉を理解しているのだが、それに対して能動的な行動を起こそうとすると、その度にミラーカの仕打ちが脳裏に甦って彼女の気力を萎えさせた。
出来たのはやはり生理的欲求によってトイレに行く事だけだった。シャワーすら浴びる気力が無かった。
いつしかナターシャも説得を諦め、ローラが自然に立ち直るのを待つと言って、後は最低限の世話だけに従事していた。彼女には申し訳ないと思っている。感謝もしている。だがどうしても駄目なのだ。
そんな無為の時間がしばらく過ぎた時の事だった。
バタッ! と何かが倒れる音がした。茫洋とした視線を向けたローラは、そこで少し目を見開いた。何かに反応して驚く事自体久しぶりだ。
部屋の入り口にナターシャが倒れていた。胸は上下しているので死んではいないようだが、完全に意識を失って気絶している。
「ナ、ナターシャ……?」
一体何が、と思った次の瞬間、部屋中の照明が全て消えた。
「っ!? な……あ……?」
思わず動揺するローラ。そこに追い打ちを掛けるように、心臓を鷲掴みにされるような苦しさを感じた。自律神経が乱れて上手く呼吸が出来なくなる。
「はっ! はぁ! はぁ! はぁっ!」
胸を押さえて過呼吸のような呼吸を繰り返す。この感覚には覚えがあった。『ルーガルー』の咆哮を浴びた時や『エーリアル』の怒りをぶつけられた時などだ。いや、もしかするとあの時よりも強烈かも知れない。
(な、何が……一体……?)
まさかマリードとやらが直接襲ってきたのだろうか。急いでベッドから這い出ようとするローラだが、足も体幹も全く動かない事に気付いた。まるで金縛りにあったかのようだった。
(い、いや……た、助けて、ミラーカ……ッ!)
無意識にミラーカに助けを求めようとして、もうそれが適わないだと思い出し唇を噛み締める。
何とか動こうと身体をもがかせるローラ。その時、彼女の目の前で『異変』が起こった。
「……!」
窓から差し込む僅かな街の灯りが光源となった暗い部屋の中に、ボゥ……と浮かび上がる物があった。
「ひっ!?」
思わず口から悲鳴が漏れ出てしまう。彼女の目の前……少し高い位置に、白い
髑髏はよく見ると黒いフードとローブのような物を纏っていた。そのローブから僅かに露出した両手はやはり白い骨だけで構成されている。そしてその骨の両手に長柄の大鎌を携えていた。
――それはまさに『死神』としか形容しようのない存在であった。
「あ……あぁ……」
人間としての根源的な恐怖に震えるローラだが、彼女はこの存在に心当たりがあった。彼女を捨てて去って行ったミラーカが、かつてこの存在について言及していたのを思い出した。
恐ろし気な姿と力を持つ謎の『死神』……。しかしミラーカに敵対的な行動を取る事はなく逆に彼女を助けるような警告を与えるのだとか。その警告によってローラが助かった場面も多かったらしい。
ローラは直接その姿を見た事はなく常にミラーカの前にだけ姿を現していた存在が、遂にローラの前にも現れたのだ。
『『特異点』ヨ……。汝ノ
「……!?」
『死神』が
(と、特異点……? 何の事? お、想い人って、まさか……!?)
ヴェロニカが、ミラーカは市庁舎に特攻したまま行方不明になっていると言っていたのを思い出した。恐らく市長に敗れたのだとも。
「で……でも、今、セネムやヴェロニカ達が……」
『死神』がこちらに害を加える事は無いというミラーカの言葉を思い出してどうにか落ち着きを取り戻したローラは、辛うじて喋れるようになっていた。
『……アノ者達ダケデハ無理ダ。汝ノ想イ人ヲ救エルノハ汝ノミ……』
「……!」
セネムやジェシカ達に勝てない相手にローラが何を出来るというのか。だがこの『死神』がわざわざローラの前に姿を現したのは相応の理由があるはずだ。しかし……
「わ、私……私は、もう、ミラーカとは…………」
口にすると再び涙が込み上げてくる。自分達はもう終わってしまったのだ。ミラーカはローラを打ち捨てた。そんな相手に助けられる事を彼女が望んでいるはずがない。
『今重要ナノハ汝自身ノ気持チダ。汝ハ諦メルノカ? 諦メタイノカ?』
「……っ!」
(わ、私自身の、気持ち……?)
考えた事もなかった。いや、
(諦める? ……嫌! 絶対に嫌よっ!)
それが偽らざるローラ自身の気持ちだった。
『汝ノ想イ人ハ、500年前ノ妄執ニ取リ憑カレテイル。他ノ者ニソノ呪縛ハ解ケヌ。解ケルトシタラソレハ唯一人、汝ノミ……』
「……!」
『汝ガコレマデアノ者ト共ニ乗リ越エテ来タ日々ハ、決シテ軽イ物デハナイ。アノ者ニ今一度ソレヲ思イ出サセルノダ。サスレバ汝ノ言葉ト想イハ必ズ届ク……』
「…………」
ローラは冷え切って荒れ果てていた自分の心に、徐々に熱い炎が滾ってくるのを感じていた。
(……まさか死神に発破を掛けられる日がくるなんてね)
ミラーカと出会う前までのローラなら……いや、今の今まで想像だに出来ない光景ではあった。そう思うと無性に滑稽でおかしさすら感じてしまった。
内心とはいえ、笑った事自体久しぶりであった。それだけで心に活力が湧いてくるような気がした。
その瞳を決意に漲らせたローラの様子を感じ取って『死神』が頷くような気配があった。
『……コレヲ持ッテイケ』
『死神』がローブの懐から何かを取り出しサイドテーブルの上に置いた。それは……小さな骨の欠片のような物であった。
「これは?」
『我ガ
「……!」
結界……。あのシモンズが張っていた空間の檻を思い出した。マリードとやらは間違いなくあれより強力で広範囲な結界を張れるのだろう。それこそ市庁舎全体を覆う程の。
折角ミラーカに会おうと決意したのに、そもそも敵の根城に入れないでは意味がない。また空間そのものを弄れるなら、中に入れたとしてもどんな妨害があるか知れたものではない。
そういう意味ではこれは極めて有用な、
『ソレダケデハナイ。汝ガ想イ人ハ闇ノ中ニ囚ワレテイル。ソノ欠片ヲ想イ人ノ身体ニ押シ付ケルノダ。ソノ後ハ汝次第ダ』
「……あ、ありがとう」
『行ケ。自分トアノ者ノ
「……あなたは一体何者なの? どうして私やミラーカを助けてくれるの?」
ついそんな疑問が口をついて出た。ある意味当然の疑問だろう。死神に好かれるような事をした憶えはない。
『今ハマダ明カセヌ。ダガ……
「…………」
『死神』の輪郭が徐々にぼやけ、闇に溶け込むようにして消えていく。数瞬の後には存在そのものが夢幻であったかのように完全に消え去ってしまった。
同時に部屋中の照明が点灯した。
「……!」
ローラはハッとしたように辺りを見渡した。まるで夢を見ていたかのような不可思議な体験であった。だが……
未だにサイドテーブルの上で異彩を放つ『ソレ』……小さな骨の欠片が、今の一幕が夢などではなかった事を証明していた。
ローラはベッドから起き上がった。少しふらついたがすぐに持ち直した。
(大丈夫。歩ける。走れる。……戦える!)
すぐに身支度を整える。専用のホルスターを装着し、デザートイーグルを身に着ける。そして『死神』が残していった骨の欠片をスーツの懐に入れる。まだ目を覚まさないナターシャを自分のベッドに運んで寝かせておく。
サイドテーブルに市庁舎に向かう事、そして必ずミラーカ達と共に帰ってくるので待っていて欲しいという旨のメモを書いて置いておく。
「ありがとう、ナターシャ。心配掛けちゃったわね。……行ってくるわ」
それだけを告げて、後は振り返らずにアパートを後にしていった……