File8:魔界への入り口
文字数 2,684文字
『死の博物館』を後にしたセネム達は、そこを起点にして邪気の痕跡を辿っていった。邪気は北に向かうほど濃密になっている事に気付いた彼女らは、北に向けて進路を取る。
そこから住宅街を抜けるとハリウッド公園湖と呼ばれる、LAの只中にぽっかりと開いた広大な自然公園となっていた。
「……邪気が増々強くなっているな。この先に何かあるのは間違いなさそうだな」
公園に踏み込んだ一行。先頭を歩くセネムが注意を促す。ナターシャが気味悪そうに周囲を見渡す。
「……夜だから当たり前かも知れないけど、全く人の気配がないわね」
「あの博物館で骨の山を隠していたのと同じ力が働いているようです。恐らく例え日中や休日でも殆ど人の往来は無いでしょう。この公園の存在そのものが希薄になって、人々が意識しないようになっているはずです」
モニカが厳しい目線で辺りに目を向けながら説明する。ここは既に『敵』の領域といっても過言ではなく、どこから襲撃があるかも解らないのだ。
と、森の木々を縫うようにして高速で迫ってくる何かの気配をセネムは察知した。ほぼ同時にモニカも気付いたようだ。
「来るぞ! 皆、気を付けろ! ゾーイはナターシャを頼む!」
セネムは博物館を出てから纏い直していた衣装を再び脱ぎ払って、曲刀を構える。モニカとゾーイも各々臨戦態勢を整える。
ほぼ同時に木々の闇の向こうから何体かの飛翔する影が飛び出してきた。ビブロス達だ。やはりここにもいた。今度は3体で、セネム達それぞれに1体ずつ向かってきた。
「ゾーイ! 私達が行くまで持ち堪えるんだ!」
「わ、解ったわ! なるべく早くしてよ!」
やや頼りない返事を背に、セネムは自分に向かってきたビブロスに向き直った。敵の片手には既に魔力で作り出したと思しき剣が握られている。そしてもう片方の手には……
「……!」
ビブロスの手から一条の電撃が放たれた。セネムは事前に放電現象を確認していたので、その軌道を予測して回避する事に成功した。そしてこれ以上遠距離攻撃を放たれる前に一気に距離を詰める。
ビブロスは咄嗟に上空に飛び上がって逃れようとするが、木々が生い茂る森であった事が災いして動きを阻害される。そこにセネムが近くの木の幹を蹴るようにして高く跳躍した。
「むんっ!」
跳躍の勢いも利用して斬り付けるが、その斬撃はビブロスの剣によって受けられてしまう。しかしそれによって奴の上空への離脱を阻止できた。
そのまま敵に態勢を立て直す暇を与えず一気呵成に攻め掛かる。ビブロスも剣を振り回して反撃してくるが、完全な接近戦ならセネムに分がある。彼女は二振りの曲刀を縦横無尽に動かして、敵の反撃を受け止めつつ、カウンターで着実にダメージを与えていく。
ビブロスはやはりかなりのしぶとさで抵抗してくるが、前回と同じように首を刎ねる事で斃せた。蒸発するように耳障りな音を立てながらビブロスの死体が消滅していく。
モニカもやはり敵の攻撃を風の防壁で散らしつつ、風の刃や地面から飛び出した石礫などで反撃していく。遠距離戦では分が悪いと見たビブロスが翼をはためかせて上空から斬り掛かってくるが、
「樹木の精霊よ!」
モニカが呼び掛けると、何と周囲の木々が枝を伸ばしてビブロスを捕えたのだ! ファンタジー極まる光景に、見ていたセネムも目を瞠った。
そして動きを封じたビブロスの首をモニカが放った風の刃が切断した。やはり音を立てて蒸発していく悪魔の死体。
後はゾーイだけだが、彼女は剣を持って接近戦を仕掛けてくるビブロス相手に、自分とナターシャを守るので精一杯の様子であった。遠距離戦なら互角に戦えるようだが、やはり接近戦は分が悪いようだ。ビブロスもそう判断したのだろう。
「ゾーイ! よく堪えた!」
だがそこにセネムとモニカが加勢した事で一気に戦局が傾いて、3体目のビブロスも無事に倒す事に成功した。
「ふぅ、た、助かったわ。でもその『ゲート』ってやつを放置してたら、こんなのがどんどん出てくるんでしょ? 何が何でも閉じなきゃって気持ちが強まったわ」
ゾーイが汗を拭いながら礼を言う。モニカが頷いた。
「まさにその通りです。しかもビブロス達はあくまで尖兵に過ぎません。『ゲート』を放置して更に大きくなった場合、より強力な悪魔が出現する可能性もあります。そうなる前に何としても『ゲート』を閉じなければなりません」
「……!」
「そ、そんな事になったら、LAは地獄と化すわね。いえ、半分魔界 だっけ?」
より強力な悪魔という言葉にセネムがピクッと眉を吊り上げる。ナターシャも青ざめた表情で事の重大さを認識しているようだった。
一行は戦闘の疲れを癒やす時間も惜しいとばかりに、再び邪気の中心に向かって移動を再開した。
邪気を追いながら森を抜けると、そこにはハリウッド貯水池という小さな湖が佇んでいた。そしてその湖の湖面上空に当たる場所に……
「……っ!!」
「あ……あ……な、何、あれ……?」
ナターシャが呆然とした表情でソレ を見上げる。勿論ゾーイも同じ表情だ。
湖面から浮かび上がるようにして、直径30フィート(約10メートル)はあろうかという巨大な赤い光の球が存在していたのだ。
しかもそれはただの光の球ではなかった。光球の中心には逆に全ての光を吸収するような、巨大な真っ黒い『穴』が開いていたのだ。その『穴』の中は全く見通す事はできない。
そしてセネムには感じられた。その『穴』からまるでエアコンのように、新しい邪気が次々と吹き出してくるのを。もう間違いない。
「これが……『ゲート』か!」
「そうです。そしてこの『穴』の先は魔界へと通じているはずです」
「……っ!!」
首肯するモニカの言葉に、セネムだけでなくゾーイもナターシャも目を瞠る。『魔界』などという、宗教本や物語の中にしか出てこないような場所が現実にあり、しかもそこへの出入り口が目の前にあるというのだ。何とも不気味な気持ちになるのは致し方ないと言える。
「……で、どうやって閉じるの、コレ? というかここまで来たんだから閉じれるのよね?」
ナターシャが若干縋るような目をモニカに向ける。果たして彼女は再び首肯した。
「勿論です。『ゲート』は完全には開いていません。今ならまだ精霊の力を借りて塞ぐ事が出来るはずです」
これも彼女から事前に言われていたのだが、この『ゲート』はまだ不完全な状態であるらしい。何か『ゲート』を完成させる為の条件 があるらしいのだが、それが具体的に何であるかはモニカにも解らなかった。だがいずれにせよ急いだ方がいいのは事実だ。
そこから住宅街を抜けるとハリウッド公園湖と呼ばれる、LAの只中にぽっかりと開いた広大な自然公園となっていた。
「……邪気が増々強くなっているな。この先に何かあるのは間違いなさそうだな」
公園に踏み込んだ一行。先頭を歩くセネムが注意を促す。ナターシャが気味悪そうに周囲を見渡す。
「……夜だから当たり前かも知れないけど、全く人の気配がないわね」
「あの博物館で骨の山を隠していたのと同じ力が働いているようです。恐らく例え日中や休日でも殆ど人の往来は無いでしょう。この公園の存在そのものが希薄になって、人々が意識しないようになっているはずです」
モニカが厳しい目線で辺りに目を向けながら説明する。ここは既に『敵』の領域といっても過言ではなく、どこから襲撃があるかも解らないのだ。
と、森の木々を縫うようにして高速で迫ってくる何かの気配をセネムは察知した。ほぼ同時にモニカも気付いたようだ。
「来るぞ! 皆、気を付けろ! ゾーイはナターシャを頼む!」
セネムは博物館を出てから纏い直していた衣装を再び脱ぎ払って、曲刀を構える。モニカとゾーイも各々臨戦態勢を整える。
ほぼ同時に木々の闇の向こうから何体かの飛翔する影が飛び出してきた。ビブロス達だ。やはりここにもいた。今度は3体で、セネム達それぞれに1体ずつ向かってきた。
「ゾーイ! 私達が行くまで持ち堪えるんだ!」
「わ、解ったわ! なるべく早くしてよ!」
やや頼りない返事を背に、セネムは自分に向かってきたビブロスに向き直った。敵の片手には既に魔力で作り出したと思しき剣が握られている。そしてもう片方の手には……
「……!」
ビブロスの手から一条の電撃が放たれた。セネムは事前に放電現象を確認していたので、その軌道を予測して回避する事に成功した。そしてこれ以上遠距離攻撃を放たれる前に一気に距離を詰める。
ビブロスは咄嗟に上空に飛び上がって逃れようとするが、木々が生い茂る森であった事が災いして動きを阻害される。そこにセネムが近くの木の幹を蹴るようにして高く跳躍した。
「むんっ!」
跳躍の勢いも利用して斬り付けるが、その斬撃はビブロスの剣によって受けられてしまう。しかしそれによって奴の上空への離脱を阻止できた。
そのまま敵に態勢を立て直す暇を与えず一気呵成に攻め掛かる。ビブロスも剣を振り回して反撃してくるが、完全な接近戦ならセネムに分がある。彼女は二振りの曲刀を縦横無尽に動かして、敵の反撃を受け止めつつ、カウンターで着実にダメージを与えていく。
ビブロスはやはりかなりのしぶとさで抵抗してくるが、前回と同じように首を刎ねる事で斃せた。蒸発するように耳障りな音を立てながらビブロスの死体が消滅していく。
モニカもやはり敵の攻撃を風の防壁で散らしつつ、風の刃や地面から飛び出した石礫などで反撃していく。遠距離戦では分が悪いと見たビブロスが翼をはためかせて上空から斬り掛かってくるが、
「樹木の精霊よ!」
モニカが呼び掛けると、何と周囲の木々が枝を伸ばしてビブロスを捕えたのだ! ファンタジー極まる光景に、見ていたセネムも目を瞠った。
そして動きを封じたビブロスの首をモニカが放った風の刃が切断した。やはり音を立てて蒸発していく悪魔の死体。
後はゾーイだけだが、彼女は剣を持って接近戦を仕掛けてくるビブロス相手に、自分とナターシャを守るので精一杯の様子であった。遠距離戦なら互角に戦えるようだが、やはり接近戦は分が悪いようだ。ビブロスもそう判断したのだろう。
「ゾーイ! よく堪えた!」
だがそこにセネムとモニカが加勢した事で一気に戦局が傾いて、3体目のビブロスも無事に倒す事に成功した。
「ふぅ、た、助かったわ。でもその『ゲート』ってやつを放置してたら、こんなのがどんどん出てくるんでしょ? 何が何でも閉じなきゃって気持ちが強まったわ」
ゾーイが汗を拭いながら礼を言う。モニカが頷いた。
「まさにその通りです。しかもビブロス達はあくまで尖兵に過ぎません。『ゲート』を放置して更に大きくなった場合、より強力な悪魔が出現する可能性もあります。そうなる前に何としても『ゲート』を閉じなければなりません」
「……!」
「そ、そんな事になったら、LAは地獄と化すわね。いえ、
より強力な悪魔という言葉にセネムがピクッと眉を吊り上げる。ナターシャも青ざめた表情で事の重大さを認識しているようだった。
一行は戦闘の疲れを癒やす時間も惜しいとばかりに、再び邪気の中心に向かって移動を再開した。
邪気を追いながら森を抜けると、そこにはハリウッド貯水池という小さな湖が佇んでいた。そしてその湖の湖面上空に当たる場所に……
「……っ!!」
「あ……あ……な、何、あれ……?」
ナターシャが呆然とした表情で
湖面から浮かび上がるようにして、直径30フィート(約10メートル)はあろうかという巨大な赤い光の球が存在していたのだ。
しかもそれはただの光の球ではなかった。光球の中心には逆に全ての光を吸収するような、巨大な真っ黒い『穴』が開いていたのだ。その『穴』の中は全く見通す事はできない。
そしてセネムには感じられた。その『穴』からまるでエアコンのように、新しい邪気が次々と吹き出してくるのを。もう間違いない。
「これが……『ゲート』か!」
「そうです。そしてこの『穴』の先は魔界へと通じているはずです」
「……っ!!」
首肯するモニカの言葉に、セネムだけでなくゾーイもナターシャも目を瞠る。『魔界』などという、宗教本や物語の中にしか出てこないような場所が現実にあり、しかもそこへの出入り口が目の前にあるというのだ。何とも不気味な気持ちになるのは致し方ないと言える。
「……で、どうやって閉じるの、コレ? というかここまで来たんだから閉じれるのよね?」
ナターシャが若干縋るような目をモニカに向ける。果たして彼女は再び首肯した。
「勿論です。『ゲート』は完全には開いていません。今ならまだ精霊の力を借りて塞ぐ事が出来るはずです」
これも彼女から事前に言われていたのだが、この『ゲート』はまだ不完全な状態であるらしい。何か『ゲート』を完成させる為の