File15:頼れる援軍

文字数 2,649文字

 LAPDの新人刑事、リンファは焦っていた。相棒であり、尊敬する先輩刑事でもあるローラ・ギブソン部長刑事が行方知れずとなってしまったのだ。

 明日からモーテルやホテルへの聞き込みを開始するからとしっかり休んでおくようにとその日は解散となり、翌日出勤するとローラが居なかった。まさか寝坊した訳でもあるまいと思って待っていたのだが、午前9時を回っても捜査本部に姿を見せなかった。

 流石に不審に思って携帯に掛けてみたが出る様子が無い。教えてもらっていたLINEのアドレスにメールしてみたが、返信は無かった。お昼を回っても既読にすらならなかった。

 これはただ事ではないと感じたリンファは、即座にストックトン警部補に報告した。



「……何だと? ローラが……!?」

 リンファの報告を聞くなり、警部補は表情を険しくした。そしてしばらく難しい顔で何かを考え込んでいたかと思うと、顔を上げてリンファを見た。

「……解った。すぐにこっちで対策を立てる。後でお前にこれまでの経緯を確認させてもらうかも知れん。悪いがそれまで捜査は一時中止して署で待機していてくれ」

「は、はい……」

 どの道リンファ1人では捜査もままならないし、ローラが行方不明では気掛かりで捜査に集中できないだろう。警部補が対策を立てるというなら、リンファには任せる事しか出来ない。警部補に報告した時点で彼女の役目は終わっていた。


 そう思っていた。だが……


 翌日、警部補のオフィスへと呼び出されたリンファ。オフィスへ入るとそこにいたのは警部補だけでは無かった。見慣れない男女の2人組が先客としてそこにいた。

「……あなたがローラ(・・・)の新しい相棒? ふーん、何だか頼りなさそうな感じねぇ」

「おいおい、そんな事を言うものじゃないよ、クレア(・・・)。最初は誰だって頼りないものさ」

 カッチリしたパンツスーツ姿に細い眼鏡を掛けた知的で隙の無さそうな女性。もう1人は少し軟派な雰囲気のハンサムな男性であった。

「あ、あの……?」

 戸惑うリンファに、ストックトン警部補が説明する。

「リンファ。こちらは連邦捜査局(FBI)LA支局のクレア・アッカーマン捜査官とニコラス・ジュリアーニ捜査官だ。ローラの捜索に協力してもらえる事になった」

「宜しく」

「エ、FBI!? ……は、はあ、どうも……」

 何が何だか分からないまま手を差し出してきた女性――クレアと握手する。

「ジュリアーニだ。ニックと呼んで欲しいな。宜しくね、可愛らしいお嬢さん?」

「……ッ! ど、どうも、ツァイ・リンファ、です……」

 男性――ニックとも握手する。社交辞令とは解っていても、ニックのような男性に可愛らしいなどと言われ、少しどぎまぎしてしまう。警部補が咳払いする。

「おほん! 2人共忙しい所本当に済まなかった。事が事だけに他に協力を要請できる者がいなくてな」

 ニックが肩を竦める。

「なに、構わないさ。今回の『バイツァ・ダスト』はウチの方でも関心度の高い事件でね。むしろ介入する機会を待っていたくらいなのさ。他の案件は全てキャンセルしてこちらに回るようにとすぐに指示が来たよ」

「ええ、それに……友人(・・)としてはローラの事が心配だしね。こっちこそ声を掛けてもらって良かったわ」

 クレアも同意する。

(ゆ、友人って……先輩の事よね? FBIの捜査官と……?)

 ローラの意外な顔の広さに内心で驚きを隠せないリンファであった。しかしすぐに警部補が話しかけてきたので気を引き締める。

「リンファ。それでは改めてこの2人にも、これまでの経緯を説明してやってくれ」

「あ、は、はい……!」

 FBI相手にいいのかと思ったが、他ならない現場責任者の警部補がそう言うからには問題ないのだろう。促されてリンファは、これまでのローラとの捜査状況を説明する。


 ヴァンサント邸でローラがエディ・ホーソンに襲われたらしい事。エジプトで失踪したフィリップという大学生が、『バイツァ・ダスト』と繋がっているらしく、彼の事を調べるようにローラに頼まれた事。フィリップの他にも3人の学生が失踪している事。そしてその学生達を結ぶ線……ゾーイ・ギルモアという助教授の事。ローラがそのゾーイと旧友である事。そしてゾーイの行方が掴めずに、捜査範囲を拡大しようとしていた矢先のローラの失踪の事……。

 クレア達が何を手掛かりとするか解らなかったので、とりあえず包み隠さずにリンファが知る事は全て報告した。


「エジプトで失踪した学生達、か……」

 報告を聞き終わったクレアが難しい顔で考え込む。そしてすぐに顔を上げてリンファの方を見る。

「彼等がエジプトで何の調査をしていたのかは当然調べてあるのよね?」

「あ、は、はい。何でもエジプト古代王朝最古のファラオの墳墓の手がかりが見つかったので、その発掘調査だとか……」

「古代王朝……ファラオ……。ニック、解る?」

「ふむ、恐らくだけど……メネス王の事じゃないかな? 一般にはナルメルが最初のファラオとされているけど、ナルメルの墓は既に見つかっているしね」

「メネス王……」

 クレアが再び考え込む。リンファは首を傾げた。

「あ、あの……先輩が失踪してるんですよ? ファラオの名前が何だって言うんです? 先輩の失踪は『バイツァ・ダスト』とは関係がないんですか?」

 するとニックが警部補の方を振り向いた。

「ジョン。ローラはこの子にはまだ……?」

「ああ、そのようだな。まあ、それは仕方ない事だろう?」

「はは、確かにね……。なら僕らが勝手に巻き込む訳にも行かないか」

 警部補との短いやり取りで何かを理解したらしく、ニックが再びリンファの方を向いた。

「あー……ミス・リンファ。情報提供、本当に感謝するよ。また聞きたい事があれば協力を頼むかもしれないから、宜しくね?」

 つまりもう聞く事は聞いたから用は済んだという事か。リンファは警部補の方を見た。警部補も頷いた。

 疑問や不審は残るものの、警部補にも退室を促されてはどうしようもない。

「……了解しました。その……先輩の事、宜しくお願いします」

「ええ、任せて頂戴。必ずローラを見つけ出してみせるわ」

 クレアの宣言を背に、リンファはオフィスを後にするのだった……
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