File14:断罪
文字数 2,213文字
トミーが死んだ。その事実をローラは意外な程冷静に受け止めていた。心臓に風穴を開けて笑っていたトミーの姿を見た段階で、ローラの中で既に彼は死んでいた のだ。
「吸血鬼は心臓と喉を同時に潰す事で滅する事が出来る。……ごめんなさい、仔猫ちゃん。一度『変化』した者は、二度と人間には戻れない。こうするしかないの」
ローラの顔を見ずにそれだけ告げると、カーミラはシルヴィアの方に向き直る。
「さあ、シルヴィア。下僕は全て滅んだわ。次はあなたの番よ」
「……余り図に乗るでないぞ、カーミラ。下僕達をけしかけたのは只の戯れよ。500年という時間と故郷を奪われた我らの怒りと憎しみの前に、お主など無力よ!」
シルヴィアの手にはいつの間にか、フェンシングで使うような細身の刺突剣が握られていた。ドレスを破り捨てる。その下には身体にピッタリとフィットした乗馬服のような衣装を着ていた。
「けぇええええぇっ!」
奇声と共に、シルヴィアが凄まじい速度でカーミラに突撃する。カーミラの同胞だけあって、その速度はグールなどとは桁違いだ。10ヤード程あった距離を一瞬で詰めると、目にも留まらぬ速さの突きを放つ。グールやトミーを斬り捨てた時のカーミラに比肩する……いや、或いはそれ以上の速さだ。
まるで武器が分裂したかと思えるような素早い連続突きと、その流麗な体捌きに押されて、カーミラが防戦一方になる。
「ほほほ! どうじゃ、カーミラ! これが我らの怒りじゃ! 死ね! 死ねっ! 死ねぇい!」
狂ったように連続突きを仕掛けるシルヴィア。カーミラは直撃は避けているものの、全身かすり傷だらけになる。しかし、一見押されているはずのカーミラがクスッと笑う。
「これがあなたの怒りだとしたら……随分とお粗末なのね?」
「な、何じゃと、貴様ぁ!」
シルヴィアが激昂して更なる突きを放とうとして……右腕がポロッと落ちる。
「……え?」
シルヴィアの呆気にとられたような声と同時に、彼女の右腕の切断面から大量の血が吹き出す。そう、カーミラは突きを入れてきたシルヴィアの腕を、彼女の目にすら止まらぬ速さで切り落としたのだった。
「ば、馬鹿な……!」
シルヴィアが咄嗟に後方へ飛び退る。流石に心臓を貫かれても死なない吸血鬼だけあって、腕を切り落とされた位では大した痛痒を感じていないようだ。だが精神的にはかなりのダメージを受けたようである。
「な、何故じゃ!? 私達は共に主様より『祝福』を賜った第二世代同士。力の差などあるはずが……!」
「ええ、確かに能力は互角よ。でも……私は500年遊んでいた訳じゃないわ。あなたの型はとっても古臭い のよ。既に研究され尽くしているの」
「……!」
能力は互角でもその技術には大きな差がある。カーミラは500年という悠久の時を、一体どのように過ごしてきたのだろうか。ローラには想像すら出来なかった。
「失った部位はすぐには再生できない……。終わりよ、シルヴィア。すぐにアンジェリーナも同じ所に送ってあげる」
「お、おのれ……おのれぇぇぇっ!」
刀を構えながら迫るカーミラに対し、シルヴィアが後ずさる。右腕も時間が経てば再生するようだが、今この場では無理のようだ。絶体絶命となったシルヴィアは……
(ッ! な、何なの、あれは!?)
ローラは思わず目を瞠る。シルヴィアの背中から白っぽい蝙蝠 の翼のような物が生えたかと思うと、その髪が逆立ち、目は赤く光り、残った左手は爪がまるで鉤爪のような凶悪な形状となる。
「キアアアァァッ!」
怪物じみた外見となったシルヴィアは奇声を上げ、翼をはためかせるとメジャーリーガーの豪速球もかくやというスピードで突っ込んできた。
「……!!」
流石のカーミラも反応する間もなく首を掴まれ、その勢いのまま後ろにあった大きなバンの側面に背中を叩きつけられる。
窓が粉々に割れる音と共にバンは原型を留めない程にひしゃげ、カーミラの顔が初めて苦痛に歪んだ。持っていた刀は今の衝撃で弾け飛んでいた。
シルヴィアはカーミラの首を離さず、そのまま片手で吊り上げる。
「カーミラァァァッ! 殺す! 殺すっ! 殺してやるぅっ!」
恐らく途轍もない握力だろうその手で、カーミラの喉を握り潰さんとするシルヴィア。だが……
苦痛に歪んでいたカーミラの目がカッと見開かれる。その目は今のシルヴィアと同じ赤い光が宿っていた。そして同じように逆立つ髪の毛。鉤爪の生える両手。背中からは1対の白い皮膜翼。
髪の色こそ違うが、シルヴィアと同じ怪物じみた姿となったカーミラは、自らを吊り上げているシルヴィアの腕を両手で掴む。
「ギ……ギャアアアァッ!」
絶叫。シルヴィアの残った左腕も一瞬で握り潰したカーミラは、両腕を失って悶えるシルヴィアに素早く接近。右手で心臓を突き破り、左手で喉を握り潰した。
「ご……がぁ……カ、カーミ、ラ……!」
「……今度こそ永遠に眠りなさい、シルヴィア」
シルヴィアが苦悶の表情と共に崩れ落ちる。目の色が戻り、翼も消える。元の美しい姿に戻ったシルヴィアは、トミーと同じように塵となって消え去っていった……
「吸血鬼は心臓と喉を同時に潰す事で滅する事が出来る。……ごめんなさい、仔猫ちゃん。一度『変化』した者は、二度と人間には戻れない。こうするしかないの」
ローラの顔を見ずにそれだけ告げると、カーミラはシルヴィアの方に向き直る。
「さあ、シルヴィア。下僕は全て滅んだわ。次はあなたの番よ」
「……余り図に乗るでないぞ、カーミラ。下僕達をけしかけたのは只の戯れよ。500年という時間と故郷を奪われた我らの怒りと憎しみの前に、お主など無力よ!」
シルヴィアの手にはいつの間にか、フェンシングで使うような細身の刺突剣が握られていた。ドレスを破り捨てる。その下には身体にピッタリとフィットした乗馬服のような衣装を着ていた。
「けぇええええぇっ!」
奇声と共に、シルヴィアが凄まじい速度でカーミラに突撃する。カーミラの同胞だけあって、その速度はグールなどとは桁違いだ。10ヤード程あった距離を一瞬で詰めると、目にも留まらぬ速さの突きを放つ。グールやトミーを斬り捨てた時のカーミラに比肩する……いや、或いはそれ以上の速さだ。
まるで武器が分裂したかと思えるような素早い連続突きと、その流麗な体捌きに押されて、カーミラが防戦一方になる。
「ほほほ! どうじゃ、カーミラ! これが我らの怒りじゃ! 死ね! 死ねっ! 死ねぇい!」
狂ったように連続突きを仕掛けるシルヴィア。カーミラは直撃は避けているものの、全身かすり傷だらけになる。しかし、一見押されているはずのカーミラがクスッと笑う。
「これがあなたの怒りだとしたら……随分とお粗末なのね?」
「な、何じゃと、貴様ぁ!」
シルヴィアが激昂して更なる突きを放とうとして……右腕がポロッと落ちる。
「……え?」
シルヴィアの呆気にとられたような声と同時に、彼女の右腕の切断面から大量の血が吹き出す。そう、カーミラは突きを入れてきたシルヴィアの腕を、彼女の目にすら止まらぬ速さで切り落としたのだった。
「ば、馬鹿な……!」
シルヴィアが咄嗟に後方へ飛び退る。流石に心臓を貫かれても死なない吸血鬼だけあって、腕を切り落とされた位では大した痛痒を感じていないようだ。だが精神的にはかなりのダメージを受けたようである。
「な、何故じゃ!? 私達は共に主様より『祝福』を賜った第二世代同士。力の差などあるはずが……!」
「ええ、確かに能力は互角よ。でも……私は500年遊んでいた訳じゃないわ。あなたの型はとっても
「……!」
能力は互角でもその技術には大きな差がある。カーミラは500年という悠久の時を、一体どのように過ごしてきたのだろうか。ローラには想像すら出来なかった。
「失った部位はすぐには再生できない……。終わりよ、シルヴィア。すぐにアンジェリーナも同じ所に送ってあげる」
「お、おのれ……おのれぇぇぇっ!」
刀を構えながら迫るカーミラに対し、シルヴィアが後ずさる。右腕も時間が経てば再生するようだが、今この場では無理のようだ。絶体絶命となったシルヴィアは……
(ッ! な、何なの、あれは!?)
ローラは思わず目を瞠る。シルヴィアの背中から白っぽい
「キアアアァァッ!」
怪物じみた外見となったシルヴィアは奇声を上げ、翼をはためかせるとメジャーリーガーの豪速球もかくやというスピードで突っ込んできた。
「……!!」
流石のカーミラも反応する間もなく首を掴まれ、その勢いのまま後ろにあった大きなバンの側面に背中を叩きつけられる。
窓が粉々に割れる音と共にバンは原型を留めない程にひしゃげ、カーミラの顔が初めて苦痛に歪んだ。持っていた刀は今の衝撃で弾け飛んでいた。
シルヴィアはカーミラの首を離さず、そのまま片手で吊り上げる。
「カーミラァァァッ! 殺す! 殺すっ! 殺してやるぅっ!」
恐らく途轍もない握力だろうその手で、カーミラの喉を握り潰さんとするシルヴィア。だが……
苦痛に歪んでいたカーミラの目がカッと見開かれる。その目は今のシルヴィアと同じ赤い光が宿っていた。そして同じように逆立つ髪の毛。鉤爪の生える両手。背中からは1対の白い皮膜翼。
髪の色こそ違うが、シルヴィアと同じ怪物じみた姿となったカーミラは、自らを吊り上げているシルヴィアの腕を両手で掴む。
「ギ……ギャアアアァッ!」
絶叫。シルヴィアの残った左腕も一瞬で握り潰したカーミラは、両腕を失って悶えるシルヴィアに素早く接近。右手で心臓を突き破り、左手で喉を握り潰した。
「ご……がぁ……カ、カーミ、ラ……!」
「……今度こそ永遠に眠りなさい、シルヴィア」
シルヴィアが苦悶の表情と共に崩れ落ちる。目の色が戻り、翼も消える。元の美しい姿に戻ったシルヴィアは、トミーと同じように塵となって消え去っていった……