File31:新しい力
文字数 4,963文字
視界を塗りつぶしていた光が収まる。既にそこは石造りの修道院の前ではなく、邪悪な魔力に満たされたLAの市長室の中であった。
ローラの手の中にあった骨の欠片は無くなっていた。ミラーカの身体に押し付けた瞬間に砕け散ったのだ。だがミラーカを連れ戻す という目的は無事に果たす事が出来た。
「……戻ってきたのね、LAに……そして現在 に」
ミラーカが元の彼女の落ち着いた声で喋る。操られていた時の狂乱ぶりは影も形もない。
「ええ、そうよ。お帰りなさい。そして悪いけど、見ての通り修羅場 の真っ最中だから」
「ええ、そのようね」
ローラの言葉に周囲を見渡すミラーカ。壁際で露出度の高い鎧姿で片膝を着いているセネム。そして奥のデスクには唖然とした表情のジョフレイ市長。その両脇には恐らく霊魔 と思われる怪物が2体。それぞれがジェシカとヴェロニカを捕らえている。彼女達は敗北して捕まってしまったようだ。
ミラーカはほんの数秒程度で素早く状況を把握していた。
「馬鹿な……マリードの術から抜け出せるはずが……」
ジョフレイが思わずといった感じでデスクから立ち上がっていた。と、その時、部屋の天井付近に魔力が煙となって寄り集まって人型を取った。そして紫色の肌に無数の傷が刻まれた魔神の姿が浮かび上がった。
『おぉ……我が魔力を破るとは……。何故だ。何故お前が死神 の骨などを持っていた!?』
(こいつが……マリード!)
ローラも初めて敵の首魁の姿を目の当たりにした。だが死神という単語にミラーカも反応した。
「死神ですって? ローラ、まさか……?」
「ええ、そのまさかよ。会ったどころか、落ち込んでた所を励まされた上に、魔除けとして骨の欠片を渡されたのよ」
「……っ! それは、また……。きっと方々に自慢できる貴重な体験ね」
若干引き攣ったような笑みを浮かべるミラーカ。死神に励まされた女。他には誰もいないだろうユニークな体験をした事だけは間違いない。
『……我が積年の恨みを晴らせぬ事は無念だが、こうなれば最早拘るまい。お前達は危険だ。確実な抹殺を優先させてもらおう』
マリードはジョフレイの方に身体を向けた。
『契約者よ。今こそお主に与えた力の全てを発揮する時だ。奴等を……』
「皆まで言わなくても解ってるさ。この連中を排除しないと僕等の邪魔になるみたいだからね。遊びは終わりだ。全力でやらせてもらうよ」
ジョフレイは身軽にデスクを飛び越えてローラ達の前に降り立った。
2体のシャイターンはジェシカ達を捕らえている為か、はたまたミラーカやセネムにはぶつけても無駄と判断した為か、襲い掛かってくる事はなかった。だが……
『ほらほら、可愛い子ちゃん? 今から目の前で仲間が惨殺される素敵なショーが始まるよ? いつまでも寝てないで起きなよ?』
「……う、ぅぅ…………はぅっ!?」
目の怪物がヴェロニカの四肢を拘束している触手を牽引して、その苦痛で強引に彼女を覚醒させる。
『ほれ、お前も起きんか。これから究極の狩りが始まるぞ! よく見ておけ』
「あがぁっ!?」
犬の怪物がその巨大な犬の足でジェシカの背中を踏みつける。衝撃と苦痛で強制的に目覚めさせられるジェシカ。
「う……あ、あぁ……ローラ、さん? ミラーカさんも……」
「よ、良かった……仲直りできたんだな……?」
ヴェロニカは四肢を広げられた宙吊りの体勢で、ジェシカは巨大な足に踏みつけられた体勢で、しかしただローラとミラーカの無事を喜び安堵していた。
「2人共、ごめんなさい。私が不甲斐ないばかりにこんな目に遭わせちゃって……。すぐに助けるからもう少しだけ待っていて頂戴」
「私も心から謝罪するわ。あなた達の怒りは後で甘んじて受けるから……少しだけ待っていてね」
ローラとミラーカもまたその心に応える。そして2人だけではなく……
「……私も加勢させてもらうぞ。奴等を封印・浄化する事は我が使命だ」
セネムが彼女らの隣に並び立った。その手には光り輝く二振りの曲刀が握られ臨戦態勢だ。3人の様子にジョフレイが不快気に眉をしかめる。
「おいおい、何をもう勝った気でいるんだい? 君達は今からここで、為す術も無く僕に敗れ去るというのに」
ジョフレイから発せられる魔力が格段に上昇した。3人は身構えた。マリードは強大な魔力を有しているが、直接的な戦闘能力は持っていないようだ。またマリードを封印する方法もナターシャより聞いている。
つまりはこの目の前のジョフレイが最後の障害という事になる。ジョフレイを倒せばローラ達の勝利だ。
「ふんっ!」
先手を打ってジョフレイが動いた。凄まじいスピードで一瞬にしてミラーカの前に出現すると、ストレートを打ち込んできた。ミラーカは咄嗟に自らも後方へ飛び退って相手の攻撃をガードする事に成功した。
その隙にセネムが曲刀で斬りかかる。しかしジョフレイの身体に接触した途端、見えない壁に弾かれたように体勢を崩してしまう。そこにジョフレイの蹴りが迫る。
「危ないっ!」
ローラがデザートイーグルの引き金を引く。マグナム弾に当たったジョフレイは、しかしそれすら弾いた。だが着弾の衝撃までは殺しきれなかったようでたたらを踏むように体勢が崩れる。その隙にセネムも飛び退って距離を取った。
「ぬぅ……奴の身体はどうなっているのだ!?」
「何か障壁のようなものを纏わせているみたい。私の刀も通じなかったわ」
唸るセネムにミラーカが警告する。ミラーカの魔力を帯びた刀も、セネムの光り輝く曲刀も、そしてデザートイーグルのマグナム弾の直撃すら弾くなど尋常ではない。〈信徒〉の防護膜など比較にならない強度だ。
「ははは! 今更後悔しても遅いよ!?」
哄笑と共にジョフレイが片手を突き出すと、掌からまるで火炎放射器のように放射状の炎の塊が迸った。
「くっ!?」
ローラ達は慌てて距離を取って火炎放射を躱す。余波だけでも肌が炙られるような高熱。まともに当たったら悲惨な焼死体が出来上がる事になりそうだ。
こちらの攻撃が通じずに、敵だけが一方的に攻撃している状態。このままではすぐに限界が来てしまう。ローラは高速で思考を回転させる。
(奴の力の源は魔力、魔の力……。ならその障壁も基本的には魔力で構成されてるはず。だったら……)
「ミラーカ、セネム! 悪いけど、とにかく奴に攻めかかって隙を作って! 奴の障壁、私が何とかしてみせるわ!」
「ロ、ローラ!? だが――」
「解った。信じてるわ」
ローラの呼び掛けにセネムは戸惑ったような反応を返すが、ミラーカは即座に動いてくれた。戦闘形態になると翼をはためかせて一気にジョフレイに突進する。
「ミラーカ!? ……ぬぅ! ええい、ままよ!」
どの道他に有効な手がある訳でもないので、セネムも覚悟を決めてジョフレイに斬りかかった。
「はは! 無駄な足掻きをっ!」
「くそ!」
戦闘形態のミラーカの全力から繰り出される斬撃も、セネムの二刀流を駆使した攻撃もことごとく強固な障壁の前に弾かれてしまう。
「そらっ!」
「がはっ……!」
斬撃を浴びながら強引に距離を詰めたジョフレイの膝蹴りがミラーカの腹にめり込む。身体を折り曲げて吹っ飛ぶミラーカ。追撃しようとするジョフレイだが、そこにセネムが妨害するように斬りかかる。
曲刀を交叉させて、ジョフレイ目掛けて至近距離で閃光を放つ! だが……
「ははは! カメラのフラッシュか何かかな!?」
「くっ……!」
セネムの閃光すら効果がない。嘲笑したジョフレイは両の拳を炎で包み込んで、文字通り燃え盛るパンチを連打してきた。
「ぐ……う……! うわぁっ!!」
必死に受けに回るセネムだが、強打によって刀でのガードを弾かれてしまう。両手を跳ね上げられて身体がガラ空きになる。そこにジョフレイの炎の拳が容赦なく突き出されて――
「させないっ!」
ミラーカが間一髪割り込んで刀を振るう。攻撃は虚しく弾かれたがその動きを阻害する事には成功した。
「す、済まない、ミラーカ!」
「お互い様よ。とにかく攻めるわよ!」
攻撃こそ最大の防御とばかりに攻めかかる2人。ジョフレイが掌から発射してきた火球を潜り抜けつつ、左右から同時に斬りかかる。
だが2人の同時攻撃でも結果は同じであった。攻撃を弾かれた所にジョフレイがカウンターで反撃。その繰り返しによってミラーカ達だけが一方的に傷付いていく。だが2人の目に絶望や諦念はない。何故なら、信じている から。
「君達もしつこいねぇ! いい加減に無駄だって事を理解しなよ!」
攻撃が全く通じずに自分達だけが一方的に傷付いているにも関わらず、全く諦める事無く喰らい付いてくるミラーカとセネムに苛立ったジョフレイが声を荒げる。
そしてダメージから動きが鈍くなっていた2人の一瞬の隙を突いて、両手でそれぞれの喉を掴み上げた!
「ぐ、がぁ……!!」
「あぐっ……!」
「くくく……捕まえたよ? 勝負あったねぇ」
ジョフレイは嘲笑しながらそれぞれの手に捕えた2人の女を、ネックハンギングの要領で中空に吊り上げる。勿論2人は必死に身体をもがかせ武器で斬り付けるが、当然の如くジョフレイはそれらの儚い抵抗を無視した。
後はその怪物のような握力で喉を握り潰すなり、炎で焼き切るなり思いのままだ。いずれの処刑方法を選ぶつもりだったにせよ、それが実行に移される事はなかった。何故なら……
「……?」
ジョフレイが2人を吊り上げたまま、怪訝そうな表情で背後を振り向いた。そこにジョフレイが半分存在を忘れかけていたローラがいた。だが彼女が背後から銃で狙っているというなら、無駄な努力を、と憐みの顔で見る事はあっても怪訝な表情をする事はない。
ローラは……ジョフレイに後ろから抱き着いて いたのだ。
「……何のつもりだい? まさか、色仕掛けでもしてる……」
ジョフレイの言葉がそこで途切れた。何か異常な違和感を覚えたのだ。ローラの身体から……極めて不快 な何か が湧き出しているように感じたのだ。
(『ローラ』……あなたの力、早速借りるわね。私と一緒に戦って頂戴!)
ローラは身体の奥底に向かって呼び掛けた 。それに応じて何か暖かく優しいモノがローラの身体を満たす。
ミラーカとセネムが決死の思いで作ってくれたジョフレイの隙。その隙を逃さずジョフレイに密着し、今『ローラ』の力が邪悪な魔力を中和する。これは4人 の連携の成果であった。
「お、おぉ……! こ、これはぁ……!?」
ジョフレイが掴み上げていたミラーカ達も離して苦しみ出す。ローラは素早く飛び退ってデザートイーグルを構える。
「ミラーカ! セネム! 今よっ!」
合図しつつ銃の引き金を引く。マグナム弾は弾かれる事無くジョフレイの身体を貫通した。
「うがぁっ!!」
ジョフレイの口から獣のような呻きが上がる。あの障壁の中和に成功したのだ。
「ローラ、君はいつの間にこんな……いや、今はいいか!」
ローラが見せた浄化の力に戸惑ったセネムだが、すぐに状況を思い出して曲刀を手に突進する。ミラーカは既にジョフレイに刀で斬り付けていた。
ローラの銃撃で怯んでいたジョフレイはミラーカの斬撃を躱せなかった。吸血鬼の怪力と魔力を帯びた刀の一撃は、障壁の無くなったジョフレイの胴体を真横に両断した。上半身と下半身が分断される。更に……
「うおおおぉっ!!」
セネムが跳び上がるようにしてジョフレイの上半身に対して曲刀を一閃。上半身だけになったジョフレイの、更に首を刎ね飛ばした!
ジョフレイの身体は首、胴体、下半身の三つに分断されて宙を舞った。
ローラの手の中にあった骨の欠片は無くなっていた。ミラーカの身体に押し付けた瞬間に砕け散ったのだ。だがミラーカを
「……戻ってきたのね、LAに……そして
ミラーカが元の彼女の落ち着いた声で喋る。操られていた時の狂乱ぶりは影も形もない。
「ええ、そうよ。お帰りなさい。そして悪いけど、見ての通り
「ええ、そのようね」
ローラの言葉に周囲を見渡すミラーカ。壁際で露出度の高い鎧姿で片膝を着いているセネム。そして奥のデスクには唖然とした表情のジョフレイ市長。その両脇には恐らく
ミラーカはほんの数秒程度で素早く状況を把握していた。
「馬鹿な……マリードの術から抜け出せるはずが……」
ジョフレイが思わずといった感じでデスクから立ち上がっていた。と、その時、部屋の天井付近に魔力が煙となって寄り集まって人型を取った。そして紫色の肌に無数の傷が刻まれた魔神の姿が浮かび上がった。
『おぉ……我が魔力を破るとは……。何故だ。何故お前が
(こいつが……マリード!)
ローラも初めて敵の首魁の姿を目の当たりにした。だが死神という単語にミラーカも反応した。
「死神ですって? ローラ、まさか……?」
「ええ、そのまさかよ。会ったどころか、落ち込んでた所を励まされた上に、魔除けとして骨の欠片を渡されたのよ」
「……っ! それは、また……。きっと方々に自慢できる貴重な体験ね」
若干引き攣ったような笑みを浮かべるミラーカ。死神に励まされた女。他には誰もいないだろうユニークな体験をした事だけは間違いない。
『……我が積年の恨みを晴らせぬ事は無念だが、こうなれば最早拘るまい。お前達は危険だ。確実な抹殺を優先させてもらおう』
マリードはジョフレイの方に身体を向けた。
『契約者よ。今こそお主に与えた力の全てを発揮する時だ。奴等を……』
「皆まで言わなくても解ってるさ。この連中を排除しないと僕等の邪魔になるみたいだからね。遊びは終わりだ。全力でやらせてもらうよ」
ジョフレイは身軽にデスクを飛び越えてローラ達の前に降り立った。
2体のシャイターンはジェシカ達を捕らえている為か、はたまたミラーカやセネムにはぶつけても無駄と判断した為か、襲い掛かってくる事はなかった。だが……
『ほらほら、可愛い子ちゃん? 今から目の前で仲間が惨殺される素敵なショーが始まるよ? いつまでも寝てないで起きなよ?』
「……う、ぅぅ…………はぅっ!?」
目の怪物がヴェロニカの四肢を拘束している触手を牽引して、その苦痛で強引に彼女を覚醒させる。
『ほれ、お前も起きんか。これから究極の狩りが始まるぞ! よく見ておけ』
「あがぁっ!?」
犬の怪物がその巨大な犬の足でジェシカの背中を踏みつける。衝撃と苦痛で強制的に目覚めさせられるジェシカ。
「う……あ、あぁ……ローラ、さん? ミラーカさんも……」
「よ、良かった……仲直りできたんだな……?」
ヴェロニカは四肢を広げられた宙吊りの体勢で、ジェシカは巨大な足に踏みつけられた体勢で、しかしただローラとミラーカの無事を喜び安堵していた。
「2人共、ごめんなさい。私が不甲斐ないばかりにこんな目に遭わせちゃって……。すぐに助けるからもう少しだけ待っていて頂戴」
「私も心から謝罪するわ。あなた達の怒りは後で甘んじて受けるから……少しだけ待っていてね」
ローラとミラーカもまたその心に応える。そして2人だけではなく……
「……私も加勢させてもらうぞ。奴等を封印・浄化する事は我が使命だ」
セネムが彼女らの隣に並び立った。その手には光り輝く二振りの曲刀が握られ臨戦態勢だ。3人の様子にジョフレイが不快気に眉をしかめる。
「おいおい、何をもう勝った気でいるんだい? 君達は今からここで、為す術も無く僕に敗れ去るというのに」
ジョフレイから発せられる魔力が格段に上昇した。3人は身構えた。マリードは強大な魔力を有しているが、直接的な戦闘能力は持っていないようだ。またマリードを封印する方法もナターシャより聞いている。
つまりはこの目の前のジョフレイが最後の障害という事になる。ジョフレイを倒せばローラ達の勝利だ。
「ふんっ!」
先手を打ってジョフレイが動いた。凄まじいスピードで一瞬にしてミラーカの前に出現すると、ストレートを打ち込んできた。ミラーカは咄嗟に自らも後方へ飛び退って相手の攻撃をガードする事に成功した。
その隙にセネムが曲刀で斬りかかる。しかしジョフレイの身体に接触した途端、見えない壁に弾かれたように体勢を崩してしまう。そこにジョフレイの蹴りが迫る。
「危ないっ!」
ローラがデザートイーグルの引き金を引く。マグナム弾に当たったジョフレイは、しかしそれすら弾いた。だが着弾の衝撃までは殺しきれなかったようでたたらを踏むように体勢が崩れる。その隙にセネムも飛び退って距離を取った。
「ぬぅ……奴の身体はどうなっているのだ!?」
「何か障壁のようなものを纏わせているみたい。私の刀も通じなかったわ」
唸るセネムにミラーカが警告する。ミラーカの魔力を帯びた刀も、セネムの光り輝く曲刀も、そしてデザートイーグルのマグナム弾の直撃すら弾くなど尋常ではない。〈信徒〉の防護膜など比較にならない強度だ。
「ははは! 今更後悔しても遅いよ!?」
哄笑と共にジョフレイが片手を突き出すと、掌からまるで火炎放射器のように放射状の炎の塊が迸った。
「くっ!?」
ローラ達は慌てて距離を取って火炎放射を躱す。余波だけでも肌が炙られるような高熱。まともに当たったら悲惨な焼死体が出来上がる事になりそうだ。
こちらの攻撃が通じずに、敵だけが一方的に攻撃している状態。このままではすぐに限界が来てしまう。ローラは高速で思考を回転させる。
(奴の力の源は魔力、魔の力……。ならその障壁も基本的には魔力で構成されてるはず。だったら……)
「ミラーカ、セネム! 悪いけど、とにかく奴に攻めかかって隙を作って! 奴の障壁、私が何とかしてみせるわ!」
「ロ、ローラ!? だが――」
「解った。信じてるわ」
ローラの呼び掛けにセネムは戸惑ったような反応を返すが、ミラーカは即座に動いてくれた。戦闘形態になると翼をはためかせて一気にジョフレイに突進する。
「ミラーカ!? ……ぬぅ! ええい、ままよ!」
どの道他に有効な手がある訳でもないので、セネムも覚悟を決めてジョフレイに斬りかかった。
「はは! 無駄な足掻きをっ!」
「くそ!」
戦闘形態のミラーカの全力から繰り出される斬撃も、セネムの二刀流を駆使した攻撃もことごとく強固な障壁の前に弾かれてしまう。
「そらっ!」
「がはっ……!」
斬撃を浴びながら強引に距離を詰めたジョフレイの膝蹴りがミラーカの腹にめり込む。身体を折り曲げて吹っ飛ぶミラーカ。追撃しようとするジョフレイだが、そこにセネムが妨害するように斬りかかる。
曲刀を交叉させて、ジョフレイ目掛けて至近距離で閃光を放つ! だが……
「ははは! カメラのフラッシュか何かかな!?」
「くっ……!」
セネムの閃光すら効果がない。嘲笑したジョフレイは両の拳を炎で包み込んで、文字通り燃え盛るパンチを連打してきた。
「ぐ……う……! うわぁっ!!」
必死に受けに回るセネムだが、強打によって刀でのガードを弾かれてしまう。両手を跳ね上げられて身体がガラ空きになる。そこにジョフレイの炎の拳が容赦なく突き出されて――
「させないっ!」
ミラーカが間一髪割り込んで刀を振るう。攻撃は虚しく弾かれたがその動きを阻害する事には成功した。
「す、済まない、ミラーカ!」
「お互い様よ。とにかく攻めるわよ!」
攻撃こそ最大の防御とばかりに攻めかかる2人。ジョフレイが掌から発射してきた火球を潜り抜けつつ、左右から同時に斬りかかる。
だが2人の同時攻撃でも結果は同じであった。攻撃を弾かれた所にジョフレイがカウンターで反撃。その繰り返しによってミラーカ達だけが一方的に傷付いていく。だが2人の目に絶望や諦念はない。何故なら、
「君達もしつこいねぇ! いい加減に無駄だって事を理解しなよ!」
攻撃が全く通じずに自分達だけが一方的に傷付いているにも関わらず、全く諦める事無く喰らい付いてくるミラーカとセネムに苛立ったジョフレイが声を荒げる。
そしてダメージから動きが鈍くなっていた2人の一瞬の隙を突いて、両手でそれぞれの喉を掴み上げた!
「ぐ、がぁ……!!」
「あぐっ……!」
「くくく……捕まえたよ? 勝負あったねぇ」
ジョフレイは嘲笑しながらそれぞれの手に捕えた2人の女を、ネックハンギングの要領で中空に吊り上げる。勿論2人は必死に身体をもがかせ武器で斬り付けるが、当然の如くジョフレイはそれらの儚い抵抗を無視した。
後はその怪物のような握力で喉を握り潰すなり、炎で焼き切るなり思いのままだ。いずれの処刑方法を選ぶつもりだったにせよ、それが実行に移される事はなかった。何故なら……
「……?」
ジョフレイが2人を吊り上げたまま、怪訝そうな表情で背後を振り向いた。そこにジョフレイが半分存在を忘れかけていたローラがいた。だが彼女が背後から銃で狙っているというなら、無駄な努力を、と憐みの顔で見る事はあっても怪訝な表情をする事はない。
ローラは……ジョフレイに後ろから
「……何のつもりだい? まさか、色仕掛けでもしてる……」
ジョフレイの言葉がそこで途切れた。何か異常な違和感を覚えたのだ。ローラの身体から……極めて
(『ローラ』……あなたの力、早速借りるわね。私と一緒に戦って頂戴!)
ローラは身体の奥底に向かって
ミラーカとセネムが決死の思いで作ってくれたジョフレイの隙。その隙を逃さずジョフレイに密着し、今『ローラ』の力が邪悪な魔力を中和する。これは
「お、おぉ……! こ、これはぁ……!?」
ジョフレイが掴み上げていたミラーカ達も離して苦しみ出す。ローラは素早く飛び退ってデザートイーグルを構える。
「ミラーカ! セネム! 今よっ!」
合図しつつ銃の引き金を引く。マグナム弾は弾かれる事無くジョフレイの身体を貫通した。
「うがぁっ!!」
ジョフレイの口から獣のような呻きが上がる。あの障壁の中和に成功したのだ。
「ローラ、君はいつの間にこんな……いや、今はいいか!」
ローラが見せた浄化の力に戸惑ったセネムだが、すぐに状況を思い出して曲刀を手に突進する。ミラーカは既にジョフレイに刀で斬り付けていた。
ローラの銃撃で怯んでいたジョフレイはミラーカの斬撃を躱せなかった。吸血鬼の怪力と魔力を帯びた刀の一撃は、障壁の無くなったジョフレイの胴体を真横に両断した。上半身と下半身が分断される。更に……
「うおおおぉっ!!」
セネムが跳び上がるようにしてジョフレイの上半身に対して曲刀を一閃。上半身だけになったジョフレイの、更に首を刎ね飛ばした!
ジョフレイの身体は首、胴体、下半身の三つに分断されて宙を舞った。