File24:ラムジェン社の刺客
文字数 3,400文字
「さあ、目当ての物は見つかったわ。これから急いで――」
ローラが皆を見渡してそう言い掛けた時だった。
――バタンッ!!!
玄関の方で大きな物音がした。それはまるで……ドアがぶち破られるような音で――
「ちょ、ちょっと、何なんです、あなた達!?」
玄関の方から荒々しい複数の足音と、へイゼルの動揺した悲鳴のような声が聞こえてきた。そして何かを殴りつける ような鈍い音が響き、それにへイゼルのくぐもったうめき声、何かが床に倒れるような音と続く。
「え……な、何!? ママッ!?」
慌てふためいたエイミーが飛び出しかけるのを咄嗟にジェシカが制止した。
「待った! あんたはここにいな! ……ローラさん!」
「ええ。アンドレア、悪いけどエイミーを頼むわ」
「わ、分かったわ。気を付けて。ここに来たって事は恐らくラムジェン社の差し金よ」
アンドレアが顔を青くしながら震える声で警告する。ローラは頷いた。
「そのようね。行くわよ、ジェシカ!」
「おうよ!」
書斎を出てリビングに向かうと、すぐに向こう側から足早に近付いてくる男達と鉢合わせした。人数は2人だ。どちらも黒いスーツ姿で、どう見ても堅気の人間ではない。
男達はローラの姿を見るなり、懐から拳銃を取り出した。
「……!」
ローラ達は慌てて取って返し、廊下の曲がり角に飛び込む。ほぼ同時に銃声。廊下の壁に複数の銃創が穿たれる。奥の書斎で悲鳴。恐らく銃声を聞いたエイミーの物だ。
廊下の曲がり角に身を隠すローラだが、男達の足音が近づいてくるのを感じた。間違いなく銃を構えながら歩いている。ローラ達の姿を確認した瞬間撃つだろう。警告も無しにいきなり発砲した事からも話し合いの余地は皆無だ。
だが奴等にこれ以上近付かれるとエイミー達を巻き込んでしまいかねない。スタンガンを手にローラが焦っていると、後ろからジェシカが肩を叩いてくる。
「あたしが行く。上手く合わせてくれ」
言い捨てて、ローラが止める間もなく角から飛び出す。男達は高校生のジェシカ相手にも一切の容赦なく発砲。どうやら最初からへイゼルとエイミーも口封じに殺すつもりのようだ。
「ぐ……おおぉぉぉぉぉぉっ!!」
「何……!?」
銃弾を食らっても お構いなしに突進してくるジェシカの姿に、男達は初めて動揺したような声を上げる。
その動揺の隙を突いてジェシカが男の1人にタックルを仕掛ける。狭い廊下だった事もあって躱せずにタックルをまともに食らう男。男はかなりの体格で、本来ジェシカのような少女に体当たりされた所で精々小動 する程度だっただろう。
だがそこは内に狼の血を秘めるジェシカ。人間の状態でもそれなりの力を発揮できるようで、見事に男を吹っ飛ばし自身共々もつれ合うようにしてリビングに転がり込む。そう言えば父親のマイヤーズも人間状態の時に、タックルで吸血鬼であるアンジェリーナを吹っ飛ばしていた事を思い出した。
「このガキ……!」
もう1人の男がジェシカに向かって銃口を向けるが、勿論それを黙って見ているローラではない。ジェシカが連中の注意を引いてくれた隙に接近に成功。そのままの勢いでスタンガンを突き出す。
「ちっ……」
男が舌打ちして後ろに下がろうとする。当然距離を離されたら銃の餌食なので、ローラも必死に追いかける。引き離せないと悟った男は銃を放り投げると、スタンガンを突き出してきたローラの手首を掴み取る。
「く……!」
ローラが呻く。相当の動体視力と反射神経だ。間違いなく何か格闘技をやっている。病院の警備員より格段に手強そうだ。
「ふっ!」
男がローラの手首を捻りつつ、側面から蹴りを放ってくる。ローラは咄嗟に空いている方の腕でガードするが、その直後に腕越しに凄まじい衝撃を感じて吹っ飛んだ。
リビングの床に倒れ込むローラに男の追撃。組み付かれたら一巻の終わりだ。ローラの脳裏にかつて自分の部屋でクリス・ドワイヤーと名乗ったイゴールに敗北した苦い記憶が甦る。
ローラは床を転がるようにして男の追撃を躱すと、何かが手に当たった。反射的にそれを掴む。男が素早くローラの後ろに回り込むと首に手を回して裸締めを仕掛けてきた。
こうなると膂力で劣るローラには為す術も無い……はずだった。ローラは無我夢中で手に持っていた何か を男の手の甲に突き立てる。
「ぎゃっ!」
男が短い悲鳴を上げて力が緩む。どうやらローラが掴んだのは、乱闘で床にぶちまけられたペーパーナイフのようだった。力が緩んだ隙に、後ろに伸び上がるようにして男の顔面に頭突きをかます。
後頭部越しに鼻が潰れる感触と共に、完全に絞め技から抜け出す事に成功した。ローラは血走った目で先程取り落としたスタンガンを探す。
(あった…………ッ!?)
床に転がっているスタンガンを見つけたローラがそれを取ろうとする直前に、物凄い力で後ろ髪を掴まれた。
「このアマぁ……!!」
怒り狂った男が凄まじい力でローラの髪を手繰り寄せる。髪を引き抜かれるかのような激痛を感じながらも、ローラの手は引っ張られる直前にぎりぎりスタンガンに届いていた。
その瞬間引っ張られるに任せて男に肉薄したローラは、その勢いも利用してスタンガンを男の胸に押し当てた。
「……! ……!!」
勝利を確信して喜悦に歪んでいた男の顔が驚愕に固まったかと思うと、そのまま糸の切れた操り人形のようにバタッと床に倒れ伏した。
「ふぅ……はぁ……はぁ……」
荒い息を吐きながらジェシカの方を確認すると、やはり警備員の時のようには行かないようで苦戦していた。しかしまさかここで変身する訳にも行かない。
中々倒れないジェシカに苛立った男がナイフを抜いて突きかかってきた。狙うのはジェシカの首筋。
「ジェシカ!」
叫んだローラは、直後に目を瞠る。
ジェシカは逃げるどころか逆に前に出た。ナイフが首筋に迫る。ジェシカは大胆に首を振るようにして、文字通り首の皮一枚を犠牲にして男にカウンターの反撃を仕掛ける。
ジェシカが狙ったのもやはり相手の首元。狼少女の力で喉笛に手刀を叩きこまれた男は白目を剥いて昏倒する。
「ふぃー……。結構手こずっちまったぜ」
肩で大きく息をしながらジェシカが額を拭うような動作をする。ローラは彼女に駆け寄る。
「ジェシカ、大丈夫!? 撃たれた傷は――」
「シィーーッ!!」
「……ッ!」
咄嗟に怪我の具合を聞こうとして、ジェシカの人差し指を自分の口に立てるジェスチャーで、ここがどこだったかを思い出し慌てて口を閉じる。
「うぅん……」
その時、床に伸びていたへイゼルが意識を取り戻した。
「アーチャーさん! 大丈夫ですか!?」
「え、ええ……。この人達一体……」
「――ママッ!」
へイゼルが何か言い掛けた時、廊下の方からエイミーが駆けつけてきた。アンドレアも一緒だ。どうやら戦闘が終わったと判断してやって来たようだ。エイミーが母親に抱き着く。
「ママ、大丈夫!? どっか怪我したの!?」
「何とか大丈夫みたい。あなたこそ怪我は無かった、エイミー?」
「私は大丈夫! ジェシカさん達が――」
と言い掛けて、エイミーは初めて床に倒れている2人の男に気付いたようで目を丸くした。
「え……う、うそ。これ、ジェシカさん達がやったの……?」
「あ、ああー……まあ、ね。エイミー、悪いけどこの事はここだけの――」
頭を掻きながらジェシカがやんわりと口止めしようとすると、エイミーはフルフル震えたかと思うと、ガバッと顔を上げた。ローラはその目にハートマークが輝いているような錯覚を覚えた。
「す……す……すっげぇぇー! 凄すぎっス、ジェシカさん! キレイで優しくて歌も上手くて、おまけにメッチャ強いなんて……。最高にヤバいっス! あたしジェシカさんの事尊敬します!」
「え……そ、そう? あ、ありがと……」
興奮してまくし立てるエイミーに、流石のジェシカも若干引き気味であった……
ローラが皆を見渡してそう言い掛けた時だった。
――バタンッ!!!
玄関の方で大きな物音がした。それはまるで……ドアがぶち破られるような音で――
「ちょ、ちょっと、何なんです、あなた達!?」
玄関の方から荒々しい複数の足音と、へイゼルの動揺した悲鳴のような声が聞こえてきた。そして何かを
「え……な、何!? ママッ!?」
慌てふためいたエイミーが飛び出しかけるのを咄嗟にジェシカが制止した。
「待った! あんたはここにいな! ……ローラさん!」
「ええ。アンドレア、悪いけどエイミーを頼むわ」
「わ、分かったわ。気を付けて。ここに来たって事は恐らくラムジェン社の差し金よ」
アンドレアが顔を青くしながら震える声で警告する。ローラは頷いた。
「そのようね。行くわよ、ジェシカ!」
「おうよ!」
書斎を出てリビングに向かうと、すぐに向こう側から足早に近付いてくる男達と鉢合わせした。人数は2人だ。どちらも黒いスーツ姿で、どう見ても堅気の人間ではない。
男達はローラの姿を見るなり、懐から拳銃を取り出した。
「……!」
ローラ達は慌てて取って返し、廊下の曲がり角に飛び込む。ほぼ同時に銃声。廊下の壁に複数の銃創が穿たれる。奥の書斎で悲鳴。恐らく銃声を聞いたエイミーの物だ。
廊下の曲がり角に身を隠すローラだが、男達の足音が近づいてくるのを感じた。間違いなく銃を構えながら歩いている。ローラ達の姿を確認した瞬間撃つだろう。警告も無しにいきなり発砲した事からも話し合いの余地は皆無だ。
だが奴等にこれ以上近付かれるとエイミー達を巻き込んでしまいかねない。スタンガンを手にローラが焦っていると、後ろからジェシカが肩を叩いてくる。
「あたしが行く。上手く合わせてくれ」
言い捨てて、ローラが止める間もなく角から飛び出す。男達は高校生のジェシカ相手にも一切の容赦なく発砲。どうやら最初からへイゼルとエイミーも口封じに殺すつもりのようだ。
「ぐ……おおぉぉぉぉぉぉっ!!」
「何……!?」
その動揺の隙を突いてジェシカが男の1人にタックルを仕掛ける。狭い廊下だった事もあって躱せずにタックルをまともに食らう男。男はかなりの体格で、本来ジェシカのような少女に体当たりされた所で精々
だがそこは内に狼の血を秘めるジェシカ。人間の状態でもそれなりの力を発揮できるようで、見事に男を吹っ飛ばし自身共々もつれ合うようにしてリビングに転がり込む。そう言えば父親のマイヤーズも人間状態の時に、タックルで吸血鬼であるアンジェリーナを吹っ飛ばしていた事を思い出した。
「このガキ……!」
もう1人の男がジェシカに向かって銃口を向けるが、勿論それを黙って見ているローラではない。ジェシカが連中の注意を引いてくれた隙に接近に成功。そのままの勢いでスタンガンを突き出す。
「ちっ……」
男が舌打ちして後ろに下がろうとする。当然距離を離されたら銃の餌食なので、ローラも必死に追いかける。引き離せないと悟った男は銃を放り投げると、スタンガンを突き出してきたローラの手首を掴み取る。
「く……!」
ローラが呻く。相当の動体視力と反射神経だ。間違いなく何か格闘技をやっている。病院の警備員より格段に手強そうだ。
「ふっ!」
男がローラの手首を捻りつつ、側面から蹴りを放ってくる。ローラは咄嗟に空いている方の腕でガードするが、その直後に腕越しに凄まじい衝撃を感じて吹っ飛んだ。
リビングの床に倒れ込むローラに男の追撃。組み付かれたら一巻の終わりだ。ローラの脳裏にかつて自分の部屋でクリス・ドワイヤーと名乗ったイゴールに敗北した苦い記憶が甦る。
ローラは床を転がるようにして男の追撃を躱すと、何かが手に当たった。反射的にそれを掴む。男が素早くローラの後ろに回り込むと首に手を回して裸締めを仕掛けてきた。
こうなると膂力で劣るローラには為す術も無い……はずだった。ローラは無我夢中で手に持っていた
「ぎゃっ!」
男が短い悲鳴を上げて力が緩む。どうやらローラが掴んだのは、乱闘で床にぶちまけられたペーパーナイフのようだった。力が緩んだ隙に、後ろに伸び上がるようにして男の顔面に頭突きをかます。
後頭部越しに鼻が潰れる感触と共に、完全に絞め技から抜け出す事に成功した。ローラは血走った目で先程取り落としたスタンガンを探す。
(あった…………ッ!?)
床に転がっているスタンガンを見つけたローラがそれを取ろうとする直前に、物凄い力で後ろ髪を掴まれた。
「このアマぁ……!!」
怒り狂った男が凄まじい力でローラの髪を手繰り寄せる。髪を引き抜かれるかのような激痛を感じながらも、ローラの手は引っ張られる直前にぎりぎりスタンガンに届いていた。
その瞬間引っ張られるに任せて男に肉薄したローラは、その勢いも利用してスタンガンを男の胸に押し当てた。
「……! ……!!」
勝利を確信して喜悦に歪んでいた男の顔が驚愕に固まったかと思うと、そのまま糸の切れた操り人形のようにバタッと床に倒れ伏した。
「ふぅ……はぁ……はぁ……」
荒い息を吐きながらジェシカの方を確認すると、やはり警備員の時のようには行かないようで苦戦していた。しかしまさかここで変身する訳にも行かない。
中々倒れないジェシカに苛立った男がナイフを抜いて突きかかってきた。狙うのはジェシカの首筋。
「ジェシカ!」
叫んだローラは、直後に目を瞠る。
ジェシカは逃げるどころか逆に前に出た。ナイフが首筋に迫る。ジェシカは大胆に首を振るようにして、文字通り首の皮一枚を犠牲にして男にカウンターの反撃を仕掛ける。
ジェシカが狙ったのもやはり相手の首元。狼少女の力で喉笛に手刀を叩きこまれた男は白目を剥いて昏倒する。
「ふぃー……。結構手こずっちまったぜ」
肩で大きく息をしながらジェシカが額を拭うような動作をする。ローラは彼女に駆け寄る。
「ジェシカ、大丈夫!? 撃たれた傷は――」
「シィーーッ!!」
「……ッ!」
咄嗟に怪我の具合を聞こうとして、ジェシカの人差し指を自分の口に立てるジェスチャーで、ここがどこだったかを思い出し慌てて口を閉じる。
「うぅん……」
その時、床に伸びていたへイゼルが意識を取り戻した。
「アーチャーさん! 大丈夫ですか!?」
「え、ええ……。この人達一体……」
「――ママッ!」
へイゼルが何か言い掛けた時、廊下の方からエイミーが駆けつけてきた。アンドレアも一緒だ。どうやら戦闘が終わったと判断してやって来たようだ。エイミーが母親に抱き着く。
「ママ、大丈夫!? どっか怪我したの!?」
「何とか大丈夫みたい。あなたこそ怪我は無かった、エイミー?」
「私は大丈夫! ジェシカさん達が――」
と言い掛けて、エイミーは初めて床に倒れている2人の男に気付いたようで目を丸くした。
「え……う、うそ。これ、ジェシカさん達がやったの……?」
「あ、ああー……まあ、ね。エイミー、悪いけどこの事はここだけの――」
頭を掻きながらジェシカがやんわりと口止めしようとすると、エイミーはフルフル震えたかと思うと、ガバッと顔を上げた。ローラはその目にハートマークが輝いているような錯覚を覚えた。
「す……す……すっげぇぇー! 凄すぎっス、ジェシカさん! キレイで優しくて歌も上手くて、おまけにメッチャ強いなんて……。最高にヤバいっス! あたしジェシカさんの事尊敬します!」
「え……そ、そう? あ、ありがと……」
興奮してまくし立てるエイミーに、流石のジェシカも若干引き気味であった……