File30:最強チーム

文字数 2,435文字


「ミ、ミラーカが……『ゲート』を完成させる為のパーツ?」

「その通り。そしてあなた方は皆、『蟲毒』を育てる為に実によく働いてくれました。これが最後の総仕上げです。今こそ『蟲毒』を我が手中に収める時が来ました!」

 アルゴルが芝居がかった仕草で『ゲート』に手を向ける。すると『ゲート』が揺らいで、中から何か強烈な魔力が噴き出してくる。

「……! 皆さん、気を付けて! 何か……来ます!」

 モニカの警告。ほぼ同時に『ゲート』を突き抜けるように向こう側(・・・・)から何かが飛び出して、勢いよく湖岸に着地した。派手な水音と着地音が鳴り響く。


「な、何なの、コイツ!?」

 ローラは現れたモノに向かって銃を構える。勿論他の仲間達も即座に臨戦態勢となる。それは無理やり形容するなら、恐ろしく巨大なカマキリとムカデが合体したような異形の怪物であった。

 下半身は甲殻に覆われたムカデのそれであり、上半身はやはり甲殻を纏ってはいるがそのシルエットは両腕に天然の鎌を備えたカマキリに近いものだった。

 全長は優に20フィート以上(6~7メートル以上)はありそうな文字通りの化け物だ。やはり鎧に覆われたカマキリを連想させる頭部から、ギョロっと目が動いて獲物を品定めするようにローラ達に視線を這わせる。


「……っ! これは……ラージャ! かなり強力で狂暴な悪魔です!」

 モニカがやや青ざめた顔で警告する。呼称はともかく強力で狂暴なのは、こうして間近で接している時点で皆が認識していた。 

 ――Qyueeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!

 化け物――ラージャが、地球上のどんな動物にも出せないだろう奇怪な叫び声を上げて、その両腕の鎌を振り上げて襲い掛かって来た。下半身のムカデの胴体をくねらせながら、その巨体からは想像も付かないような速さで迫ってくる。

 ローラは反射的にデザートイーグルの引き金を引いた。発射された神聖弾はしかしラージャの胸板の鎧に接触すると、激しい音と共に弾かれてしまった。その衝撃でラージャはよろめいたが、すぐに体勢を立て直して突進を再開する。

 胸の甲殻は大きく凹んでいたが、あのデュラハーンの鎧も貫通した神聖マグナム弾を防ぐとは。どうやらあの甲殻の防御力は相当なもののようだ。


「くそ! やるしかないみたいね! ゾーイとヴェロニカは奴を足止めして! モニカは皆の援護を! 他の皆は奴の隙を見ながら周囲から攻撃!」

 ローラは手早く仲間達に指示を出す。甲殻に弾かれるならそれ以外の部分を狙えばいい。ローラは焦らずに再びデザートイーグルを構えて慎重に狙いを定める。

 その間に戦局は一気に進む。ゾーイの砂の壁がラージャの突進を防ぐように出現する。ラージャはお構いなしに鎌を振り下ろすと、強固なはずの防壁が紙のように切り裂かれた。しかし砂の壁は崩れても効力を保っており、ラージャの身体に纏わりついて動きを阻害する。

 そこにヴェロニカが『衝撃』を放って牽制。堅牢な甲殻に包まれたラージャに『衝撃』は殆どダメージを与えられなかったが、攻撃範囲が広くラージャの全身を包み込んだ衝撃波で僅かに怯ませて動きを停滞させる。

 ラージャの突進の勢いが鈍った。そこに散開した前衛組が一気に攻撃を仕掛ける。ジェシカが胴体に爪撃を仕掛けるが、マグナム弾すら弾いた硬い甲殻に阻まれて逆に自分の爪が欠けてしまう。

 シグリッドもトロールの膂力で連続して拳や蹴りを叩き込むが、やはり悉く甲殻に弾かれてダメージを与える事が出来ない。


 ラージャが再びあの恐ろしい咆哮を上げて両腕の鎌を振り回す。空気が唸りを上げて切り裂かれ、地面に大きな亀裂が幾条にも渡って走る。こんな物をまともに喰らったら一溜まりもなく両断されるだろう。

 だがその振り回される恐ろしい鎌を掻い潜って、セネムが逆に二振りの霊刀でラージャの甲殻と甲殻の隙間を狙って斬り付ける。

 巨体とはいえ激しく動き回る相手の急所を正確に狙う技術は流石戦士だ。甲殻に覆われていない部分を斬られたラージャの身体から、真っ黒い体液が零れ落ちる。ラージャは怒りの咆哮を上げるが、それほど痛痒を感じている様子が無い。耐久力自体もかなり高いようだ。

 しかしラージャの注意が地上に逸れたのを見計らって、戦闘形態となったミラーカがその頭上に飛び上がり、上空を飛び回りながらラージャの頭部を狙って次々と斬り付ける。

 ラージャは小うるさい蝿を叩き落とさんとするかのように飛び回るミラーカに向かって鎌を振るうが、彼女も高速機動を駆使してその攻撃を巧みに躱していく。

 しかしラージャの注意が頭上に向かうと、今度は地上にいるセネムやジェシカ、シグリッドが好機とばかりに攻め立てる。勿論その間にもゾーイとヴェロニカによる妨害や援護攻撃は継続している。


 ――Gyuiiiiiiiiiiiiiiiii!!!

 ラージャは明らかに苛立ちと取れる咆哮を上げると、やや離れた場所にいるローラ達後衛の方に目を向けた。

「……!」

 マズい、と彼女が思った時には、ラージャの口吻から何か液体のような物が噴射された。紫色をした見るからに剣呑な液体は凄まじい速度で広がり、ローラを含めた後衛組全員に降り注いだ。

 ゾーイとヴェロニカはラージャを攻撃していて、すぐに防御に切り替える事が出来ない。為す術も無く紫色の液体がローラ達に掛かる直前、

「風の精霊よ! 侵害を排し給えっ!」

 モニカが作り出した風の防壁が、不浄な液体を全て遮断する。

「助かったわ、モニカ!」

 ローラは礼を言うと、ラージャがこちらに液体を吐きつける為に開きっぱなしだった口吻目掛けて神聖弾を発射した。

 ――ドウゥゥゥゥンッ!!

 重い銃声が轟き、神聖団は狙い過たずラージャの口の中に吸い込まれた。

 次の瞬間、ラージャの頭が爆ぜた(・・・)。頭部を丸ごと失ったラージャは、驚くべき事にそれでもまだ暴れていたが、次第にその動きが緩慢になり、やがて大きな地響きと共に地面に倒れ伏した。
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