これまでのあらすじ、キャラクター紹介②

文字数 11,638文字

 私はLAタイムズの記者、ナターシャ・イリエンコフ。この手記をまとめるのもこれで二度目だ。

 やはり私の予感は正しかった。前回の手記をしたためた後から今までに何度もこのLAを揺るがすような人外の怪物による事件が発生したからだ。

 しかも事件を重ねる毎にその脅威の度合いは上がってきている。そんな風にも感じられた。

 終わらない人外の怪物による凶悪事件。この街で繰り返される悲劇の背景には、何らかの邪悪な意思が働いている……。ローラ達だけでなく今では私もそれを確信していた。

 だがその全容は未だ見えてこない。ローラもミラーカも『黒幕』を探し出そうとしているが、今の所成果は上がっていない。

 今の私に出来る事は、この悪夢が終わる事を祈りつつ、起きた事件を出来るだけ正確に記録としてまとめる事だけだ。


 今回は『エーリアル』事件の後に発生した大きな3つの事件をまとめている。例によって関係者から可能な限り詳しく聞き込みを行い、人外の存在に関してはミラーカやヴェロニカ達からの証言を元に【陰力(ダークパワー)】という項目を設けている。

 【陰力】に関しての詳しい説明は前回の手記を参照して欲しい。まあ簡単に言えば一般の成人男性を陰力10相当とし、強ければ強いほど数値も高くなっていく仕組みだ。目安としてミラーカが通常時は【陰力100】、戦闘形態時が【陰力200】となっている。

 また前回と同じく、味方や中立的な存在に関しては◇、敵対的な存在に関しては◆で分類分けしている。



■Case5 :『バイツァ・ダスト』

 『エーリアル』事件から数か月後、LAの街は新たな脅威に見舞われた。切欠は上院議員候補のヴァンサント州議員の殺害であった。密閉された車内で秘書や運転手と共に、体中が干からびた状態で発見されたのだ。車内には大量の砂が荒れ狂ったような形跡が残されていた。
 市内では同じような方法で殺害された者が何人もいる事が判明。ローラは新しく相棒となった中国人のリンファと共に捜査に乗り出す。
 しかしそんな最中、ミラーカが何者かの罠に嵌められて逮捕されてしまう。ローラは彼女から自分達を狙っている人外の怪物がいると警告を受ける。
 しかしミラーカの忠告も虚しく、今度はヴェロニカが襲われて拉致され、彼女を人質にされたローラは『マスター』と名乗る敵の首魁に強制的に従わされる。
 『マスター』はローラに彼女の旧友であるゾーイ・ギルモアという女性を探すように命じる。吸血鬼として甦ったジョンの助けもあり、ローラは敵の手から逃れてゾーイと再会する。
 そしてゾーイの口から敵の正体がエジプト太古のファラオ、メネス王その人である事。メネスが復活した原因がゾーイであり、その封印の方法を知る彼女をメネスが狙っている事などを知った。
 ローラはヴェロニカを救出する為にジェシカやクレアと共に敵地に潜入するが、メネスに見つかってしまった事で逆に囚われてしまう。
 ローラの危機を『死神』から教えられたミラーカは彼の手引きで警察署を脱走。立ちはだかる怪物を倒し、ローラを救出せんとメネスに戦いを挑む。
 圧倒的なメネスの力の前にミラーカは歯が立たないが、その時古文書を解読してメネス封印の方法を発見したゾーイが援軍に駆け付け、無事にメネスを封印する事に成功した。


◇ツァイ・リンファ 【陰力:30】
 警部補に昇進したジョンに代わって、ローラの新しい相棒となった新人刑事。25歳。
 生粋の中国人で、子供の頃は中国に住んでいたが自由に憧れてアメリカに移住してきた。まだまだ刑事としての経験が浅くローラの足を引っ張ってしまう事もあるが、本人はローラに憧れており日々刑事としての仕事を勉強中。
 また中国拳法の使い手でもあり、その気になれば(人間としては)かなり高い戦闘能力を発揮する。


◇ゾーイ・ギルモア
 カリフォルニア大学ロサンゼルス校の考古学部助教。28歳。ローラの高校時代の旧友でもある。
 教授であるダンカン・フェルランドの指揮の元エジプトで太古のファラオ、メネス王の墳墓の発掘に勤しんでいた。しかしダンカンから発掘調査を丸投げされた後に本当にメネス王の墳墓を発見し、功名心に逸った彼女は過失からメネス王を復活させてしまう。
 またその際に図らずも犠牲にする形になった学生達からも恨まれており、彼等から逃げるように古巣であるLAに戻ってきて隠れ潜んでいた。
 ローラ達によって保護された後は、メネスを封印する為の資料の解読を担い、最終的にメネスを封印する事に成功した。


◆メネス王 【陰力:300】 ミイラ形態時【陰力:600】
 エジプトを初めて統一した古王朝最古のファラオ。資料が極めて少なく、その実在すら疑われていた。
 ゾーイの過失によって4人の学生達を生贄とする事で現世に復活を果たした。その後〈従者〉となった学生達から、ゾーイが自身を封印する為の方法が書かれた写しを所有している事が判明し、彼女を追ってLAにまでやってきた。
 LAでは地下に潜み、街の有力者たちの弱みを握って隷属させ、着々と〈信徒〉の数を増やして勢力を伸ばしていた。この街を足掛かりに、最終的にはアメリカそのものを裏で支配しようと目論んでいたらしい。
 砂の粒子を自在に操った攻撃が得意。その砂に巻かれた人間は一瞬で身体中の水分を吸い取られて干からびてしまう程で、他にも自身の手を砂の触手や鞭に変えて変幻自在の攻めを可能としている。また衣服も含めた身体全てが砂で構成されており、銃弾や刃物など物理的な攻撃の全てを無効化する。
 普段はエキゾチックな美貌を持つ男性の姿をしているが、醜いミイラの姿になる事でより強大な力を振るう事ができる。
 その不死身の特性に打つ手なしと思われたが、実は彼を甦らせたゾーイ自身の生血が弱点であり、その血液を浴びた事で一瞬にして全身が銅像のように硬化して、ミラーカの刀によって粉々に粉砕された。


◆〈従者〉 【陰力:100】 ミイラ形態時【陰力:200】
 メネスの側近的な立ち位置で、彼を復活させる際に生贄となった4人の学生たちがそのまま〈従者〉として甦った。生前の知識や記憶を保持しているが、その人格は邪悪に変貌していた。
 普段は生前と変わらない姿で人間社会の中に潜入する事も可能。ただしその状態でも高い身体能力に加えて、手に砂を集めて剣やハンマーを作り出して操ったり、手から砂の弾丸を発射できるなど、人外の力を振るう事ができる。
 更に醜いミイラ本来の姿になる事でより強力な力を発揮でき、その強さは吸血鬼の戦闘形態にも比肩するものであった。

 ◆ジェイソン・ロックウェル
 考古学部の学生。アフリカ系の青年。高校時代はアメフトの選手だったが、怪我で断念した。黒人を見下すゾーイに反感を抱いており、メネス王の発掘調査がゾーイを陥れるだけの『罰ゲーム』である事を知りながら、彼女が苦悩する様を単位取得と引き換えにダンカンに報告する役割で参加していた。
 従者〉となった後はローラの監視役を担い、その救出に現れたジョンとも互角に戦ったが、そこにジェシカの不意打ちを受けて敗れた。

 ◆カルロス・エスカランテ
 考古学部の学生。ヒスパニック系。実家はサンディエゴにあり、そこそこ裕福で勉強もスポーツもそつなくこなすタイプ。ヴェロニカの元カレだったが、浮気性が原因で破局した。
 〈従者〉となった後はヴェロニカの元に現れ、高い戦闘能力で彼女を圧倒して強引に拉致した。その後ヴェロニカの救出に来たローラとジェシカ、クレア、そして助け出されたヴェロニカ自身と戦いになり、彼女らの連携の前に敗れ去った。

 ◆フィリップ・E・ラーナー
 考古学部の学生。眼鏡を掛けたひ弱そうな白人の青年。見た目通りのナードであり、助教のゾーイのストーカーに近い存在であった。
 ミラーカを直接罠に嵌めた下手人で、その後も彼女の監視役を担っていた。『死神』の手引きによって脱走したミラーカの前に立ちはだかり、人外の対決を繰り広げる。しかし戦いの末に敗れ去り塵に帰っていった。

 ◆パトリック・R・ミッチェル
 考古学部の学生。見目の良い白人の青年。高校時代からかなりのプレイボーイで、ゾーイに一目惚れして考古学部に進んだ。
 ゾーイの証言によって彼も他の3人と同じく〈従者〉となった事が解っているが、何故か一度も姿を現さないまま事件は終了した。ローラ達とは関係ない何か他の役割を担っていたと考えられるが、結局それが何かも判明しないままとなった。


◆〈信徒〉 【陰力:30~40】
 一般人の男性がメネスの砂を体内に埋め込まれる事によって洗脳された戦闘員達の総称。ただ洗脳されているだけでなく、全体的に身体能力が向上し、また自動発動する青白い防護膜によって銃弾などの害から身を護る事が出来る。その力を掌に集めて攻撃に転用する事も可能。当たり所によっては人間を一撃で殺せる威力がある。
 未確認だがメネスだけでなく、〈従者〉も独自に〈信徒〉を作り出す能力があるらしい。また何故か男性のみで、女性は〈信徒〉に作り替える事が出来ない。






■Case6:『ディザイアシンドローム』

 LA市議会議員のドナルド・パターソンが自宅で変死した。ただ死んだのではなく、妻の見ている前でベースボールカードに変わってしまったというのだ。
 ローラは新聞記者のナターシャより、以前にも似たような症状でLA自然史博物館の館長が変死している事を教えられ、2つの変死にマイケル・ジョフレイ現市長が関わっている事を知る。
 ジョフレイが怪しいと睨んで捜査を進めるローラだが、聞き込みに向かった先、彼女の眼前で同じ市議のデボラが本に変わって変死する。市議が狙われている事を悟ったローラは別の市議であるシモンズに接触する。しかしシモンズは邪悪な心の持ち主で、市長の手先と化していた。
 魔物に変化したシモンズに襲われ絶体絶命となるローラ達だが、謎のイスラム女性、セネム・ファラハニによって命を救われる。セネムはイランから邪悪な魔神の気配を追ってLAを訪れた聖戦士であった。
 セネムから敵の正体がランプの魔神マリードである事を聞かされたローラ達だが、ミラーカはそれが自分の過去に因縁のある相手だと確信し、ローラと訣別して単身敵に特攻を仕掛ける。しかし強大なマリードの力の前に惨敗を喫し、過去の世界に囚われてしまう。
 一方ミラーカに絶縁されたローラはショックから塞ぎ込んでしまう。セネムから事情を聞いたジェシカとヴェロニカも参戦し、セネムと3人で市庁舎に乗り込むが、ジェシカとヴェロニカは力及ばず敵に捕らわれる。
 眼前に現れた『死神』によって立ち直ったローラは、ミラーカを救出する為に自らも市庁舎に乗り込む。魔神と死神の力によって500年前の過去に飛んだローラは、そこでミラーカのかつての恋人である聖少女『ローラ』と対面する。
 ローラはミラーカと和解し、『ローラ』から浄化の力を与えられる。ミラーカもまた過去と訣別しローラと共に生きる道を選んだ。 
 現在に戻って来た2人はセネム達とも協力し、遂に市長を打倒しマリードを封印する事に成功した。


◇セネム・ファラハニ 【陰力:180】
 イラン出身のイスラム教徒の女性。27歳。イスラム社会全体を監視して魔物と戦う秘密結社『ペルシア聖戦士団』の一員。イスラム教圏以外に排他的な同志達に反発して単身アメリカへと渡ってきた。ムスリムとしてはかなりリベラルな思考の持ち主。
 危機に陥っていたローラを助けた縁で知り合い、彼女達と共に市庁舎での戦いで活躍した。
 二刀のシミターを自在に振るい、また魔物に対して高い効果を発揮する『神霊光』を得意技とする。それだけでなく魔物に付けられた傷限定ではあるが、自身の霊力を肉体の回復に充てる事も出来、その力で他者を癒やす事も可能。
 戦闘時にはムスリムの女性としては考えられないような露出度の高い鎧姿となるが、この姿でないと霊力を完全には発揮できないらしい。(尚、女性の聖戦士には身内以外の男性に素肌を晒したら、その相手を殺さなくてはならないという掟があるらしい……)


◇『ローラ』 【陰力:400以上?】
 中世の人。故人。オーストリアの辺境の修道院に住む年若いシスターで、当時邪悪な吸血鬼であったミラーカを浄化して改心させた人物。
 身体的には普通の少女だが、その身に膨大な霊力を秘めていたと推測されている。彼女はその力を自覚しており、ミラーカの改心も意図的な物だったと思われる。
 過去へ飛んできたローラと邂逅し、ある程度の事情を察すると、ミラーカを諭してローラに自らの力の一部を分け与えた。
 しかし敬虔な神の使徒を自認する彼女は、未来を知る事を拒絶し、あくまで自らの使命を全うした。


◆マリード 【陰力:800】
 LA自然史博物館に持ち込まれた魔法のランプに封印されていた上級魔神。ジョフレイの渇望によって呼び覚まされた。
 強大な魔力を持ち、骨董品集めが好きな人間を骨董品そのものに変えてしまうなど、人間の願いを非常に悪意のある形で叶える事を好む。また建物の内部空間を歪めて自在に繋げたり、人の精神だけを過去に飛ばすなど超常的な力も操る。しかし最も脅威なのは、邪悪な心を持った人間を自らの眷属に作り替える能力である。
 ローラ達によって全ての眷属を倒されて再び封印された。直接的な戦闘能力はないとされるが、対象が内に秘めた欲望を強制的に増幅する思念波を無差別に拡散する切り札を持つ。
 過去にはオスマントルコ帝国を裏から操っていた事もあり、スルタンに欧州への侵攻を促していた。ミラーカが吸血鬼化し、『ローラ』が悲劇的な最後を迎える事になった遠因とも言える存在。


◆マイケル・ジョフレイ(霊王(イフリート)) 【陰力:500】
 元カリフォルニア州議員、現(当時)ロサンゼルス市長。マリードの封印を解いた張本人であり、マリードとの契約によって超常的な力を得る。過去にはメネスとも関係があった事が明らかになっている。
 マリードをブレーンとして市政を牛耳り、州知事を暗殺して州政も乗っ取ろうとしていた。
 その正体はマリードの眷属の中でも最強である中級魔神、霊王(イフリート)。どんな攻撃も跳ね返す結界と、炎を自在に操る力を持っている。更に炎を纏った魔人の姿になる事でより強大な力を振るう事が出来る。
 セネムも加わったローラ達の総力を挙げた連携の前に打倒された。


霊魔(シャイターン) 【陰力:200前後】
 邪な欲望が特に強い人間がマリードによって眷属へと作り替えられた存在。下級魔神。それぞれの欲望に応じたユニークな姿と能力を持っており、同一の姿と力の個体は存在しない為に事前の対策が取りづらい。
 基本的には元の人間の時の姿と人格を保っているが、自在に霊魔としての姿に変身して力を振るう事が出来る。
 
 ◆アーノルド・レイ・シモンズ
 LA市議会議員。市内にいくつかの店舗を持つコーヒーショップの経営者。他の市議が殺される中、自らマリードに忠誠を誓った。競馬が趣味で破産寸前になってもやめられない程。その欲望の強さを見込まれてマリードの眷属となった。事件の聞き込みに来たローラとリンファを罠にはめて襲った。
 霊魔としての姿は馬と人間が融合したような馬頭の怪物。幻惑の力を自在に操り、初見では対処が非常に難しく、事実セネムを一方的に追い詰めていた。だが幾多の怪物との戦いを経てきたローラの冷静な視点で幻惑を見破られセネムに討たれた。

 ◆エイダン・クレイトン
 LA市庁舎の職員。殺人スナッフフィルムの鑑賞が趣味という危険な人物。案の定マリードに見込まれその眷属となった。
 霊魔としての姿は、腸のような無数の触手が生えた巨大な肉塊の上に、血まみれの人型が生えているおぞましい怪物。その触手による物量攻撃は脅威であり、更に触手を斬り飛ばしてもその切れ端が意思を持って襲いかかってくる。
 怒りと復讐に燃えるミラーカの前に立ちふさがったが、一騎打ちで敗れて打倒された。

 ◆デリック・アンダーウッド
 LA市庁舎の職員。軽薄な雰囲気の若者。街で好みの美女を見つけてはストーキングするのが趣味。霊魔としての姿はその趣味を反映して、空中を浮遊する巨大な一つ目に無数の触手が生えた奇怪な姿。全ての触手の先端にも目が付いている。壁や床の中に潜り込んで自由に移動する事が出来、捕らえた相手をその中に強引に引きずり込む攻撃が脅威。
 ヴェロニカの前に現れ、ラテン系美女の彼女を散々視姦した挙げ句に打ち負かした。マリードの封印後も残存しており取り逃がしてしまったが、何故かその後の消息は一切不明で、彼の犯行と思われる事件もその後一切発生しなかった。

 ◆フランシス・ジャン・コルトー
 LA市議会議員。本職は銃砲店の店主。スポーツハンティングが趣味で外国に出向く事もある。動物を狩る事に残忍な喜びを感じていたらしく、マリードの眷属として見込まれる。
 その霊魔としての姿は、巨大な犬の身体の頭に当たる部分からフランシスの上半身が生えているという姿で、ケンタウロスの犬バージョンと言った所。その両腕がアサルトライフルやハンティングライフルに変形しており、高い機動力で相手を撹乱しつつ銃撃で仕留めるスタイル。
 狼少女ジェシカの前に立ちふさがり、彼女を珍しい獲物と見做して襲いかかった。やはりマリード封印後も残留するが、デリックと同じくその後行方不明となった。

 ◆スティーヴ・オーウェン
 LA市庁舎に出入りしていた自販機業者の従業員。元から異常に食欲があり肥満した身体をしていた。その異常な食欲はマリードが邪な欲望と認める程であった。
 霊魔としての姿は、超肥満体の豚頭の怪物。その胴体には縦に割れた巨大な口が付いており、臼のような歯で全てをすり潰して噛み砕いてしまう。その口からは強力な酸唾を吐きつける事も出来る。また自分の肉を摘みとって、小さな足のついた口だけの怪物を作り出す能力がある。
 セネムの前に現れたが、彼女と戦闘の末に討ち取られた。


◆ジャーン(霊鬼) 【陰力:50】
 魔神の尖兵。上位の魔神達が自在に呼び出して使役する。
 異常に長い手足を持った、腹だけが膨れ上がった醜い人間の姿をしており、目は白濁し唸り声を発するのみで、知性らしい知性はない。手足の先についた鋭い鉤爪を武器に集団で襲いかかる。


◆ムスタファ・ケマル
 トルコ政府の文化観光省の役人。35歳。LA自然史博物館の依頼でマリードの封印されたランプを、それと知らずにLAに持ち込んだ張本人。
 実際には博物館の館長から賄賂を受け取っていたらしく、収賄の容疑でFBIに逮捕された。現在は連邦刑務所に収監されている。





■Case7:『シューティングスター』
 ここ最近になってLAを騒がせる新たな殺人鬼が出現していた。『シューティングスター』と名付けられたその殺人鬼は、ターゲットに敢えて殺人予告を送りつけ、その警護に就いている人間もろとも皆殺しにする一風変わった殺人鬼であった。
 だが既に7人のターゲットが殺害されており、直近では多数の武装したギャングすら返り討ちにしてターゲットを殺害していた。捜査を担当するローラは殺人鬼が残した不可解な痕跡から、今回の敵の正体を類推する。
 その頃LAを訪れたNROの役人クリスはFBIのニックとクレアに協力を要請する。彼は『シューティングスター』の正体について知っていた。またクリスはかつてローラと高校時代に交際していた仲であり、再会したローラに『シューティングスター』の正体を問う。
 果たして『シューティングスター』は外宇宙から地球にやってきた異星人であった。奴はこの街で殺人ゲームに興じていたのだ。
 LAPDは次のターゲットを保護して『シューティングスター』と対決するが、敵の力は予想以上に強大で、警察は壊滅的な被害を受けターゲットも殺されてしまい、現場にいたローラは何故か『シューティングスター』に興味を持たれ拉致されてしまう。
 クリスの協力もあってローラを取り戻す事に成功したミラーカ達。だがクリスは『シューティングスター』を排除する作戦を実行する為に敵の懐に潜入する。
 『シューティングスター』の10人目のターゲットは、有名俳優のルーファス・マクレーン。だがルーファスは街が戦いに巻き込まれる事を懸念して、軍隊に保護を要請せずに殺害予告の事を公表していなかった。
 『死神』からターゲットがルーファスである事を教えられたローラ達は、ルーファスを訪問し、自分達が彼の護衛に就く事を了承させる。そしてルーファスの使用人でありトロールの血を引くシグリッドとも協力して『シューティングスター』と激戦を繰り広げる。
 しかし力及ばず敗北しかけた時、潜入していたクリスの働きによって他の異星人たちが地球に現れ、禁忌を犯した『シューティングスター』を粛清するのであった。


◇クリストファー・ソレンソン
 諜報機関NROのエージェント。29歳。『シューティングスター』の痕跡を調べ、可能であればその技術やデータを収集する為にLAに派遣されてきた。
 ローラとは高校時代に交際していた事があり、LAで再会後も何かと彼女に絡んでくる。諜報機関のエージェントらしく寡黙な言動だが、高校時代はかなりのプレイボーイだったらしく、その本質は未だに変わっていない。
 ローラから提案された作戦を実行する為に『シューティングスター』の懐に敢えて残った。残忍な異星人から激しい拷問を受けるが決して口を割らずに、相手の技術を少しずつ盗んで、最終的に『シューティングスター』を出し抜く事に成功した。
 彼の勇敢さと忍耐強さによって『シューティングスター』の悪行は母星の管理局に知られる所となり、事件は無事解決したのであった。 


◇シグリッド・レンホルム 【陰力:110】 魔人形態時【陰力:220】
 世界的なハリウッドスター、ルーファス・マクレーンの自宅で住み込みで働いている使用人。28歳。ルーファスの家の管理は殆ど彼女が独力で行っている。普段はメイド服姿である。
 長い輝くような銀髪を持ち、透き通るような白い肌をしている。実は北欧の巨人トロールの血を引いているトロールハーフである。その影響で非常に高い身体能力を持っており、またプロの傭兵から戦闘訓練も受けており、その技術でミラーカとの模擬戦で彼女を圧倒した。
 トロールとしての力を解放すると額に2本の角が生え、耳が長く尖り、牙や鉤爪が備わった怜悧な魔人の姿となる。その状態では更に身体能力が倍増し、耐久力も向上する。
 ルーファス邸での決戦時にはミラーカ達と共に『シューティングスター』と激闘を繰り広げた。この共闘を経て彼女達にシンパシーを抱き、ミラーカとも互いに実力を認め合った。


◇ルーファス・マクレーン
 映画俳優。ハリウッドを代表するスターで、ビバリーヒルズに豪邸を持つ。しかし普段はシクリッド以外に使用人も雇わず、静かな生活を送っている。
 『シューティングスター』の最後のターゲットとなった人物で、LAの街や市民を巻き込んでしまう事を憂慮して軍隊に保護を求めなかった。
 シグリッドの正体を知りながら、彼女を引き取って使用人として雇っている。2人の間にどのような事情があるのかは余人には計り知れない。
 


◆『シューティングスター』 【陰力:700相当】
 LAの街を舞台に殺人シューティングゲームに興じていた狂気の殺人鬼。その正体は遥か彼方の外宇宙から飛来した地球外生命体。
 8フィート近い巨体を銀色のアーマーで覆っている。地球人との相違点として後頭部から長い3本の触覚が生えており、クリスによるとESP能力の制御に使われていたのではないかとの事。アーマーに備わった翻訳機能で、合成音声のような声音だが人間の言語を話す事が出来る。
 敵を自動追尾する粒子ビームを発射する光線銃。人間を何人も同時に吹き飛ばせる強力なESP能力。ロケットランチャーの直撃すら防ぐ強固なバリア。そしてあの恐ろしい極小の疑似ブラックホール……。
 また比較的与しやすいと思われた接近戦ですら鋭利なブレードを用いた格闘戦能力で、ミラーカ、ジェシカ、そしてシグリッドの3人を同時に相手取って尚、終始優勢であった。
 これらの事実から総合的に勘案すると、これまでLAに現れた怪物の中でも最強クラスの戦闘能力を保持していた事は間違いない。
 しかし地球人に勝てないのなら同族に処理してもらえばいい。ローラの思いついた突飛な作戦はクリスの献身によって功を奏し、調査にやってきた管理局の同胞達によって『シューティングスター』の狂った殺人ゲームはゲームオーバーとなった。
 管理局の局員は『シューティングスター』とは違って穏やかで理知的な存在であり、二度と地球に干渉しない事を確約して母星に帰って行った。


◆ガーディアン 【陰力:300相当】
 クリスとミラーカ達がローラを救出する為に、『シューティングスター』の宇宙船に潜入した際に現れたガードロボット。宇宙船のメンテナンス係も兼ねていたらしい。
 金色の球体に、6本の様々な武器が取り付けられた長いアーム、3本の『脚』、そしてレンズが搭載された『頭』を備えている。複数のアームを巧みに操って、ミラーカとジェシカの2人を同時に相手取った。またアームの1本には光線銃も備わっており遠距離攻撃も可能。3本の『脚』はどんな悪路も自在に走破し、滑らかな壁面に取り付いて歩く事も出来る。
 ミラーカ達と斬り結んでいる最中に、ヴェロニカの新能力『大砲』をまともに喰らって『頭』が吹き飛び破壊された。





*****



  
 ……以上、この1年の間に起った3つの事件を纏めてきた。私の気のせいか、事件の規模や怪物の脅威度も徐々に上がってきているような感じがする。

 メネスやマリード等、高い知性と狡猾さを持って裏に潜伏し、超常的な魔法じみた力を振るう存在。そして今までで最も脅威であった『シューティングスター』の襲来。

 何か、大きな事が近付いている。そんな予感がする。『死神』がローラ達に告げた、「終末の時は近い」という言葉もそれを裏付けている。

 まだ終わらない……。そんな予感がするのだ。

 私もまたどんな危険な目に遭うか分からない。今までは何とか乗り切る事が出来たが、これからもそうだという保証はない。しかしそれでも私はこの手記を完成させる為に、ローラ達から離れる事はないだろう。それは私の命題でもあった。


 危険な目と言えば……今回の『シューティングスター』の事件では私も比喩的な意味ではなく本当に死にかけた。あの時は完全に終わったと諦めかけた。

 だがそんな私を救ってくれた人がいる。これもまた比喩的な意味でなく、本当に命を救われたのだ。

 異星人に捕まっていた彼――クリスが再び私の前に現れた時、驚かなかったと言えば嘘になる。そして、嬉しさがなかったかと言われても。

 彼は『シューティングスター』に拷問され、体内に妙な装置を埋め込まれたと言っていた。NROに知られたら捕えられて解剖されると怖れていた。

 警察官であるローラには知らせられないと言って、ローラではなく私を頼ってきたのだ。私はその事に……ローラに対する後ろめたさと同時に、若干の喜びを感じてしまっていた。

 今は彼の体内に埋め込まれたという機械を見せてもらったりして、2人で一緒に『解決方法』を模索している所だ。

 ごめんなさい、ローラ。でも、あなたはもうミラーカという新しい恋人がいるんだし何も問題ないはずよね? 


 ……少し話が逸れたが、そんな訳でまだ人外の怪物が引き起こす事件が発生する可能性は高い。一体この一連の大きな流れとうねりはどこに収束していくのか……。私はそれを見届けるまで決して諦める事はないだろう。

 絶対に終わり(・・・)を見届ける。その覚悟と決意を胸に、今はこのページを閉じる。再び開ける事を願って。
                                 ナターシャ



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