File8:繋がり合う線
文字数 2,710文字
エディの襲撃を受けたローラは、即座にエディ・ホーソンを指名手配。しかしその足取りは杳として掴めなかった。
ヴァンサント邸ではローラの悪い予感が当たり、あの後すぐにリンファが2階の寝室でコートニーの死体を発見した。強い力で首の骨を砕かれていたのだが、不思議な事に痣や扼痕のような形跡が一切検出されなかった。
だがエディと直接相対したローラにとっては、特に不思議でも何でもなかった。恐らくあの青白い光を発する力で殺されたのだ。
まああの力の原理が分からないので、そういう意味での『不思議』はあったが。
しかし現状では有力な容疑者であったコートニーは、皮肉にも自身の死によって潔白を証明する形となった。エディが『バイツァ・ダスト』と何らかの関係があるらしい事はミラーカとの話で確信を得ている。
(しかしそうなると捜査は振り出しに戻るわね……。後、一応ジョフレイ議員も容疑者と言えばそうなんだけど……どうかしらね)
コートニーの事を考えると、安易に容疑者扱いするのも危険な気がする。人外の怪物が関わっている事件だ。通常の殺人事件のセオリーに当てはめて行動するのが正しいとは限らない。
(人外の怪物と言えば……)
ミラーカから聞いた、彼女を襲撃し罠にはめたというフィリップと名乗る男性。
事件の捜査自体はエディの失踪によって行き詰まっている。ならばこちらを当たってみるのも悪くないだろう。ミラーカの冤罪を晴らす助けにもなるかも知れない。
方針を決めたローラは、リンファにも手伝わせ、まずはこの『フィリップ・E・ラーナー』なる人物の情報を集める事にした。
****
「フィリップ、ですか……? その人物の情報を集める事が、この事件と何か関係があるんでしょうか?」
捜査本部で早速リンファに方針を伝えると、彼女は可愛らしく小首を傾げた。
「あるから言っているのよ。詳しい素性は明かせないけど、ちょっと別口で伝手があってね。そこからの情報で、このフィリップという男が『バイツァ・ダスト』に関係があるかも知れないと解ったのよ」
「つ、伝手!? そ、それっていわゆる情報屋って奴ですか!?」
何故か急にリンファが興奮で顔を赤くして詰め寄ってきた。ローラはその勢いにちょっと引いた。
「え? え、ええ、まあ……そんなような、ものかしら、ね?」
まさか逮捕されているミラーカからの情報と明かす訳にも行かないので、言葉を濁すローラ。というかリンファが何故そこに反応するのか分からなかった。
「す、凄い! やっぱりベテラン の刑事になると、独自の情報網を築いているものなんですね!? ホームレスとか屋台とか、それともどこか怪しげな店の店主とかですか!?」
ベテラン呼ばわりされてローラの顔が引きつる。どうやら古い刑事物の映画か何かに影響されているようだ。通りかかった他の同僚達が、そんなローラ達を見て顔を逸らして笑ったりしていた。
ローラは顔を赤らめてリンファを制する。
「お、落ち着きなさい! その……それは秘密 なのよ。分かるでしょう?」
敢えてちょっと含みを持たせた言い方をしてやると、リンファは目を輝かせて頷いた。
「あ……そ、そうですよね!? 私、まだ新人ですし。早く相棒として、先輩から秘密を打ち明けられるくらいに信頼を得られるように頑張ります!」
「…………」
(秘密を打ち明ける、か……)
ローラの相棒として行動を共にするからには、いつかこのリンファも人外の怪物の襲撃に巻き込まれる事があるかも知れない。
秘密の意味が違うが、そうなればミラーカの事やこれまでの事件の秘密 を打ち明け、共有する必要が出てくるだろう。
そんな時が来なければいいのに、と願わずにはいられなかった。
「え、ええ、頼もしいわね。じゃあ早速で悪いけど……」
「はい! そのフィリップという人物の調査ですね!? すぐに取り掛かります!」
張り切るリンファを尻目に、ようやく本題に入れそうだと安堵するローラであった。
****
意外な事に、特に偽名を使っていた訳でもないらしくフィリップの素性は翌日には判明していた。
「大学生……。それもカリフォルニア大学ロサンゼルス校の考古学部 ……!?」
捜査本部でリンファの報告を聞いていたローラはギョッとした。以前の『エーリアル』事件の際にも聞いた記憶のある学部名だ。果たしてこれは偶然なのだろうか。
「はい。ただ1年位前にエジプトへの学術調査に同行した際に何らかのトラブルがあったらしく、そのまま現地で行方不明扱いになっているようです」
「エジプト……?」
ローラは再び『エーリアル』事件に思いを馳せた。
(あの時……あのダンカン教授もエジプトがどうとか言ってなかったかしら?)
必死に記憶を手繰り寄せる。因みにダンカンもあの事件の直後、やはり不可解な状況で謎の失踪を遂げている。
(確か誰かがそこに行ってるって…………あっ!!)
そこまで考えて思い出した。ローラは弾かれたように顔を上げる。リンファがびっくりする。
「せ、先輩? 急にどうしたんですか!?」
だがそれには構わずローラは思考を巡らせる。
(そう……ゾーイだ! 彼女がエジプトに発掘調査に赴いてるって……。でも……)
ダンカンの話では、何の見込みもない一種の罰ゲーム的な調査だったとの事。しかしそれで学生が行方不明とは尋常ではない。
以前ゾーイに聞いた事があるが、考古学部を始めとした社会科学関連の学部はそれ程潤沢な予算がある訳ではないらしい。エジプトのような遠方の地への学術調査が同時に幾つも並行している事などまず無いと思っていいだろう。
となると間違いなくフィリップは、ゾーイが指揮するその『罰ゲーム』に参加していたはずだ。
(もしそこで、ミラーカに匹敵するような力を得る『何か』があったとしたら……?)
「……次に行く場所が決まったわね」
ローラが席を立つ。
「……! カリフォルニア大学ロサンゼルス校ですね!?」
「ええ、すぐに出れる?」
「任せて下さい! 5分、いえ3分で車回します!」
言うなり部屋を飛び出していくリンファ。忙しないその姿に苦笑しながら、ローラもまた急いで支度を整える。
(待ってて、ミラーカ……。あなたを陥れた連中の手がかり、必ず掴んで見せるわ)
そう決意して再び聞き込み調査へと向かっていった……
ヴァンサント邸ではローラの悪い予感が当たり、あの後すぐにリンファが2階の寝室でコートニーの死体を発見した。強い力で首の骨を砕かれていたのだが、不思議な事に痣や扼痕のような形跡が一切検出されなかった。
だがエディと直接相対したローラにとっては、特に不思議でも何でもなかった。恐らくあの青白い光を発する力で殺されたのだ。
まああの力の原理が分からないので、そういう意味での『不思議』はあったが。
しかし現状では有力な容疑者であったコートニーは、皮肉にも自身の死によって潔白を証明する形となった。エディが『バイツァ・ダスト』と何らかの関係があるらしい事はミラーカとの話で確信を得ている。
(しかしそうなると捜査は振り出しに戻るわね……。後、一応ジョフレイ議員も容疑者と言えばそうなんだけど……どうかしらね)
コートニーの事を考えると、安易に容疑者扱いするのも危険な気がする。人外の怪物が関わっている事件だ。通常の殺人事件のセオリーに当てはめて行動するのが正しいとは限らない。
(人外の怪物と言えば……)
ミラーカから聞いた、彼女を襲撃し罠にはめたというフィリップと名乗る男性。
事件の捜査自体はエディの失踪によって行き詰まっている。ならばこちらを当たってみるのも悪くないだろう。ミラーカの冤罪を晴らす助けにもなるかも知れない。
方針を決めたローラは、リンファにも手伝わせ、まずはこの『フィリップ・E・ラーナー』なる人物の情報を集める事にした。
****
「フィリップ、ですか……? その人物の情報を集める事が、この事件と何か関係があるんでしょうか?」
捜査本部で早速リンファに方針を伝えると、彼女は可愛らしく小首を傾げた。
「あるから言っているのよ。詳しい素性は明かせないけど、ちょっと別口で伝手があってね。そこからの情報で、このフィリップという男が『バイツァ・ダスト』に関係があるかも知れないと解ったのよ」
「つ、伝手!? そ、それっていわゆる情報屋って奴ですか!?」
何故か急にリンファが興奮で顔を赤くして詰め寄ってきた。ローラはその勢いにちょっと引いた。
「え? え、ええ、まあ……そんなような、ものかしら、ね?」
まさか逮捕されているミラーカからの情報と明かす訳にも行かないので、言葉を濁すローラ。というかリンファが何故そこに反応するのか分からなかった。
「す、凄い! やっぱり
ベテラン呼ばわりされてローラの顔が引きつる。どうやら古い刑事物の映画か何かに影響されているようだ。通りかかった他の同僚達が、そんなローラ達を見て顔を逸らして笑ったりしていた。
ローラは顔を赤らめてリンファを制する。
「お、落ち着きなさい! その……それは
敢えてちょっと含みを持たせた言い方をしてやると、リンファは目を輝かせて頷いた。
「あ……そ、そうですよね!? 私、まだ新人ですし。早く相棒として、先輩から秘密を打ち明けられるくらいに信頼を得られるように頑張ります!」
「…………」
(秘密を打ち明ける、か……)
ローラの相棒として行動を共にするからには、いつかこのリンファも人外の怪物の襲撃に巻き込まれる事があるかも知れない。
秘密の意味が違うが、そうなればミラーカの事やこれまでの事件の
そんな時が来なければいいのに、と願わずにはいられなかった。
「え、ええ、頼もしいわね。じゃあ早速で悪いけど……」
「はい! そのフィリップという人物の調査ですね!? すぐに取り掛かります!」
張り切るリンファを尻目に、ようやく本題に入れそうだと安堵するローラであった。
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意外な事に、特に偽名を使っていた訳でもないらしくフィリップの素性は翌日には判明していた。
「大学生……。それもカリフォルニア大学ロサンゼルス校の
捜査本部でリンファの報告を聞いていたローラはギョッとした。以前の『エーリアル』事件の際にも聞いた記憶のある学部名だ。果たしてこれは偶然なのだろうか。
「はい。ただ1年位前にエジプトへの学術調査に同行した際に何らかのトラブルがあったらしく、そのまま現地で行方不明扱いになっているようです」
「エジプト……?」
ローラは再び『エーリアル』事件に思いを馳せた。
(あの時……あのダンカン教授もエジプトがどうとか言ってなかったかしら?)
必死に記憶を手繰り寄せる。因みにダンカンもあの事件の直後、やはり不可解な状況で謎の失踪を遂げている。
(確か誰かがそこに行ってるって…………あっ!!)
そこまで考えて思い出した。ローラは弾かれたように顔を上げる。リンファがびっくりする。
「せ、先輩? 急にどうしたんですか!?」
だがそれには構わずローラは思考を巡らせる。
(そう……ゾーイだ! 彼女がエジプトに発掘調査に赴いてるって……。でも……)
ダンカンの話では、何の見込みもない一種の罰ゲーム的な調査だったとの事。しかしそれで学生が行方不明とは尋常ではない。
以前ゾーイに聞いた事があるが、考古学部を始めとした社会科学関連の学部はそれ程潤沢な予算がある訳ではないらしい。エジプトのような遠方の地への学術調査が同時に幾つも並行している事などまず無いと思っていいだろう。
となると間違いなくフィリップは、ゾーイが指揮するその『罰ゲーム』に参加していたはずだ。
(もしそこで、ミラーカに匹敵するような力を得る『何か』があったとしたら……?)
「……次に行く場所が決まったわね」
ローラが席を立つ。
「……! カリフォルニア大学ロサンゼルス校ですね!?」
「ええ、すぐに出れる?」
「任せて下さい! 5分、いえ3分で車回します!」
言うなり部屋を飛び出していくリンファ。忙しないその姿に苦笑しながら、ローラもまた急いで支度を整える。
(待ってて、ミラーカ……。あなたを陥れた連中の手がかり、必ず掴んで見せるわ)
そう決意して再び聞き込み調査へと向かっていった……