第6話 マネキン・ショッピング!
文字数 2,387文字
「はぁ。気にかけてくれるのはありがたいけれど、キララのワガママは際限がないから聞かなくていいわ」
「い、いえ! ルリハさんこそ色々気を遣ってくれてありがたいんですが……実は僕、ワガママ言われるの嫌いじゃないんです。むしろ妹を思い出して嬉しいっていうか……あはは」
響の言葉にルリハは眉を持ち上げた。
キララは少しだけ顔を曇らせ、そのあとで気を取り直したようにとびきりの笑顔を浮かべる。ピンク色のツインテールを揺らして響の隣に並び直し、手までつないできた。
「ほんと?? じゃあボクこれから響クンにいーっぱいワガママ言おうっと♡」
「っ、ワガママは全然いいですけど手、手をつなぐのはちょっと……!」
「えーっどうして? ボクと手をつなぐのイヤ?」
「イヤじゃない、全然イヤじゃないですけど……アスカ君っ」
「俺に振るな……」
「アスカ大丈夫だよ! もう片方の手空いてるからさ、皆でお手々つないでいこ☆ さ、ルリハもアスカか響クンと手をつないで仲良く出発進行しよ~♪」
一体何が大丈夫なのか。
ゴキゲンなキララがほぼ無理やり後方に佇んでいたアスカの手もつなぎにかかり、途端にアスカの顔が歪んだ。
どうやらアスカの方も響の方の手と同様、かなりの握力を込められているらしい。
その傍らでルリハは手をつなぐことを断固拒否だ。涼しい顔で三名を眺めている。
「キララ。響さんとアスカの手、折らないでよね。護衛の任務なのにあんたの馬鹿力でケガさせて帰すのは銃が暴発するより悲惨だから」
「むーっルリハはいっつもそういうコト言うんだから! ボクは非力だって言ってるでしょ!」
「あはは……」
中央のキララに半ば引きずられるようにして再び歩みを再開する響とアスカ。
響は照れくささと握力の強さに顔を赤くしながら思う。恐らくアスカも思っていただろう――絶対に非力ではない、と。
* * *
キララに連れてこられたのは界隈でも一番大きく有名なファッションビルだった。
階ごとにテイストが違うようではあるものの、中はほぼレディスファッションの店であり、キララは一階からすべての店を見て回っていく心積もりのようだった。
キララは入店直後から「わぁあカワイイ~♡」「こっちもキュートすぎ!」とはしゃぎ、あらゆる服を眺め、自分好みのカワイイ服を見つければ自分に当ててと大忙しだ。
響は場違い感が否めず棒立ちをすることも多々。
しかし、それなりの頻度でキララに服の感想を求められたり、メンズファッションの店があるとマネキンにさせられたりして意外と忙しかった。
実は少なからず楽しいとも感じていた。こんなにカワイイ子と長時間一緒にいたことなど今までなかったので、胸が始終ドキドキしっぱなしだ。
そんな響やキララとは裏腹に、アスカとルリハは店の外で延々と待ちの姿勢一辺倒だ。
ふたりは肩を並ばせ、アスカは胸の前で腕を組み、ルリハは壁に寄りかかり腰のあたりで後ろ手を組んでいる。どちらもニコリともせず、周囲に絶えず視線を巡らせていた。
無論これはキララやルリハのファンの目を警戒しているものではない。どこに潜むとも分からない合成キメラを警戒しているのだ。
「――で、どうなの?」
そんななか、口だけは暇を持て余したのかルリハが問う。
問われたアスカもまた周囲への警戒を怠ることはなかったが、その大味な質問には眉をひそめた。
「何がだ」
「何がって、全部よ。執行者に返り咲いたと思ったらB級執行者にまでスピード昇進するし、この短期間で〝罪科獣執行〟の任務も二件こなしたんでしょ。しかも響さんとバディになって。ずいぶん激動だったわね」
「……そうだな」
「あなたが執行者に復帰するっていうのも相当驚いたけど、響さんとバディになるって聞いたときはもっと驚いたわ。
あなたは確かに純粋な戦闘能力が高い。だけど紋翼がない今は傍系属子と神陰力量はそう変わらない。
片や響さんは〝半陰〟。そんなふたりがヤミ属執行者でバディだなんて、私からすれば正気の沙汰じゃないもの」
「俺も最初はどうなるかと思わなかったわけじゃないが……今はそれなりに回ってる」
「へぇ? 具体的にはどうしてるの」
「任務は分担制だ。響は紋翼を使った仕事――空間移動や階層移動、俺は執行行為って感じで上手くやってる」
「その上で響さんの守護もこなしてるんでしょ」
「ああ。俺にとっての最優先任務だからな」
「予想はしてたけど、あなたの負担が大きいのね」
「そうでもない。いや……響をちょくちょく危ない目に遭わせているという意味で力不足は感じているが、響も自衛できるよう毎日頑張ってくれている。ヴァイス先輩の口添えで防具も持っているしな」
その言葉にルリハは納得のいっていない顔でアスカを見上げる。
「バディって助け合うことが大前提なのに、戦えもしない響さんの守護も執行行為も全部あなたが請け負うのっておかしいと思うけど?」
「響は今も半分は生物だ。あいつに仲間だった者たちを殺させたくはない」
「でも、響さんは自分で執行者を志願したんでしょう? なら過保護にするのは変よ。
せめて武器を与えて、扱い方や動き方くらいは覚えさせるべきじゃないの? 少なくとも弱い以前に無力なのは問題だわ」
「一理ある。響が合成キメラに狙われていると確定した今は、もう少し守りを固めなければと思っている」
アスカは言い、二着の服を自分に当てて何やら訊いているキララと困った様子でうなじを掻く響の背中に視線を送った。
「私は守りを固めるために言ってるわけじゃないわ。共闘できるように言っているのだけど」
「……いいんだ。あいつが志願してくれたことで、俺も執行者としてまた活動できるようになった。
責務を終えた今、この命はひたすら響のためにある。あいつの願いを叶え、守るために使いたい」
「……。もう切り替えられた?」
「何をだ」
「シエルのこと」
「い、いえ! ルリハさんこそ色々気を遣ってくれてありがたいんですが……実は僕、ワガママ言われるの嫌いじゃないんです。むしろ妹を思い出して嬉しいっていうか……あはは」
響の言葉にルリハは眉を持ち上げた。
キララは少しだけ顔を曇らせ、そのあとで気を取り直したようにとびきりの笑顔を浮かべる。ピンク色のツインテールを揺らして響の隣に並び直し、手までつないできた。
「ほんと?? じゃあボクこれから響クンにいーっぱいワガママ言おうっと♡」
「っ、ワガママは全然いいですけど手、手をつなぐのはちょっと……!」
「えーっどうして? ボクと手をつなぐのイヤ?」
「イヤじゃない、全然イヤじゃないですけど……アスカ君っ」
「俺に振るな……」
「アスカ大丈夫だよ! もう片方の手空いてるからさ、皆でお手々つないでいこ☆ さ、ルリハもアスカか響クンと手をつないで仲良く出発進行しよ~♪」
一体何が大丈夫なのか。
ゴキゲンなキララがほぼ無理やり後方に佇んでいたアスカの手もつなぎにかかり、途端にアスカの顔が歪んだ。
どうやらアスカの方も響の方の手と同様、かなりの握力を込められているらしい。
その傍らでルリハは手をつなぐことを断固拒否だ。涼しい顔で三名を眺めている。
「キララ。響さんとアスカの手、折らないでよね。護衛の任務なのにあんたの馬鹿力でケガさせて帰すのは銃が暴発するより悲惨だから」
「むーっルリハはいっつもそういうコト言うんだから! ボクは非力だって言ってるでしょ!」
「あはは……」
中央のキララに半ば引きずられるようにして再び歩みを再開する響とアスカ。
響は照れくささと握力の強さに顔を赤くしながら思う。恐らくアスカも思っていただろう――絶対に非力ではない、と。
* * *
キララに連れてこられたのは界隈でも一番大きく有名なファッションビルだった。
階ごとにテイストが違うようではあるものの、中はほぼレディスファッションの店であり、キララは一階からすべての店を見て回っていく心積もりのようだった。
キララは入店直後から「わぁあカワイイ~♡」「こっちもキュートすぎ!」とはしゃぎ、あらゆる服を眺め、自分好みのカワイイ服を見つければ自分に当ててと大忙しだ。
響は場違い感が否めず棒立ちをすることも多々。
しかし、それなりの頻度でキララに服の感想を求められたり、メンズファッションの店があるとマネキンにさせられたりして意外と忙しかった。
実は少なからず楽しいとも感じていた。こんなにカワイイ子と長時間一緒にいたことなど今までなかったので、胸が始終ドキドキしっぱなしだ。
そんな響やキララとは裏腹に、アスカとルリハは店の外で延々と待ちの姿勢一辺倒だ。
ふたりは肩を並ばせ、アスカは胸の前で腕を組み、ルリハは壁に寄りかかり腰のあたりで後ろ手を組んでいる。どちらもニコリともせず、周囲に絶えず視線を巡らせていた。
無論これはキララやルリハのファンの目を警戒しているものではない。どこに潜むとも分からない合成キメラを警戒しているのだ。
「――で、どうなの?」
そんななか、口だけは暇を持て余したのかルリハが問う。
問われたアスカもまた周囲への警戒を怠ることはなかったが、その大味な質問には眉をひそめた。
「何がだ」
「何がって、全部よ。執行者に返り咲いたと思ったらB級執行者にまでスピード昇進するし、この短期間で〝罪科獣執行〟の任務も二件こなしたんでしょ。しかも響さんとバディになって。ずいぶん激動だったわね」
「……そうだな」
「あなたが執行者に復帰するっていうのも相当驚いたけど、響さんとバディになるって聞いたときはもっと驚いたわ。
あなたは確かに純粋な戦闘能力が高い。だけど紋翼がない今は傍系属子と神陰力量はそう変わらない。
片や響さんは〝半陰〟。そんなふたりがヤミ属執行者でバディだなんて、私からすれば正気の沙汰じゃないもの」
「俺も最初はどうなるかと思わなかったわけじゃないが……今はそれなりに回ってる」
「へぇ? 具体的にはどうしてるの」
「任務は分担制だ。響は紋翼を使った仕事――空間移動や階層移動、俺は執行行為って感じで上手くやってる」
「その上で響さんの守護もこなしてるんでしょ」
「ああ。俺にとっての最優先任務だからな」
「予想はしてたけど、あなたの負担が大きいのね」
「そうでもない。いや……響をちょくちょく危ない目に遭わせているという意味で力不足は感じているが、響も自衛できるよう毎日頑張ってくれている。ヴァイス先輩の口添えで防具も持っているしな」
その言葉にルリハは納得のいっていない顔でアスカを見上げる。
「バディって助け合うことが大前提なのに、戦えもしない響さんの守護も執行行為も全部あなたが請け負うのっておかしいと思うけど?」
「響は今も半分は生物だ。あいつに仲間だった者たちを殺させたくはない」
「でも、響さんは自分で執行者を志願したんでしょう? なら過保護にするのは変よ。
せめて武器を与えて、扱い方や動き方くらいは覚えさせるべきじゃないの? 少なくとも弱い以前に無力なのは問題だわ」
「一理ある。響が合成キメラに狙われていると確定した今は、もう少し守りを固めなければと思っている」
アスカは言い、二着の服を自分に当てて何やら訊いているキララと困った様子でうなじを掻く響の背中に視線を送った。
「私は守りを固めるために言ってるわけじゃないわ。共闘できるように言っているのだけど」
「……いいんだ。あいつが志願してくれたことで、俺も執行者としてまた活動できるようになった。
責務を終えた今、この命はひたすら響のためにある。あいつの願いを叶え、守るために使いたい」
「……。もう切り替えられた?」
「何をだ」
「シエルのこと」