第4話 クソ先輩ムーブ

文字数 2,620文字

「へっへへ、そう言うなって愛しのベティ。オレだってコイツらと仲良くなりてぇんだ」

「じゃあ黙ってな。任務が終わるまで」

「ヒデェなぁ、そんなとこも愛しいぜぇ」

「アンタさぁ……後輩の前でイチャつくってどういう神経してんだい。

 黙ってらんないならせめて後輩たちにさっさと指示出しな。今回のアタシはただの付き添いなんだからね」

 手刀の衝撃が去ったらしいジャスティンは再びベティの腰を抱き、ベティはそれに嘆息をする。

 しかし嫌悪の素振りはないので恐らくふたりは恋仲、もしくは伴侶なのだろう。

「じゃあ~そうだなァ、バディで分かれて分担制ってやつにでもするかぁ?」

「分担制……ヤミ神が示した執行地はこの森一帯でした。執行対象を両端から捜索して中央で合流しますか」

 アスカが言うとジャスティンはダルそうに首を横へ振った。

「違ぇ違ぇ。オマエらが捜索、オレらが討伐だ。オマエらが執行対象を見つけるまでオレらは人間の宿でしっぽりよ。紋翼がなくても探すくらいはできんだろ?」

「……全力は尽くしますが、不明点が多く執行期限に対して捜索範囲も広すぎるので、俺と響だけでは確約しかねます」

「あぁん? そこは『先輩のためにも絶対に成し遂げます』だろ――ッガ!?」

 ジャスティンの言葉を阻んだのは下からの顎パンチだ。無論ベティのゲンコツである。

「黙って聞いてればクソ先輩ムーブかましてんじゃないよ。もういい、アスカの案でいこう。

 アスカと響は東から、アタシとジャスティンは西から。この森の中央には良い具合に村があるからそこを目指す感じでね」

「すみません。了解です」

「注意事項は捜索に漏れが出ないよう気をつけること、もしアンタたちが執行対象を見つけても戦闘には移行しないこと。

 アスカは捕捉し続け、響は伝令役としてアタシたちに報告に来ること。あ、西側を紋翼で飛んでくれたらすぐ分かるから難しく考える必要はないよ。

 何か質問あるかい?」

「期限などは設けますか」

「そうだねぇ、じゃあ日没までには捜索を終えるようにしよう」

「了解です」

 ジャスティンを抜きにした途端円滑に進む話し合い。

 ベティはハキハキとした口調からして明らかに仕事ができるタイプだ。

 だというのに、今回ヤミ神が指名したのはジャスティンの方なのだから意味が分からない。

「さすがオレのオンナだァ、頼りになる。オマエもそう思うだろボウズ?」

「うひぇっ!?」

 のんきにそんなことを考えていると、いつの間に移動したのかジャスティンが響の顔を横合いから覗き込んできたので悲鳴を上げてしまう。

 すると今度はベティの形のよい足がジャスティンの腰に蹴りをかます。ボゴォ、というなかなか痛そうな音が上がった。

 今まで出会ったことのないノリの連続に響はアスカを見上げる。

 助けを求める意味もあったのだが、やはり視線の先の面は「先行きが不安だ」と言わんばかりに仏頂面を深めていた。

「アンタは黙ってな、いつまで経っても任務につけやしない! ほら、アスカと響は行った行った、時間は限られてるよ!」

「……了解。響、まずは紋翼で移動しよう」

「う、うん!」

 何はともあれ、捜索は開始だ。



 ✕✕✕連邦の✕✕✕森、その東方外側に到着するとアスカと響はただちに捜索行動へと移行した。

 アスカによると日没まで四時間程度――捜索範囲である範囲は非常に広大であるため急いでシラミ潰ししていかねばならない。

 話し合いの結果、足の速いアスカは森のなかを駆け回って捜索、紋翼のある響は空中から俯瞰的に捜索という形に落ち着いた。

 バディが離れるのは得策でないため、響はアスカの目が届く範囲で移動しつつ罪科獣の気配を汲み取らねばならないのだが、これがなかなか難しい。

 とにかくアスカは俊敏だし、少しの違和感も逃してはならないため、気を張り続けて捜索しなければならない。気が抜けないのだ。

 これまで罪科獣の捜索など一度も行ったことがなかったので――前回の〝罪科獣執行〟でも捜索はアスカが行ってくれた――緊張感もヒトシオだ。



「……何にも見つからなかったね」
「ああ」

 しかしそうやって血眼になって捜索を続けても、響とアスカは一切の手がかりを得られなかった。

 合流地点である村の入口付近に腰を下ろし、日没直前で橙と紺のグラデーションに彩られた空を見上げながら響は疲労の吐息をつく。アスカはその隣で平然とした顔をして立っている。

 ちなみにベティとジャスティンはまだ集合場所に姿を見せていない。

「何時間も探して手がかりがゼロだと不安になってくるよね。急いでたし、決定的なモノ見逃してないといいけど……」

「多分大丈夫だ。俺たちの捜索範囲には何の痕跡もなかった。……多分だが」

「うう、アスカ君に多分を連呼されるとさらに不安だ……」

 今まで筋トレや防御、回避の特訓しかしてこなかった響だ。自分なりに一生懸命空から探しはしたものの、頼みの綱はやはり経験者のアスカだった。

 そんなアスカが断言しないということは、彼もまた確証を得られていないということだ。

 無論、今回の相手は界隈へ黒いモヤを張るような罪科獣だ。一筋縄ではいかないと判断したゆえの言葉なのだろうが――

「……そういえばエンラ様の言ってた黒いモヤって引いたのかな。上空から一度も確認できなかったけど」

 ふと考えの途中で疑問が湧いて口にすると、アスカは少しの間のあとで首を横に振った。

「恐らく黒いモヤは今もこの一帯にかかっている。〝千里眼〟のようなよく視える目だけを阻害するものなんだろう。

 万が一モヤがなくなったなら、エンラ様からヤタを介して詳細の連絡が来るはずだからな」

「エンラ様はこの辺りを視てくれてるってこと?」

「ああ。エンラ様も仰っていたが明らかにエンラ様の権能〝千里眼〟を――ひいては俺たちヤミ属を意識しているかのように黒いモヤが張り巡らされているんだ。〝裁定〟を続けながら動向は定期的に注視しているだろう」

「エンラ様の〝千里眼〟も通さない黒いモヤって何なんだろう……?」

「さあな。そもそも俺たちを阻害するために発生したのかも分からない。誘い込んでいるようにも見える」

「確かに、黒いモヤが出てたらみんな気にするよね。うわぁ、罠だったらすごく怖――」

「ようボウズ」

「おぁあああああ!?」

 嫌な想像をして眉をひそめる響は予想だにしない声の出現に思わず絶叫した。

 声の方を向けば己の肩口に堀りの深い男の顔――それはそれは絶叫した。
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登場人物紹介

◯◆響

普通の男子高校生だった17歳。

アスカに命を狙われ、シエルに〝混血の禁忌〟を犯されて

生物とヤミ属の中間存在〝半陰〟となった結果、

生物界での居場所を根底から奪われた過去を持つ。

◆アスカ

物語当初は響の命を狙う任務に就いていたヤミ属執行者。

シエルに紋翼を奪われて執行者の資格を失ったが、

響が志願したことにより彼も執行者に復帰することとなった。

以降は響の守護を最優先の使命とする。

◇シエル

〝悪夢のなかで出会った神様〟と響が誤認した相手。

アスカの紋翼を無惨に引きちぎり、

響に〝混血の禁忌〟を犯した相手でもある。

アスカと因縁があるようだが……?

◆ヴァイス

ヤミ属執行者。

〝混血の禁忌〟に遭った響の首を切り落とそうとした。

長身かつ顔面をペストマスクで覆った容姿はシンプルに恐ろしい。

アスカの元育て親、ディルの相棒。

◆ディル

ヤミ属執行者。

しかし軍医的位置づけであるため執行行為はご無沙汰。

ヴァイスの相棒かつ響の担当医、キララの元育て親でもある。

素晴らしい薬の開発者でもあるが、ネーミングセンスがことごとくダサい。

◯乃絵莉

響の妹、だった少女。

響にとって何よりも守りたい存在。

響が〝半陰〟となって以降は一人っ子と再定義された。

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